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優しい魔王の疲れる日々(リメイク)  作者: n
優しい魔王の疲れる日々(リメイク)4
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第39話;魔王と秘密の取引

3日間もハンターになってしまって忘れてしまいました……

申し訳ございません

今回はエロフェッショナルが怪しい交渉をするそうですよ


 千鶴とアイシャは魔法科の職員室の隣にある応接室に腰かけていた。身長差があまりにある2人が並んで座ると同学年の生徒というよりは親と子の様である。

 千鶴は編入時の試験官の生徒と対面で腰かけアイシャは足をばたつかせながらも千鶴の隣で余裕をもって腰かけていた。

「教科書は全て揃っていますね。ルームメイトとして基本的にはアイシャさんと共同で授業を受けていただけると助かります」

「アイシャさんは読み書きとか出来るんですか?」

「出来るます」

「完全ではありません。アイシャさんは魔法科に小等部があればそこに編入予定だったのですが」

 魔法科どころか陽明学園に小等部はない。敷地面積的には可能であろうが、陽明小学校という陽明学園近隣であれば存在する。しかし、陽明学園は日本全国から有望な学生がそれぞれの分野を伸ばす為に門を叩く学園だ。

 鋳鶴たちの様な自宅が学園の近辺にある様な生徒ばかりが通学している訳ではないので陽明小学校から陽明学園に入学する生徒よりも陽明小学校の数倍の生徒が陽明学園には在籍している。

 それならばアイシャは陽明学園ではなく、陽明小学校に通学させるべきではと千鶴は考えたがどうもそうはいかないらしい。

「アイシャさんは特異体質の方ですから陽明学園近隣にある様な普通科の小学校では手がつけられない様なのです。それは学園長と縒佳様も織り込み済みで我々もアイシャさんの面倒を見る事もあるのですが、やはりそのお二方から特別視されている事もあり、親衛隊の方々であったり陽明学園魔法科の誇る代表生徒陣からは多少なりとも嫉妬を買う事もありますからね」

「この小学生みたいな子にですか?」

「えぇ、嫉妬する方々からすれば酷な言い方をすると彼女が構われる事によって自分たちがお二人からの寵愛を受けられないと思う様にはなりますからね」

「だからって……」

「そういう事もあるますよ」

 少しだけ表情を歪める千鶴を見てすかさずアイシャはそんな彼女の前に割って入る。

「考えてもみてください。陽明学園魔法科は我が国でもトップクラスの魔法分野を就学出来うる学園です。そこの実質的な代表者2人。生徒会長の縒佳様とグリニッジの魔法協会にも在籍するジャンヌ様からその存在を認知されればですよ?就職だけでなくそこから先の魔法学における貴重な役目を担える可能性だって広がる筈です。そんな存在に自分ではなく、飛び級で入学し、学問もままならぬ少女にその1枠を取られていると思ったらどうなるでしょうか」

「将来の事を思うとそうなるのも致し方ないと」

 千鶴がそう言い返すとアイシャはスカートの袖を力強く握った。偶然かはたまた必然か。その様子を見て千鶴は少しだけ試験官に対して前傾姿勢になる。

「端的に言ってしまえばそうですね。我々はそのお二方からお目を掛けていただいた上で選ばれている人間なのでアイシャさんは庇護の対象ではありますが、我々も数が限られておりますので」

「ちょっと待ってください?」

「何でしょう」

「そんな嫉妬を買うアイシャさんと私が行動を共にするのってもしかして非常に危険なのでは?」

「あっあはは……」

 試験官はこめかみを軽く掻いた。千鶴は彼女の表情を確認するもその視線は千鶴を捉えておらず、上の空と言った感じである。

「私もかなり嫉妬買ってますよね?突然編入してきて縒佳さんにお目掛けいただいているわけですから、そんな2人が行動を共にするんですよね?」

「そ、そうですね……」

「そんな2人が一緒に行動をともにするってそういう方々に凄く都合が良くありませんか?何かこう……。命を狙われるじゃないですけど一石二鳥というか何と言うかちょうどいいですよね?」

「し、仕方なかったのです……。それに会長はお2人の事をそれぞれ気にかけていただいていますし!いざとなれば!」

 千鶴はその体躯を活かして試験官の生徒の背後にゆっくりと回り込んだ。まるで悪い事を考えながら話し続ける重役の様に、手を後ろで組みながら蛇が獲物である蛙を品定めする様に。

