第38話:魔王と魔法科初日
新キャラが出ます
いや、毎回の様に出ている気がしますね
友人にはよくキャラが多すぎると指摘されますがいつか恐らくそこを摘まんでいかないといけない日が来ますので
―――――望月家―――――
「えぇー!そのスーツ凄いじゃん!」
早朝朝6時30分。朝が来た事を告げる鶏の様にゆりの大声が望月家に響いた。
「凄いでしょ。声とかも」
ゆりは目を輝かせながら千鶴のスーツに夢中になっている。鋳鶴の体系に合わせて製作されているが、彼と似たような体系の人間になら着用も可能だろう。
「こうして変える事が出来るからね」
あっという間に聞きなれた兄の声ではなく、字で現すと本来は角のある部分が丸くなる様な甘い声を発する。
朝早くから望月家は元気溌剌な姉妹の驚嘆の声に支配されていた。
「わー!千鶴ちゃんおはようございます!あ、千鶴ちゃんじゃなくて千鶴お姉ちゃん?千鶴姉?ちづ姉?」
「んー、どうしよっか」
「ちづ姉が一番良い気がする。というかさ、昔から言われてた兄ちゃんが女なら完璧じゃんがそのままになっちゃったね!滅茶苦茶可愛いし、でも妹からしたら心配だよ。他の姉ちゃんたちより優しくて炊事家事洗濯が出来てさ。男は放っとかないよこれは!いつもは男でありがとう!」
「ど、どうも?」
「本当に凄いねー。お兄ちゃんじゃないみたい。でも恐子お姉ちゃんより明らかに身長も大きいから色々疑われるんじゃない?」
「私ならファンクラブ作るね。望月千鶴ちゃんファンクラブ。掃除炊事洗濯なんでもござれ身長高めの筋肉質女子!」
「恥ずかしいからやめてね……」
「いつものお兄ちゃんと態度は変わらない筈なのに千鶴ちゃんだと何か違うよねー。照れてる顔も本当に可愛いというか何と言うか」
「これでいつもの兄ちゃんみたいな動きされたらなぁ……。男女ともにモテそう。日頃は歩さんが居るから女の子たちも近寄りがたく思ってるけど千鶴ちゃんならモテ期が来ちゃうかもしんないよ!」
「えぇ……」
「このまま三河さんと一緒でも良いけど千鶴ちゃんなら彼氏じゃないと世間体があるのでね……。お兄ちゃんの弱点である機械音痴も女の子なら可愛いに変換されるからね!杏奈姉も許してくれるだろうし」
「女性になると機械音痴も可愛くなるのかなぁ……。それにゲーム機ならそれなりに使えるし、携帯だって使えます―」
「使えます―っていう言葉と仕草だけでもいつもの兄ちゃんじゃないから可愛く見えちゃうよ……」
ゆりのリアクションを見ていると本当に可愛い、美人というのは人生におけるアドバンテージなのかもしれない。と千鶴は口には出さず、心の中で静かに思った。
「まぁ取り敢えず、寮生活みたいだからその間は私たちに全部任せて安心して潜入捜査するんだよ。千鶴姉ちゃん!」
「何かすごくぞわぞわするなぁ……背筋が」
「そんな事言わないで、魔法科の授業って大変そうだし、それに寮生活だからしっかり頑張るんだよ。千鶴お姉ちゃん」
「ちょっと、ゆりまで」
微笑む2人を余所に千鶴はいそいそと荷物を纏めて、と言っても彼女の荷物の殆どは既に魔法科の寮に送り済みである。
2人は千鶴の後ろ姿が小さく見えなくなるまで手を振り続けていた。
「……鋳鶴……。……いや……。……今は千鶴か……」
「影太。おはよう。いよいよだね」
千鶴の影から音もなく影太が顔を出す。いつもの学生服ではなく、今日は朝から忍び装束を身に纏い彼なりの覚悟が見える様相になっていた。
腰に小刀と小袋を携え、口元を覆っている。しかし、胸元にはいつも学園の美女を撮影する為に所持しているバズーカ砲の様なカメラが携えられていた。
「影太」
「……なんだ……?」
「それ要らないんじゃない?流石にそれもって潜入は難しいと思うんだけど」
