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年上王子が呑気過ぎる。  作者: 四季
2章 遊園地
15/53

15話 いつでもそう思っている

 二日後にリンツと遊園地へ出掛ける約束をした、翌朝。


 目を覚まし、寝巻きを脱いでワンピースに着替えていると、部屋の隅で静かに待機していたローザが、唐突に話しかけてきた。


「明日、リンツ王子とお出掛けになるそうですね」

「え!?」


 ローザの口からその話題が出るとは夢にも思っていなかったため、かなり驚き、変な声を出してしまった。


「遊園地へ行かれるとか。ぜひ楽しんで下さいね」

「どうしてそのことを?」

「リンツ王子から伺いました」


 彼女の述べる言葉を耳にし、私は、正直驚いた。が、ローザには秘密にしなくて良いのだと思うと、少々心が軽くなった気もした。誰にも知られてはならない、という緊張感から逃れられたからだろう。


「そうだったのですね」

「はい。なので、お出掛けなさる用のお召し物もご用意致しました」


 ——気が利きすぎ!


 思わず叫びたい衝動に駆られたが、いきなり大声を出すのもみっともないので、叫ぶことは我慢した。


 しかし、ローザはなんて優秀なのだろう。

 彼女のように、優しく穏やかで、しかも色々と配慮のある侍女は、なかなか見かけない。アックス王国で暮らしていた頃も周囲に侍女はいたけれど、彼女ほど素晴らしい者はいなかったように思う。


「もうお持ちしておきましょうか?」


 ローザが笑顔で質問してきたため、私はこくりと頷いた。

 明日持ってきてもらうのでもまったく問題ないのだが、どのような服なのか気になってしまうから、頷いたのである。


「承知しました。では持って参りますね」

「あ、今でなくても大丈夫ですよ!」


 すぐに、と頼むのは申し訳ない気がしたからそう言ったのだが、ローザは「いえいえ」と笑った。


「お気遣いなく。それでは、持って参ります」


 ローザには感謝しかない。


 他国から来た人間である私を温かく迎え入れてくれた。こちらからの色々な頼みにも、嫌な顔をまったくせずに対応してくれた。そして、余計なことばかり考えて悩んでいた私の背を、そっと押してくれた。


 返せるものを何も持っていない私に、こんなにも親切にしてくれるなんて。


 ありがとう。

 いつでも、そう思っている。



 それからしばらくして、ローザが服を持ってきてくれた。

 彼女はかごを持っている。


「お待たせしてしまい、失礼しました。お召し物、持って参りましたよ」

「ローザさん! ありがとうございます」

「いえいえ。普通の国民に見えるよう、あまり派手ではないものをご用意しております」


 床へそっとかごを置くと、その中から、一枚のワンピースを取り出す。

 全体が柿色で、やや赤みを帯びた小さな花がたくさん描かれている、大人しめなデザインのワンピースだ。生地も、日頃城内で着るドレスとは違って、やや薄そうである。暑い時期に着たら、きっと涼しいだろう。


「こちらになります」

「落ち着いた雰囲気ですね!」


 やや地味めの色、長めの丈。

 とにかく大人っぽいワンピースだ。


 だが、かっこ悪さはないし、おしゃれな感じが伝わってくる。大人のおしゃれ、という言葉が相応しいだろうか——とにかく、魅力のあるワンピースであることに変わりはない。


「こちらのお召し物で問題ないでしょうか?」

「はい。とても素敵だと思います」


 ただ、私がそれを着こなせるのかどうかというところだけが、やや不安である。


「あの……少しいいでしょうか」

「どうかなさいましたか?」

「そのワンピース、一度着てみても構いませんか」


 一度着てみて、ちゃんと着られるか確かめてみたい。

 そんな思いがあったのだ。


「もちろん構いませんよ。お手伝いしましょうか?」

「あ……できれば、お願いします」


 ということで、私は、ローザに手伝ってもらいつつ着替えてみた。


 完全に着替え終えてから、鏡に映った自分の姿を確認してみる。


 ……うん。


 やはり、大人っぽいワンピースを着たからといって大人っぽくはなれていなかった。そこは予想通りである。けれど、まったく駄目、という感じでもなかった。それなりに様になってはいるような気がする。


 これなら、着ていけないことはないだろう。


 鏡の中の自分を確認してから、ローザの方へ体を向ける。


「どうですか? ローザさん」


 一応確認しておく。

 自分の感覚だけでは心もとないから。


「変ではない……ですよね?」


 すると彼女はにっこり笑い。


「もちろんです。とてもよく似合っていらっしゃいますよ」


 そんな風に言ってくれた。

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