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年上王子が呑気過ぎる。  作者: 四季
2章 遊園地

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17話 二人は歩く

 私はリンツと二人、遊園地へと向かう。


 護衛はおらず、完全に二人だけの状態での移動。どうも慣れない。リンツは一人で行動することに慣れているようだから平気なのかもしれないが、私には警護なしでの移動というものがどうもしっくりこなかった。


 けれど、悪いことばかりだとは思わない。


 子どもが初めてお使いに行く時のような高揚感。それは、案外悪くないものだった。



 それにしても、よく晴れた日だ。

 まさに、お出掛け日和である。


 雲一つない青く澄んだ空は、子を見守る母親のように、穏やかにこの世界を見下ろしている。


「良い天気ですね、リンツさん」

「そうだね」


 降り注ぐ日差しは柔らかく、心に栄養を与えてくれるシャワーのよう。明るくも眩しすぎない光加減が、とても過ごしやすい。


「二人でいると、一人でいるより、世界が輝いて見えるものだ。素晴らしいと思うよ」

「お話しながら歩けると退屈しませんよね」


 世界が輝いて見える、は、やや言い過ぎな気もする。


 しかし、一概に間違いだとは言えないのかもしれない。

 だって、私の視界にも、今までより輝きに満ちた世界が広がっているんだもの。


「それにしても、遊園地までは徒歩なのですね」

「あぁ、そうだよ。近いからなのだが……それがどうかしたのかね?」

「歩きでどこかへ行くというのは、初めての経験です」


 私の言葉に、リンツは首を傾げた。


「キャシィさんは歩いたことがないのかね?」


 いやいや。今までもいつも歩いていたのだから、歩いたことがないはずがないではないか。質問が謎すぎる。


「いえ、歩いたことはあります。ただ、歩いて出掛ける、という経験はあまりなかったので」

「ほう。そうなのかね」


 どんな国であっても、王子王女なら、あまり気軽に出歩かないものなのだと思っていた。それだけに、リンツが出掛け慣れていることは私にとっては驚きだったのだ。


「なら、これからは色々なところへ歩いて出掛けようではないか」

「歩いてだと疲れませんか?」

「まさか! 僕は、まだ、そこまで老人ではないよ!」

「あ、いえ、そういう意味ではなく……」


 そういうつもりで言ったのではない。

 いや、本当に。


「私はただ疲労のことを言ったのであって、加齢による体力の衰えについて言ったわけではありません」


 誤解のないように、敢えて丁寧めに言っておいた。


「なるほど、そちらの意味だったのだね」

「はい」

「ははは、うっかり誤解してしまった。すまないね」

「いえ、気にしていません」


 晴れ渡る空の下、私とリンツは歩く。


 普通の服を着て道を行く私たちが、王子と王女だなんて、きっと誰も気づかない。


 特別扱いされることが嫌だということはない。王女という地位であることを憎んではいないし、止めたいと思っているわけでもない。


 ただ、普通の人に紛れて道を行くのも、案外楽しいものだ。


 気楽に動ける。飾らない自分でいられる。

 それは素敵なことだと思う。


「楽しみですね、リンツさん」

「ん? 楽しみ、とは、何がかね?」


 本当は聞かずとも分かっているだろうに。


「遊園地ですよ」


 私がそう述べると、リンツは顔に柔らかい笑みを浮かべた。


「僕も、楽しみだとも」


 目的地に向かって歩く、ただそれだけの時間。

 ただ足を動かすだけの、なんてことのない時間なのに、妙に幸福感を覚えている私がいた。


「色々案内して下さいね」

「もちろん。僕のお気に入りの場所は、すべて紹介するよ」

「ありがたいです」

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