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■第23話 ロリっ子ゆたかちゃん

 わたし二杜氏ゆたかは職員室で、他の同僚から『不争之徳』と呼ばれて崇められている。

 人と揉めない、争わないという意味だが、私は結構自分の意見をずばすば言っているつもりだ。

 何故私をそのような人徳者に祭り上げているのかは不明だ。


 まあ、溢れ出るわたし自身の魅力のおかげだろう。

 皆から頼られ、信頼されるわたしだから崇め奉りたくなるのは仕方がないことだ。

 うむ。苦しゅうない。苦しゅうない。


 そんなわたしだが、実はかなりの多忙なのだ。

 今とて学会からの講演依頼を受け、お断りの電話をしていた所だ。


「ゆたかちゃーん。電話だよー。日本超物理学研究所からだって~」


 同僚の先生がわたしを呼ぶ。


「はいはーい。電話まわしてー」


 同僚に手を振って受話器を取る。


「はい。二杜氏ゆたかです。お電話変わりました」


 本当に参った。

 わたしの論文が現在進行形で物理学会に大きな論争を引き起こしている。

 アイン・シュタリーヌ女史以来の天才だと各界で騒がれているようだ。

 今も、共同研究の依頼があり、丁重にお断りの言葉を述べたばかりだ。

 科学雑誌「ネイチャン」からも執筆の依頼があったり、本当に忙しい。


「ゆたかちゃーん。洋服メーカーからモデルの依頼が来てるよー」


 また電話を受けた同僚がわたしに電話を回す。

 わたしの可愛らしさに目をつけるとはいいセンスだ。

 あはは。まいったな。


「はい。二杜氏ゆたかです。お電話変わりました♪」


 まったくわたしの人気にも困ったものだ。


「は? 子供服メーカー? ……わたしがモデル?」


 ガチャンと受話器を投げ捨てる。

 馬鹿にされた気分だ。

 まあ、私は不浄の……なんとかだから?

 大人だし?

 事を荒立てることはしない。


 すーはーすーはー。

 深呼吸。


 ちょうどそのタイミングで、男子生徒が一人職員室に入ってきた。


「ゆたかちゃんいますかー?」


 生徒からもゆたかちゃん呼ばわりだ。

 まあ、可愛いわたしへの愛称みたいなものだし、大目に見ている。


「ほいほーい。なんぞー?」


 入口で待つ生徒の所へ小走りで向かう。

 顔を赤らめた生徒が、わたしに手紙を差し出してきた。


「手紙……?」


 わたしは手紙を取り出して中身を読む。


『ゆたかちゃんへ。

大好きなゆたかちゃん。

よかったら俺とデートしてください。

よかったら付き合ってください。』


ラブレターだった。


「ははーん? 少年、わたしが好きなのか、ん?」


 わたしはいたずらっ子のように男子生徒を見つめた。


「俺、真剣なんだよ!」


 ヒューヒュー。


 職員室の中から、同僚が冷やかしのヤジを飛ばす。

 わたしは無視して、男子生徒を見上げる。


「いいかい、少年。キミが大人になった時、わたしと一緒にいたら、キミは通報されてしまうぞ?

