第7話:魔王と会議
今日は葛藤回です。大きすぎる力とは、時に大きな災いも起こすという事ですね。
鋳鶴は自室にいた。
一平との交渉の末、鋳鶴を含めその場にいた全員が彼に協力することを決めた。
だが、体育大会に参加すること自体は、それは義務ではない。
どちらかと言うとあの場所にいた全員の使命感でもある。そして何よりも一平自身の見せた誠意・自分の保持する能力
「さっきのあれは、なんだったんだろう」
今、この自室の寝床の上で左手を左胸に翳しても先ほどの様な現象は全く起こらない。
なぜなのか、自分には分からない。
けれども鋳鶴自身よりも一の方が、彼の能力をしている。
色々と気にかかる点はあるが、自分が魔王であるかもしれない事実を鋳鶴は感じていた。
思ってはいない。感じた。ただ、それだけだが鋳鶴にはその事実を確認するすべがない。
家系図は滅多に自宅に戻ることのない両親が管理していて、我が家の何処に収納されているか分からない。
それと鋳鶴には自分が魔王でないと思う確信があった。
両親はどちらとも世界的な魔術師なのだが、双方とも魔王の力を持つような者ではない。むしろ二人がその力を保持していたら、世界の関係各所の人間たちが見過ごすことはしないだろう。
望月家の子孫全員が政府などの監視下に置かれているはずだ。
立派な医者と外交官の様な仕事をしている。両親とも異能を持ち、魔法も使うが魔王ではない。
加えて両親は魔王を討伐する側の人間だったことも確かだ。
人類を救済した二人が魔王の血を継ぐもの、魔王の協力者でもないかぎり、鋳鶴に魔族や魔王が保持する能力が使用できるのはあり得ないことである。
そのため鋳鶴には魔王科の生徒に言われたことや昨日の一平に言われるまま左手を翳し、自分の見た目が変わったことを変身魔法か変身する異能だと思っていたが、あれが魔王化と呼ばれる類のものなら話は別だ。
かつて人類の敵に回った魔王も変身魔法を使ったと、鋳鶴たちの年代は小学校の時から口を酸っぱくして教師に言われ育ってきている。
義務教育で魔族や魔王の恐ろしさというものを知り、知識として蓄えておくことによって鋳鶴たちの世代を一人でも多く非行に走らせまいとする国からの配慮だ。
魔王自身も元人間という話はあるが、これは悪魔で噂であり、人類は解明した謎ではない。しかし、彼に仕える魔族の者たちが元人間と言う説が有力で魔族に化ける前に、恐怖的体験や己の人生を呪った者などが、魔族たちに魔族側に失墜するよう誘惑され、その身を魔族に委ねることによって魔族に成ってしまうというものだ。
学校で魔族のことを学習し、その危険性を両親からも耳にしている鋳鶴にとって、自分が魔王になる。または、魔族と堂々の力を扱えることにはむしろ精神的不安につながっている。
彼には夢がった。子ども頃からの思い描く夢。
それは、医者だった。それか、自分が周囲の人間たちに必要とされる人。
鋳鶴にはその二つの大きく、思い描く夢がある。
自分の好きなテレビや漫画の影響ではなく、両親の影響だ。
医者としてだけではなく、魔族の活動を妨害する為に世界を飛び回る母。
外交官の様な仕事で世界を飛び回り、母と共に魔族の活動を妨害せしめんと動き回る父。
鋳鶴はそんな両親に頭が上がらない。
家族の食費、生活費を有り余るほどにまで稼ぎ、月のはじめと終わりに、必要経費以上の生活費が振り込まれる。
両親が帰ってくることは、滅多にない。が、毎月その支払いだけは、途切れることなく続いている。
そんな両親にあこがれて夢を描いていたが、この一か月で自分の夢が、将来が変貌してしまうという恐れが出てきたのだ。
誇りある二人の背中を追うのではなく、世界から忌み嫌われる魔王になる。
両親の敵だけではなく、人類その者の敵になること、このままの自分では、そうなってしまう事も信じられるものであった。