「会長は……縒佳さんは大変お忙しい方なんですよね?私だけでアイシャさんを守るのは難しいと思いますけど?そこに関しては試験官さんたちのお力や教員の力も必要ではないのでしょうか?」

「千鶴。やめるます。困ってる」

「え?そうでした?」

「千鶴は悪くない。アイシャも悪い事は何もしてないます。この人もそう。いじめている様に見えるます。ここの人たちは誰も嘘はついてないます」

 アイシャは気付けば千鶴の隣に立ってスカートの袖を掴んでいた。まるで覚悟でももう決まっている様な眼差しは千鶴に一種の諦めの気持ちを呼び起こさせる。

 決してそれは悪い意味ではなく、前向きな意味で2人なら何とかなりそうという気配を千鶴は感じ、これ以上試験官に嫌味たらしく聞くのはやめようという気持ちにさせた。

「私1人でアイシャさんを守れるでしょうか」

「千鶴は2人居るます。だから1人じゃなくて3人」

「「俺も頭数に入っているのか。もうカムフラージュは済んでいるはづなんだが」」

「「もしかして今もアイシャにとっておっさんはその魔力が感知できるようになってたりして、ほら純粋ですし、彼女にしか見えないものもあったりするんじゃないでしょうか」」

「「そんな身も蓋もない。純粋なだけで俺のカムフラージュでさえ見破れるものか。実体はないが俺は腐っていたとしても魔族だぞ?その秘匿の技術が幼子の純粋さという不確定要素で看破されては恥だろうに」」

「「でも本当にそうだとしたらおっさんにとっても未体験ゾーンになるわけですよね?それって滅茶苦茶快挙なのでは」」

「「君は全くもって危機感というものが無いのか?俺の存在がバレでもしたら君のこれからの日常生活が崩壊する可能性だってあるんだぞ?」」

 おっさんの眉が明らかにへの字になっているのを尻目に千鶴は満面の笑みを見せる。

「「そうなったらそうなった時じゃあないですか。僕とおっさんなら多分、何とかなりますって!」」

 相変わらずの根拠なしの鋳鶴である。おっさんは言い返す気力を失いながらそっと存在を消した。

「あ!消えたます!1人になったます!」

「アイシャさん?」

「ちょっと昨日から私の魂?魔力が2つあるとおっしゃるんですよ。そんな事無いのになぁって……」

「アイシャさん。千鶴さんは久々の貴方とのルームメイトなんです。くれぐれも仲良くしていただきたくてですね」

「いや!だって2つある!2つ!それに男ます!女の人じゃないます!」

「あのですねアイシャさん」

 試験官はアイシャの目の前にかがんで彼女と目線を合わせた。騒いでいたアイシャも彼女と目を合わせると暴れるのを止める。

「千鶴さんは久々の転入生です。故に貴方への疑念や偏見もないはずです。我々や縒佳様からしても貴方のお友達になってくれる人物だと思いますのでどうかそこは考え直していただけませんか?」

「むぅ……」

「何か不安にさせたならごめんなさい」

「いえ、千鶴さんは何もアイシャさんもこの年齢で魔法科にずっといらっしゃるので多少なりとも大変ではあるんです。我々や縒佳様も常に同行出来るわけではありませんからね。申し訳ありません」

「他の皆はいつもそう。アイシャの事を遠ざけるます。きっと、ちづるにも迷惑かけるます。だから」

 そこまで言うと千鶴は彼女の胴を両手で支えながら持ち上げた。試験官はアイシャを持ち上げたその腕力に脱帽し、アイシャは千鶴が持ち上げた事に歓喜の悲鳴を上げる。

「大丈夫。アイシャさんは少し臆病なだけですから、大丈夫ですよ。私が今日からちゃんと付き添いますから」

 持ち上げられたアイシャは照れ臭そうに顔を背けた。千鶴はその首の動きに合わせてアイシャとの視線を無理やり合わせようと顔を近づける。

「やめるます!やーめーるーまーすー!」

 アイシャは大声を上げながら千鶴の両腕の中で暴れ続けた。見た目は背の高い華奢な女生徒ではあるが体幹は望月鋳鶴のためアイシャの抵抗虚しく彼女の思うがままに宙を漂うしかなかった。



