表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
優しい魔王の疲れる日々(リメイク)  作者: n
優しい魔王の疲れる日々(リメイク)3
30/42

第28話:魔王と機械科2

誠は倒れ、普通科のメンバーは鋳鶴、歩、一平の三名となった。女のプライド同士がぶつかる第28話!

どうか、よろしくお願いします!


「なんだったんだ……。今の爆発は……」

 普通科のメンバーがそれぞれ小部屋で戦闘を行っている間、歩の控える小部屋には誰も訪れていなかった。自身の小部屋の前に控える誠のおかげもあってか、歩は戦闘を行わないまま、数十分が経過している。

 手にした木刀をフラつかせながら、数分おきに小ジャンプしてはストレッチをして来たるべき時を待っていた。

 ごくたまに周囲から爆発音が聞こえる為、他のメンバーの身を按じながら、歩は敵をただただ待つ。目の前から敵が来れば、誠が負けた。という事実になる。一平の身に何かあれば、普通科は敗北するという条件の為、彼は無事であり、まだ戦いは続いているという事になる。「城屋さんならなんとかしてくれるとは思うが……。相手がわからない以上、過度にあの人を信じるのも良くないか……」

 他のメンバーの無事を確認しようと、歩は生徒手帳を取り出した。すると、ちょうど良いタイミングで携帯に着信が入る。躊躇わず携帯機能を起動し、歩は耳に生徒手帳を押し当てる。

「すみません。今の所、残りのメンバーの状況が把握できていないと思うのでお知らせします」

 電話の相手は涼子だった。しかし、涼子の話し声は何やら、申し訳なさそうに萎縮した話し声である。

「私と土村君が中央保健室で治療中で坂本君、鈴村さん、荒神さんが星を破壊されてしまい、私たちの看病に当たってくれてます。残りのメンバーは会長、城屋誠、望月君と三河さんです。ちゃんとした通話をしたい所ですが、混線なども考えられますのでお耳にさえ入れてくだされば問題ありません。四人とも……、頼みました」

 涼子からの言葉が切れ、歩は生徒手帳を胸ポケットに戻す、爆発音がしてもまだメンバーは残っている安堵感から、歩は木刀を持つ手の力を抜く。

「今、油断したでありますな?それはわかるであります。でも今の我が輩相手に油断は禁物でありますよ?」

 沙耶の声が歩の居る小部屋に響き渡る。即座に木刀を握り直し、歩は周囲の気配を察知しようと目を瞑る。だが、周囲には足音どころか、息づかいでさえ全く耳に入らない。

「遠くから見てるでありますよ!すぐに着くでありますから!!」

 歩は小部屋の入り口を見た。

 彼女の視線の先には誠が守護しているはずの小部屋の入り口に存在する黒い影を捉える。秋口の訪れる台風の様にそれは暴風を周囲にまき散らし、埃を巻き上げながら歩の元へ瞬時に現れた。

 所々塗装が剥がれ、いくつかのケーブルがむき出しになっている機体の真ん中に沙耶自身が嵌まる様な形でそれは歩の前に立ちはだかって居る。

「これがパーフェクト金城沙耶であります。以後、お見知りおきを」

「流石にこれは……」

 歩は即座に木刀を構え、沙耶の機体の股下に潜り込む。その先で機銃と鉢合わせた歩は、それ弾丸が放たれる前に早急に木刀でたたき壊す。だが、沙耶は別の機銃を歩の前に引き出し、弾丸を放つ。

「自分を信じろ!」

 歩は弾丸に対し、木刀で応戦し、その全てをたたき落とした。しかし、機銃から放たれる弾丸に木刀は耐えきれず、歩はその木刀を投げ捨て、涼子の様に空中で魔方陣を展開する。

「流石、普通科の風紀委員長でありますな。魔法の心得もあるとは感心するであります」

「お褒めの言葉、ありがとうございます。」

 新たな木刀を握り、歩は股下からケーブルがむき出しになっている箇所に向けて木刀を振る。木刀を取り出す時間というインターバルで沙耶は全機銃のリロードを終わらせ、再び歩に向けて銃撃を放つ。

「これと城屋さんが戦っていたのなら、敗北するのも致し方ないと思えてくるな」

「城屋殿は確かに強かったでありますよ。マザーもそう言っていたであります。私利私欲の為に動く人をあそこまで変えるとは、普通科にはよっぽどの人格者がいるのでありますな。我が輩に出来なかった事をすんなりとやり遂げるだなんて」

「貴女が思うほど、あの人を引き入れたのはすんなりではないですよ。それなりの犠牲と時間と、魔法科の怒りを買ってましたから」

 機銃の雨に幾本の木刀をへし折られながら、蜂の巣にされながら、歩はその度に木刀を投げ捨てて新たな木刀を召喚している。

 タイミングが悪ければ、召喚し、手に取る直前で木刀は破壊される。そのタイミングを見計らって歩はリロードの様子を見ながら、何秒間まで撃ち続けられるのかを計測していた。

