表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
優しい魔王の疲れる日々(リメイク)  作者: n
優しい魔王の疲れる日々(リメイク)2
18/42

第16話:魔王と鬼2

今回は鋳鶴と誠の戦いの決着やいかに!そして二人の出会いはいつだったのか、どういうとこだったのかなどなど!


 太陽に照らされ、彼の金髪は風に靡きながらも整髪料で髪形を固めている為、崩れることはない。彼の金髪は風を受けて小麦畑の様に揺らめき、黄金に輝いている。

 今日も彼は自らに躊躇わず襲い掛かって来る魔法科の生徒を倒し続け、その生徒たちを山の様に積み上げていき、その頂点に座して魔法科の校舎を眺めた。

「今日も骨のない奴等ばかりだ」

 特段、飢えている訳ではないが先日の鋳鶴と戦った時。彼に対する手ごたえと魔法科の生徒たちに鋳鶴以上の技量を求めている自分が居る事に気付く。

 あれほど、鋳鶴を拒絶しておいて何だが、今の誠にとっては体育大会に出るのはあまり気が乗らないものの、鋳鶴との組手程度であれば熱烈歓迎する程度には彼との再戦を望んでいる。

 しかし、そう本心を鋳鶴に伝えてしまっては、そのまま曇りなき眼で自分の眼を見つめて僅かに残っている人としての良心を彼の前では隠す事が出来なくなってしまうだろう。

 先日、沙耶と食事に行った時も誠は彼女の瞳を魅入る様に眺めていた自分を思い出している。

 美味しそうに、満足げに、高い寿司でもなければ、上等な牛のステーキでもないのに、彼女は平凡なハンバーグ一つで喜んでくれていた。単純とも思うが、誠自身は沙耶と上手く出来ていることを完全に彼女のお陰だと思う。

 細かい事は気にしない性格の誠ではあるが、沙耶の事に対しては敏感である。特に彼女の中に巣食う別の彼女の気も使わなくてはいけない上に、彼女の中に巣食っている女性たちは皆、沙耶の様に真っ直ぐな性格をしていないからである。

 機械科では当然の様に思われているが、彼女の容体に関係なく突然入れ替わる事もある為、時には誠の家に遊びに来ている時。時にはデート中の食事中で入れ替わってしまうなど様々だ。

 ストレスを感じる事は少ない。彼女の中に眠る人格は確かに気難しくはあるものの。あまりに真っ直ぐすぎる沙耶と比べた上での気難しい性格。

 誠にとってもっと気難しい女性を目にし、耳で聞いた事がある為、まだましと、自分に言い聞かせながら沙耶ではない沙耶と会話をする事は出来る。

 他の人格の方々は皆女性であるが、女性という以前に人格の方々は沙耶の事を一番に考えている為、女性という以前に彼女の母親として見た方が早いのかもしれない。

 沙耶は一人っ子で尚且つ、小さい頃から親が殆ど家に帰って来る事がなかった家庭だ。誠の姉である瑞樹の事を彼氏の姉としてではなく、母親の様な女性として見ている節もある。瑞樹も誠もそれで困ることは皆無だが、他の人格や彼氏の姉を母親の様に見てしまう点については不安の種だ。

 沙耶の他の人格について考えていると、鋳鶴と戦った時に現れた自称魔族の男についても誠は困ったもの。と思う以前に沙耶とはまた違って真っ直ぐな知り合いである鋳鶴にそんなものが取り憑くとは……。と言った所感である。

 自分の下に積み重ねられている魔法科の生徒たちを見下ろすと、誰一人として誠に攻撃を加えられる生徒は居なかった。

 制服は若干焼けている部分はあるものの、彼の鬼の力は自身の身体の強度も底上げしている為、誠基準で微弱な魔術や魔力では彼に傷一つつけることは叶わない。

「結局、来たんだな」

「うん。どうしても君を諦められない。僕の城やんに協力してほしいという気持ちは本物だよ。皆、君の力を貸してもらいたいと思ってる」

「一日ぐらい考えてけどよぉ。俺はやっぱり出たくねぇんだわ。それに俺より弱い連中しかいない様な場所じゃあ俺は飼いならせねぇし、何よりも俺が狂っちまったらどうする?お前らの中で止めれる奴がいるのか?いねぇだろ?」

「僕が居るよ」

「あの魔族の力抜きでか?いくら魔術協会が庇ったと言っても俺は人を殺してる。また殺したらどうする?今度は姉貴も関係ねぇからな。お前らの誰かが尻ぬぐいするしかねぇ。一平のちゃらんぽらんや、お前に出来んのか?」

「そうなる前に、絶対に止めるさ。普通科のメンバーは僕一人じゃないし、何人でも君の前に立ちはだかってそれを止めるよ」

「一人にしてくれねぇのか?このまま、俺は魔法科を滅ぼす様な勢いでボッコボコにし続けるのじゃ駄目なのか?」

「城やんがいくら暴れても魔法科の人達はずっっと無視するだろうね。それは君の事を舐めてるというよりも魔術協会が好きにやらせろって言っている可能性もあるわけだし、生徒会長さんに一度会ったけど、君じゃとても勝てない」

「なんだとてめぇ!」

 誠は寝転がっていたが、立ち上がり、此処でようやく鋳鶴の事を見た。人の山の頂点に座す誠は鋳鶴を見下ろしながら威圧感を放っている。

「虹野瀬さんは強い。君一人じゃ勝てない。でも二人なら勝てる。僕と君が協力すれば、魔法科のトップを倒すのも夢じゃない」

「それでも一人で倒すって俺が言ったらどうする?」

「なら僕を倒してから行けよ」

 鋳鶴の表情から優しさが消えた。鋭い眼光を誠に向け、拳を胸の前で構える。

「どうあっても俺の壁になるんだな」

「うん」

「なら俺も容赦はしねぇ。体育大会に俺を出したいってんなら、俺の力が必要ってんなら、俺に勝ってもぎ取って見せろ」

「言われなくてもそうするさ」

 鋳鶴の啖呵と同時に誠は既に地面を全力で蹴り上げて彼に向かって突撃していた。前回よりも目が冴えわたっている鋳鶴にとって、今の誠の行動は目で読むことが出来る。

「以前よりも見えている!」

「ちっ、あの魔族が……!」

「いや、僕の戦闘能力が向上してるだけでしょっ!」

 誠は右拳を鋳鶴顔面目掛けて突き出した。この前の鋳鶴だったら、誠の高速移動を捉えられずに彼の右拳は鋳鶴の顔面を打ち抜いていただろう。

 しかし、今の鋳鶴は誠の動きが全て見えている上に視界が広がっている。目の前で普通科最強の不良が自分の顔面目掛けて拳を振るっているというのに、日常生活と何ら変わらない様な速度で誠が行動している様に見えていた。

「「おっさん、何かした?」」

「「俺は何もしていないさ。ただ、君が俺の眼も使える様に順応し、同調しただけではないかね?俺が君の中に居る限り、俺たちの眼は四つあるのに等しい。背後は見えないにしても視野は広がり、城屋誠の動きもはっきりと眼で追えるようになったということさ。最も君が俺に合わせているだけだったら、同調できなくなった時点で城屋誠の高速移動の術中にはまるがね。ピアノを設置して良かったと思うだろう?」」

