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異世界モニター  作者: 猫リリル
なんか自立編
5/9

3.便利な世界の中心で随筆を打ち込む私と、昼の散歩を嫌う管理人は人とホットドッグの話をするか?

この小説はエッセイである。

ノンフィクションで、私が日々体験していることに対して、気ままに意見を書いていく文学である。読み手が楽しめる内容かは不明だが、私にとってはどうでもよいことだ。

何故ならば、私がこの小説を書いているのは、私の心を満たすために書いていているからだ。

たまたま形になったものを、外へ見せるための環境が整っているから、

世界に公開しているに過ぎない。

だから、読者にはいつ見切ってもらっても構わないし、どこから読んでも構わない。

私は私であり、貴方は貴方なのだから――。


「何しているの、アスカ?」

と、1階のリビングからベランダにいる私に向かって、声をかけたのはリセリアだった。

最も、この家には2人しかいないのだから、別に驚くこともない。

ある晴れた日の昼前。私こと坂本明日香は、ベランダでリクライニングチェアに座りながら、

ノートパソコンを膝に載せて、文章をひたすら書いていた。

声をかけられても、私は彼女の方を見ずに、ひたすら両手を動かしながら文章を

テンポよく打っていく。

ノートパソコンというのは、この世界では殆ど使われないようである。

何故ならば、映像を見るにも、文章を打つにも、何かを作業するにも、

ノートパソコンより上位互換のシステムがあるからだ。

例えば、映像はいつでも空中上に出せるようだし、頭で考えた文章を一瞬にして紙、電子、その他の媒体問わずに打ち込むことができるようである。

前者はホログラムの一種、後者は脳活動をデコードすることで可能にしているのだろうと、

私は理解した。

何故実現できるのかは、多分私以外にも分からないのだろう。


そんな理解できない便利なシステムがあるにも関わらず、

私は生前の仕事の癖だろうか、この世界では非常にアナログとされるノートパソコンを使うことにした。

どうやらリセリアの家の地下室には、

ガラクタ室というものがあり、様々な世界で使われなくなった物体が自動的に送られてくるらしい。

その中に1つ、私がいた世界のそこそこスペックの良いノートパソコンがあった。

動力は電気だったので、同じくガラクタ室にあった『E/Eコンバータ』を使って、

エーテルから電気に変換することで動かしている。

エーテルはこの世界では無限のように存在するので、

ノートパソコンにコンバータを装着するだけで常に充電することができる。

エーテルというのは便利なエネルギーだな、と感心していた。


矢張り使い慣れているからか、文字を打ち出していると非常に楽しい。

そんな私の様子を不思議に見るリセリア。いつの間にか私のそばまで来ていたようだ。

私は彼女に気づくと、流石に失礼かと思い、手を止めて、彼女の方を向いた。

「なにかよう?」

私は味噌汁を飲んだあの日から、彼女に対して敬語を使うのをやめた。

理由は特にない。

「いや、アスカが良いなら良いのだけれども。わざわざ、手間のかかる方法でやるんだなって」

私だったらやらないのに――、と言いたげな顔をしつつ、

目線をキョロキョロと動かしながら私の書いた文章を見ようとする様子が表れる。

私は、そんな様子を無視しながら、持論を述べる。

「でもある程度の内容を持つ文章を完成させるのって、考えている時間のほうが圧倒的に長いと思うの。それを考慮したら、打ち出す時間なんて、方法にに関係なく

対して変わらないんじゃないと思うのだけれども・・・」

これは確信がある。

何故ならば、私の働いていた会社に、タイピングが速いと言われていた同期が一人いた。

実際に彼のタイピングを見たことがあるが、分速600文字ぐらいは打つだろうと思えるぐらいの

スピードで文字を叩き出していた。