 決してもったいない精神ではなく、彼女は木刀が柄のみの姿になるまで徹底的に弾丸に抗戦し、一本一本を消費していく。

「我が輩の銃器でも一撃で破壊出来ないとは、大事に手入れされた木刀なのでありますな。この戦いが終わったら見せてもらいたいであります」

「この戦いで数百本は無くなるでしょう。ただ、金城会長。貴女は私の木刀がただ、斬るだけの道具に見えますか?」

「何ですと!?」

 木刀を召喚すると同時に、歩は複数の木刀を二本、沙耶に向けて投擲する。特に変化する事もなく、直線に放たれたそれを彼女は焦る事なく、銃撃を浴びせて撃沈した。

「ふぅ。焦ったであります。普通科でまさかこんな芸当も出来る人間が居たとは、勿体ないでありますなぁ。実に勿体ない」

「勿体ないかどうかは、貴女ではなく、私が決める事。好きで普通科に居る私には何を言っても無駄です」

「頭が固い人とは思っていたでありますが、あまりに攻撃も直球なので三河殿の性格が現れていると思ったであります」

 撃墜された木刀は、しばらく地を這い、動かなくなる。まるで動物の様な動きを見せる木刀の残骸を目の当たりにした沙耶は、声には出さないものの彼女の技術に驚嘆の表情を見せる。

 彼女はきっと、普通科でなく、どの科へ進学していたとしても絶対にその中核を担える人物になっていただろう。そう考える沙耶は三河歩という女生徒に目を配らなかったのは自身のミスだと考えた。

 今の機械科の現状に不満がある訳ではない。しかし、歩という一人の存在が居るだけでどれほど機械科の技術力や戦力が発展したかを考えると、沙耶は後悔に追われる。頭が固い事は悪い事ではない。むしろ開発者にとって頭が固いのは大事な事でもある。

「でも三河殿は、普通科以外には興味ないでありますからなぁ」

「どういう事です?事実、そうではあると思いますけど」

「ほら、普通科にあって他科にないものがあるじゃないでありますか!」

「普通科にあって他科にないもの……?」

「鈍感でありますなぁ。他科には鋳鶴殿が居ないであります。それが一番大きな要因だと我が輩は思うのでありますが。違ってたら申し訳ないであります」

 沙耶の発言で歩の頬は瞬時に桃色に染まった。精神攻撃ではないが、歩にとって自分の感情を今、思い出されると、他の感情が入ってきてしまうというもの。

 続けて木刀の召喚を試みる歩だったが、何故か魔方陣が出現しない。

「やられた……!」

「集中力が切れると、使えなくなるでありますか。ちょっと意地悪するつもりが、ここまで精神を動揺してくれるのはラッキーでありますな。精巧な魔術に裏あり、普通科だからという言い方は失礼かもしれないでありますが、そういう事なのであります」

 沙耶はスラスターを起動し、背後に退き、歩と距離を取った。彼女の移動とともに歩もすかさず距離を詰めようと脚を前に出す。歩むが何よりも優先するのは沙耶との距離。

 あまりに離されると彼女の銃で蜂の巣にされてしまう。更に今は木刀も頻繁に出せる状態では無い。故に歩の脚の動きに躊躇いは無く、沙耶に向けられていた。

「人の足では限界があるでありますからな!」

 木刀一本の歩に対し、沙耶は容赦なく弾丸の雨を浴びせる。弾丸だけでなく、ミサイルや手榴弾に近い爆発物まで発射されていた。

 鋳鶴の話で動揺してしまった歩であったが、魔方陣を展開する。という行為には大変集中力を要する事を考え、足下を見た。

 地面には沙耶が歩に向けて放たれた無数の弾丸などを弾くために使われた木刀の残骸が飛散し、所々塊になっている。

「出来るか……私に……」

 眼前に広がる無数の弾丸を見て、歩は頭の中で思い描くそれが出来るかを考えた。実行に移せないかもしれない。実行したとしてもあの弾丸の雨には意味が無いのかもしれない。

 信じるのは自分、味方は誰もこの空間に存在しない。

「だったら、やるしかないじゃない……!」

 歩は自分に渇を入れ、全力で足を突き出し、自身の前方で右腕を掲げる。歩の右掌を中心に地面に飛散していた木刀の欠片が盾の様に一枚板に固まり沙耶の銃撃から身を守った。

 塊に入れない様な比較的小さい木片は、盾としてではなく、弾丸を反らすための障害物と化している。

 沙耶の圧倒的な数の射撃は小部屋全体が砂埃が舞い上がり、煙幕の様になって沙耶の視界を奪う。

「こんな事もあろうかと……」

 沙耶は額当ての様にかけていたゴーグルを装着し、歩を捜索する。同時にマザーも歩を探し出すためにモニターとセンサーを広げた。

 砂埃が舞っていようと暴風が吹き付けていても沙耶が製作した特別製のゴーグルは、視界に入るものをサーモグラフィーで表し、温度で生物を判別する。

 マザーのモニターとセンサーも同様でサーモグラフィーで視界に入っている筈の見えない何かを温度で判別する事が可能だ。

「何処でありますか!」

「沙耶、上のようだ」

 沙耶の判断が遅れた。その理由は歩が瞬時に両足に魔力を込め、放出し、瞬間移動する魔術を使用したからである。この魔術の主な用途は影太からカメラを没収する時だったが、その技術が今ここで役に立った。