 昨日の夜、そして今日の朝もおっさんと心象世界の中で鋳鶴はピアノの連弾をした。最早、日常生活に欠かせなくなったそれはピアノの練習も兼ねて行える一石二鳥の同調である。

 誠の突き出した右拳を鋳鶴は左手で包み込む様に優しく受け、その力を利用し、自分の体を浮かせて右拳を打った隙だらけの誠の延髄目掛けて蹴りを繰り出した。

「こいつっ!」

 間一髪の所で誠は首を傾けて鋳鶴の蹴りを回避し、足の行方を目で見送る途中で鋳鶴に右拳を利用され、もたついているにも関わらず、圧倒的な反射神経で鋳鶴の足を掴んだ。

「なっ!」

 掴んだ足を両腕でしっかりと抱え鋳鶴を地面に叩きつけようと振りかぶる。

 その途中で鋳鶴は抑えられていない左足で誠の顔を蹴るも誠によって全身を地面に叩きつけられてしまう。

 一方の誠も鋳鶴に蹴られた箇所が悪かったのか、口内から流血している。

「ぐふっ……、痛っ…!」

「やるじゃねぇか……クソが……」

 誠は鋳鶴を叩きつけてすぐにバックステップし、何とか痛恨の一撃は避けた所だが、見てくれは鋳鶴よりも誠の方が深刻である。

 鋳鶴も誠に叩きつけられた衝撃で体の自由が若干奪われていた。

「やっぱり、一筋縄じゃいかないか……」

「お前も強くなったな。体が単にデカくだっただけじゃねぇ。技術的な意味で俺を凌駕する気で居やがる。そこまでしても俺を体育大会のメンバーに加えてぇと」

「そうだよ。悪いかよ!」

 鋳鶴は無理矢理起き上がって顎を抑える誠に向かって接近を試みる。

「あぁ、それは悪ぃことだよ!」

 誠の雰囲気が瞬時に変った。先ほどまで彼の体にはなかった水蒸気の様な靄が全身から噴出されている。

 鋳鶴は直視せずとも理解出来た。

 あれは「鬼」としての力を解放したのだと。

「「不味い展開になってきたな。今の君では鬼の状態に覚醒した彼を相手にするのは腕が何本あっても足りないかもしれない」」

「「確かにそうですね。僕もおっさんの力を借りて同等だったのに鬼の力を解放されては手も足も出ないでしょうね」」

「「あぁ、同調が済んでいなければな。君は一人じゃない」」

「「分かってますよ。不本意ではありますけど、城やんを倒すにはその手しかない。でも二手だけ、城やんの二手だけ、様子を見させてもらってもいいですか?」」

「「構わないが、死ぬ可能性もあるかもしれんぞ。あの状態で君に手加減してくれるかは分からんからな」」

「「分かってます。「俺」一人だけならどうなるかを体験したいだけです」」

 全身から靄を噴出する誠がゆっくりと、鋳鶴に向かって足を一歩だけ前に出した。鋳鶴はゆっくりと相手に威圧感を与える様にこちらに接近するものだと考えている。が、現実は違った。

 鋳鶴との距離数十メートルを誠はたった一歩で埋め、鋳鶴の懐に入り込む。

「こい!城やん」

「……」

 誠は無言で鋳鶴の胴目掛けて拳を叩き込んだ。

 まるで弾丸の様に速く視認する事さえ許さない拳を鋳鶴は辛うじて魔力の波紋を生み出して片手で受け止めている。

 魔力で作り出した波紋も誠の拳の速度の前では形を維持するには数秒が関の山。間髪入れず左拳が鋳鶴の顎を襲う。

 波紋を作り出すものの誠の拳圧に吹き飛ばされ速度を緩める程度の事しか今の鋳鶴には出来ない。と確信づけられた。

「おっさん!」

「「仕方あるまい」」

 此処で鋳鶴はおっさんにスイッチして誠の左拳を上半身で反らし、寸での所で回避する。しかし、誠は既に鋳鶴の足を蹴り飛ばそうと、左拳と同時に左足で蹴りを繰り出していた事に気付く。

「これは、なかなか手厳しい事をしてくれる!」

 上半身を反らした体の動きを利用しておっさんはバク宙をし、誠の顎目掛けて踵で蹴りを繰り出そうとした。

「その動きはもう見たぜ」

「正気を失っている訳ではないのか!」

 おっさんの踵を掴んで誠は魔法科の校舎に向かっておっさんを投げつける。空中での受け身を取る前に誠の肩力が勝り、中身がおっさんに変っている鋳鶴の全身は魔法科の校舎に打ち付けられる。

「ガㇵッ……!」

 壁に打ち付けられた衝撃で校舎にはクレーターが刻まれ、おっさんは額から鮮血を流している。

「これほどとはな……」

「ぎりぎりの所で意識を保っててもこれなんだ。許してくれや」

 謝罪と共に、瓦礫に下で倒れ込んでいるおっさんに誠は蹴りを加える。その蹴りの威力も普段とものとは段違いでクレーターの部分にもう一度、誠はおっさんを叩きつけた。

「人間の体はやりにくい。君はその点、戦いやすそうだ」

「俺は自己責任だからな。誰にも迷惑はかけねぇ加減ぐらい知ってるさ」

「ふっ君が思ったより優しい男で助かるよ。俺は魔族だ。鋳鶴もそうなると魔族になる。忌むべき存在であるはずなのにな」

「それはちげぇ。お前は死ぬほどぶん殴りたいが、鋳鶴は違う。あのクソッタレのお人好しは俺のダチだからな。俺はお前だけを倒す方法を考えてるだけだ」

「鋳鶴へのダメージを極力避けながら、俺を鋳鶴から分離させる方法を探す。か、そうなってしまっては鋳鶴は負ける。普通科も負ける。君如きに俺と鋳鶴の野望は止められないと教えてやる」

 身体を強化したわけでもない。

 体の何処かに細工をしてある。という気配も皆無。

 ただ、おっさんは鋳鶴の身一つで誠に向かって突っ込んで行く。

「「これでいいんだな?」」

「「よくわかりましたね」」

「「君の考えていることは手に取る様に分かる。だからこそさ。波紋を作るのは君の方が俺よりも上手だ」」

 おっさんと鋳鶴は誠との距離数メートルの所でスイッチした。

「今、放出出来る魔力を考えて放出しろよ……「俺」!」

「鋳鶴に代わりやがったか、だが関係ねぇ!」

 誠は自分に突っ込んでくる鋳鶴の額目掛けて右拳を振るう。その動きに合わせて鋳鶴は身体を傾けると同時に右拳に向けて右腕を翳す。

 反射神経は誠の方が何枚も上手、鬼の力で研ぎ澄まされた誠の反射神経は鋳鶴の突拍子もない動きですら読み切り、左足を鋳鶴の右わき腹目掛けて繰り出す。

「その動きを待ってた!」

 鋳鶴は咄嗟に右腕を返し、お辞儀をするかの様に上半身を綺麗に畳み、誠の左足が直撃するであろう右わき腹部分に魔力の波紋を作り出して防御を試みる。

「無駄だ!ぶち抜いてやる!」

「いいや、無理だね」

 鋳鶴の右わき腹に誠の左足が届くことはなかった。先ほどよりも強い蹴りだというのに、同じ波紋でその威力を吸収どころか完全に無効化された誠の左足はその場所に留まり続けている。