「……それなら心配ご無用……」
影太は千鶴に腰に携えて袋を手渡した。少し広げるようにと合図をすると、影太はその小袋にカメラを入れ込む。
袋側ではなく、カメラ側がまるでゴム製の素材に変貌したかのように伸縮し、湾曲を重ねながらそれが小袋の中に納まった。
「うそぉー!凄い!なにこれ!」
「……金城沙耶特性の小袋だ……。……この袋には俺の道具が搭載されていて俺の頭に装着した脳波測定器をもとに理想の物をそこから出す……。……というシステムを採用している……。……言わばなんだ……。……さしずめ今の俺はサイボーグ忍者……」
「へぇー。現代の技術と影太の技が織りなす芸術的な?」
「……俺なりにボケたつもりだったんだが……」
「ボケにしては少し捻りが弱かったかなぁ……。サイクロプス影太とかの方が絶対強そうだし面白そうだし」
「……慣れない事はするべきではない……。……という事か……」
普段ならば影太だけでなく、桧人、歩、麗花も同時に合流する時間帯なのだが、3人の姿がどれだけ見回しても見つからない。
空を行くは魔法科の生徒や機械科の生徒。銃器科や科学科の生徒も所々疎らに歩いているのが見てとれる。
「……今回はあくまで潜入行為だからな……。……俺も魔法科の敷地内に入ればお前の影になってサポートするつもりだ……。……そのついでの撮影だからな……」
「絶対撮影メインだよね?絶対に忍道具よりもカメラ系列の物が大量に入ってそう。記録用のSDカードとか」
「……まぁそれはそうだ……」
「えぇ」
「……高く売れる上に何よりもだ……。……希少故にだな……。……本来ならば千鶴の頭部にカメラでも隠して撮影させたいのだが……」
「駄目に決まってるでしょ。それに影太のそういうのには加担したら歩にげんこつされちゃうから駄目駄目」
「……残念だ……」
影太がおもむろに小袋から写真を数枚取り出した。
「……風呂上りの歩の写真が此処にあるんだが……」
「喜んでお手伝いさせていただきます」
「……交渉成立だ……。……ただカメラを早急に取り付けるのはいささか難しい……。……そこでだ……。……鋳鶴、魔法科女子寮の設計図を手に入れてきてほしい……」
「それを使って今度侵入する場所を決めるってことだね」
「……あぁ……。……それに何があるか分からんからな……。……機械科の女子寮には不法侵入者の体温をサーモグラフィーで検知してレーザーを浴びせる防犯システムがあってだな……。……装束が焦げてしまった事があってだな……」
「そもそもド正面から撮影しようよ……。もう機械科とは協力関係なんだし、女の子たちも影太なら可愛く撮ってくれるだろうから喜んで引き受けると思うけどなぁ」
影太は千鶴の事を血走った眼で見つめた。その形相はまるで般若の様である
「……鋳鶴。お前は分かっている様でわかっていない……。……許可のある撮影も勿論、好ましい……。……顧客もそれに納得して俺の技術を称賛する……。……だが、それは表の姿さ……。……確かに俺の顧客はそれを求めて俺の元を訪ねる事が多い……。……しかし、本来の目的はそんな生写真よりレートガン無視の取引さ……。……風間会長もそうだが、それが確かに情報源になることもある……。……鋳鶴、お前は善良な人間だからこういう話はしないが……。……俺はお前がその門を叩くのを待っている……」
「そんなにヤバい写真撮ってるの?」
「……ヤバい所ではない……。……例えばこれ……」
影太は歩の写真を小袋に収納し、新たに1枚の写真を取り出した。
「……白鳥女史が夜勤で職員室にて高級スイーツを頬張っている1枚……。……彼女にもファンは多いからな……。……熱狂的な顧客はこういったものを求めている……。……勿論、鋳鶴……。……お前の写真も売れるには売れるからな……。……貴重な売り上げだ……」