先日、魔王科の少女に言われたこと、そして昨日判明した一平の助言により発言した自分の力。それだけでも判断材料としては十分のものである。
「どーしたー?鋳鶴。悩み事でもあるのならお姉ちゃんに話してくれたっていいじゃないのー」
穂詰の声がドア越しに聞こえる。
いつもならノックも無しに自宅に点在する酒の場所を聞きに来るはずなのだが、鋳鶴が落ち込んでいる。ということを察しているのか、ドアに手をかけることもなく、ドアから少し離れたところで話している。
妙な気を使うぐらいならいつもの態度の方がいいと鋳鶴は思った。
あまり家族に、自分のことで心配させたくないという気持ちもあるが、自分には構わず自分たちの成すべきことをしてほしいと他の家族に思っているからだ。
鋳鶴は自分せいで家族に気を使わせることすら滅入っていた。
「何にもないよ。大丈夫だから」
鋳鶴はでまかせの嘘をついた。正直に言うと何もないわけではなし、抱えている問題自体、自分だけで解決できる程楽観的なものではない。
大丈夫という言葉は鋳鶴の中でいつの間にか、口癖の様なものになっている。
「鋳鶴ねぇー。アンタが、そういうこと言うってことは、いつもお姉ちゃんたちやゆりや神奈に遠慮してたり、何かあるけど誰かに迷惑かけたくないって思ってるときでしょ?私にはわかるんだから、何年陽明学園で保健室の先生やってると思ってるの?」
なぜ、こういう時は穂罪の勘がいいのだろう。と鋳鶴は思った。
普段から酒を浴びる様に飲んでいる彼女には、考える能力や他人へのやさしさが少し欠けていると思うことが鋳鶴からの視点では度々ある。と思う鋳鶴だが、家族に対してはその鈍った能力が一気に発揮される。
それとも、普段見ていないだけで考える能力ややさしさはちゃんと他人にも向けられているのではないか?と鋳鶴は彼女の態度を見て思った。
「確かに、私は飲んだくれかもしれないけど、家族を気遣う気持ちは、酒を飲むことより大事だと思ってるわよ。勿論、真宵や結が帰ってこないことだって心配だし、父さんと母さんは今度、いつ帰ってくるか気になってるしね」
穂詰の話し声が若干、震えているのに気付く、勿論、気のせいではない。
彼女は、常日頃の行いから自分の業を思い返さない女性ではない。ただ、隠す、と言ってはなんだが、彼女はそれを酒で誤魔化し、感覚を麻痺させ認知能力を低下させている。基本的に誰の前でも弱さを見せず、いつも陽気に笑い、誰もが彼女が陽気であると理解している。
家族に心配をかけたくないのも家族のことを気遣っているのも鋳鶴一人ではない。ここにはいない恐子や杏奈だって心配なはずだ。
「ごめんね。穂詰姉、やっぱり適わないや」
鋳鶴がドアを開ると、押し倒すように穂詰が鋳鶴に激突し、彼を抱きしめた。
酒を飲んでいたのか、彼女の体は火照っており、人間らしからぬ体温の優しい温もりが鋳鶴に伝わる。
久しぶりの姉との抱擁だった。
ずっと鋳鶴は辛酸を舐める様な思いをしていたわけではないが、穂詰にここまで心配されていたことを考えると鋳鶴の目には涙が浮かんで今のも落涙しそうになっている。
「アンタにはこんなに頼もしい姉妹がいるのよ?自分で言うのは私自身、どうかと思うけど、私たちは鋳鶴が大好きだし、みんな尊敬してるわ。だって私にはあんな大量に家事をこなしたり、私みたいにお酒を要求する人間に懲りずにお酒をあげるなんてできない。それに今日のこれも鋳鶴のやさしさのせいだよね。お姉ちゃんにはお見通しなのよ?恐子姉は鋳鶴が食べるはずだった夕食に手をつけてないし杏奈姉はずっとリビングをグルグル回ってるし、ゆりや神奈なんて鋳鶴の代わりに家事してくれてるのよ?」