「なっ!波紋で俺の足を!」

 目的は誠の攻撃を無効化すると共にその足を空中に固定し、彼の動きを封じ、その隙を狙って一撃を叩き込むという策だった。

 まるで底なし沼の様に、誠の左足は波紋から抜け出す事が叶わない。

「「鋳鶴、脇腹だ。脇腹が一番適切な攻撃箇所だと俺は思う」」

「「いや、おっさん。そんな事より、もっと友好的な部位があるよ」」

「「ん?」」

 鋳鶴は魔力を右腕に瞬時に込めて一気に放出した。

ジェットエンジンの様に爆発力のある彼の魔力は、右拳の速度を上げ、誠の左頬を打ち抜くだけでなく、より強く握り拳を握り、誠の顔に触れたと同時に魔力の放出量を全開にし、彼の顔面を殴りつける。

 あまりの衝撃に誠の左足は波紋から抜けだし、背後に数十メートル程吹き飛び、そのまま天を仰いで倒れた。

「はぁ…はぁ…」

「「君はよくやった。まだ全力級ではないが、今の君が繰り出すには十分な一撃だと俺は思う」」

「「おっさんありがとう。でも城やんはこの程度でやられる玉じゃないよ。まだ立ち上がるさ」」

 まさに鋳鶴の言うとおり、誠はすぐに立ち上がり、首に手を当て勢いよく動かし、豪快に首の骨の音を鳴らす。

 鋳鶴に殴られた後は真っ赤に腫れ、口元からは血が滴っている。

「魔力を放出して拳の威力を上昇させたか。どこの誰に習ったか聞きてぇが、今はそんな事を気にしている場合じゃあねぇ」

 誠は制服を叩きながら考え事をする為に天を仰ぐ。

「早い奴ならその動きを止めちまえばいい。ゴキブリホイホイみたいなもんだな。早すぎるなら粘着で捕まえちまえばいい。ナイスアイディアだと思うぜ。俺を抑える波紋も必要最低限の魔力且つ、次の魔力放出の一撃に繋げられる様にそのまま固定したままではなく、俺を殴るインパクトの瞬間に解放し、自分の懐に魔力を戻すってか」

「「流石鬼。戦闘のプロだな」」

「「褒めてる場合ですか!次が来ますよ!何回も成功する様な技じゃないんですからね!」」

「「そんなことは分かっている。しかし、ナイスアイディアだった」」

「でも俺はこんなんじゃ倒せねぇぜ!」

 誠が高速移動で鋳鶴の視界から消える。と同時に先ほどと同様。鋳鶴は誠が攻撃するであろう体の位置に波紋を配置し、構えた。

「なら劈けばいいんだよ」

 鋳鶴にとって見た事の無い魔術が目の前で発動される。

 いや、これは魔術ではない。誠がただ、自分の拳に魔力を込め、鋳鶴とは違い。魔力そのものを相手に向かって放出していた。

 腕を銃口だとすると魔力の塊は弾丸。誠の殴る行動で撃鉄が放たれ銃弾が構えた方向に向かって一直線に飛んでいく。

 鋳鶴が作り出した波紋は誠の拳から放たれたビームの様に一直線な魔力によってちり紙の様に破られ、彼の体に誠の魔力が直撃する。

「グㇷッ……!」

「お前の波紋には弱点がある。一つ、それは飛び道具に弱い。二つ、俺みたいな馬鹿にしか利かない。三つ、まだ作り慣れてないせいか、急造すれば形はガタガタだ。魔法科の連中でもこんな事する奴は居なかったから一撃貰っちまったが、二度は通用しねぇ」

 誠は同じ様に一直線な魔力を鋳鶴に向かって放出する。

 まだ正確に撃てていない為、なんとか致命傷を裂けたが、誠の撃った魔力は数十発。そのうち三発は確実に鋳鶴の体を捉えていた。

「はぁ…はぁ…」

「ご自慢の波紋もこれじゃあ終わりだな。俺の魔力による攻撃はどうだ?」

 鋳鶴は腹部を抑えながらその場に倒れ込んでいる。

「利いたよ……。すごく、すごく痛かった……」

「そうかそうか。ならもう終わらせるぞ」

「終わらせてたまるか!」

 鋳鶴が減らず口を叩く前に誠は魔力を放出する。

今度は鋳鶴の顔面目掛け、この一撃でもう彼を退かせられる様に、と。

「一点を狙われて破かれるなら……!その一点を強化しろ!」

今度は波紋ではなかった。性格に言えば波紋ではあるが、まるで波紋が花弁の様に、鋳鶴が正面に翳した手から無数の波紋が現れる。

「何!?」

「これでいい……。遠くからはこれでいい!」

 鋳鶴は生気を取り戻し立ち上がる。まだ立ち上がって来るのか、と誠はいつになったら鋳鶴が降参し、倒れるのか。と考えた。

 その一瞬が命取りだと知らずに。

「おおおおおおおおお!!!!!」

「こいつっ!」

 誠と似て非なる瞬間移動の様な魔術を使ったのだろうか、誠の正面に鋳鶴が現れ奇襲をかける。

「お前、瞬間移動も出来るのかよ!」

「違う。君の真似をしただけだよ」

「何?」

「君の動きを瞬間移動だと思っていた僕が馬鹿だった。さっき、君を殴った時の様に僕自身の足から魔力を放出すればあの高速移動が可能だ。ってね」

 互いの拳がぶつかり合う。

防御の必要性はほぼ皆無。

誠には「鬼」の力。

鋳鶴には「魔」の力。

 似て非なる二つの存在が今、凌ぎを削って戦っている。理由はどうあれこの二人を止める者は少なくとも魔法科には居ないだろう。

 異形の二つの戦いに観衆が疎らに現れているのも事実だ。

 誠が鋳鶴の顔面目掛けて手刀を繰り出してもそれを鋳鶴は止め、誠の顔に蹴りを入れようとする。

 その蹴りを受け止め、誠は鋳鶴の足を掴み、再び地面に叩きつけようと試みた。

「お前はやっぱり格がちげぇ。魔法科の雑魚どもより、よっぽどお前の様がつえぇわ」

「それは良かった。良くないけど」

 互いの手の内は大体理解した。

 誠も鋳鶴の波紋に引っ掛かることなく、鋳鶴に向けて拳や蹴りを繰り出す。

 鋳鶴も負けじと、魔力放出を重ねながら誠の顎や肩甲骨目掛け攻撃を加える。

「これが生きてるって事なんだよなぁ!骨のある相手っつうのはいつも倒し甲斐があって最高なんだよなぁ!!!!!」

 誠の動きが加速した。靄の噴出量は増え、まるでディーゼル機関車の様に誠は煙を全身から噴き出している。

まだ上の段階があるのか、と鋳鶴は半ば呆れながら誠の繰り出す技を正確に受け止め反撃の機会を伺う。

決して誠の拳や蹴りの全てが見えている。分かっている。という訳ではない。波紋を設置して守りを固めた時の様に、鋳鶴の頭の中には今の誠を倒すには計算通りではいかない。という事と、頭脳よりも真っ先に力という所に苦戦を強いられているのが本音である。