 先ほどの沙耶の攻撃で負傷したのだろう。彼女の上に跳んでいる歩の肩から血が噴き出している。木刀を持つ手が力んでいるのか、血は流れ続け、彼女のカッターシャツを血で染めていた。

 叫び声をあげることなく、歯を食いしばり、肩の痛みに耐えながら、彼女は沙耶めがけて無言で木刀を振り下ろす。

 その太刀筋に迷いはなく、一直線に振り下ろされた木刀は沙耶を完全に捉えている。

「流石に早いな!」

 マザーは沙耶への直撃を防ぐため、機体の右肩部を歩に向ける。右肩部にはスラスターが搭載されており、マザーは肩のスラスターと背中のスラスターで空を自由自在に飛び回る。今は自身が飛べなくなる事よりも沙耶へのダメージを極力減らすことが機械科の勝利への布石と考えたマザーは沙耶から一番距離の離れた自身の肩を歩に差し出す形で彼女の攻撃を防御する体勢になった。

「しかし、私にはまだ二本あるッ!」

 集中力を取り戻した歩は、沙耶に向けて再び二本、木刀を放つ。沙耶は彼女が放った木刀を的確に数十丁はあるであろう銃器で蜂の巣にする。

「無駄でありますよ。我が輩にはどの角度でも三河殿の攻撃に対応する事が出来るであります。それにそんな数本の木刀ではこうなるのが関の山でありますよ」

「それはどうですかね」

「すまない沙耶、集中しすぎていた」

 歩は二本とは別に木刀を発射し、二人が自身に夢中になっている隙を狙って、マザーが沙耶をかばう為に差し出した右肩だけでなく、木刀で左肩のスラスターを貫き、破壊していた。両肩のスラスターを奪われたマザーはこれ以上空中を自在に漂うことは出来ない。歩の必死の作戦と動きは確実にマザーと沙耶の二人の動揺を誘っている。が、歩も自身の容量を超える魔力の制御で頭がついていかず、肉体的負担がかかり、鼻から一筋の鮮血を垂らしていた。

「ふぅ……。まだやれる!」

「肉体の酷使が行きすぎているでありますな。まだ星は反応を出さないものの、取り返しのつかない事になる可能性も無きにしも非ずであります」

「沙耶、彼女は私たちを倒す事しか考えていない。さっきの城屋誠よりも私たちに対する敵対心。とまでは言わないが、見え隠れする戦闘意欲が強い。君が思っているより強敵かもしれないぞ?」

「それでも恐れず、焦らず戦うだけであります。我が輩にはマザーが、マザーには我が輩がついているであります。志を同じにした仲間はもうこの戦場にはマザーしかいないでありますから、全力でともに戦うだけでありますよ」

「ふっ、私としたことが、追い詰められて多少、動揺してしまった様だ。ただ、彼女は本当に強敵だ。私と君ほどではないがね」

 マザー余裕溢れる態度で沙耶にそう言った。激励ではなく、同情でもなく、扇動する。彼の行動が沙耶の心に火を点す。

 たかが飛べなくなった程度で焦るな。と。

「私は、負けたくないのではなく、一人の友の為に戦っているだけです。その過程に、マザーと金城会長が居ただけですのでご容赦ください」

「何を言ってるでありますか三河殿。そんな事は当たり前であります。我が輩たちと普通科は今、敵同士。遠慮なんてしていたら相手に失礼でありますし、出し惜しみしてたら、願いは叶わないでありますよ!」

 沙耶はマザーの機体を駆使し、歩に向けて拳を振るう。彼女は迫り来る鉄拳に対し、木刀一本で応戦し、鉄拳をいなした。

 同時に二本、木刀を展開し、沙耶の背後から発射するもマザーが限界まで索敵範囲を広げて待機していた為、歩の木刀は再び蜂の巣にされ、跡形も残らない様に、先ほどの盾を組むのも困難になる様、隈無く破壊される。

 これ以上増やせば、歩の脳幹は感覚が麻痺するだろう。五本も放出すれば、きっと、先ほど出た鼻血はより噴出し、脳への負荷が甚大になる。だが、自身の肉体を考慮している暇などない。ましてや全力以上を出し惜しみして勝利を掴めるような相手でもない。