「皆の優しさには感謝してるよ。でも僕は……僕と一緒にいると、みんなは不幸になってしまうかもしれないんだ。もしかしたら、死んでしまうかもしれない」
鋳鶴は涙ながらにそう告白する。
穂詰は笑顔を見せると鋳鶴をより、押し倒して自身の額を鋳鶴の額につけた。
あまりにも近い距離に鋳鶴は涙を見せる以前、に穂詰との密着感で顔を赤く染めた。小悪魔の様な笑みを浮かべながら穂詰はより一層、鋳鶴を強く抱きしめる。
「お姉ちゃんたちが鋳鶴と一緒にいるだけで死ぬわけがないでしょう?私たち自身、死ぬとは思わないし、それが鋳鶴のせいでなんてもっと有り得ないわよ」
「穂詰姉……」
「母さんなんて特に死ぬわけないわ。私には分かるし、鋳鶴にはもっと分かるでしょう?それにアンタは苦労してるんだからそんなことでしょげてもらったら、私たちが困るの。だからあんまり深く考えるのはやめなさい。いつでもお姉ちゃんたちがついてるんだから」
「ありがとう……」
鋳鶴のその言葉は本心から出たものだった。
いつも抱えてばかり、というよりも家族のために本音はあまり言うことはない鋳鶴が、珍しく出た。本心からのありがとうという言葉。
素直になってくれた鋳鶴を抱きしめる穂詰の力はより一層強くなっていた。
「穂詰姉!?ギブギブ!!!!!!」
「だーめ。しばらくこのままでいさせて」
穂詰の抱擁の力があまりにも苦しくて暴れた鋳鶴だったが、穂詰のその言葉で暴れることをやめた。
決して気を失ったわけではない。ただ、穂詰も何か不安を抱えているのだろう。そのまま鋳鶴を離すことはなかった。
鋳鶴の部屋の外では桜の木が月夜に照らされ、花びらが寂しげに散っていた。
穂詰に抱きしめられたまま彼女に寝られた後、神奈とゆりに穂詰を取り外してもらった鋳鶴。
今日はいつもの様に歩たちと登校し、一日の授業が終わり、窓から見える夕暮れは嫌という程、教室に入り込んでいる。
普通科校舎の教室は、すべて日が入る様な構造になっている。冬場はありがたいのだが、夏場は暑さを感じるような構造だ。
放課後、鋳鶴は一人、教室に残されている。
掃除をさせられるわけでもなく、悪行を成して、反省文を書いているためでもなく、椅子に座らされて目の前にはほほ笑む要が座っていた。
何が目的なのか鋳鶴を座らせ、その正面に椅子を置いて腰かけ、ずっと笑っている。鋳鶴は失礼だと思ったが気味が悪いと思っていた。
かつてないほどに、鋳鶴は要に不信感を抱いたことはない。
歩たちは帰宅してしまっていて、今日は一人で帰ることになった鋳鶴は少しだけ憂鬱だった。
「今日、望月君のことを残して少しだけ申し訳ないって先生思ってるけど……」
「はい」
「ちょっと最近、職員会議であなたの話題がでてね」
要のテンションがあからさまに下がっていた。いつも太陽の様に明るい笑顔ではなく、それが彼女の本質なのか、研究対象を観察する気味の悪い科学者の目になっている。
鋳鶴は何も悪いことをしたつもりはない。それにも関わらず、まるで廊下に出ることを催促され、叱咤される前かの様な空気の重さだった。
要も気まずそうに鋳鶴を見る。
それに気づいて、要は、鋳鶴と目を合わせようとするが、視線を逸らして拒まれてしまった。
「悪いことじゃないのよ!?あなたは悪くないわ。先生は望月君や皆のことが大好きよ。もっ!勿論、先生としてよ!?」
「先生のお気持ちは充分、伝わってますよ」
日々の指導を見て鋳鶴は思う。
ある意味厳しい女性だが優しいところもある。人を研究対象にしたがるところが玉に瑕だが、尊敬するべき人間であり、陽明学園きっての最高の教員だと鋳鶴は心得ている。
その彼女がいつもと違い、緊張を持って話している。
教師としてはあまり普段と態度を変えられると心情が読まれやすいのだが、今の鋳鶴にはその表情が読めるのが好都合だった。