「「右だ」」

「「右?」」

「「あぁ、右から攻撃が来る」」

 鋳鶴はおっさんの言う事を半信半疑で信用して左側に回避した。誠は瞬間移動して鋳鶴に襲い掛かろうとしていたが鋳鶴の咄嗟の回避で空を掴む。

「「少しづつだが、城屋誠の動きが読めるようになってきたな」」

「「本当ですか?」」

「「鬼の力のお陰で動きが単調な部分もある。だからと言って油断はするべきじゃないがね」」

「避けんな!」

 鋳鶴は見逃さなかった。

 自分を掴もうとする誠の動きに一瞬だけ、ぐらつきが生じたことに。

「城やんのなんの考えもなしに突っ込んで戦うスタイル。嫌いじゃないよ。今は君と敵対してるからあまりしてほしくないけどね!」

「まだ、俺と戦うのかよ。お前、どんだけ……狂ってやがるぜ」

「言ってるだろう?君が体育大会の戦力としてほしいんだ。城屋誠という男は誰よりも正義漢で誰よりも差別を嫌い。誰よりも魔法科を嫌う男なのだから」

誠の全身から噴出されていた靄が徐々に減っている事に鋳鶴は気付いた。長時間の「鬼」の力を行使した結果だろう。

「城やん……」

「まだだ。エネルギー切れじゃねぇ!俺は!俺はまだ我が儘を突き通すぜ。お前らに協力するなんざ御免だ!これは俺が始めたことだ!てめぇらの力なんていらねぇ!だから、俺の前から去れ!」

 弱まっていた靄がエンジンを再点火させるように噴出し、誠は己の平静と自分の能力の持続性を向上させる。

 鋳鶴に負けることもプライドが許さない。それであって負けたら普通科の協力などと言われたら、誠は諦める訳にはいかなかった。

 誰かの為に何かの為に戦うのは馬鹿馬鹿しい。それが誠の心情であり本音だ。

 しかし、彼もまた姉の瑞樹と普通科の名誉を守る為に戦っているのも確かである。自分はそうではない。と思う程。鋳鶴を目の前にすればするほど。

 城屋誠はその目を閉じたくなる。その目を背けたくなる。

「俺は!俺はてめぇーの為に戦ってんだ!体育大会なんざ!もう二度出る訳にはいかねぇ!これはけじめだ!俺の!俺の!けじめだ!」

「「誠は君に籠絡するつもりはなさそうだ」」

「「そうですね。というか、おっさんのお陰ですか?僕の体が回復しているのって」」

「「見た目は無理だが、最低限の行動は出来るように回復は施したつもりさ」」

 誠に受けた傷は未だ生々しいものの。鋳鶴の体は徐々に回復していた。

「「誠の鬼の力が鈍っている。だから回復力も落ちているんだろう。単純明快だが、単純が過ぎる能力だ。ガス欠も早い。精神状態も安定していない」」

「君は、僕に負ける」

「負けねぇ!俺は普通科最強だ!お前に負けてたまるか!」

 まだ誠の瞬間移動は持続している。

 鋳鶴は考えた。誰かの為に、何かの為に戦う事が何よりも愚かだと思う。と。

 誠は確かに彼自身の精神力が安定していなくても強いだろう。

 おっさんが居なかったら鋳鶴は今頃、野に伏していた筈だ。自分でそう心に言い聞かせながら向かってくる誠の事を見る。

 鬼の形相とはこの事か、そう思う鋳鶴は誠に向かってただ、黙々と握り拳を固めて構えていた。

 誠の鬼気迫る表情は新鮮味がある。隣で彼の表情は見たことがあるが、とてつもなく楽しい。今はずっとそう思い続けた表情が目の前にある。

 誠は歩たちと一緒に自分を絶望から救い出してくれた。一部の記憶が欠落していた時期が今もある。歩が居なくなってから数年後に鋳鶴は本来の心が目覚めた。

 それを戻してくれたのは桧人だけじゃない。誠もそのうちの一人だ。

 自分の尻ぬぐいをしてくれた相手に全力でぶつかるのは心苦しい。が、今の鋳鶴にとっては誠に勝利し、普通科を体育大会で勝ち抜くのは一番の目標であり最優先の任務。

「オラァッ!!」

 誠は右拳を鋳鶴の顔面目掛けて振り抜く、あまりの勢いに空気が裂けているのか、鋳鶴の耳に機械音に近い様な音が鳴り響き、集中力を散漫にさせる。

 鋳鶴は誠の右拳を寸での所で回避した。まるで蛇が狭い通路をその長い体をくねらせて入っていく様に、鋳鶴は誠の右拳を回避して右側に回り、彼の懐に潜り込む。

 鋳鶴はもう誠の右腕は見ていない。

視界に入っているのは誠の胸と顎だけだ。

鋳鶴は握った右拳を誠の顎目掛けて一直線に振り抜く。

「「決まったな。投了だ」」

「はぁはぁ……。今、決まったと思っただろ……」

 一瞬の出来事だった。鋳鶴の繰り出した右拳は誠の赤色に発光する左肘によって除けられている。

 鋳鶴の右腕は逆方向に湾曲し、声も出せぬまま、膝から崩れ落ちていく。

「「鋳鶴!正気を保て!来るぞ!」」

「俺は……!負けねぇ!」

 左肘を戻す前に、誠は鋳鶴に回避された右拳を戻し、再度鋳鶴の顎目掛けて構えた。この間、実に三秒程度。鋳鶴もついに死に物狂いの形相で誠の顔を睨み付ける。

「根性なら、お前の勝ちだ。でも単純な戦闘技術では……!俺が上だ!」

 鋳鶴の顔面に誠の右拳が叩き込まれる。

 今までで一番で最高の一撃を頬に貰い、鋳鶴の頭は真っ白になった。視界は広がっているのに、誠を前にただゆっくりと崩れ落ちるだけ、落ちているという実感はない。ただ、ずっと昏睡状態と言えばいいのだろうか、浮遊している感覚に襲われているだけだった。