 あまりに魔力を使えば、星が反応を起こし、この会場から保健室に強制的に飛ばされる。相手は沙耶とマザーと呼称されるコンビの二人。普通科の残りは歩と鋳鶴と一平の三人である。

 心強い二人ではあるが、そもそも人間ではなく、機械という存在のマザーに一平の異能が通用するとは思えない。と考える歩は、この二人の攻略は鋳鶴にしか無理だという結論に落ち着く。

 体育大会という戦場に似た場所では老若男女も関係はない。

 ただ、倒すか倒されるかだけだ。優しさという甘えた感情はもっともその場で邪魔な存在になる。

 だが、望月鋳鶴という青年の優しさを知っているからこそ、歩は沙耶と戦い続ける。彼は何があっても女性に手をあげる事はないだろう。

 戦わせたくない。という気持ち半分と、日頃の疲労も蓄積しているだろう彼の身体を気遣っての戦いである。

「他の二人が頼りないから、私は刀を取る。貴女を倒す。どっちもやってどっちも達成したいというのが本音です」

「鋳鶴殿は日々、忙しくされてるでありましょうし、愛故の心配でありますか?」

 歩はもう、動揺する事は無かった。沙耶の挑発を返すように彼女に向けて木刀を振り、マザーの機体で損壊している箇所を抉る。

 一定の位置を見極め、銃の出所を掴み、それが出てくる前に木刀を召喚し、投擲する。木刀が直撃した衝撃で銃はあらぬ方向を捉え、的外れの箇所に向けて放たれた。

 沙耶はすかさず別の銃で木刀を木っ端微塵にし、次の攻撃に備える。圧倒的物量差の筈が、木刀数本と一人の女生徒にここまで手こずるとは沙耶も考えていなかった。

「私で倒しておいた方が鋳鶴や会長も楽が出来ます。それに女性に甘い二人なのでもしかしたら、を考えて此処で貴女を倒そうと思うんです」

「愛は関係ないでありますか?」

「多少はあります」

 頬を赤く染め、うつむき加減にそう呟く歩を見た会場の普通科の生徒は叫び声を上げるなり、鳴り物を鳴らすなりして大いに盛り上がっている。

「素晴らしいでありますな。愛の力というものは、本当に三河殿は、堅物に見えて本当に乙女であります」

「好きなものは好きです。それにあまり言いたくはありませんが、私は彼を他科に引き抜かせる真似は絶対にさせませんし、許したくありません」

 彼の笑顔を思い出すと、歩は身体の何処からか力が無尽蔵に湧いてくる。

 歩の思いは依然変わらない。普通科の理性として生きる彼女は、望月鋳鶴の事をこよなく愛している。それこそ、秘密裏で鋳鶴の写真を影太に要求してしまう程だ。

 風紀委員という理性の塊の様な存在でありながら、まるで理性がない乙女になる彼女は普通科の為だけでなく、鋳鶴自身の為に戦い、それが自分の為に繋がる。

 歩にとってかけがえのない日常に鋳鶴は不可欠。好きという感情以前に、今の普通科自体を愛す彼女にとって鋳鶴が居なくなるのは大きな損失。その相手が最終的にではあるが、彼の姉である望月結なら尚更だ。

 同じく剣道を嗜む者として結を超えるのは歩にとって目標であり、剣の道における最終目標なのである。

 此処で普通科が敗退すれば、鋳鶴はきっと、結の所有物と化してしまうだろう。それだけは避けたいという歩は、そうなった場合の事を常に考えている。

 目標は常々上を見る歩だが、今回もそれは突き抜けていた。自らよりも剣の道を極め、鋳鶴を同様に愛し、互いに誰よりも負けたくない。と意識する相手なのだから、此処でくじけては居られない。

 その気持ちが歩の急激な成長を促す。

「二本じゃない……。もう一つ、いや!二つ!段階を上げろ……!」

 歩は魔法陣を空に描き、木刀を宙に展開した。

 木刀二本程度が限界だった彼女の召喚魔術は、その本数を増やし、倍の四本が宙を漂っている。頭が痺れ、それが両腕に伝わり痙攣する。

 限界ではない。が、肉体に負荷をかけているのは歩にも理解出来た。愛の力など幻想で信じていない。歩はそういったスタンスで沙耶の事を見つめる。

「四本もでありますか。吾輩もでありますが、三河殿も中々の女性でありますな。でも愛の力があるとすれば、こういう事を言うのでありましょう」

「貴方たちに敗北するという事は鋳鶴をあの人に差し出す。という事。だから負けられない。鋳鶴は渡しません!」

 歩は地を蹴り、瞬時に沙耶との距離を詰める。マザーの銃が歩を捉え、一斉に発射する。粉々にされた木刀の残骸を固形物にし、盾としての運用も考えたが、沙耶はもうその作戦は読み切っているだろう。

