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異世界モニター  作者: 猫リリル
なんか殺人編
8/9

6.夢見る匣のハローワーク

悔いている、あれ大人、朝見る夢、目ゆるみ、さあなと俺、歩いていく

四季の導入が決まったという連絡があってから、

どれくらい時間が経ったか分からないがその後も私達はゆったりとした生活を送っていた。

リセリアが午前中、仕事をしている間

――とは言っても、モニターの前で座っているだけなのだが――

私は、朝ごはんを食べた後、ベランダで文章を書いたり、この世界の文学を嗜んでいたりしていた。

昼食を取ったあとも、基本的にはお互い干渉せず、自分のしたいことをしていた。

二人共、インドアな性格なので、外に出ることはあまり無い。

買い出しや外食など用事があるときぐらいである。

そして、気づけば夕方を過ぎ、晩ごはん、風呂をすませば、あとは寝るだけ。

そんな何も起こらない、ゆったりとした毎日を過ごしていた。

明日もそんな日であろうと、私は思いそして眠りについたのであった・・・。


「というわけで、アスカ・サカモトさんは、このままだと不法滞在者として逮捕されます」

朝食後、いつも通りベランダで作業をしようと思っていた直後であった。

鳴ることが殆ど無いとされるインターホンが鳴り、二人が何事かと思っていると、

1人の『少年』が訪ねてきたのであった。

彼の姿を見た瞬間、リセリアが忘れてたと言うような顔をしていたのが印象的であった。

とりあえず、リビングまで彼を連れて、2人で対応していた。

彼は『イル・クローデル』と名乗った。


どうやら、私がリセリアの秘書として転生したことが、

ピウアルト全体に伝わったのは良いのだが、

それを正式なデータとして登録されていないのが問題らしい。

戸籍みたいなものなのだろう。

転生者として、新たに個人情報を登録する必要があるらしい。

このまま登録しなければ、私は法を犯していることになり、先程の台詞の通りになる。


会話の間、私は彼がどのような人間なのか観察をしていた。

彼は、黒髪のショートカットヘアで、左眼だけ前髪で隠れているので、

ただでさえ無表情の顔なのに、更に表情が読み取りにくい。

会話中も、抑揚がなく、非常に淡々とした調子で話をする。

おまけに声が比較的小さいので、よく耳をすまさなければ聞き取れない。

非常におとなしい性格の男の子だな、というのが私の彼に対する第一印象であった。

「で、私はどうすればよろしいのでしょうか」

私がそう言うと、彼が説明する前に私の隣に座っていたリセリアが代わりに説明をする。

「簡単なことよ。ここから南にある『ソーニョ神殿』でピウアルトの住民として、個人情報登録してくれば良い」

相変わらず人の話を奪うなあ、少しは黙ることが出来ないのかと内心思っていたが

黙っておくことした。

イルは、そんなことを微塵も気にしてないようで、小さく頷く。

「そうです。リセリアさんが言うように、ソーニョ神殿に来て、転生した日の状態を

データとして登録してくれれば、それで大丈夫です」

「それはいつまでしておくべきなのでしょうか?」

「もちろん、今日までです。出来れば今から。じゃないと、今日の17:00に逮捕です」

「うへぇ、こりゃ参ったねアスカ」

相変わらず、人が困っていると嬉しがるおめでたい性格をしているリセリア。

私は、ため息をつき、わかりましたと承知し、外に出る準備を始めることにした。

一応、リセリアも付いてくるか聞いたところ、彼女は

「だるいから行かない」

と即答した。

あんたが最初からこのことを教えてくれれば、面倒事にならなかっただろと思ったが、

やはりそれを口にするわけにはいかなかった。

上手く生活していくコツの1つである。


そんな訳で、私はイルと二人でソーニョ神殿へ向かう。

まだ朝が始まったばかりで、人通りが少なく、辺りは閑散としていた。

そして、道中会話が特に生まれることもなく、二人は並んでただ歩いていた。

彼が何を考えているのかは不明だが、私は気まずい思いを抱いていた。

我慢できず、私は彼に声を掛ける。

「あー・・・、今日は、天気が良いですね」

「・・・そうですか?」

「晴れていますし」

「晴れているのは、ピウアルトではいつものことですから。良いも悪いもありません」

「いや、ま、そうなんですけど」

・・・気まずい。

目的地に着くまで、後どれほどかかるのだろうか。

何故、朝からこんな気まずい思いをしなければらないのだろうか。

そもそも、彼は一体何の役割で、ここまで来たのであろうか。

連絡だったら、別に直接来ずともやり取りできるではないか。

と思って、確かにと自分で気づき、彼に質問をした。

彼は相変わらず顔色変えずに、

「そうですね。特に理由はありませんが、強いて言うならば、リセリアさんが呼んだ方を

ひと目見たかった、というのが理由でしょうか」

「貴方はそもそも何をしていらっしゃるのでしょうか?」

私がそう聞くと、イルは私の顔をじっと見てきた。

何かまずいことでも聞いたのだろうか。そう思って不安になっていると

「・・・喋りにくいのでしょう? 敬語で喋らなくても結構ですよ」

と気遣いをしてくれた。

「いや、でも・・・」

「良いですよ。ここの住民の方は、普段敬語で話すことの方が珍しいですからね。

自然体でいることが大事と考えている、この世界の住民の方々は話し方なんか気にしてませんよ」

「それじゃあ、お言葉に甘えて。イルさんは普段何をしているの?」

「神殿の職員をやっています。ソーニョ神殿はこの世界に住む方々のデータを登録、