―――――魔法科特別出張所―――――



 魔法科の膨大な敷地内のはずれ、魔法科の生徒は中々踏み入れない古びた倉庫しかないその場所で1人のエロフェッショナルが暗躍していた。

 そんな魔法科のはずれに男子生徒が数名、人目を気にしながらその倉庫の周辺を取り囲んでいる。誰に言われたのか何の為なのか普通科の忍びが朝早くから商いを始めていた。

 エロフェッショナルの朝は早い。

「……合言葉は……?……それと人が少し多いな……。……他は全員一見か……?」

「あ、あぁ……。すみません。彼らがどうしてもと……」

「……お前は常連だから構いはしないが他の連中をこう易々と招待されては秘匿性が失われる……。……他科でもこういう事はあるが由緒正しき魔法科を名乗るのならば……。……今回に限ってやめた方が良い……。……何より一見の仲間たちは普通科の門を叩いていないのだろう……?……プライド故か分からないが……。……紳士たるもの……。……女性とこういう秘匿的な取引の場では紳士であるべきだ……」

「申し訳ありません……。Mr.エロフェッショナル」

 忍び装束に身を包んだ影太が倉庫の中でアルバムを広げて商いの様な事をしていた。

それぞれ表紙には魔王科を除く5科の名前が刻まれており、最初のページを開くとそこには各科の女子生徒の写真が並んでいる。

カメラ目線の物からそうでないものまで多種多様で、そのアルバムを目にした魔法科男子生徒たちの目は先ほどと違い、喉から手が出る程欲しかったおもちゃを目の当たりにした子供の様になっていた。

「……さてと……。……今回の交渉材料は情報と金銭だ……。……俺は取り敢えず情報が欲しい……。……魔法科の情報をな……」

「Mr.エロフェッショナル。前回までは金銭のみだったはずが、それは何故でしょう?」

「……野暮用さ……。……それにだ……。……情報によっては金銭をもらう事もやめようじゃないか……。……いつも数万払ってもらっているものも場合によっては情報との交換になる……。……勿論、根拠の無い情報は駄目だ……。……俺がこのあと魔法科に撮影に侵入した時の脱出経路でも構わない……。……そういうので良い……。……欲しい情報は会長連中のものが最優先ではあるがな……」

 しばらく沈黙が続き、影太はアルバムを捲り始める。性欲よりもプライド、仲間意識もあるだろう。

加えて上下の関係が普通科よりも強固になっている魔法科ならば当然か。と影太は考えた。ただ、影太の写真はレートを相手に伝えるのはこの写真が欲しいとアルバムから探し出し指を刺すだけ、最後に影太が値段を伝える。

勿論、時価であり影太の気分やその日の空気感によるものもある。直近で麗花にカメラを破壊されていたりするとレートは吊り上がってしまう。

「Mr.エロフェッショナル。こちらを……」

 常連の男子生徒の後ろから1人の男子生徒が正方形に折られた羊皮紙を数枚、影太の前に差し出した。

「……これは……?」

「個人的な主観でしかありませんが、極上の魔法科撮影スポットのメモです。此処には警備の目や監視の魔法も恐らく施されてはおりません。どうかこれでまた更なる極上の作品を撮影してください」

「……まだそれが正確なものでは無さそうだが……」

「個人的主観なもので……!これで何卒!」

 影太は真っ直ぐに自分を見つめる相手を見つめた。嘘を言っている様には見えない。きっと彼は本心で言っている。

 鋳鶴や桧人が悪だくみの時に勧誘する時の目ではない。彼は今、真摯にそして紳士にこの土村影太と向き合っている。そう感じた影太はその羊皮紙を力強く掴んでいた。

「……いいだろう……。……これで素晴らしい風景が撮影できるのなら俺も本望だ……。……それに良い目をしている……。……欲望に飲まれ過ぎず紳士に生きるんだぞ……。……それで被写体は……?」