「いつの間に!?」
「……球技大会の奴とかは凄まじい売り上げだったからな……。……野球やればいいのにって色んな顧客から聞いたぞ……。……それにこれだ……」
影太は要の写真を大事そうに仕舞い込んでまた新たに1枚の写真、ではなくカードを取り出した。そのカードはまるでポテトチップスのおまけについてくる様な1枚のカードの様である。
影太にそれを手渡され鋳鶴はようやくそのカードが自分であることを知った。
「えー!なにこれ!勝手に作るのはあれだけどちょっと嬉しいかも!かっこいいじゃん!」
カードは鋳鶴がスイングしている姿でまるでプロ野球選手にでもなったかの様な出来になっていた。影太も嬉しそうな鋳鶴を見て意気揚々と頷いている。
「……ちなみに裏にはプロフィールも載せてある……。……まぁ俺の趣味の延長の様なものだったがこれが好評でな……。……桧人のも作るかもしれない……」
口には出さないものの桧人のならいっか。という楽観的な雰囲気で登校する2人の間には小気味良い風が吹いている。
そんな潜入班の2人を後ろから着けてる3人組が居た
「鋳鶴め!何を話しているんだ!」
「影太ァ……。変な事してねぇだろうなぁ」
「あのなぁお2人さん。そんなに殺気立ってたらろくなこと起きないぜ?」
「桧人。あの2人だけにしておいたら何か悪だくみをするかもしれないじゃないか。それに潜入するのにもあの2人でいいのか?」
あまりにも真剣な眼差しで語り掛けてくる歩とそうだそうだと言わんばかりに睨み付けてくる麗花を見て桧人は呆れ半分に肩をすくめながら2人を見た。
「あのなぁ。会長と副会長は顔が割れてる。鋳鶴みたいに変装させるのはいいけど、わざわざうちの大将と副大将を敵地に送るわけにはいかんだろ?詠歌は陸上部の事でいっぱいだし、城屋さんは体がデカすぎる。俺も鋳鶴みたいに変装までは絶対に出来ん。それに敵地に送るには他の人間では無理だ。そうなると選択肢は自ずとあの2人に絞られると思がうがなぁ」
「私たちは?」
「あぁ、アタシと歩なら行けんだろ」
「だから!お前ら2人に器用な事が出来るか?って言ってんだ。それに麗花は喧嘩が強い一般人ぐらいとしか思われていないから潜入には向くかもしれんが向こうで何かあっても対処できるのか?歩も歩で多少なりとも魔術は使えるかもしれんが、それでも向こうは俺たちと違って魔術や魔法といった類に慣れている連中。そんな中にお前たち2人を向かわせるなんて言ったらあの2人はまず快諾しないだろうよ。一番は城屋さんだが、あの人は魔法科で顔が割れているし、女装させたとてお前の様な女が居るか。さては普通科の手先だな?とか言われてバレるのがオチだ」
2人は手本の様な図星という顔を見せて首を下ろして落ち込んだ。十分起用だけどな。と2人に伝えたい桧人であったが余計なフォローと思い口を噤む。恐らくそのフォローをしたとてならば何故その話が舞い込まない。と食って掛かられる事を恐れて発言を取りやめた。
そんな2人を信頼して任せたい事もある。というのが普通科の名参謀の胸中にも頭中にもあるのだが。
「2人は正直が過ぎるからな。だったら小技の効く影太と何かあっても五体満足で帰還できる奴の方がいいだろ?適材適所だよ。適材適所」
「そうか……」
「適材適所ってなんだ?」
思いつめる歩と桧人の言葉で頭上に?を浮かべる麗花を見て桧人はあまり真面目な話をするんじゃなかったと反省した。
「真面目であることは悪い事じゃないからな。きっとその素直さがまた役立つ時が来る。麗花は何も考えずに進んでくれりゃいいしな。それを適材適所と呼ぶと思えばいいんだよ。そこまで」
「ただ、2人の事を考えながら授業をいつも通り受けなければならないのだろう?不安でしかないが」
