第15話:魔王と鬼
迫る女教師、白鳥要。彼女の尋問に鋳鶴は耐えられるのか!さらに今回はちびっこ生徒会長と鬼の禁断の恋!?
視聴覚室に向かう途中、鋳鶴は職員室の前で仲良く談笑をする鋳鶴の担任の要と生活指導の勝呂勝が居た。
要は相変わらずの白衣だが、生活指導の勝は、真紅のジャージ姿にアフロ頭と言った教員にあるまじき格好をしている。
勝はこの陽明学園普通科にて要と同等に生徒たちからの信頼と人気の厚い教師だ。大学卒業からこの学園の教師として着任し、それから数十年、普通科の国語と生活指導の教師としてその役職を全うしている。
要のマッドサイエンティストの部分を勝で例えると、彼の性格や癖としては熱血でありすぎるという事、彼の担任するクラスの生徒たちは彼の熱量にやられ誰しもが彼の影響力により、文化祭や球技大会などで燃え上がってしまう。
彼の熱量による影響力もあるのだが、彼は学園行事での生徒たちへの指導や彼らに対する活躍に敬意を表し、毎年クラスの生徒たちを焼肉屋などに全員連れて行き肉を振舞っている。
信頼が厚い以前にその熱量と彼の厚い抱擁から逃れることが出来なくなる。どんな生徒であれど、勝の前に立てば陰険になる事は出来ないという噂が出る程だ。
「おぉ!望月じゃないか!久しぶりだな!」
それと彼の特徴として彼は国語の教師の筈なのだが、声量と行動力、服装を見ているとどうあっても体育教師と思ってしまう事だ。
彼の事を知らない中等部の生徒たちは勝の事をよく体育の教師と勘違いすることが多い。
ただ、体育の教師が体調不良や怪我の場合で不在の場合は臨時で勝が教鞭をとるため、実質体育の教師でもあるのが事実だ。
「お久しぶりです。勝呂先生。今年は一年生のクラスの担任なんですよね」
「あぁ!白鳥先生のクラスに負けないぐらい!うちのクラスは明るいクラスになってるぞ!まだ二か月程しか経っていないが、クラスの団結力も素晴らしいものになっているからな!」
「勝呂先生、お言葉ですが、私のクラスだって団結力や人材では負けていません!どの子も解剖して検査したいぐらい元気な体はしていますし、貴重なサンプルに成り得るんですから!」
「いや、俺は流石に生徒を解剖したいとは思わんが……」
「そういう所は勝呂先生の方がまともですよね。白鳥先生は顔や体で生徒たちから人気を獲得している事は事実ですけど……」
「確かに、白鳥先生はちとセクシーが過ぎる。お前のスカートの短さや胸が出そうな服装は生徒の視線だけならず、男の教員の視線も奪うからな」
「あと、薬品の匂いもいいですよね」
「お、望月。お前、良い所に目が着くな!いや、鼻が利くと言えばいいのか、確かに俺も白鳥先生の薬品の匂いは好きだ」
鋳鶴と勝は二人で腕を組みながら要の魅力について語り合い、相槌を打っていた。自分が居るのにも関わらず、そんな話を続ける二人に要は割って入る。
「あの二人とも私をどういう目で見ているんですか……。勝呂先生はともかく、望月君。貴方にはちょうどお話したいなって思う案件があったの。ちょっとお時間いいかしら?」
「え、解体しないでください……」
「しないわよ!どんだけ私の事をマッドサイエンティストだと思ってるの!」
「そうだぞ。望月、解剖されそうになった時は俺の所にいつでも駆け込め。助けてやるからな」
「勝呂先生もよろしければ解体して差し上げましょうか?」
「ヒエッ……、おっと、先生は急用を思い出した!それじゃあ白鳥先生。望月。またな!」
「あっちょ!勝呂先生!一人にしないで!」
鋳鶴の叫び声もむなしく、勝は全力で廊下を走って鋳鶴を置き去りにし、何処かに去って行った。
「さて、二人っきりになれた事だし、付き合ってくれるわね?」
「いいですけど、僕何かしましたか?」
「えぇ、したわ。貴方は悪くないけど、聞きたい事があってね」
職員室のすぐ隣に鋳鶴たちの生活する教室の四分の一程度に縮小されたサイズの教室がある。
そこには二つの椅子とその間に隔たる様に置かれた机。そして何らかの資料が纏められているであろうファイルが敷き詰められた棚が置かれているだけだった。
入り口から奥の方の椅子に鋳鶴は腰掛け、要が鋳鶴の正面に腰掛ける。
「さて、お話なんだけれど」
「はい」
「魔法科の敷地内で城屋君に会ったって本当?」
「本当です」
「良かったぁ……。その話を直前に風間君に聞かされて本当に心配したんだから!怪我とかは無いのよね?」
「まぁ、大丈夫です。幸い怪我とかはありませんよ」
「風間君も風間君よ。いくら望月君が城屋君の事を知っているとはいえ、一人で魔法科に向かわせたって言うんだもの!」
要が鋳鶴の事を心配してか上半身をだけ机の上に乗り上げ、彼との距離を詰めていく。先ほど勝と要の容姿について語り合っていたせいか、鋳鶴の視線は彼女の胸へと吸い込まれる。
相変わらず、何の薬品か、匂いの分からないものを付着させ、異常に生徒との距離感が近い。そして何より、要の輝く緑色の瞳に見つめられると、鋳鶴とて緊張してしまう。
「先生……。近いです。胸とか……」
