21話 ぷかぷか浮かび
私たちは、遊園地に来るなり、メリーゴーランドを堪能した。数回乗れたし、馬車型も馬型も経験できたため、満足だ。
「次はどこへ?」
「あっちの乗り物はどうかな」
リンツが手で示したのは、メリーゴーランドからは少し離れたところにある別の乗り物だった。
「ぷかぷかする乗り物だよ。乗ってみないかね?」
「え、ぷかぷか……? まぁ、リンツさんが乗りたい感じなのなら、乗りましょう」
「よし! では乗ろう!」
私とリンツはそっと手を繋ぎ、そちらへ移動する。
正直、わざわざ手を繋ぐ必要はないと思うのだが、リンツが自ら繋いできたから仕方がない。
今度の乗り物は、メリーゴーランドとはまた違う形だった。
水で満たされた細いレーンに、今から乗るのであろう物体が浮いている。浮いている物体の横幅は、レーンの横幅とほぼぴったり。この感じだと、水に浮いていても転覆することはなさそうだ。
が、メリーゴーランドと違って人は並んでいない。
そこだけが、少し不気味である。
「何だか不思議な乗り物ですね」
「ははは、そうだよね。僕も最初は、なかなか乗る気になれなかったものだよ」
自分さえなかなか乗る気になれなかったものに、私をいきなり乗せるというのね……。
私が複雑な心境になっていることなど微塵も構わず、リンツは手を差し出してくる。
「なに、一緒に乗れば怖くないとも」
差し出された手を、取るべきか否か。
私は暫し迷った。
そして、迷いに迷った末、その手を取ることにした。
水に浮いているものに乗る経験なんて、滅多にできないだろうと思ったからである。
「決まりだね」
その後、リンツが係の人に「乗りたい」ということを伝えてくれた。
私とリンツは一つの乗り物に乗り込む。子ども用だったのか、大人二人となるとかなり狭い。密着する、とまではいかないが、体が触れるくらいの近さにはなってしまう。
もっとも、既に結婚した身ゆえ問題ないわけなのだが。
「狭くないですか、これ」
「そうかな? 僕としては、キャシィさんと傍にいられて嬉しいのだが」
なんのこっちゃらである。
今は一般人のふりをしているとはいえ、王子なのだ。一国の王子ともあろう人が、数十も年下の女に対してそんな甘いことを言って良いものなのか、謎である。
私がそんなことを考えている間にも、私たちを乗せた乗り物はぷっかりぷっかり進んでいく。
進む速度自体はゆっくり。けれど、右に傾いたり左に傾いたりを繰り返すため、気は抜けない。
レーンの幅が狭いため、乗り物が横倒しになってしまうことはないだろう。しかし、こうして乗っていると、「水に落ちそう」なんて不安になってしまうものだ。
「リンツさん」
「何かね?」
「これ、意外と怖いですね」
「ん? そうかな」
リンツは呑気だ。ちっとも不安になっていない様子である。
元々の性格もあるのだろうが、こういうことはやはり、慣れというのもあるのかもしれない。
——ガタン。
唐突に、音がした。
「え。リンツさん、今何か音がしませんでしたか」
「うむ。確かにしたね」
——ガタガタッ。
またしても鳴る、謎の音。
「大丈夫ですか、これ」
「心配ないよ。これはいつものことだから、気にしなくていいとも」
私とリンツを乗せた乗り物が、徐々に上がっていく。
「え、え、あの。これは一体? 浮いて……」
「滑り台みたいなものだよ。ただ上がっているだけなんだ」
「はぁ」
よく分からない——そう思っているうちに、どんどん高くなってゆく。視界が地面から離れていっている。
私は信じられない思いで、宙を見つめた。一体何が起こるというのか。
——ガタン。
ほんの少しの、停止。
「来るよ、キャシィさん!」
「え?」
刹那。
私たちを乗せた乗り物が、一気に急降下。
「えええ!?」