「なぁ桧人。アタシが馬鹿って言いてぇのか?」
もうこれ以上2人の変な地雷を踏まない様に口を噤む桧人であった。
「……そういえば、同居人はどうだったんだ……?……名前でももらえれば情報があるかもしれないからな……」
「いや、それが。きっと影太のデーターベースにも無い様な子だと思うんだよね。そんな事はないかなぁとは思っているんだけど」
「……そう言われてはエロフェッショナルの威厳が危ぶまれる……。……この学園の女子生徒のデーターは……。……魔王科の生徒以外なら……。……クソッ……!エロフェッショナルたるもの魔法科の女子生徒のデータがほぼ皆無だなんて……!……嘆かわしい……!」
「影太、落ち着いて」
「……落ち着いて居られるか……!……魔法科に限っては望月結しかデータがないんだぞ……!……情報の閉鎖感といい……。……まるであそこは堅牢な要塞だ……。……だからこそ、そこに広がる花園を男ならば誰もが見たいと思うものだ……!……いや、花園ではないか……。……さしずめ桃源郷という表現が正しいのかもしれないな……」
「でも問題児な女子生徒もいるんでしょ?それこそ皆、麗花みたいな子ばっかりかもしれないよ?」
「う゛っ゛」
影太の顔が青ざめる。
瞬時に広がる度重なる弄りと命よりも大切なカメラを破壊されかねない行動の数々。
千鶴の発言でその全てが走馬灯の様にフラッシュバックされた。
トラウマと呼称する程ではないが、心臓に悪い瞬間。思い出すだけでもその時の背筋が凍り付く様な感覚を思い出す。
「……しかしだ……。……今大切なのは魔法科の事だ……。……目先の敵に集中せねばな……」
「思うんだけどさ。影太の忍術って魔術ではないんだよね?」
「……あぁ……。……特殊な気の様な物を使ってはいるが……。……その仕組みを話そうとすれば話が長くなりそうだからな……。……それにまだお前たちにも詳細の公表はな……」
「そっか」
影太に生まれ持っての魔力は無い。魔法科の生徒たちからは所謂無魔と呼ばれている。魔力が無い人間への差別用語の一種として扱われており、魔法科においては教員の前で発しようものなら相応なる処分が下されるものだ。
魔法科にも多種多様の生徒が在籍しており、勿論無魔もそこで学園生活を謳歌している。無魔と言っても生まれつきのものである場合や鋳鶴の様に通常の魔法は使役する事は出来ないが、膨大な魔力量を有する人間も該当する。他にも自分自身の才能に気付いて居ない者等、魔法科と言っても全員が全員魔法や魔術を完璧に扱う事は出来ない。
影太もその1人。最も彼には魔法や魔術ではなく忍術を用いている訳だが、その仕組みは普通科のメンバーでさえも理解できる代物では無いらしい。
何度かその仕組みについて沙耶から尋問に近い事もされているがその度に忍術を使用し彼女の魔の手から逃れている。
勿論、担任の白鳥女史からの大胆な人体実験提案も同様の忍術のよる逃走劇を披露しており、影太を捕らえるのは学年主任の彼女ですら難易度が高い様だ。
「……まぁ……。……無魔故の所もあるから俺なんだろう……。……俺1人では不安と見ているのもありそうだしな……。……あぁ見えて風間会長は良く考えているし……。……それこそ適材適所もそうだが……。……似たような者だからこそ……。……こういう立場を与えつつ、鋳鶴を同時に派遣させる事によって俺の暴走も抑止しようとしているんだろう……。……魔法科と魔王科は被写体が多すぎる故にな……」
「それもそうなのかなぁ。影太が暴走しちゃわない様にっていうには分かるんだけど、やっぱり僕は顔も割れていないしね。いや、割れてるから女装してまで潜入してるのか」