「縒佳様をお願いします!」

「……御意……」

 魔法科と記載されたアルバムの背表紙を叩いて影太は該当のページを即座に開く、男子生徒はそれを食い入るように見つめながらどの写真にしていこうか。と吟味をする。

 残りの生徒は常連を含めて残り3人。

「Mr.エロフェッショナル。今回は現物というよりも情報とお聞きしていましたが……」

「……あぁ、だが金銭でも一向に構わない……。……難しい事を頼んでいるかもしれないからな……。……あまり身を削られても君らの学生生活に支障があっては困る……」

「しかし、Mr.エロフェッショナルの写真にはそれだけの価値がある!それだけの価値があるんだ貴方の写真には!こちらがリスクを冒してまで手に入れたいそれが!」

 新たな男子生徒が叫び声を上げながら影太の前に鎮座した。胡坐をかきながら右手人差し指と中指で1万円札を数枚挟んでいる。

「……ほう……」

「魔法科は比較的裕福な家庭が多い故にこういう事が出来てしまいます!しかぁし!私はMr.エロフェッショナルを現金だけで買収しようとは思いません!」

「……というと……?」

「こちらも……」

 制服の臀部ポケットから男子生徒は先ほどの取引相手と同様に紙を手渡した。今度は羊皮紙ではなく、A4の印刷用紙である。

「……これはっ……!」

 男子生徒が影太に渡した紙は魔法科女子寮の見取り図の写しである。影太の腕は痙攣したかの様に震えだし、差し出した男子生徒の腕を掴んだ。

「……これだ……!……俺が求めていた物は……!……素晴らしい……。……これで景色とはまた別で被写体を接写するのも可能になるぞっ……!……本当によくやってくれた……。……これは俺の活動の力になる……。……被写体は……?」

「寿様をお願いします!」

「……神宮司寿か……。……虹野瀬縒佳よりももう少し過激なものもあるからそこからも選ぶと良い……。……本当にこの見取り図は助かる……」

 上機嫌になる影太の前には残り2人。

常連の生徒と新規の生徒。常連の生徒は新規の生徒に目で合図を送り、それを受けて影太の前で正座をする。

「Mr.エロフェッショナル。こちらからはこれを……」

 影太の前には見た事のない紙幣が数枚。更には日本円とその2種類の紙幣に対して重しをする様に文鎮替わりで黒い包みが置かれた。

「……この形状……。……開封しなくても理解できる……。……レンズか……!」

「えぇ、それも最新式のです」

「……何……!?」

 影太はクリスマスの日に朝起きてプレゼントの存在に気付き、それを開ける子どもの如くそれに食いついた。

「Mr.エロフェッショナルのお眼鏡に叶うかはわかりませんが……。それとこの紙幣は魔法科内でのみ使える紙幣になります。魔法科で何かあってもこれで解決できることもあるでしょうから」

「……それはありがたい……。……受け取っておこう……。……いやはや、このレンズは俺が購入できずにいたレンズか……」

 影太の掌よりも大きいレンズ。重量感があり腕を滑らせたりしたら大変な代物である。

「えぇ、そのレンズはかのどんなカメラにも可変してそのカメラにあったレンズになるという代物です」

「……50万はくだらないと聞いたが……」

 影太もこのレンズを購入しようと家電量販店やカメラ専門店を訪問したがいずれも影太の一番良く世話になっている店でも数年待ちの入荷状況になっていたカメラのレンズであった。

「一見の私に出来る事は貴方の心をまず掴む事です。それ故に無理をしました。彼にこの話をもらう事が無ければこの会は実現しえなかった」

「……これほどまでの価値を見出いしていてくれているのは嬉しいな……。……決して誇れた行いではないが……。……こうも熱狂的な支持者が居てくれるとはな……」

「魔法科だけではありませんよ。Mr.エロフェッショナル。貴方の行いは全ての幸せとは縁遠い各科の男子生徒であり夢。それはまるで戦時中の配給の如く、我々の希望なのです。それ無しでは生きていけません」

「……ありがとう……。……ここから好みの写真を……。……いや愚問だったな……。2人もまだ見ているから3人で選ぶと良い……」

「ありがとうございます!」

 此処まで影太に対して影太の作品に対しての誠意がある生徒が魔法科に居るとは本人も思っていなかった様で思わぬ副収入と副産物を手に入れて懐の温まり方に喜びを隠せずにいた。そして最後にはそんな影太に3人を紹介した常連の男子生徒が正座をして彼との話を待ちわびていた。

「……君のおかげでだいぶ懐も精神も機材も潤った……。……感謝したい……」

「こちらこそ、彼らがMr.エロフェッショナルに会いたがった故でもありますからね。それに貴方には我々の様な存在には希望であり、救世主ですから」

「……俺はただの忍だ……。……あまり神格化されても恥ずかしささえあるが……」

「人間臭い部分もあるからこそ。素敵な写真が撮影できるのではないでしょうかね。我々にとって貴方が普通科の生徒などという事はどうでも良いのです。恐らく、貴方程の優秀な人材であればかの生徒会長から色んな任務を言い渡されているでしょうからね。ただ、我々としては魔法科の事を裏切るとまでは言いませんが魔法科の機密情報を渡してでも手に入れたい写真がある。それだけですから」