しかし、その同僚は「仕事が遅い」というレッテルが貼られていた。

いつも報告書を締め切りギリギリまで書いていたのが、1つの要因である。

内容が思い浮かばないと言って、PCの前で固まっていた様子が私の記憶の端にあった。

おそらくあれは書く内容を何とか絞り出そうとしていた様子だったのだろう。

一日の仕事をまとめることですら、それだけ時間をかけているのだから、

彼はよほど仕事が出来なかったのだろう、と今更ながら理解する。


ともかく、私の持論は正しい。

そう思いながら胸を張っていた私をすみに、リセリアは考え事をしていた。

おそらく自分が振った話も、もう意識の外であろう。

基本的に彼女は話したいだけなのである。相手の返答は余り気にしてない。

と、ここ一週間経ったところの私のリセリアに対する評価であった。

そして、リセリアは何かを思い出したかのような素振りを見せると、

「午後暇でしょ、ちょっと付き合ってよ」

と言ってきた。

「暇だけど・・・何するの?」

私が質問すると、彼女は待ってましたと食い気味にこう言った。

「散歩とプラスアルファ」

「・・・プラスアルファねぇ」

全く、午後も優雅に過ごそうとしていたのに。

そういうわけにも行かなくなった、そんな昼前の光景であった。


転生してから、初めて私はピウアルトの地を歩いていた。

リセリアと移動中会話していて気づいたが

ピウアルトというのは、2つの意味を有するようである。

1つ目はこの世界自体のことを表す。地球、宇宙といったように、空間全体のことをピウアルトと呼ぶ。

2つ目は、海に囲まれた土地、つまり今私達が歩いているこの土地のことを表す。

どうやらこの世界には一つの土地しかなく、しかも面積2000k㎡しかない小さな範囲の土地である。後は全て塩水。

つまり知的生命体である私達が安心して生きていけるのは、この土地、もしくは周辺の本当に小さい幾つかの小島でしかない。

だから、ほとんどの人達が土地イコールピウアルトという認識であるという話らしい。

その話を聞いて、私もその認識で別に構わないと思った。

そもそも空間や土地に名前をつけること自体、我々知的生命体しかしないのだ。

それ以外の動物は、全く気にしてない。


さて、そんな土地をしかも同行者付きで歩くのは私にとって初めてである。

転生直前の土地全体を見渡す映像を思い出す。

あのとき、土地の中央に湖があると思っていたが、どうやらそれは港だったようである。

家を出て、ある程度歩いた頃に、リセリアがピウアルトの地図を見せてくれた。

「私達が今いるこの土地、もしくは島かな・・・。それ自体をピウアルトって言う人もいるね。

誰も明確な定義をしないし、しても何にもならないから、

基本的にはピウアルトって言ったらこの土地になるんだけど。

見ての通り、三日月型の土地をしていて、月が欠けている部分が港で、内側の輪郭に沿って、

船がずらっと並んでいる。後は海だね。

海自体の面積も多分・・・5000k㎡程度だったと思うよ。

だから空間としては、それはそれは小さな世界なのですよ」

話終えてフーンッ、と威張るながら歩くリセリア。

私は彼女と地図に目線を行ったり来たりしながら、彼女の背後で歩いている。

私達は、港と言われた場所から反対方向に向かっていた。三日月の弧の部分が目的地に当たる。

私は地図を服のポケットに2つ折りにした状態でしまうと、歩きながら周りを観察する。


人、人、人。

と、すれ違う人たちを見ていて不思議に思ったので、リセリアに聞いた。

「人しかいないのね」

「どういうこと?」と私の発言の意図が掴めないようで、聞いてきた。

「いや、人以外の知的生命体がいないだって思って。

私達の世界の創作物だって人間以外の動物の知的生命体なんて出てくるものだし。

魔法なんて概念が存在するぐらいなら、人以外の生命体も存在してもおかしくなさそうだけど」

「あー・・・。創作の生き物は所詮創作の中でしか存在しないのよ」

「他の世界にも人しかいないの?」