「……虹野瀬縒佳とコンタクト経験はほぼ全員あるからな……。……恐ろしい女性だった……。……お前や城屋さんが居なかったらと思うとゾッとするよ……」
「でもあの時は皆が皆でフォローし合ってたから大丈夫だよ。それに僕だって1人じゃどうなるかだって分かんないんだし、あの時のMVPを敢えて挙げるなら麗花だと思うしね。神宮司さんと戦ったみたいな話も聞いたから1番覚えられているかもね」
「……差し詰め……。……女狼対女狐と言った所か……。……これは売れる……。……男たちがあの2人のキャットファイトを望む声が聞こえる……!……聞こえるぞ鋳鶴……!」
「2人ともそういうキャッキャするものじゃあないと思うけどね。麗花だから多分神宮司さんの事正面から殴りに行くんじゃないかな。滅茶苦茶顔狙いそう」
確かにと千鶴の意見に2度頷く影太。半ば呆れ気味ではあるが麗花の性分を考えるとそうして頷く事が正しいのだろう。
「あら、御機嫌よう」
頷いて即座に影太は声の方向に眼光と警戒を向けた。影太の構えを見ていた2人の後方を着けている3人も一斉に警戒態勢に入る。
瞬時に戦闘態勢に入った影太の横で千鶴はその声の方向に望月鋳鶴として考えうる女性らしさ全快の会釈を見せた。
「おはようございます。縒佳さん」
2人の背後から声をかけたのは魔法科会長虹野瀬縒佳その人であった。魔法科の生徒が通学で使用する箒に腰かけて宙を漂っている。
「珍しいわね。魔法科の生徒で普通科の方と一緒に登校なさっているなんて、ご友人?」
「そうですね。鋳鶴との仲は劣悪なんですけど彼の周囲に居る人たちは嫌いになれなくて、何か問題でもありました?」
「いえ?本来、問題など一切ないのだけれど。魔法科はそういう事に厳しい人も居るから気を付けてね。私は一向に構わないのだけれど、貴方の事を気に入らない生徒だっているだろうから」
傍から見れば優雅なその微笑みはその表情を完全に視認できる2人からは嘲笑にも見えた。それだけ彼女が醸し出す圧倒的強者の雰囲気は底の見えない沼の様なものだ。
それだけで2人からすれば会長クラスのそれも魔法科の会長ともなるとこうして風格のみで相手を威圧、牽制。無用な争いを減らす事にも繋がり魔法科の秩序も安定する上で彼女の存在自体が抑止力と成り得る。
「だからこその警告。そもそもこうして私と馴れ馴れしく会話している時点で目を着けられてしまいそうだし学園生活開始早々にそういう事には巻き込まれたくないじゃない」
「えぇ……」
「……虹野瀬縒佳……」
「あら、普通科でも私の事をちゃんと知っている方が居るなんてお名前は?」
「……名乗る程でもない……。……それに一方的な認知というものは貴方程の存在にもなれば当然だろう……。……ましてやこっちは普通科、一方的に他科を知る人間が多い学科だからな……。……直接お目にかかれて光栄です……」
何処かで出会った。とは違う感覚、接していて理解出来る。虹野瀬縒佳の中で望月千鶴の隣に居る普通科の男子生徒はタダ者ではない。
千鶴と比較してもほぼほぼ彼の肉体には魔力が無い。だが、無魔でも異能力や超能力を使用出来る様な人間も居る。という話を寿から聞いた事をふと思い出した。
興味をそそられない戯言だと聞き流していたつもりではあったが、ふとそれを思い出し、彼女は影太の事を見つめる。
「逆に言ってしまえば、熱心な人でも無ければ私の名前なんて知らないかもと思ってこれも何かの縁ではなくて?」
「……土村影太……」
「土村影太さん。良いお名前ね。望月千鶴と土村影太。2人とも失礼したわね。御機嫌よう」
箒を踵で優しく蹴ると縒佳の箒は前進を始め魔法科の校舎に向かっていった。2人はしばらくその後ろ姿を見つめながらその箒は徐々に勾配を取り始めあの時計塔の様な彼女専用のスペースに行くのを見送った。
