18話 入場券購入にも慣れが必要
遊園地に着いた。
そこは、今までに見たことのないくらい賑わっていて、明るい雰囲気だった。楽しい、嬉しい、ワクワク。そういった、前向きなものに満ちている。
来ている客は、両親と子どもという組み合わせのファミリーや若い男女なんかが比較的多いように感じる。
「結構賑わっていますね」
「遊園地は、いつもこんな雰囲気なのだよ」
「へぇ、そうなんですね」
そうか、リンツはこの空気に慣れているのか。
「面白そうなところだとは思わないかね?」
「思います」
「そう。遊園地は、いかにも面白そうで実際面白いという、極めてシンプルな場所」
「リンツさんみたいですね」
私はうっかり言ってしまった。
言うつもりでなかったことを言ってしまい、私は一瞬焦る。
しかし、リンツがまったく嫌そうな顔をしていないところを見て、安堵。不快な思いをさせていないなら、多少うっかりがあっても許されるだろう。
「では、入場券を買いにいこうか」
「えっ。券を買わなくては入れないのですか?」
「そうだよ」
あら、無料なわけではないのね。
これは困った。
というのも、私はお金を持ってきていないのである。
「あの、私、お金は持ってきていないのですが……」
早めに相談しておいた方が、いざその時になって言い出すよりかは良いだろう。そう考え、言っておいた。
しかし、リンツから返ってきたのは意外な答え。
「お金? そんなものは要らないよ。僕が払うからね」
「え。けど、それは問題です。少額だとしてもお金の貸し借りは困ります……」
するとリンツは、ははは、と派手に笑った。
「何を言っているのかね? キャシィさん。僕たちは夫婦なのだから、遠慮することは何もないのだよ」
「え。あ……」
そういえばそうだった。
うっかり忘れてしまっていたが、私たちは既に夫婦なのだった。
「そういえば、そうでしたね」
「おや。忘れていたのかね?」
「すみません。忘れてしまっていました」
「おぉ! 悲しい!」
リンツは手を額に当て、背を反らして、大袈裟に悲しむ。
「僕は君を妻として愛しているというのに!」
突然の演劇じみた発言に、私は戸惑いを隠せなかった。
……だって、ついさっきまでは普通の話し方だったんだもの。戸惑うに決まっているじゃない。
「よし。では買いに行こう」
「入場券を、ですか?」
「そうそう。キャシィさんは心配しなくていいよ、僕が買うから」
リンツはしわの刻まれた顔に笑みを滲ませる。顔面自体は明らかに年老いているのに、笑い方は子どものようで可愛らしい。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「任せたまえ!」
慣れていない私が買うより、慣れている彼に頼んだ方が早いだろう。そう思ったから、入場券の購入に関しては彼にお任せすることにした。
それから私とリンツは、入場券売り場へと移動する。
入り口のすぐ近く設置された入場券売り場は、入場券を買い求めたい人々で混雑していた。若い男女、幼い子ども、四十代くらいと思われる大人……と、幅広い世代の人たちがいることを見ると、やはりここは、老若男女問わず人気のスポットなのだろう。
他の人たちの様子を見ていて分かったのは、入場券は売り場の女性から買うシステムになっているということ。値段なんかは色々書いてあってよく分からないが、購入システムだけはすぐに理解することができた。
こんなにも混雑していたら、入場券を買うためだけにかなり時間がかかってしまうだろうな——そんな風に思っていたのだが、案外そんなことはなくて。よく来ていて慣れているからか、リンツは、私の想像を遥かに超える早さで二人分の入場券を買ってきてくれた。
「キャシィさん、はい」
彼は購入した二枚の入場券のうち、赤色をした方を渡してくれた。
「ありがとうございます」
「あそこの入り口のところで、係の者にそれを見せてくれたまえ。そうすれば入れてもらえるから」
「分かりました」
いちいち説明が鬱陶しい、なんて思う人も世にはいるかもしれない。しかし、私はそうは思わなかった。何も知らない私からすれば、丁寧に説明してくれることはありがたいことだったからである。
「説明ありがとうございます」
「いやいや! なに、改まってお礼を言われるようなことではないよ」
胸の前で手をぱたぱたと動かすリンツ。
彼の頬は、心なしか熱を帯びているように見えた。