だが、自分は悪い行いと呼ばれる様なことは身に覚えていない。遅刻もなければ早退もなく、何か校則に違反していることもない。
「先生、聞いちゃったの。望月君、魔王科の生徒と喧嘩したんだって?」
「え……あ、あれは喧嘩というよりも」
一方的に攻撃されただけだ。
自分は何もしちゃいない。強いて言うのなら、無意識に動いた腕と、無意識に発現した黒くて不気味な魔法だけ、家族に妹に苦しい思いをさせた日、それを鋳鶴は思い出したくはないことである。
担任の要にもクラスメイトにも鋳鶴は迷惑をかけた。
そんなことを今、ここで思い出した鋳鶴は再び、要から目を反らし、落ち込み始める。
その様子を見て、要は一枚の純白のハンカチを取り出し、鋳鶴の前に差し出した。
「先生はよくそのことを知らないけどたまには泣いてもいいんじゃないかしら?私なりに考えたのだけれど多分、原因的には魔王科の生徒会長を務めている。望月結さん、望月君のお姉さんよね?」
気まずそうに鋳鶴の顔を覗き込む要だったが、鋳鶴はそのことで頭がいっぱいだった。
図星を突かれた鋳鶴は学生服のズボンの皺を寄せる程、強く握った。このまま力を入れ続ければズボンは破けてしまうだろう。
だが鋳鶴の頭にそんな考えはなかった。ただただ、結の事だけを考えている。
家族だった。姉だった人間が、自分の部下であるような生徒に命令でもして弟を襲わせて、何がしたかったのかと鋳鶴は疑問に思っていた。
鋳鶴の中で、彼女はただただ正々堂々な人だった。人間として誠実で誰よりも信頼していた家族かもしれない。その彼女が、何故、変わってしまったのだろう。それほどに時の流れとは残酷なものなのか、それとも何者かに操られているのか、結の性格上の面を考えて、自責の念か何かに駆られたのだろう。鋳鶴はそう考える。
要も今さらながらに話すべきではなかったと後悔していた。
鋳鶴に圧倒的信頼と彼の性格を考えて質問をしたつもりだったが、それが裏目に出てしまっていることに気付いたのである。
望月鋳鶴という生徒は、優しいだけではなく、正義感が強く、他人を大切にする人間だ。
現代の男子高校生では少なくはないだろうが、彼ほどいつでも一生懸命、人の為に尽くせる人間はいないと思っている。要のまだ長いとは言えない教師生活の中で彼ほど人のために尽くしている生徒は見たことがなかった。
「望月君?」
「え、あっ、なんでもありません!」
なにか問題が確実にあるのにも関わらず、自然と体は反応して出てしまう彼のよく言うセリフ。
なんでもありません。
責任感や他人への迷惑を考える彼がよく使う台詞だ。
教員会議で話題が出たのは確かだが、それは鋳鶴のことであると同時に魔王科から普通科へのけん制でもあった。そうとったのは要自身だけかもしれないが、あながちそうではなかった。
各学科、この陽明学園に存在する六科の中での扱いは勿論、普通科が最底辺である。
圧倒的な上の立場から、下の立場への忠告に近いけん制。
問題を起こした原因はどちらか、言わずもがなその場の全員が冷静に考えればわかることである。
しかし、それは、冷静に考えればの話。
実力主義のこの学園に魔王科が悪という意見は生まれない。
公正な判断をする理事長と校長は現在学園内に居らず、各科の代表教師のみでの職員会議となり、そこで魔王科の意見が通されるという結論に至る。
要の意見は全て無視され、根拠や望月鋳鶴の日ごろの行い等を詳らかに述べたのにも関わらず、結局のところ鋳鶴が魔王科の生徒に手を出したということによって、普通科に対するけん制という形で話は終わってしまった。
何よりも要が悔やんだのは鋳鶴が悪という話とこの職員会議による討論が数分とかからなかったところである。
悔しさは覚えたが、何もできない自分、自分の受け持つ生徒が被害にあったのにも関わらず、意見を通してもらう隙さえ作ることができなかった。