「……緊張したな……!……あの様な美女に名前を聞かれては……!……危うく気絶でもしてしまう所だったぞ……!……鋳鶴……?」
「本当に偶然だったのだろうか。虹野瀬さんはいつもあの時計塔の様な所で生活してるって魔法科の人たちに聞いたから、ちょっとおかしいなって思っただけだよ」
「……そうなのか……。……それが事実ならなぜ、彼女は俺たちの背後からやってきたのか気にはなるな……」
「そうだね。影太に接触したのもたまたま興味が沸いたとかならいいんだけどね」
「……俺は美女に興味を持ってもらえるような男になったというポジティブな気持ちでいては駄目か……!?」
鋳鶴は両手を震わせながら動揺する影太を見ながら微笑んだ。
「いや!駄目でしょ」
そう言い残して2人は魔法科の校門へ歩を進める。
―――――昨夕 魔法科 女子寮―――――
「よろしくます」
小さい。そんな事を口から出さぬように千鶴は口を噤んだ。
共同生活を始めるにあたって共同スペースの自室に入った千鶴は目の前に現れたルームメイトの幼さに驚きが隠せなかった。
青色の髪に緑色の大きな瞳。まるで人形の様な見た目をした星形の髪飾りをつけた幼女が千鶴に話しかけている。
声を掛けながら会釈をするという点は彼女自身に教養があるという現れだろう。緊張する千鶴の隣におっさんがふと顔を出した。
「「小さいな」」
「「おっさん!僕が言おうとした事言わないで下さいよ!」」
「「事実は事実だ。小学生か?あまりに幼すぎる。飛び級というものに限度がないのかこの魔法科は」」
「私はアイシャ。お姉さんは誰でますか?」
「ご、ごめんなさい。私は望月千鶴。明日から正式に陽明学園魔法科に編入されることになりました。ルームメイトのアイシャさん。よろしくお願いします」
「アイシャでいい。本当に女の人?魔法科にお姉さんみたいな大きい人居ない」
「うぐっ……!身長はコンプレックスなのであまり言わないでいただけると……」
「ううん。アイシャは千鶴お姉さんの事を男だと思うます。歪な形をしてるます。私、人の魔力の形が見える。それが男の人の形をしてる!でもなんかおかしい。2つある。2つ!」
「「ほぉ。これまた珍しい。まだこの世に居たのか」」
「「え、何ですか?というかこれ僕バレてませんか?男って指摘されてる気がするんですけど」」
「「まぁ何だ。端的に言えばアイシャは人の魔力の形が見える人間だ」」
その意味とは?と聞きたくなる千鶴だがおっさんはそのまま話を続ける。
「「君たち人間が作った一種の人間と魔族を判別するためのセンサーさ。人の心の無い事を言うのであれば魔族を探すための道具として作られた人間だ。その子孫でもあるのだろうか。これは興味深いな。死滅した。というよりかはその技術は失われた。と思っていたが。まさかこの魔法科でそれを受け継いでいる人間が居ようとは」」
「「え、でもその技術っていうのは現代に必要なんですよね?」」
「「必要ない。というよりも人も魔族も互いに化ける様な事をしなくなったのさ。べカティアぐらいだろう。未だに変装をして人間の皮をかぶっている物好きは。だからこその技術は不要とされ滅んでいったんだ。比較的人と魔族の均衡が長持ちしている今はその技術は不要である。と魔族も俺ほど強力でなければそうする必要さえない世の中だからな。力をむやみやたらに誇示しようする魔族は望月雅に葬られる事もある故か」」
「「じゃああの子は……」」
「「センサー人間。今や不要の人生を送るしかない。という事さ。だが無魔ではない。恐らくポテンシャルは君以上だろう。そのポテンシャルに似合った技術が無いだけで彼女はこれからの伸びしろがある筈だ。だから魔法科も彼女を放っておかないだろうし、彼女にもそういう事実を隠している可能性もある」」