「なぁどうしてお前みたいな温厚な奴が隣町のヤンキーから狙われてんだよ」

 ある一夏の出来事。

 制服を着た二人の青年が公園のベンチで休んでいた。片方は高校生離れした体躯に金髪。制服は魔法科のものだろう。

一方、もう片方の制服を着た青年は黒髪だった。金髪の生徒よりは小柄なものの細い線にぎっしりと筋肉が詰め込まれている様な体躯をしている。

制服はどうやら普通科の生徒の様で魔法科と違ってごく一般的な制服に近い。

 両者、額だけでなく、腕などにも汗を滲ませながらベンチに倒れ込んでいた。

「そんなの僕が知りたいですよ!僕は何もしていないのに襲われるなんてたまったもんじゃない!」

「いや、襲われるのには何か原因があんだろ?話してみろよ。助けてやったついでに笑い話の一つや二つ聞きてぇしよ」

 黒髪の青年は金髪の青年バレない様にこっそり睨み付けた。

「そういう所がいけねぇんじゃねぇの?俺だからいいけど、あいつらなら血相変えて罵詈雑言でも吐きながらてめぇを襲うぞ?」

「本当に困ったもんですよ。面識のない人たちから追い回されるのって最初は斬新だ。とか、珍しいなぁ。とか思ってましたけど、毎日それが起きるなら地獄ですもん」

「ははは。ちげぇねぇ。でも毎日襲われるってこったぁ相当相手さんを怒らせてんだぜ?事情は知らねぇけど、よっぽどのことやってんじゃねぇの?」

「やってませんよ!僕はただ名前を教えただけです。それだけで襲われるっておかしくないですか?相手とは会った事もないのに」

 黒髪の青年はゼスチャーを混ぜて金髪の青年に思いを伝える。黒髪の青年の動きはとても奇妙で大げさで金髪の青年にとってはお笑い芸人の様な滑稽な動きにしか見えなかった。

「よっぽど悪い事してたんだろ。それによっぽどのビックネームなんだろうな。巷のヤンキーが名前聞いてそれ答えたら追いかけてくる。襲ってくる。お前、名前はなんて言うんだよ」

「もう名乗るのはやめました!貴方にだって襲われたらひとたまりもない!」

「わーったよ。俺から自己紹介しろっていうんだろ。俺の名前は城屋誠。名古屋城とかの城に屋台の屋。誠は新選組だっけか?あいつらの旗と同じやつな。それでわかんねぇなら誠実の誠だ」

「城屋誠!?鬼の誠と呼ばれてる!あの城屋誠!?」

「何だ。知ってんのか、そうだ。俺は鬼の誠こと、城屋誠さ。そんでお前は?」

「僕の名前なんて何もないと思いますけど、望月鋳鶴です。望むに月で望月。鋳型の鋳に鶴の鶴で鋳鶴です」

「望月鋳鶴!?お前が!?冗談きついぜ。そもそも望月鋳鶴は赤髪だって話だ。黒じゃねぇか!黒!」

「そりゃあ赤なんて目立ちますし、それに友達とも被るってことで辞めたんですよ。それで少しは彼の方に僕への果たし状とかが行くようにはなりましたけど……」

「まぁ丸くなったって事は、間違ってねぇんだろうな」

「丸くなったも何も僕は昔からこのままですよ」

「まぁよく分かんねぇけど、何かの事情があるっぽいし、俺も隣町のクソッタレ共にはむしゃくしゃしてたところだ。全力で迎え撃つか」

「居たぞ!城屋と望月だ!殺せ!」

 様々な風貌の不良たちが鋳鶴と誠の周囲を取り囲んでいた。

 リーゼントヘアーの者、アフロの者、ドレッドヘアーの者、鉄パイプや釘バットを手にしている者も少なからず居るだろう。

 鋳鶴は、もう嫌だ。と今にでも叫んでしまいそうな程、眉を顰めている。一方の誠は拳を固めながら腕を二、三度鳴らしながら舌なめずりをした。

「なぁ、望月、ちゃあんと手を組まねぇか?」

「ちゃあんとって言うと、結局、争い事は避けられない感じですかね……」

「当たり前だろ。お前が覚えていなくても、お前に非はなかろうと、これはお前が起こした事だ。それともなんだ?たった一人でこれを相手にするってか?」

「一人じゃ無理ですね……」

「なぁ、一つ気付いたんだけどよ。お前、他人を巻き込むタイプだよな?」

「え、何でですか?」

「今、俺ってこれ、完全に巻き込まれてるやつだからな。それに俺は、お前に協力してくださいの一言もなく、俺はお前とさっきまで戦わされてたもんな」

「それに関しては……、非常に申し訳ないと思っています……」

「いや、だから……、謝罪よりも先に協力を求めろよ」

「助けるか、助けないかは城屋さん次第。とだけ言っておきます」

「はぁ!?」

「だってこんな事に巻き込んでしまってすいません。なんて謝罪したくないんですよ。あくまで僕の問題ですし、それに助けてもらうって言うのは、他人に頼む事でもありませんよ」

「ならどうすりゃいい?」

「此処まで言って引き下がらないって……、城屋さんって友達いないんですか……?」

「いねぇな」

「なんか、申し訳ないです……」

「やめろよ。謝られる方が傷つく。俺、心の方はデリケートなんでな」

「おい!何ゴタゴタ抜かしてやがる!」

 誠の背後から、彼の後頭部目掛け、不良の一人が釘バットを振り下ろす。

「うるせぇよ」

 誠はまるで相手の叫び声から何をするのかが、理解出来ていたかの様にバットを掴み、そのまま不良を投げ飛ばした。

 投げ飛ばした先にも複数の不良たちが構えていたが、ドミノ倒しの様に連なって倒れてゆく。

「言えよ。助けてくださいってよ!」

「嫌ですよ」

 鋳鶴は、誠に向かってくる不良たちをなぎ倒しながらそう吐き捨てた。

「やっぱりお前、強いわ」

「そうですか?」

「謙遜すんなよ。俺から見ても強いと思うぜ!」

 相手は魔術を使わない。その事実が、誠からすれば、いつも魔法を使う様な連中を相手にしている為、飛び道具が無い事で心と突き出す拳に一切の迷いを消す。

 魔法科の生徒ならごく少数とは言えど、誠の拳程度なら消し飛ばす、吹き飛ばす、ねじ切るなどは容易な手段である。

 そんな相手を見ていた誠にとって隣町の不良如きに彼の相手は務まらない。

 勿論、鋳鶴も同様で記憶は戻っていなくとも一連の攻撃方法は脳裏に体に焼き付いている。不良たちを寄せ付けず、二人は、互いの背を相手に任せ、正面の敵を一人ずつ撃破していく。