 今年で三回目の体育大会。その経験と、機械科が誇る完全なコンピュータの力で完璧な対策を練って来るはず。

 数発の弾丸から身を護るだけで、形は崩れ、柄のみという状態になる。更に破片の形状を保つはずが、マザーの配慮からか落ちた破片を更に精密に彼は打ち砕いて見せた。

「一人の剣士では吾輩たちは越えられないでありますよ。あまりに手数の多さが違うでありますからな」

 進化した自身の能力を駆使して歩はこの間も三本ずつ木刀を彼女に向けて投擲していたが、全てマザーの銃弾によって弾かれ、地面に墜ちていく。

「沙耶、ミサイルとかは使わなくて良いのかね?」

「大丈夫でありますよ。マザー。吾輩の采配に曇りはないであります!」

 ミサイルは使わない。その発言が歩のプライドという火に油を注ぐ、戦力差があるのは勿論、理解している。むしろその戦力差を感じない方が人間としてどうかしていると思える程、今の歩は落ち着いてその事実を理解出来ている。

 むしろ疑念が確信に変わった方が良かった。今まで銃しか撃たない彼女に対して多少の疑問が確信に変わった歩は怒りも含め、すべての感情を魔力に込める。

 握っている木刀は歩の魔力を受け簡易的ではあるが硬質化して強度を増し、一度に出現できる木刀の本数も此処で四本に増えた。

「成長しているでありますな。三河殿」

「ミサイルを使ってくれてもかまわないんですよ?」

「使わないでありますよ。あと二人居るでありますし、それに三河殿では吾輩とマザーには絶対勝てないであります」

「そんな事はとうに理解しています。けれど、私にもやれることぐらいはあるから、私は貴方の前に立つんです。貴方たちは確かに恩人ですけれど、私からすれば、鋳鶴を取られる方が嫌なので」

 先ほどよりもより、強い言葉と態度で歩は沙耶を睨みながらそう返す。

 同時に、マザーの身体から思い重低音が響き、マザーの腸付近である沙耶の足元からケーブルが露出した。ケーブルは勢い良く飛び出して歩に襲い掛かる。

 歩は冷静にケーブルを対処しながら、四本の木刀を沙耶に向けて飛ばす。彼女は猪口才な。と思いながら、変わらず機銃で対応しつつ、歩にも数発弾丸を放出した。

 しかし、弾丸を飛ばしたまでは沙耶にとって良かったが、先程ケーブルが露出した部分と対称になる様に鈍い重低音の後でマザーの身体に風穴が空いている。

「なっ!何をしたでありますか!」

「そうか、そういう事か」

「どうしたでありますか、マザー」

「彼女は今、木刀を手にしていない。それは分かるな?」

「そうでありますな」

「木刀に気を取られる辺り、私もまだ機械として欠陥があるとは思うが、まさか木刀の柄を蹴り上げて飛ばすとは、誰も思うまい。本来それは自分の手に持って斬りつける道具なのだから、正しい用途で言えば、彼女の使用方法は間違っているというのに」

 マザーは悔しがりながら両脇に刺さった木刀を取り外し、辺りに捨てる。ケーブルが出た箇所は自己で再生する事が難しく、電力を大量に消費する為、その互換性となる魔力を必要とする。その為、歩に向けて露出したケーブルを飛ばし、直接魔力を奪取するという作戦をとったのだが、歩はケーブルの処理も忘れず全てを切り裂いていた。

 沙耶がコックピットから降りマザーの再生を手伝うものの、この小部屋中で歩を相手にするという事は、マザーは会長である沙耶を死守しなくてはならない。機体は大切ではあるが、それ以上に沙耶の身自体に重きを置くマザーは歩に向けて銃を乱射する。

「遅い!」

 沙耶に向けて木刀を展開し、容赦なく歩はマザーを無視しながら、更には地面に散っている無数の木塵を搔き集めてマザーの弾丸を完全に防御する。

 円盤の状態を保ちながら別の行動に魔力を使用するのは並大抵の人間では出来ない。少なくとも訓練や努力、更には才能も関わって来るものだ。

 プライドという火に油を注がれた。という事もあるが、今の歩には迷いがない。ただ、沙耶という一つの標的に向けて全力で襲いかかるのみである。

 木刀の本数は四本が限界で盾も全身をカバーできるような代物ではない。が、その二つを同時に行えるようになった。という事実とマザーと沙耶の二人を苦戦させている。という気持ちが歩の魔力を増強し、動き回ろうと彼女の肉体は疲れない。所謂、アドレナリンが出る事によって痛みや疲れを感じず、更には自分の自信を増長させ、それを確かなものにするという現象さえ引き起こしていた。

「後ろに、私は後ろに託す!」

 マザーの身体は、所々が大破し、ケーブルや基盤が出現し、地面に錯乱している。誠と同様、それを絡みつかせて歩の動きを抑止しようとするが、覚悟とアドレナリンの成せる業なのか、ケーブルで彼女を捕らえることが出来ない。