ただただ悔しい。要は無念の心でいっぱいであった。
「僕は大丈夫ですよ。先生は心配してないで皆の事をちゃんと引っ張って行ってあげてください」
「似てる……」
「へ?」
鋳鶴は要のうっとりしたとした視線を向けられ、鋳鶴は困惑している。
そして鋳鶴の視線は彼女の胸元に向けられる。日頃から上着として白衣を羽織り生活している要はあまり、自身の服装に気をつかうことは無い。
気を遣わなくとも彼女の存在そのもの自体がお洒落なのだが、如何せん彼女の場合は少しだけ過激な仕様の服装になっている。
研究員らしからぬタイトスカートに、ざっくりと胸元を開けることができるカッターシャツ、勿論彼女はそのルックスと明るい性格と生徒を選り好みしない面倒見の良さから男子生徒からの人気は当然の様に高い。
そんな服装な彼女が自分をうっとりした目つきで見つめているのを鋳鶴は不思議がっていると同時に何やら別の緊張感が芽生え始めている。
「似てるって、誰にですか?先生、先生?」
「はっ!ごめんね!先生の好きな芸能人に……似てただけ」
先ほどとは一転、要は何やら寂しそうな表情を浮かべた。
深く考えているというそぶりを見せるが、目が死んでいる。
全く覇気のない、彼女らしからぬ表情だった。
「今日の話は終わりだから、帰っても大丈夫よ。先生はまだ仕事があるから、そのついでに教室の戸締りも先生がやるから」
「わかりました。先に帰りますね!さようなら」
「はい。さようなら!明日も元気に学校に来るのよ!」
要は、自分の過去を思い出しながら鋳鶴を何かと照らし合わせている。それは生徒と教師ではなく、一人の男性を要は懐かしむように鋳鶴の背を見てその影を自然と重ねてしまっていた。
彼の走り去っていく姿が、彼女の過去の記憶を呼び起こす何かか、要は愛おしそうに、また、悲しそうに、彼を見送っていた。
陽明学園中央部に聳え立つ保健室の隣りに、中央会議室と言われる場所がある。
陽明学園に存在する六科の生徒会長が会議する時に集まる場所だ。
すべての学科の校舎が中央に存在する保健室、会議室ともに均等な距離で建造されたため、この移動距離には、科特有の優先順位はない。
そして今まさに、六科の生徒会長による会議が行われんとしていた。
会議室にしてはやけに広く、円卓のテーブルに六科の色で分けられた色の椅子が備えられている。
普通科は緑、機械科は黄色、銃器科は赤色、魔法科は青色、科学科は橙色、魔王科は紫色、この場に教員は集まることはなく、各科の会長たちのみでの会議となる。
各科の教師側の配慮と生徒会長たちの信頼でこの会議は成り立っている。
一説には教師側が面倒を会長たちに押し付けているなどの噂があるが悪魔でもそれは噂だ。
円卓テーブルを中心に六科の会長が椅子に腰かける。モニターが現れる場所の目の前に魔王科会長、望月結が腰かけている。
既に準備は完了している結は全員の着席を心待ちにしており、目を煌びやかに輝かせて我先にと着席していた。
結はこの六科の生徒会長たちの中で最も覇気の様なものを放っている人間である。
他の会長も見た目や言動、振る舞いには威厳はあるのだが、結だけは段違いなのが見て取れるほどに、他の生徒会長たちも萎縮していた。萎縮しているというよりもただ無言なだけかもしれないが、そんな中、一平だけはいつもの様に笑顔で椅子に座っていた。
「風間は今日も明るいな」
「そうかな?少しいいことが最近起きてるからね?」
「私の弟を使って何かたくらんでいるのではないか?」
「そうだね?確かにそうかもしれないね?でもそんなことしたら僕は、君に切り刻まれてしまうかもしれないからね?この場での発言は遠慮させてもらうよ?」
「ふん、まぁいい。それでは出席をとる」