「体が覚えているだけで、それだけ動けりゃあ最高だぜ。普通科も捨てたもんじゃねぇな!」

「魔法科にも城屋さんみたいな人が居るなんて不思議ですよ。魔法よりもよっぽど、拳の方が使い慣れてるなんて」

「あぁいうのは得意じゃねぇんだよ。俺って脳筋だからよ」

「城屋さんの方が、僕よりも倒してますしね。そりゃそうですよ」

 鋳鶴は、微笑みながら、そう言った。

 彼も鋳鶴の微笑む顔を見て、口角を釣り上げて笑っている。誠の反応を見て、鋳鶴は大の字で仰向けに倒れている彼に近づき、目の前に手を差し伸べた。

「ん?」

「こんな困難を乗り越えたんですから、ほら」

「さてね。俺にはさっぱりわかんねぇ。お前から言ってくれねぇとわかんねぇなぁ」

「分かりましたよ。なら、友達になってください」

「ならって、ならってねぇ?」

 誠は眉を顰めて鋳鶴の手を取らず、彼の好意にそっぽを向いた。

「えぇ……」

 鋳鶴は、誠の視線が自分の顔を直視出来るよう隣に寝そべり、呆れ顔ではなく、真摯な微笑みで彼の目を見つめながらゆっくりと誠の正面に立って手を差し出した。

「友達になってください」

 誠は、鋳鶴の目を見て沈黙した。特に何か、考えている。という訳ではなく、鋳鶴のその手を拒もうとした訳でも無く、鋳鶴のその態度を目にして呆気にとられていたのだ。

「そんな顔も出来るんだな。演技か?」

「演技で言ってたらさっきみたいになりますよ。僕だって今日の城屋さんを見て、こうして手を差し伸べているんですから」

「いや、それでもお前のあの顔は、破壊力が強いわ。悪態ついてる様な表情しかしてなかったしな。ダチになる件はいいぜ、お前のダチになってやるよ」

 誠は鋳鶴の腕を千切らん勢いで鋳鶴の腕を振り回した。鋳鶴は「痛い痛い」と言いながらも誠に笑顔を見せている。

「お前と居れば、面白れぇ奴とかやべぇ奴とも会えそうだしな。よろしく頼むぜ?」

「そういう面で期待してるならあんまり期待しない方が……」

「そうか?ははっ、お前、ギャグ選高いぜ。最高だ」

 誠はその後、鋳鶴に背を向けたまま手を振り、夕日に向かって消えて行った。その日から鋳鶴と誠は友人になり、お互いを認め合う唯一無二の関係となったのである。






「「鋳鶴……!起きろ!望月鋳鶴!」」

 走馬燈の様に突如再生された自分の記憶から覚めようとしていた鋳鶴の耳元に聞きなれた中年男性の様な声が鳴り響く、いつも早起きで起こされるという経験があまりない鋳鶴にそれは斬新で、尚且つ、男性の声で自分の起床を急かされるとは人生初の出来事だった。

「「いつまで寝ている!君の身体はもう限界だ!俺の回復力も間に合わない。早く起きろ!望月鋳鶴!」」

「人が気持ち良く寝ていたのに、どうしたんです?」

「「どうしたんです?ではない。この愚か者め!城屋誠は君とまだ戦う気でいたんだぞ。君が倒れていようがお構いなし、きちんと止めを刺しにかかっていた!」」

「それで、僕の体は……?」

「「俺が対処しているに決まっているだろう。君は本当に大愚か者だ!走馬燈を見る暇があったら多少は俺の問いかけに応えたらどうだ」」

 鋳鶴はゆっくりと起き上がって、周囲を見渡した。

 いつもおっさんと会話をする際に訪れる鋳鶴の心象風景が映し出す、自分の世界に鋳鶴は居た。頭上に広がるディスプレイでは、自分の体を駆使したおっさんが誠の攻撃を対処している。

「僕の身体、ボロボロじゃないですか」

「「当たり前だ。あの様な倒され方をしては、人間として死ぬかもしれない様な顎への的確な一撃だ。俺が君を回復させながら戦う。という選択肢を取らなければ、危うく大量出血で死んでいたかもしれないんだぞ」」

「本当にすいません。起きます!」

「「まぁ、それは急いでほしい案件だが、どんな夢。いや、走馬燈を目にしたんだ?」」

「城やんと会った時の事を思い出してましたね。本当に今も昔も変わらない強さと、真っ直ぐな人だと思いますよ」

「「その彼は、どうしても体育大会に参加したくない様だし、君を半殺しにする程度には攻撃してきている。それでも君は、彼を許し、味方に引き入れようとするのか?」」

「引き入れますよ。そうしないと普通科は勝てませんし、何より、僕って負けず嫌いですからね。城やん相手でも引き下がりたくはありません」

 おっさんは呆れ気味に溜息を吐いた。

「「そういう所も含めて、君は愚か者だと俺は思う。城屋誠は強いぞ?手負いの状態でなければ、俺が君を操作して勝つのがやっとだ。君の体はもう限界が近い。俺の回復力でも完全に再生するには至らない程のダメージを受けてしまっている。しばらくは病院での生活を送るかもしれんが、それでも構わんかね?」」

 目の前では、おっさんが鋳鶴の代わりに誠の攻撃を受けては流しを繰り返している。

 無理に攻撃に転じた場合も何が起こるかわからない。おっさんにとって鋳鶴の身体は本来の身体ではない。自分の体の事を理解し、行動できるのは自分だけである。

「行けます」

「「はぁ……。相当キツいぞ?投げ出してしまうかもしれない。それほどの痛みだ」」

「大丈夫ですよ。こうなる事は覚悟の上でしたし、簡単に城やんを倒せるとは思っていませんでしたから」

「「本当に、喰えない男だ。君の身体はさっきから言う様に限界だ。しかし、城屋誠も魔力を僅かに回復させたのか、放出せずに俺を攻略しようと画策している様で俺に直接決めてとなるような攻撃を仕掛けて来ない。あくまで彼は、君を倒すという事を視野に戦っていると思う」」

「了解です。交代、お願いします」

「「仕方ない。君に交代する」」

「おっさん」

「「何だ?」」

「ありがとうございます」

「「ふん、俺の苦労を少しは買ってくれたようで何よりだ」」

 鋳鶴はおっさんとバトンタッチし、自分の世界から飛び出し、誠の前に現れた。おっさんの言う通り、身体のダメージは激しく、まるで全身に重りを着けられているかの様に四肢が自由に動かない様子である。

「やっと出てきやがったか」

「あぁ、さっきはよくもやってくれたね。お陰で懐かしい事を思い出してたよ」

「あいつのお陰でおれは回復が出来た。いつもの半分も力が出せる気はしねぇが、お前が俺を追い詰めた事実は残る」

「でも君は倒れていない」

「あぁ、俺は倒れていない」

「まだ体育大会のメンバーに入ることはない?」

「無いな。俺はお前に負けてねぇ。だから、俺は体育大会のメンバーにはならねぇ」

「僕は、君をメンバーに入れるまで、立ち塞がるよ」

「そうかよッ!」

 誠は全力で地面を蹴り、一瞬で鋳鶴の正面に現れた。その一瞬で彼の右腕は赤色に染まり、握り拳を固め、鋳鶴に狙いを定める。

 鋳鶴は、紋を自分の前に形成し、誠の右拳に対しての防衛策を発揮した。

 一連の動きは誠にもう把握されている。彼は鋳鶴の行動を先読みして右拳の固めると同時に左足にも魔力を溜めていた。

 余裕など、無い。しかし、鋳鶴は誠の眼をこの瞬間に見た。

 目の前に立ち塞がっている人間は、親友とも言える相手。

 躊躇いも無く、曇りなき眼であったが、誠の目に鋳鶴の顔は映っていない。相手の顔を見て攻撃を加えないという事は、誠自身が自分を殴る行為自体を嫌悪しているかの様に鋳鶴は感じ取った。