 機械に意識が朦朧とする。という現象は有り得ない。が、星が僅かに光るマザーの機体は星の判定による強制送還は無いものの、数分も経てば機体の損傷度からすればアラームが鳴り始めるだろう。

 歩は散らばるケーブルを木刀で切り裂きながら走り回っていた。沙耶はポシェットから工具などを取り出し、マザーの機体を補強している。

 それから数十秒後。沙耶の修理が終了したのか、マザーの星が輝きを失っていた。歩はマザーが再起動する事を考え距離を取り、前方に木刀を展開した。

 が、マザーの再起動を予想していた歩の背後には人の影があった。

「託させて……たまるものか……」

 突如、歩の背筋が凍った。沙耶ではなく、別の女性の声が突如背後から響いたのだから。歩は振り返らずに背後に向けて木刀を振るいながら振り向いた。

 歩の背後に現れたのは沙耶ではなく、刈愛だった。

 沙耶の様にマザーを全身に纏うのではなく、部分的に彼の装甲を纏い、いくつか銃器を装着、または括り付けながら動いている。

刈愛の人間としての弱点部位をマザーの装甲で補い、更に人間には不可能な動きを可能にする為のバーニアも背中と腰、脚元に携えていた。

 それが歩の背後へ瞬時に回り込めた要因だろう。胸部付近と四肢の防御を固めた彼女に歩の木刀は通用するはずもない。

刈愛は歩の攻撃を受けることなく、銃器無しで防御を固めた四肢で歩の木刀を破壊した。

木刀を破壊され退く歩を見た刈愛はすかさず、右手に持った拳銃の底を向けて振りかぶり、歩の頭部に向けて振り下ろす。

「お前の剣はマザーと沙耶の二人を上回っていた。だがそれは、あの二人には躊躇いがあったからだ。私にはそれがない。相手が普通科の人間でも容赦なく、全ての技術を用いてお前らを叩きのめすのみ」

「何度も言うが、私も負けていられない。マザーに対して礼は言ったのか?」

「礼?」

「お前……」

「マザーは私に力を貸した。こうなることは最初から理解出来ていた筈、あの男は沙耶の事を惑わす事もあるからな。たまに邪魔だ。それにお前たちへの攻撃を渋る事もあったと思うぞ。慈悲か何かは分からんが、ポンコツにはポンコツなりの使い方を見せてやらなくてはな。人間よりも機械の方が任務を遂行できないとは何事か」

 歩は刈愛の銃底の一撃を木刀で受け止めた。マザーの装甲で覆われた彼女の右腕は本来の刈愛の攻撃力を増幅させ、歩に対し重く伸し掛かる一撃をお見舞いする。

 銃底の一撃だけなら木刀でいなす事は出来ただろう。しかし、マザーの装甲のおかげで重厚感の増した彼女の右腕は容赦なくその木刀を圧し折る。

「お前の方がよっぽどポンコツだ。部下も苦労も労えない生徒会長など、大馬鹿者だな。普通科の会長でも労ぐらいは労うぞ……!」

 歩は刈愛から受けた一撃の勢いを利用し、背後に吹き飛ばされる様に退いた。刈愛と距離を取った歩は木刀を扇状に展開し、刈愛に向けて飛ばす。

 木刀の投擲に対し、刈愛は焦る事なく、木刀全てを撃ち落とし、別の銃を取り出し、歩に向けて銃弾を放つ。

 刈愛の反撃に合わせて歩は木片の盾を作り出し、彼女の銃撃から身を守った。その様子を見た刈愛は沙耶が着用しているポシェットから複数の手榴弾の様な物を取り出し、ピンを抜いて歩に向かって投擲する。

 歩は盾を解除することなく、木刀を再び展開し、彼女が無作為に放った手榴弾に投擲し、刈愛側に押し戻す。

「ほう?」

 刈愛の感心の声と共に小部屋内で爆発音がこだました。周囲は爆風のせいで埃が巻き上げられ彼女の安否は確認できない。

「やったか!?」

「私がこの程度の事を予見していないとでも?」

 淡々とした声と共に白煙の中から数発の銃弾が歩を襲った。

放たれた弾丸は五発。不意打ちの様に見えたその弾丸を歩は持ち前の反射神経と事前に警戒していた事もあってか、四発は打ち落とす事が出来ていた。がその内一発だけが歩の頬を掠めている。

「掠めただけか」

「目は良い方なんでね。剣道をやっていて良かった」

 白煙の中に隠れた刈愛は歩が話終える前に射撃を開始している。容赦なく射撃できるのも彼女の性格では立派に頷ける事だった。

 そもそも体育大会は学科間で行う代表者同士の戦争の様なもの。そこに同情は要らず、己が欲望の為に戦うのが正しい場所。

 それを考慮したとしても歩はマザーの件も含め刈愛の非情さに苛立ちを覚えていた。確かに正しい事ではあるが、倫理に反している。そう思った歩の腕はより、木刀を握る力が強くなっていた。

