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年上王子が呑気過ぎる。  作者: 四季
2章 遊園地
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19話 見たことのない世界

 入り口の係の人に赤い入場券を見せ、私は無事、遊園地内へと入ることができた。


 付近だけでも他の場所とは雰囲気がかなり違っていたが、敷地の中へ入ると、ますます外とは空気の違う世界が広がっていた。


「わぁ……!」


 パステルカラーを基調とした幻想的なデザインの乗り物。余所では見かけないようなカラフルな店舗。それらに加え、心が弾むような音楽が流れている。


 見たことのない世界。まるで夢の国。


「何だか凄いですね!」

「こういうところも悪くないとは思わないかね? キャシィさん」

「凄く興味深いです……!」


 話を合わせているわけではない。実際、とても興味深い場所だと思っている。


 きっと、日頃の生活での疲れを癒やすために、皆ここに集っているのだろう。


 私は王女で、わりと気楽な生活をしてはいる。それゆえ、国民たちと比べれば日頃のストレスはあまりない方だろう。しかし、ストレスがまったくないというわけではないので、今日は遊園地を楽しんで発散しようと思う。


「行こうか!」

「はい」

「僕のいつものルートでいいかな?」

「はい。私は何も分からないので、リンツさんのお好みのところへ連れていっていただければ嬉しいです」


 年の離れた私たち。結婚式を済ませた夫婦にはとても見えない二人。

 けれども、今日この時間だけは、特別な関係の二人でありたい。


 他とは違う特別な二人として遊園地を楽しみたいと、純粋に、そう思った。



 私たち二人が一番に向かったのは、馬や馬車などが音楽と共にゆったりと回転するようになっている乗り物のところ。


「これに乗らないかね?」

「構いませんよ。でも……これは何ですか? 乗るだけですか?」

「そう、乗るだけだとも」


 趣旨がいまいち理解できない。

 けれど、リンツのお気に入りなのなら、一度体験してみておく価値はあるだろう。


「これはメリーゴーランドといってね、大体どこの遊園地にもある定番の乗り物なのだよ」

「へぇ。よくあるものなのですね」


 私が生まれ育った国には、そもそも、遊園地自体がない。一つもないのかまでは知らないが、多くありはしない。だからこそ、乗り物一つとっても新鮮だ。


「ここへ来たなら絶対乗りたいもの、と言えるかな」


 そう話すリンツは、とても楽しそうだった。


 これまで彼は、ずっと、一人でここへ来ていたのだ。複数人で来る人がこんなにも多い場所へ一人で来るというのは、きっと辛さもあったに違いない。


「リンツさんはいつも、これに、一人で乗ってらっしゃったのですか?」

「はは。そうだとも」

「一人だと……少し寂しくはないですか?」

「うむ、そうだね! 君の言う通り。多少は寂しいとも!」


 意外にも、彼はあっさり「寂しい」と認めた。

 そんなことはない、と返されるものと思っていたので、少々意外だ。


「だが、自由に乗り放題というところは悪くないのだよ」

「一人だと乗り放題なのですか?」

「あ、いや。単に、相談したりする時間が要らないというだけのことだよ」


 なるほど。確かに。


 好きなものに好きなタイミングで好きなだけ乗りたい。そういう人からすれば、幾人かで来るより、一人で来る方が楽しめるのかもしれない。


 私にはそのような発想は欠片もなかったが、いざ言われてみると、妙に納得してしまった。


「一人には一人の良さがある、ということですね」

「そう! 理解してもらえて嬉しいよ!」


 メリーゴーランドは回る。私たちが話し続けている間も、ずっと回り続けている。

 それはまるで、時計の針のよう。


 何をしていても決して停止しない——時の流れのようだと、ふと思った。


「そうだ、キャシィさん。君は馬がいいかね? それとも、一緒に乗ることのできる馬車?」

「せっかくなので、一緒に乗れる方がいいです」

「分かった! ではそうしよう」


 こうして私は、人生で初めて、メリーゴーランドに乗ることとなった。

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