 それは、油断でもなく、慢心でもなく、親友に攻撃を加えるという事は、誠にとって避けるべき事柄であり、本来はそれを振るいたくないという本心の現れである。

 鋳鶴は、誠の心境を瞬時に読み取り、誠の視線を追うのを止め、彼の顔を見た。

「「彼に、通常の攻撃は通用しないだろう。攻撃と同時に魔力を放出して吹き飛ばす事を推奨する」」

「「でもおっさん、それってさ。城やんに読まれない?」」

「「あぁ、勿論。だからこそ、俺は鋳鶴君のいや、望月鋳鶴の才能を信じる事にしてみよう。君なら創意工夫でもう少し凝ったものを生み出し、それを利用するはずだ」」

「「ヒントか何か!」」

「「なら、放出するタイミングを君で工夫してみるんだな。そうすれば、より効率の良いダメージを与える事が出来る」」

「「了解!」」

 鋳鶴は誠の拳を発生した波紋で衝撃を吸収し、回避。次に誠の左足が鋳鶴の脇腹目掛けて繰り出される。

 波紋は拳によって掻き消され、新しい波紋を生み出すには時間と多大な魔力を消費する代物。数秒も間隔が無く、続けて攻撃を繰り出されると、己の身一つでその攻撃に対処しなければならない。

 誠の左足が脇腹の数十cm手前に接近すると同時に、鋳鶴は自身の右腕を差し出す。波紋を生み出さず、右腕一つで誠の攻撃を受けようものなら、鋳鶴の腕はひとたまりもないだろう。しかし、鋳鶴は誠の左足目掛けて右腕の掌を目いっぱいに広げ、その足に向けて掌底の構えを取った。

「お前の右腕、ぐしゃぐしゃになんぞ!」

「それは、どうかな」

 誠の足と鋳鶴の手が触れ合うと同時に、鋳鶴は全身の魔力を一瞬だけ右腕の掌に集中させる。

 鋳鶴の掌が眩い光を放ち、誠の左足を豪快に吹き飛ばす。誠はまるでベイゴマの様に回転しながら、魔法科体育館の壁に打ち付けられた。

「ぐっ……、なんだ。今のは……」

「魔力を一瞬だけ最高値で放出しただけさ。ただ、欠点として僕の身体が全快ではない今、これを使うといつ体が千切れるか分かんない所かな……!」

「ならてめぇの自己犠牲と共に吹き飛びやがれ!」

 吹き飛ばした筈の誠が鋳鶴の眼前に現れた。僅か数cm、両者の額が合う距離である。

誠は躊躇いもなく、瞬時に接近した速度を利用して自身の額に魔力を込めた。その動きを察した鋳鶴は、左腕を翳して防御の姿勢を取ろうと腕を動かす。

だが、鋳鶴の行動むなしく、誠の額は鋳鶴の額を捉え、頭突きの威力と魔力放出に強化された勢いに、接近した速度を足された衝撃が鋳鶴に襲い掛かる。

「「おい!鋳鶴!」」

 この一撃におっさんが取り作った体の節々が悲鳴を上げる。魔力放出を行った右腕はもう使い物にはならないだろう。

 全身に強い電撃を受けたかの様に鋳鶴の身体は誠の頭突きで跳ね、再び意識を途方へと連れ去ろうとした。

 が、鋳鶴は誠の頭突きによる衝撃を受けたにも関わらず、彼の目の前で腕を組み、仁王立ちの姿勢をとる。

「ま……まだだ」

「てめぇ……」

 誠も頭突きによる衝撃と魔力放出による頭部への負荷で額から多量の鮮血が滴っている。完全に額の皮が切れてしまったのか、彼の鮮血は留まる事を知らない。しかし、鋳鶴も同様、時間差で誠の頭突きを受けた頭部から鮮血が流れ始める。

「喧嘩っていうのは……、自分と同じレベルの人間とやるのが一番だ……!」

「はぁ……はぁ……。はぁ……?てめぇと、俺が、同等だぁ……?思い上がるのも大概にしとけよ……!鋳鶴!」

 互いの魔力以前に体が悲鳴を上げているのは両者共に明白だった。互いに血飛沫を上げ、握り拳や鋭い蹴りを繰り出す両腕、両脚も悲鳴を上げている。

 二人に残されているのは、有り余る魔力と、薄伸ばしにされた気迫な感情のみ、何かの目的以前に、ただ、目の前の相手を倒すという理由でしか戦わない二人しか存在していない。

「あぁぁぁぁぁぁ!」

「おぉぉぉぉぉぉ!」

 魔力を放出するにも放出した後、自分の身体がその形を保っているとは限らない。あまりにも膨大すぎる魔力による身体の強化は身体への大きな負担に繋がり、自滅に繋がる。

 しかし、皮肉にも二人をその場で立たせているのは、他ならぬ魔力の恩恵だ。互いの体の中に残存する魔力が、自分を殺させまいと、まるで怪我を治す血液中の細胞と同様の効果を見せている。

「二人とも!もうやめるであります!」

 鋳鶴と誠の様子を見かねて戦闘データを取り終わる前に、沙耶が木陰から飛び出した。目には大粒の涙を浮かべ、ノートパソコンを両腕で抱き締めている。

「沙耶……」

「金城さん……」

「これ以上戦ったら二人とも死んじゃうであります!」

 小さな体からまるで張り裂けんばかりの大声を張り上げる沙耶を見かねて誠が彼女の元へふらつく足を引きずりながら彼女の頭を押さえつけて力強く撫でる。

「良い子だから……、邪魔しねぇでくれ……」

「でっ、でも……」

「これだけは……、譲れねぇ……。お前が駄目って言っても……これだけは譲れねぇんだ……!」

「誠殿……」

「大丈夫だ……。ただの派手な喧嘩……。俺も鋳鶴も死にゃあしねぇさ……。俺もあいつも死ぬほど頑丈だからな……」

「鋳鶴殿に頼まれたでありますが……、もう大丈夫だと思うであります。吾輩は信じているであります。そして良い方向に向かってくれると信じるでありますよ。吾輩はいつも誠殿の味方であります」

「金城さん……。だから言っただろう……?」

「そうでありますな……。喧嘩の邪魔をして申し訳ないであります……!」

 沙耶は再び木陰に戻り、二人の行く末を見守る。この勝負の第一人者となるためだけではなく、自分の愛した男の生き様と背中を見続ける為に、沙耶はノートパソコンを握り締めたまま木陰で決着の時を待つことを決めた。

「すまねぇな……!余計な邪魔が入っちまってよ……!」

「大丈夫さ……。僕が頼んだ事だからね……」

「全く……、焼きが回った様な奴しかいやしねぇ……。お前も……沙耶も……一平のボケも……。どいつもこいつも能天気で……、てめぇが決めた事になると……。周囲が見えなくなる馬鹿野郎ばかりだ……」