 マザーの機能を一部受け継いだ彼女の身体はきっと、自分の位置もそれで把握しているのだろう。それを逆手に取ろうと考えた歩はそっと目を閉じて瞑想を始めた。

 何処から撃ってくるのか、何発か、どのタイミングか、耳鳴りもしないぐらいに瞬時に集中した歩は居合いの構えをとる。

 足音はしない。スラスターの音さえも、この空間を支配しているのは無。白煙が舞い、視界は閉ざされ、頼りになるのは己の耳だけだ。

 刈愛はマザーから奪取したゴーグルを用いて周囲の温度などを検知している。サーモグラフィーで歩の位置は丸見えに等しい。

おまけに目も閉じている。

彼女は歩が自分の位置を模索している事に気付き、即座に射撃体勢に入り彼女に向けてトリガーを引いた。

「あぁ、この白煙だったら、目を瞑った方が見える!」

 放たれた銃弾は全て歩の木刀で叩き落とされ、刈愛に向けて正確に四本の木刀が投擲されていた。

「くっ!」

 蹴りでは間に合わない。刈愛はスラスターを噴出させ空中で全身を回転させながら、トリガーを引き、歩の投擲した木刀を全て撃ち落とす。更に刈愛は彼女に向けて足元に備え付けられた銃の安全装置を蹴って外し、両脚からも弾丸を放つ。

「足からも撃てるのか……」

 白煙を切り裂いた刈愛の弾丸は歩に向けて正確に放たれていた。白煙が消え失せたお陰と言ってはなんだが、歩は良好になった視界で彼女の放った弾丸が見えている。

 刈愛は予想した。歩がきっと盾を製作し、木刀で弾丸を撃ち落とし、再び反撃する為に木刀を投擲すると。

 直接叩きに来ることは確実にない。そう予想し、確信した刈愛は確実に歩を討ち取るため手榴弾を彼女に向けて投擲した。しかし、歩の行動は刈愛の予想に反して盾を展開せず、弾丸は極力弾く動きを見せるものの木刀を展開する事は一切ない。それどころか、彼女は一直線に刈愛に向けて走った。

 一歩一歩地面を蹴り、勢いを点けながら弾丸を数発受ける事があろうとも彼女の脚は留まる事を知らない。

「相手よりも早く、躊躇いなく、足を動かせ!」

 スラスターを起動し、歩から逃げるのは簡単である。が、今そこまでしてしまっては生徒会長の名折れ。と考えた彼女は敢えて歩の攻撃から逃げる事は無かった。故に歩も勢いよく走り出したのは良いものの、彼女の思い描いていた刈愛の対処と違う為、此処で計画を変更する。

「逃げては駄目だな。背を見せようとも見せなくとも結果は同じ、お前は木刀を私に向けて投擲し、逃げ場を封じた上で止めを刺すつもりだったのだろう。近接戦闘は私よりもお前が能力的にも上回っているからこその行動か、負傷をも恐れぬその動きに私は敬意を表する」

 刈愛は拳銃を取り出し、歩に向けて発砲する。計画を変更した歩の動きは木刀を召喚し、そのすべてで刈愛の機動力であるスラスターをすべて破壊するというものだった。

 早急に破片を搔き集め歩の体格よりも遥かに大きい木盾を構築し、銃撃から身を守り、更に残った木片を複数服の下に忍ばせ直撃した場合の事も計算に入れる。

「が、敬意を表しただけだ。敬意はあっても敵意は変わらん。私は、沙耶と違って加減が出来ないからな」

 銃弾に盾を向けた歩は前方への十分な確認が出来なかった。それもあってか刈愛は落ち着いて拳銃から武装を切り替え、拳銃の数倍もするバレルが長く太くなっている銃を取り出した。

 盾を構えながら走る歩を充分に引き付けながら、彼女は引き金に手を掛ける。彼女が手にしている銃は何を隠そう、散弾銃だった。

 歩は依然盾を構えたまま刈愛向けて突進している。

「考えろ……。拳銃しか使わないのは何か理由があるんじゃないのか……?爆弾は巻き込まれるから使わないだけ……私が向かうまで時間がある……。という事は!」

 歩は盾を縮小し、考え得る状況に対処する為に木刀を展開した。歩が盾を縮小した時には既に刈愛との体格差が分かる程に近づいていた。彼女の両腕は大事そうに銃を抱え、歩が盾を縮小した途端にそれを彼女の脚元に向ける。

「ショットガン!?」

 即座に理解した歩は盾を再膨張させ、防御を計る。しかし、それでは遅いとも同時に考えた歩は刈愛に向け木刀を飛ばす。

 彼女の身体を掠めた木刀は仕留め損ねていない事を理解しているかの様にもう一度、背後から刈愛を急襲する。しかし、刈愛はそれを逆手に取り、ショットガンを放ちながら上体を屈めた。