「「でも、もしですよ。べカティアの様な魔族と相対する事があれば彼女の力が必要になってくるわけじゃないですか。仲良くなって損はなくないですか?」」
おっさんは溜息をつきながら鋳鶴を見つめた。
「「君には俺が居る」」
「「いや、決め顔で言ってもらって悪いんですけど、僕らがべカティアの事を理解できても他の皆は理解できてないんじゃあ僕ら以外が相対したら分からないですよね?僕らが毎回、皆の前に都合よくいるわけじゃないですし、何なら僕らがべカティアに倒される可能性だってあるわけで、それを考えると1人でもそういう事の出来る人が居るのは戦力としても悪くないと思いますけどね。まぁ風間会長の深い考えまでは理解出来ないですけど、いつか彼らと正面切って戦うなら陽明学園自体が纏まらないといけないですしね」」
「「君もたまには俺よりも思慮深い発言はするもんだ」」
「お話してるます。2人でずっと」
アイシャが死んだ魚のような目で千鶴を見つめている。その行動自体は年相応の可愛らしさを見せているのだろうか。彼女の中に居るシスコン強めの望月鋳鶴の血が多少なりとも騒いでしまっていた。
ゆりと神奈も良く見せる表情で勝手に親近感さえ沸いている。
「ううん、違いますよ?アイシャさんは不思議な人ですね。ほら私は女ですし、もう1人なんて居ませんよ?」
千鶴は自身の手に触れさせてアイシャに警戒心を解いてもらおうとする。
「あ、柔らかい」
「でしょう?アイシャさん。これでも私が女性ではないと?」
「確かに、おっぱいもあるます……」
アイシャは思わず千鶴に胸に手を伸ばして触れる。制服越しにでも伝わる温もりを柔らかさ。丁寧に扱わないと零れ落ちてしまいそうなそれをアイシャの小さい手で支えてみると理解できる重厚感。
これこそおっぱい。THEおっぱいである。機械科会長金城沙耶の現在使える機械科の技術を総傑出し、そこに風間一平の持つ謎の資金で製作された最強のボディ。あまりにリアルでスケベな構造をしているらしい。(影太メモ)
「男では……ない……!」
「そうですよ。確かに親戚にそっくりな所もあるので女性顔でない事ぐらいは理解できますけどね。信じてもらえてよかった」
「はっ!まだ信じてない!でもどうして2人分も……」
アイシャは頭を抱えながらその場をぐるぐる回り始めた。ゆりと同じで考え事があると同様に部屋の中をうろつくタイプなのだろう。
「「俺のカムフラージュもしっかりしなければまたバレてしまうか……。あまりそんな事に神経を使いたくはないのだが」」
「「いつも使わない神経を使う良い機会ですよ。感は鋭くなさそうなのでそこが救いですかね。年相応というか何と言うか」」
「「演技でなければいいんだがな。君は騙されやすいからな」」
「「そうですかねぇ……。まぁ騙されやすいという所は肯定しますけど」」
「「肯定するようなその行動を顧みるべきだとは思うがね。あまりに天然で女性に対して油断をしてしまう男なのだからな」」
「「ま、そういう事にしておきましょうよ。今回は僕が大人になりますよ」」
「「今の君は僕じゃあなくて私で返さないと」」
あぁ言えばこう言う。と言いそうになる千鶴だがそれを喉の手前で無理やり嚥下しておっさんにドヤ顔を見せて未だおっぱいに夢中になっているアイシャに対して声をかけた。
「今日からよろしくお願いしますね。アイシャさん」
「まだ認めたわけではないます!でもよろしくおねげげします!」
形だけでも握手という挨拶を交わし、千鶴はアイシャの目線に合うようにしゃがんで話す事決めた。
皆さんへ
今、私はハンターになっている頃でしょうか
予約投稿を利用して現在は2月27日に投稿しております
次回更新は3月2日0時になります
予約投稿を忘れない様に気を付けます