「そうだね……。僕は……、その通りだ……!」

「俺は……、そんな馬鹿野郎どもには負けねぇ……!」

 朦朧とする意識の中で、鋳鶴は感じ取った。次の一撃でこの喧嘩は終わる。おっさんは何も言わぬまま、鋳鶴の思うがままに喧嘩をさせている状況だった。

 真の殺し合いならともかく、こういった特殊な空間と時間の中での助言やアドバイスなど、無価値であり余計なことに等しい。

 そして何より、今話しかけたら鋳鶴の意識が戦いから会話に引き合わされ鋳鶴の身体が抜け殻の様になってしまう。という事を考えての無言だった。

「これで……終いだ……!」

 誠の最後の一撃、何度も見た瞬間移動からの回し蹴りだった。

 普段のものと同じ、最後には全霊の力を振り絞って誠は鋳鶴の顔面目掛けて、今度は回避されることが無いように魔力を放出しながら繰り出した。

 鋳鶴は、波紋を作り出す力は残されておらず、右腕は満足に動かない状況。誠の回し蹴りにまだ動く左腕で掌底を繰り出し、誠の回し蹴りに全霊の魔力を放出する。

 鬼の魔力と魔族の魔力のぶつかり合いは、まるで花火の様に火花を散らして、その最期の騒々しさと壮絶さを物語っていた。

 自分の為に戦う男と、誰かの為に戦う男の意地と意地の張り合いは、その一撃に留まらない。

 最後の一撃に見えた二人の蹴りと掌底は、目の前で相殺される。

二人は、相手の足と左腕を見つめ、本能で自分の拳を瞬時に握り締め、相手の顔面目掛けてそれを振り抜いた。

 生々しい、骨が折れたかの様な音が鳴り響き、二人は同時にその場で突っ伏した。沙耶は急いで誠の元にかけより、彼の頭を膝の上に上げ、生徒手帳で電話をかける。

 一方の鋳鶴も顔面から突っ伏していて、その場に血だまりを作っていた。

「沙耶……、俺はいい……。鋳鶴を頼む……」

「でも……!」

「俺には……、血がある……!」

 誠は沙耶を一喝すると、沙耶は鋳鶴の元へ駆け寄り、ポシェットの中から包帯や薬などが纏められている医療キットを取り出した。

「金城さん……。城やんは……」

「誠殿は自分よりも先に鋳鶴殿を治療しろと言ってたであります。だから、吾輩は鋳鶴殿を治すであります!」

 沙耶は不慣れな手つきで鋳鶴の頭や両腕に包帯を巻いた。細かい切り傷や擦り傷にはピンセットで消毒用アルコールを沁み込ませた綿を掴んで当てている。

「すいません……。城やんの事……、殴ってしまって……」

「大丈夫でありますよ。誠殿は頑丈でありますから」

「戦闘データは満足に取れました……?」

「途中で止めちゃったであります。二人の真剣な眼差しを見てたら、データを取るのが失礼と感じてしまったでありますから、それに鋳鶴殿は言ってたであります」

「え……?」

「二人の戦いが見ていられない状況にでもなっていたら、ただデータを取る事だけに集中してください。って」

「あぁ……確かにそんな事を言った様な気がしますね……」

「それに助ける条件も鋳鶴殿が誠殿に一方的に殴られ蹴られたりしている場合だけって言ってたであります」

「それは、まぁ……保険として」

「誠殿も大バカ者であると思うでありますが、鋳鶴殿は誠殿を越えた大々バカ者だという事は分かったであります」

 沙耶は屈託のない笑みを鋳鶴に見せた。誠と鋳鶴の事を按じてか、沙耶の目尻には涙が光っている。

「こんな大バカ者を仲間に入れようとする大々馬鹿者を持って誠殿は幸せ者だと思うであります」

「そう言ってもらえると……、こちらとしてもありがたいですね……」

「おい……!沙耶……!やっぱり血だけじゃ足りねぇ……!」

 誠の嗚咽混じりの叫び声に沙耶はポシェットから四面体の箱を取り出し、誠の脇でコードの様な紐を引っ張りだした。

 先端が聴診器とまるで手枷をそのまま巨大化させたような輪に別れている。沙耶は輪の方を頭部に嵌め、聴診器を誠の胸や頭に当てる。

「鋳鶴殿と本気で喧嘩して、血だけで回復できると思ったでありますか?それはちょっと算段が甘いでありますよ。誠殿!」

 沙耶の一言に呼応するように箱が青色に発色し、子どもの掌程度の錠剤が箱から吐き出される。

「さてと」

 それを躊躇いなく二分割して開ける沙耶を見て、鋳鶴は思わず立ち上がった。恐らく機械科の技術で開発した特殊な医療キットだろう。鋳鶴に使われた医療キットも立派な物だったが、箱の方は誠の事を診察しながら、恐らく彼の症状にあった薬品を射出する事が出来る特別製だ。

「これで楽になると思うであります」

「それは逝くってことじゃないよな……?」

「ちゃんと治癒能力を活性化させるだけでありますよ。注射でもすればさらに効果は見込めると思うでありますが、誠殿は嫌がるでありますからなぁ」

「おい!鋳鶴の前でそういう事言うなよ!」

 二人の痴話喧嘩を聞いて居ると、鋳鶴の心は自然と安息を感じる様になっていた。ようやく腕の自由が利くようになると、鋳鶴はもたつく足を引きずりながら誠と沙耶の元に近づき、手を差し出した。

「何だよ」

「何だよって!城やんは僕に負けただろう!?」

「いいや、負けてねぇ。先に駄目になったのはお前だろ?」

 鋳鶴と誠は足元の砂利を各々相手に投げつける。二人の様子を見て沙耶は肩を竦めて呆れ返っていた。

「ちょっと貴方たち!私たちの敷地でこれ以上暴れるのは、やめてもらえませんこと!?」

 三人は声のする方向に振り返った。そこには魔法科副会長の腕章をして腕を組んだ生徒が立ちふさがっていた。両脇に純白の制服を纏った男性が二人彼女の後ろで構えている。

「おいおいおいおい……。最悪だぜ……」

「まさか……、虹野瀬さん……?」

「違うであります。あれは、副会長の神宮寺(じんぐうじ)寿(ことぶき)殿であります。魔法科二大の魔女、虹野瀬殿と双璧を成す、最強の黒魔法使いであります!」

「私のご紹介どうも、如何にも、私の名前は神宮寺寿。虹野瀬縒佳を超える魔女であり!美少女であり!魔法科きっての最高のお嬢様でもありましてよっ!オーッホッホッホッ!」

 寿の自信満々な表情。さらに雄叫びに近い高らかな声と、腰に右手を当て、左手を顔の前に当てたポーズが彼女の高貴さを醸し出していた。

 誠は顔を歪めながら寿と後ろの二人を睨み付けて沙耶の力を借りて立ち上がろうとしている。一方の鋳鶴は突然の来訪者と、その登場方法に半ば呆れながら口角を引き攣らせていた。


明日も0時に更新します!感想などよろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