管理する場所なのです。基本的にはデータを登録、変更しに来た住民の皆様の対応を

しています」

「簡単に登録したり、変更したり出来るの?」

「いえ、基本的に個人情報の大部分は登録した状態を保つようにしています。

よほどのことがない限り、変更は不可能です。ただ・・・」

「ただ・・・?」

「アスカさんも関係あるので説明しますが、ソーニョ神殿では職業の選択をすることもできます。

ですので、日々、職業を変更する方々がいらっしゃるのですよ」

「そんな、すぐに職業を変更できるものなの?」

私は、どうしても前世の記憶が残っていて、イマイチ納得できなかった。

前の世界では、仕事を簡単に変える人は、仕事を続けられる根性がないと思われる。

だからこそ、そんな簡単に変えられるものなのかという疑問が当然湧く。

「ピウアルトの場合、職業は公募かもしくは自称です。

殆どの方は自称で職業を選択しますね。一番多い職業は、自営業です。

一方、私やリセリアさんのような仕事は、誰にもできるという訳ではなく、

公募によって選ばれるということです」

「うん、なるほど」

「ピウアルトの場合、基本的に働かなくても暮らしていけるのですが、

無職というのはここでは認められないようになっています。

基本的に、3ヶ月、何も仕事をしていないと見なされる場合、強制的に職業を選んでもらいます。

無論、就いていても3ヶ月成果が出なければ、転職ということで、別の職業を選んでもらいます」

「選ばなかったら?」

「逮捕です」

この世界は、何かと逮捕が好きなようである。

前の世界での所謂ニート当たる人々は、ここに来たら大変だなと思った。

「最も、これは飽くまで、こちら側が住民の方々が生きているということを把握するためのルールです。ですから、人によっては小説家1、小説家2、小説家3と、職業の後に数字をつけて、ずっと同じ仕事をやっている方もいますよ」

「うへぇ」

前言撤回。ニートはここに来れば良い。

「でも、私はリセリアの秘書として選ばれているじゃないの? 

確か前に聞いた話だと、送られたリストから私が選ばれた、って言っていたんだから、

私の個人情報は秘書として登録されていると思ってたわ」

「あれは、私達の管轄外ですからね。転生を管理している、ある団体がありまして、その団体の

斡旋で貴方が選ばれたのでしょう」

お偉方から送られてくるリストから選ばれたとリセリアは言っていた。恐らく、お偉方とリセリアを仲介する団体のことを指しているのであろう。

「そのデータをその団体から貰うというのは?」

「先程も言った通り、本人から登録して貰う必要があります。面倒でしょうけど、決まりなので」

「じゃあ私の今の職業は無職?」

「そうです。秘書という仕事を貴方が自称する必要があります。

リセリアさんの仕事は公募ですけど、秘書は公募でもなんでもありません。

普通ならば、貴方が彼女の秘書になるということを言ってから、

職業が秘書であると認められるのです」

つまり、秘書というのはリセリアが勝手に言っているだけで、今の私はただの居候ってことか。

出来れば、それでも良かったが流石に居候という職業はないだろう。

「つまり・・・秘書じゃなくても良いのかしら」

「もちろんですよ。秘書もそれ以外の職業も公募以外であれば、

自称していることには変わりありませんから」

そう言われて、私は考えた。

秘書とは言うが、そもそも私は彼女のサポートをしたことは一度もない。

前の定例会議も別に秘書として相応しいかを試していた訳ではなく、

ただ私がこの世界の住民に相応しいか試され、

そして四季の導入が必要かということの決定に利用されたに過ぎない。

つまり私は秘書でなくて良いわけだ。

職業か・・・。何にしよう。


そんなことを考えていると眼の前に、それらしき建物が見えてきた。

大理石で建てられており、まさに神殿と呼ぶに相応しい。

しかし、どうも静かだ。私達しかいないように思える。

それもそのはずで、神殿の入口に近づくと何故静かなのか分かった。

まだ、開いていなかったのだ。

腕時計を見ると9時51分であった。開く時間としては遅い。

不思議に思っていると、イルは胸元から鍵を取り出して、入り口の自動ドアの下にある鍵を差し込む。

同時に、神殿の中に明かりがポツポツと着き始める。

どうやら、ここがスイッチになっているようである。

「少々お待ちください。10時に開くのが決まりですので」

「もしかして、1人で施設の運営をやっているの?」

するとイルは、首を振って

「いえ、1人ではありませんよ」

と言いながら、神殿に入らず入口の方を向いていた。

私もつられて神殿の奥の方に目を向けると、中からこちらへ向かっている黒いシルエットが見えた。

そして、自動ドアが開くと

「イル、おかえりなさい!」

と非常に溌剌とした声で一人のメイド服を来た女性が表れた。

「ただいま戻りました。アスカさん、紹介します。こちら、シャーリ・アシュット。

見ての通り、アンドロイドなメイドです」

「見ての通り・・・アンドロイド?」

「初めまして、アスカさん! 私は、シャーリ・アシュットです。

この施設で働いているアンドロイドでございます!」

と言ったあと、シャーリは深くおじぎをして、体を起こすと満面の笑みを浮かべた。

その間、イルは相変わらず顔色一つ変えない。

こうして1人の機械的な人間と、1体の人間的なアンドロイドによって、私は奇妙な1日を迎えようとしていた。


回文適当すぎでしょ

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