 盾を展開しきる前に散弾が歩の正面で爆散しながら彼女を襲う。加えて刈愛に再度向けられた木刀が歩に向けて飛来する。

 盾を全力で拡張したとしても今の歩の全身を防御出来る大きさの盾は製作出来ないと踏んだ歩はショットガンの散弾に防御を集中し、木刀を回避するという選択肢は捨てた。

「何故、木刀の魔術を解除しない?お前ほどの剣士なら出来るだろうに」

「私は普通科だ。魔法科の生徒ではないし、魔術なんて最初から使える訳がない。自慢げに言う事ではないが、解除の方法など見当もつかん」

「何?」

 襲い来る散弾のいくつかをその身に受けても歩は自らが放った木刀から目を反らす事は無かった。至近距離の散弾で体に数発受けるだろう。そう考えながら、歩は彼女の目を見ていた。

 無論、刈愛もその姿勢で歩の目を見ている。何を考えているか、次の行動は何か、彼女の瞳を見ながら、そっとショットガンから、無数に存在する腰のホルスターに手を置き、次に備える。

 こちらが彼女の木刀を受けるも止む無し、といった態度で刈愛はそのまま歩との距離を詰め、ショットガンを投げ捨てた。

「それで良い。私は此処までだからな」

 刈愛は拳銃を即座に構え、盾を降ろした歩に向け弾丸を放つ、散弾を受けよろけた歩は体勢を立て直す暇もなく、弾丸が襲い来る。

「終わりだ。送還されるが良い」

「此処までとは言ったが、悪あがきって奴はさせてもらう!」

 歩はバランスを崩した身体を揺り動かしながら、神経を集中させる。

 集中した歩の視線の先には、刈愛が背負うマザーのスラスターが入っていた。余力を振り絞る様に歩は彼女のスラスター目掛けて木刀の軌道を反らした。

「そういう事か!」

「途中で変更したが、上手くいったか……あとは、鋳鶴……」

 刈愛の放った弾丸は歩の掌、右足に着弾し、風穴を空け、さらに頬を掠めて歩の顔に一筋の鮮血が流れ出た。

 この時点で確実に勝利を確信した刈愛は、スラスターの出力を上げ木刀から逃れようと宙に浮く。

「お前の木刀は無駄だったようだ。三河歩、残念だったな」

 バランスを崩し、視界が徐々に、地に落ちていく中でも歩は刈愛の何かから目を反らす事は無かった。

「これでいい……これで……」

 刈愛は更に拳銃を放ち、歩の身動きを封じる。その動きと共に歩の星は強く鳴り響き、小部屋をその音と銃声だけが支配した。

 勝ちを確信し、安堵の表情を見せた刈愛を非情な現実と、歩の懸命な判断により、次に繋げる希望が出来たのだ。

 刈愛の右肩のスラスターを木刀が貫通し、彼女の右肩を捉えている。骨が軋む音と同時にこの一撃には流石の刈愛もスラスターの大破と共に地に腰を勢いよく打ち付けた。

「ぐっ……!」

「早く、私に止めを刺せ……。星を破壊しろ!」

 歩の腕は微動だにしない。肉体へのダメージが相当なのか、彼女の身体は金縛りになった時の様に自分の意志で動かす事が出来なくなっていた。

「お前は、望月鋳鶴をおびき出すための餌だ……。普通科最強の男と呼ばれる者の力、この目で確かめてみたくなってな」

「安心しろ……。貴女は、いや、お前はあいつには勝てない。戦闘能力だけじゃない。人間としてあいつには勝てない。この学園に居る生徒は誰もあいつに精神力では勝てない」

「それはどうだろうか、こっちの精神は三人分だ」

「それでもだ。あまり……、褒めたくはないが、あいつは金城沙耶、刈愛、そしてもう一人にも圧倒的な人間性の差を見せつけて勝利する」

 マザーの声も心の中に居る筈の沙耶の声も今の刈愛には聞こえない。望月鋳鶴と戦うという楽しみと、歩を倒した高揚感で全く耳に入らず、彼との対峙を迎える。

 右肩の痛みを忘れる程、目の前に現れた青年は思い人の負傷に眉間に皺を寄せ、刈愛を無視して彼女の元へ駆け寄った。

 青年の行動が更に刈愛の心を躍らせ、滾らせる。敵の大将を目の前にして仲間を先に優先するという態度と、その豪胆さに彼女は感心していた。

 鋳鶴は制服の裾を千切って歩の身体に巻き付け、止血作業をしている。今、撃てば歩だけでなく、鋳鶴すらも強制送還を狙える。と考えた刈愛だったが、視線も合わない鋳鶴の威圧感から彼女の引き金を引く手は止まっていた。


遂に、28話まで到達してしまいました……。31話の進捗ですか……?全然です……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