「……それもそうだな……。……お前に伝えた物ではやはり、気付くか……。……しかし、それこそ俺を捕えたりするには……。……それを出汁に今、此処で俺を捕縛する事も可能では……?」

 常連の生徒は影太の意見を聞いてやれやれと手を仰ぎながら笑顔を見せた。

「まず、そこまで卑怯な事はしませんよ。少なくとも此処に居る我々はね。普通科の皆さんがMr.エロフェッショナルを使って何をしているかはわかりませんが。貴方との写真のやり取りをする事を虚偽してまで貴方に危害を加えるつもりは有り得ません。これからの信頼関係だけでなく、まずは陽明学園における魔法科の威厳という所にも関わりますからね。恐らく、Mr.エロフェッショナル。我らが魔法科会長虹野瀬縒佳様はその作戦にも気付いているかもしれません」

「……まぁそうだろうな……。……うちの会長よりも頭の切れていそうな女性だった……。……だがお前がそう言うという事はやはり……?」

「それぐらいしてくれも構わない。という気持ちはあると思われます。縒佳様は小細工を嫌っているわけではないのですが。繊細なお嬢様の様な見た目をされてはいますが豪快に真正面から戦われる方ですからね。そして普通科の事ではなく、更に先の敵を見据えていますから」

「……魔王科か……。……魔王科について知っている事は……?」

「いえ、恥ずかしながら何も……。我々一般生徒では知り得る情報も生徒会長が望月結という事と今の所、生徒が全て女性としか聞いていません」

「……そうか……。……1つ余計な事を聞くが、我々普通科が魔法科に勝利する可能性はあるか……?」

 常連の生徒は頭を抱えながら数秒、影太を見つめ、写真を回収している3人と胡坐で円になって会議を始めた。

 影太にとっては魔法科の一般生徒に対する素朴な疑問という所で聞いてみたのだが、思ったより込み合った会議になってしまった様だ。

 その間に男子生徒たちが広げたアルバムの手入れやレンズの手入れを始める。新しくもらったレンズ、これを活かすにはどうすればいいか。何を被写体にするか影太はシュミレーションを開始した。

「我々4人ぽっちの意見ではありますが。普通科の皆さんは唯一の優勝時ぶりの1回戦を突破されています。内容までは拝見してはいませんが、普通科と機械科の戦いの時に我々も不思議な光と強大な魔力反応を見たのでもしや……。という気持ちもありますね。どういう秘密兵器でもあるのかどうか。という憶測でしかありませんがね」

「……ありがとう……。……正直、ボロクソに言われるだろうという気持ちもあった上で……。……お前らも知っているであろうが城屋誠という人物から魔法科生徒のイメージを聞いているものだからな……」

「あの鬼神ですな。まぁ魔法科と言っても血生臭いタイプから我々の様に相手が誰であろうと対価を払い、リスペクトをする人種も居るという事を知っていてほしい。というのはありますね。Mr.エロフェッショナル。貴方の撮影技術は我々の領域を超えている。確かに幸せになる人ばかりではない様な事だとはこちらも理解しています。だからこうして本人の許諾を得ていない様な写真はこうして裏取引で販売している。貴方もそうでしょう?」

「……あぁ……」

 影太は淡々と息を漏らすように返事をした。

「しかし、それでも尚、貴方は撮影する範囲を間違えてはいない。ロリコンの人間が居たとしてその人間が女子小学生の写真が欲しいと言っても貴方は依頼されても撮影を断るだろうし、撮影したとしても販売を断るだろう。それこそ本人の許諾出ない限り、そうした人の写真は販売しない。貴方は確かに女性からしたら悪かもしれないが最低限そこは守ってくださっている。裏の写真も素敵ですが、貴方がその方に正面から撮影許可を撮り撮影した写真を私はよく購入させていただいております。勿論、許可のある写真は値段としては中ぐらいでしょう。裏レートの2分の1程度しかありません。ただ、貴方のカメラに映る女性はいつもより煌びやかに爛漫に見えるんですよね」

 裏の写真。そもそも盗撮に近い形で尚且つ、際どいアングルの物が多い。女子生徒のスカートの捲れ上がる様子やふとした拍子でもう少し屈んだ位置にカメラがあれば見えてしまうものでさえもタイミングを誤って映り込んでしまったもの。連射中に映り込んでしまったものは細心の注意を払って選別している。