結は自分の席に置かれていたファイルを手に取ると中に入っていた紙を取り出した。その紙は六枚入っており、結を含めた六科の生徒会長のプロフィールだった。
「魔法科会長、虹野瀬縒佳」
「……」
足を組みながら無言でうなずいたのは魔法科会長の虹野瀬縒佳、魔王科の次に陽明学園での実力者が揃う、魔法科の会長である。
彼女はまさに容姿端麗、結に引いて劣らぬ清楚な黒髪と、魔法科のローブを纏っても時々その下から飛び出す豊満な胸、そして現代では少ないであろう大和撫子であろうことを証明するように嫋やかでお淑やかだという。さらに、文武両道をそのまま体現したような女性で、それ故に彼女自身の学科だけでなく、他科の男子生徒からの人気も高い。
普通科でいうところの一平と雛罌粟の様に彼女にも魔法科副会長、神宮寺寿という人物と、よく行動を共にしている。
人気はあるのだが、彼女自身滅多に魔法科から外に出ることはなく、一説では彼女専用の部屋が魔法科にはあるのではないかという都市伝説が出来る程の人物である。
魔法科は完全に彼女と寿による独裁国家のようなものでファンクラブも学園内だけでなく日本全国にあるとの噂、自分ために動く人間を平然と使役する。相棒の寿も同様、ファンクラブがある。二人の人気もある為、毎年の様に魔法科には大量の入学希望者が現れるということだ。
「科学と化学科会長、朝倉藍子」
「はぁ~い!」
元気よく手を上げながら大きく揺れるボサボサの髪と胸を揺らしたのは科学科会長の朝倉藍子、彼女はいつも薄汚れた白衣にぼさぼさの金髪で過ごしている。
本来ならファッションセンスはあるのだが、研究などが長続きすることや彼女自身、自分の見た目は気にしないせいか、いつもこの格好で過ごしているのが彼女のスタイルだ。
そんな着飾らない彼女は、その研究に没頭する姿で他の生徒たちだけでなく、教員たちからも高評価を受けている。
勿論、お洒落さえすれば彼女も立派な美女なのだが、彼氏作りよりも研究の方が忙しいうえ、彼女にとって彼氏や色恋よりも研究の方が大切なため、全く気にはしていない。
「銃器科会長、月野蛍」
「はいよ」
銃器科会長の月野蛍は、六科生徒会長軍団の中で唯一の二年生生徒会長である。
銃器科の三年生が頼りないわけではないのだが、彼女の実力や銃器管理の徹底的な姿により生徒会長を任されている。
会長を務める上、彼女は銃器科の一団、雑賀衆と呼ばれるサークルのリーダーも務めている。本来ならサークルのリーダーも三年生が務めるべきなのだが、先ほどと同様で彼女の功績などが認められているが故に、その立ち位置についているのである。
いたって真面目すぎる性格ゆえに勘違いされることや相手の反感を買うこともあるが何事にも真っ直ぐで純粋な女性である。
「機械科会長、金城沙耶」
「はい!であります!」
軍人の様な返事をした厚底牛乳瓶のような眼鏡をかけた少女は、金城沙耶。
機械科会長を務める彼女は、本人を含めた三重の人格をその小さな体に宿している。
六科の会長たちの中でもっとも小柄で最も天真爛漫な笑顔を振りまくのが、彼女である。
しかし、三重人格のためにいつ彼女が他の2人と入れ替わってしまうか分からない。
そういったことで機械科の生徒たちは毎日、戦々恐々としているのだが、それがいい刺激になるんだと沙耶本人は毎日の様に言っている。
機械の開発に力を入れている彼女は毎日遅くまで起きて、机に向かい新作の兵器などを作っている。
「そして私を抜いた最後の一人、風間一平」
「はい?」
どこかで聞いたことのある含みのある返事をする一平、まさに自信満々と言った表情で結の目を見ていた。
結は冷たい目で彼を見つめ返すと、一平は隣の席にいた蛍の後ろに隠れた。
「それでは会議を始める」
次話はまた明日、8月15日0時の更新となっています!お楽しみに!