幼女誘拐の罪は重い。キミの人生はこれからまだまだ長い。人生の半分を刑務所で過ごしたくはないだろう?」


 男子生徒はそれでも引かない。


「そ、それでも俺は……っ!」


 こなれた具合にゆたかは答える。


「わたしは魔法少女なの。少年。魔法少女が刑務所に入った人とお付き合いできないでしょ?」


男子生徒が言葉に詰まる。


「ぐぐっ……でも……俺……ゆたかちゃんの事が……っ!」


 まだ引かないのか。今日の相手はあきらめが悪い。

 ゆたかは左手で少年の手のひらを取り、右手でその手を包む。


「ありがとう少年。キミの心はわたしの心にちゃんと届いたよ。わたしは、キミの心と共にこれから魔物と戦える。

ありがとう。今日の事は一生忘れないわ」


 飛び切りの笑顔で少年を見上げた。

 歓喜に震える男子生徒が、わたしにがばっと抱きついてきた。

 まあ、これもよくあるパターン。

 だからわたしは慌てない。


「わたしはいつ魔物との戦闘で命を落とすかもしれない。その時、わたしはキミを悲しませたくないの。

だから……わたしの為に……わたしが好きなら……その証拠にわたしを諦めて見せてよ!」


 わたしはわざと泣き出しそうな声をだして、男子生徒を強く抱きしめた。


「わかったよ……ゆたかちゃん。俺……ゆたかちゃんへの愛を証明してみせるから!」


 涙を流して去る男子生徒を、笑顔で手を振って見送るわたし。

 彼の背中が語っている。

 男を証明してやるんだ、と。


 うん。ちょろい。


「いやぁ~ゆたかちゃん、今日も男泣かせだねぇ」


 男の教員がぐすっっと泣きまねをしながら声をかけてきた。


「前途ある生徒ですから」


 わたしは笑顔で答える。

 諦めの悪い生徒だと、別れのしるしにキスをねだるやつまでいるんだが、今日の子はその前に引いてくれたからよかった。


 さてと……そろそろ理科実験室に籠ろうかな。

 職員室を出て、手帳を机に置きっぱなしなことを思い出し、職員室に戻る。


「先輩、ところでなんでゆたかちゃん不争之徳って呼ばれてるんですかね?」


「ゆたかちゃんおっぱい小っちゃくて揉めないからね。揉めない=争わない。つまり、不争之徳ってわけさ。あはは」


 そんな声が聞こえた。

 わたしは何も聞いてない体で机の上から手帳を拾い、無言で職員室から出て行った。

 その間、ざわめかしかった職員室が一気に沈黙に包まれていた。


 理科実験室につくと、ドアを足で蹴飛ばして中に入った。

 手帳を自分の机にビタンと叩きつける。

 冷蔵庫から豆乳を取り出し、ちうちう飲み干す。

 飲み終えた紙パックを思い切りぎゅっと握りしめ、ゴミ箱へと投げ捨てる。

 紙パックはゴミ箱の淵にあたり、外へと転がった。

 わたしは機嫌が余計悪くなり、ゴミ箱を蹴飛ばす。

 中に入ったゴミが散らばり、黙ってそのゴミを拾った。


「あーむしゃくしゃする!」


 わたしは紙パックを拾い、裏側にかかれた電話番号を見る。

 理科実験室の電話を取り、豆乳メーカーへと電話を掛けた。


「もしもし。「美乳豆乳」を毎日飲んでるユーザーなんですけど! 全然効果が表れないんですけどっ!!」

「すみません……お客様。当製品の効果は、絶対をお約束するものではなく……あくまで栄養素のご提供にとどまっております」

「豆乳以外にも、ボロンやたんぱく質、アミノ酸、アルギニンにリジン、オルニチンやビタミンEまで採ってるのに全然効果がないの!」

「えっと……個人差がありますので……」

「毎日5本は飲んでるのよ! どう責任取ってくれるの!」

「あの……ちなみに今現在のバストはおいくつでしょうか?」

「うぐっ……バスト……55にアンダー53よ……」

「え? あの……お客様? お母様に代わっていただけませんか?」

「わたしは大人だ!」


 ガチャン、と受話器を置いた。


「バスト55のブラを探して、通販で調べたら、お探しのサイズはありません。と表示される悲しさがわかるか!?

やっと見つけた! と思ったら思春期用ブラだったとかばかりなんだぞ!

ワイヤー入りの寄せてあげるブラが欲しくてショップにいったら、お嬢ちゃんは発育これからだから、無理に圧迫しないほうがいいですよって言われたんだぞ。

大人なのに!」


 一気に大声でわめき上げ、はあはあと息を切らす。


 背後に視線を感じ、後ろを見るとそこにルミンがわたしを見ていた。

 にたーと笑いながらこっちを見ている。


「ぐぬぅ……」


 わたしは顔をまっかにしてその場に立ち尽くした。


 全部あいつのせいだ!

 二杜氏豊! わたしのペア!


 わたしはルミンのとこまでつかつか歩いていき、ルミンの胸をはたいた。


「ゆたかっ!?」


 驚いたルミンはその場で後ろを向く。

 突き出されたお尻をペチンとはたく。


「ゆたか……いたいっ」


 ルミンはお尻を引っ込めてお尻を庇って前を向く。

 前を向いて揺れる胸をわたしはひっぱたく。


「ゆたか……激しい……」


 胸を庇って後ろを向くルミン。

 プルンと突き出されたお尻をまたまたはたく。


 ペチン!


「全部あいつのせいだ!」


 ペチン!


「貧乳好きのあいつ!」


 ペチン!


「なーにが『日本はロリコンしかいないから、日本男児の10人に9人は貧乳好きだ!』よ!」


 ペチン!


「そんなわけないじゃない!」


 ペチン!


「せいぜい10人に8人位でしょうに!」


 ペチン!


 ルミンが先生の手を受け止め、上へと持ち上げる。


「え!?」


 わたしは上へと引っ張られ、宙吊り状態になってしまった。

 ルミンはそのままわたしの顔を自分の顔の位置まで近づけ、ぼそりと呟いだ。


「貧乳好きの割合は……12.3%……だから10人に1人……」


 じわりと瞳に涙が溢れてきた。




 ゆたかの苦悩は続く。


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