「今の所、人以外の知的生命体はどこにも見つかっていないわね」

「転生後、違う種類の生命体になるとかは?」

「それもない。どういうわけか、どの世界も生物も進化していくと、人で打ち止めになるし

転生後に別の生物になるということもないわね」

不思議なものである。どれだけ異世界があるのかはしらないが、少なくとも1つの世界ぐらいには

人とは全く異なる知的生命体が存在していても、良いと思うのだが。

ピウアルトに存在しないものは、他のどの世界にも無いと同義なので、

本当に存在しないのであろう。

「仮に存在したとしても、殆ど人と違いがないのかもしれない。

親指の長さが平均より短いとか、背中に第三の肩があるとか。その程度」

リセリアは、適当なことを言ってケラケラと笑った。そんなに自分の言ったことが可笑しいだろうか。

対称的に私は背中に肩があると凝ったときに自分でほぐせないなと、呑気にそう思った。

「そもそも人の定義も曖昧だしね、貴方の世界だって色んな外見の人達がいたでしょう?

人を満たす条件って何なの?」

「・・・二足歩行が出来るとか?」

「脚がない人達は人じゃないの?」

リセリアがすかさず指摘する。

(人・・・)

と考えていると私は遂に反論する機会を無くした。

話の途中で、リセリアは道端に並んだ屋台の1つに寄ったからだ。

店主らしき男と話している様子を私は、一歩引いた所から眺めていた。

先程までの会話よりも、若干楽しそうに見えた。

散歩中に人の定義について会話をしているなんて、普通じゃないなと私は反省した。


数分経って、両手にそれぞれ小さな袋を持って来て、その後片腕を私の胸の前まで伸ばしてきた。

「これ、貴方の世界で言うホットドッグってやつ。一個あげる」

私はありがとうと例を言うと、遠慮せずに受け取った。

リセリアは私に渡すと満足したようで、自分の持っていたもう片方の袋から、

ホットドッグを外に出して、食べながら歩き始めた。

私も彼女と同じように、食べながら歩く。

切れ込みが入ったパンに、レタスとソーセージが入っており、ケチャップで味付けした

単純なホットドッグだったが、出来たてなので美味しい。

ソーセージの肉汁、程よい歯ごたえのレタス、味にアクセントを付けるケチャップ、

何よりも口を膨らませる丁度よい大きさのパンが私の食欲を促進させた。

私は二口、三口と続けてかじり付き、気づけば中身が無くなってしまった。

それに比べ、リセリアの手元にはまだ、半分以上残っていたホットドッグがそこにはあった。

私が食べ終えたことに気づいていないリセリアは、ゆっくりとそのホットドッグを口元に運ぶ。

そしてちょっとばかり齧って、じっくりと味わうかのように口を何回も動かしていた。

前から思っていたが、リセリアは食べるのが遅い。

尋常じゃないくらいに遅い。

多分、私が食べ終わる頃に彼女が食べ始めると言っても強ち間違っていない。。

少しその事で茶化してやろうかとも思ったが、人の食事中を邪魔するほど私は性格が歪んでいなかった。

結局、彼女が食べ終わるまで、私達は一言も会話が生まれなかった。


「ねえ、この世界ではホットドッグを何て言っているの?」

手元の袋をクシャクシャに丸めて、近くにあったゴミ箱に入れながら

「ホートゥンドゥンガ」

とリセリアはニヤニヤしながら言っていた。

「嘘でしょ」

即座に私は言った。

「・・・いやぁ、ホントゥよ」

「・・・ホーントォ?」

「本当」

「じゃあ、明日から周りの人にあの店のホートゥンドゥンガ本当にホートゥン美味しいですよね、って吹聴しまくるわね」

「・・・それだけはやめて、私の管理責任が問われる」

流石に観念したのか、困り顔で私を止めるリセリア。

余りにもつまらない会話がお互いの謎のツボにはまり、そして笑い合った。

そんな青空満点の昼下がり。私達の散歩プラスアルファはまだ続くのであった。


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