 ただ、彼らの真っ直ぐな気持ちを受け取るには影太の所持しているカメラ用SDカードには見せられない裏の裏、完全に見えているものまであり、それを消去出来ない自分自身が居る所が後ろめたい所ではある。

「……俺の夢は写真家ではないが……。……なれるのならばそうなりたいとは思っている……。……まぁ俺の身の上話はこれだけにしておいて最後に、依頼の品と報酬を……」

「それでは私からは魔法科の通貨、現金とちょっとした情報を」

 常連の生徒は茶封筒を2つ取り出し、影太の前に置いた。縦にすればぎりぎり直立するのではないかと思われる様な分厚さになっている。

「依頼の品もそうなんですが、純粋な依頼故の額になります。我々としてこの大金は魔法科にも支払えるものになります。我々が学園の為や魔法界の為に本来使うべき物です。月の食日を抑え消耗品を抑え、それでも足りないと親の脛に噛り付いてみたり、幼い子どもたちに魔術の授業を自主的に開催する事によるものの積み重ねです」

「……かなりの物を要求するつもりか……」

「勿論」

 常連の生徒の後ろで他の3人も影太の前で正座をして軍隊の様な土下座を瞬時に披露した。その速さ、衝撃、影太も思わず身構えてしまう程の風景である。

「縒佳様の笑顔を撮影していただきたいのです」

「……虹野瀬縒佳の笑顔だと……?……そんな簡単な依頼でいいのか……?」

「Mr.エロフェッショナル。普段の冷笑ではありません。それはそれはもう普段の魔法科の女帝虹野瀬縒佳ではなく、純粋に笑顔を振りまくあの方を我々は見たいのです。難しい事は重々承知です。無理難題どころか我々ですら冷笑を謁見する事すら年に数回ですから……。満面の笑みが見たいのです。それともう1つ、笑顔は誰かに向けられたものではなく、自然としたものですかね。家族やお付き合いしている男性等の物は我々の精神衛生上良くないので」

「……それは……。……かなりの何題かもしれんな……。……期限は……?」

「期限に関しては我々がこの陽明学園を卒業するまでで良ければいつでもお待ちいたします。それだけの覚悟で我々はMr.エロフェッショナル。貴方にこの依頼をしに来ましたから。笑わない魔法科の女帝、魔法科会長虹野瀬縒佳様の笑顔をお願いします」

 言葉には出さないが、果然影太の心中は燃えていた。いつになく、とても優良で生真面目で純粋な物を求める男たちの期待に応えたい。という気持ちと同時に今朝遭遇した時に影太も背筋が凍る程の視線を見せていた女性の眩しい笑顔を見たい。と影太自身が思ってしまったのである。

「それともう1つ、情報が」

「……なんだ……」

「望月千鶴さん、ですがあの人のルームメイトであるアイシャ。彼女にもご注意を失礼ながらMr.エロフェッショナルが無魔なら良いのですが、彼女は人の魔力を見る事が出来る力の様なものがあります。少しでも魔力を宿す様な肉体であれば見つかってしまう可能性がありますから」

「……確か、飛び級の女生徒だったか……。……魔法科に来る前の人としても記憶や履歴が無いという……。……彼女自身、それ以外に出来る事はあるのか……?」

「いえ、ありません。それしかありませんが、むしろそれでMr.エロフェッショナルの所在が割れてしまってはせっかくの様々な撮影の機会が失われてしまうと思いまして」

「……俺は無魔だから問題ない……。……しかし、困る事があるのでな……。……仮にその子が体育大会に参加する事があろうものならこちらの脅威になりかねないからな……。……その子が探知して圧倒的火力の魔力の前には成す術が無いと思うからな……。……無魔の連中だけでは普通科の勝利はない……」

「ただ、Mr.エロフェッショナル。我々は大前提として魔法科の勝利自体を祈ってはいます。ですが、場合によっては魔法科が敗北する事も望んでいるのです」

「……それはどういう……!?」

 突拍子もない常連生徒の発言に動揺を隠せない影太。

魔法科は陽明学園最多の体育大会優勝を誇る学科。その生徒から出た衝撃発言、土村影太、Mr.エロフェッショナルと言えど、その衝撃発言には忍び装束の頭巾がずれてしまう程の衝撃であった。


次回は3月5日0時更新です

途中で投稿が途絶えてしまい大変申し訳ありませんでした

この予約投稿を終えたらまた予約投稿を始めます

10話更新も次回で終了です

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