16話 築いてきたもの
そして、遊園地へ出掛ける日が来た。
私はローザが用意してくれた柿色のワンピースを着て、リンツと会う。
「うわぁっ!!」
目と目が合った瞬間、リンツは大声をあげた。
彼の態度に、私は不安になる。
ワンピースが驚くほど似合っていないのだろうか、と。
「リンツさん?」
「あ……す、すまないね……」
彼はそんな風に謝ってくれるけれど、私としては、謝罪よりも驚いた理由の説明が欲しい。なぜそんなに驚いたのか、気になって仕方がない。
「いえ。それより、その……なぜ驚いたのか教えていただきたいのですが」
「あ、あぁ」
白ブラウスに黒のズボンというシンプルな服装のリンツは、一度ふぅと息を吐き出してから、私へ視線を向けた。
「いや、いきなり失礼なことをしてしまったね。すまない」
「気にしていません」
まぁ、本当は気にしているのだけれど。
「それより、どうして驚いたのか、教えていただけますか?」
「あぁ、それはね」
数秒空けて、彼は続ける。
「キャシィさんが、いつもよりずっと大人の魅力に満ちていたからだよ」
「はぁ」
「あ! いや! もちろん、いつもだって魅力的ではあるがね!?」
慌てたように言葉を発するリンツ。
「ただ、いつもは、大人の女性というよりは娘さんという印象だったのだよ。けど今日の君は大人の女性だった。だから驚いたのであって……変な意味で驚いたわけではないよ」
「本当ですか」
「もちろんだとも!」
すぐには信じられなかったけれど、彼の様子を見ているうちに、彼の言葉が本当であると信じても問題ないような気がしてきた。
「なるほど、そういうことだったのですね」
「信じてくれたかね!?」
私は首を縦に動かす。
すると、リンツの全身から、ふっと力が抜けた。
転倒するほどの脱力ではないものの、目で見て分かる程度の脱力。
私は「変だっただろうか」と不安を抱いていたが、もしかしたら、彼は彼で「誤解されたかもしれない」などと不安になっていたのかもしれない。
「「良かった……」」
私とリンツが漏らした安堵の声が重なる。
奇跡とも言えそうなくらいぴったりと重なったので、正直驚いた。
だって、練習の一つもしていなかったのよ。偶然なんかでこんなぴったり揃うわけがないじゃない。
「はは、見事なまでに揃ったね」
先に話し始めたのはリンツ。
「本当ですね。練習もなしにここまでぴったり揃ったのは、初めてな気がします」
こちらから話しかける、というのは、私としては難しい。もちろん、やろうと思えばできないことはないのだが、余計なことを考えてしまってタイミングを逃すというパターンが定番だ。
そんな私にとって、自ら話し出してくれるリンツはありがたい存在。
彼の方から話し始めてくれれば、私の方も、比較的自然に話し始めることができる。
「僕たちの心は一つ、ということが証明されてしまったね」
「それは言いすぎでは……」
「ま、いきなり勝手な解釈をするというのも問題かもしれない。僕としては、キャシィさんと一つになりたいくらいなのだが、ね」
私も、常に歩み寄ろうとしてくれるリンツのことは嫌いじゃない。
好きかと問われれば自信を持って「好き」とは答えられないだろうけど、信頼してはいるし、一緒に過ごせることを嬉しいとも思う。
結婚した当初は「親が決めた相手」という考えばかりが浮かんできていた。でも、今はもう、そうではない。始まりは親の勝手な契約であったとしても、その後ここまでの関係を築いてきたのは私たち二人だ。
「では行くとしようかね」
目の前に差し出される、リンツの手。
私はその手をそっと掴んだ。
「おぉ!? まさか本当に手を繋いでくれるとは! 予想外!」
「……繋がない方が良かったですか」
「いやいや! それはもう、繋いでくれる方がずっと嬉しいとも!」
「なら良かったです」
こうして、私とリンツは歩き出す。
いざ、遊園地へ!