「話をそらさない!思春期だから分からなくもないけど!先生の胸を見るんじゃなくてちゃんと魔法科で何が起こったか、城屋君と何があったかを教えてほしいの!」
鋳鶴の鼻を右手人差し指で優しく押し、机に乗り上げていた要は再び椅子に腰かけた。
「喧嘩はしていないです。ただ、彼を体育大会のメンバーとして勧誘しただけですよ。それに失敗した。というよりは、まだ交渉の余地はありそうですけど、どうしてもあと一歩が足りないと言った感じですかね」
「えぇ!?城屋君を勧誘するの!?あのメンバーに!?」
「はい。むしろ城やんが居ないと、僕らは勝てない。昨日、魔法科の会長さんと相見えましたけど、すごいオーラというか、実力者だなぁと感じました」
「あぁー。虹野瀬さんの事ね」
「知ってるんですか?」
「えぇ、知ってる。魔法科でも時々、授業やらせてもらってるしね。でもいつもあの子はクラスに居ないのよ」
「どうしてですか?」
「どうして……、どうしてって言われてもなぁ。あんまりあの子は社交的ではなくて、どちらかと言うと一人で過ごして居る時間が大概なのよ。生徒会長としての威厳を保っているつもりなのだと思うけれど、唯一心を許しているのが、副会長の神宮寺寿という女子生徒だけでその側近である二人の男子生徒すら信用してないっていう話ねー」
「その人も相当な実力者そうですね。何か名前が豪勢というか、普通の人ではないというか」
「普通じゃないって言えば、二人ともそうなんだけどね。人格以前に彼女たち二人は魔術師としての名家の生まれなのよ。望月君の家もかなりすごいお家だけど、魔術師としての格式は彼女たち二人に比べれば劣っちゃうんじゃないかしら」
「「この教師、此処までべらべら喋っていて大丈夫なのか?」」
「「びっくりした!いきなり出て来ないでくださいよ!」」
「「いやいや、すまん。興味深い話をしているものだから」」
「ん?望月君の後ろに誰かいる……?」
要が鋳鶴の後ろを指さして椅子から立ち上がり、鋳鶴の背後に回る。
「「おっさん!まさかバレたとかじゃ!」」
「「そんな筈は、俺とて最大の注意を払っている。それに君の学園の学園長が俺の存在を認めているのなら大丈夫な筈だろう」」
要は何か腑に落ちない様子で首を傾げながら、再び椅子に腰かけた。
「兎に角、城屋君は要注意人物なのよ!それに貴方は今、体育大会で城屋君よりも実力者で危険な人たちと戦おうとしているの!分かる?」
「重々承知の上です。それに僕らは普通科の生徒ですよ?最初から一番下のレベルという事は理解していますし、慢心するだなんて万が一にもありません。だから城やんの力が必要なんです。実力者の彼女たちでも城やんの力さえあれば、何とかなる気がして」
「まぁ私の算段だけど、望月君の力と城屋君の力があれば虹野瀬さんと神宮寺さんを分断出来た上で尚且つ、二対一に持ち込めるならなんとかなると思う。それに城屋君の事を問題児とは言うけれど、彼の実力は私も認めてる」
「白鳥先生に魔術の才を認められてるなら、城やんかなりすごいじゃないですか」
「直接の魔術じゃなくて私の結界魔法があるんだけど、それを彼に破壊されちゃったことがあってね。あれは魔術の才能がなくとも破壊出来る人には破壊出来ちゃうものだから、それに城屋君だけなら会長相手に拮抗ぐらいは持っていける。そこで完全に打ち破る為に望月君、貴方が必要になってくると思うわ」
そんな事は要に言われずとも鋳鶴は理解していた。しかし、気になるのは誠の鬼の力の詳細である。
勿論、縒佳と寿の事も気になるが、鋳鶴は視聴覚室に足を運びたいこともあって要に向かって口火を切る。
「先生、僕、教えてほしいことがあるんです」
「別に良いけれど、虹野瀬さんと神宮寺さんの事はこれ以上は教えられないわ。あまりに喋っては彼女たちのプライバシーの侵害もあるし」
人の事を解剖したい。解体したい。という教師の良心を初めて垣間見た鋳鶴は少しだけ感動していた。
「城やんの鬼の力の事です。鬼の力って何なんですか?魔術なんですか?超能力なんですか?」
鋳鶴が身を乗り出して要に問い詰める。生徒と教師の関係である二人なのにも関わらず、要は頬を赤く染めていた。
「待って!そんなにたくさん質問されたらまるで迫られてるみたいでドキドキするじゃない!」
白鳥要。
彼氏いない歴=年齢の彼女にとっては、そう男子生徒に執拗に迫られるだけでも心を揺さぶられるのである。
鋳鶴の様に解剖、解体したいと思っている生徒なら尚更その感情は増長してしまう。
「冗談はさておいて、単刀直入に言わせてもらうと、彼の鬼の力は魔術ではなくて生まれつき体に備わっているもの。それも超能力とは違って突如発生するものじゃなくて遺伝とかで発生する。その血統の人しか使えない限定的な能力の事ね」
「魔族の魔術とも違うんですか?」
「勿論、似たようなものと言ってしまえばそれまでだけど、鬼の力を使えば魔族の様に特殊な魔術の様なものを使う事も可能よ。魔術ではないけど魔術を消耗するものではあるけどね」
「鬼と言ってもあの鬼になるってわけではないんですね」
「そうね。近い者になるって事で正しいと思うわ。でも彼の鬼の力はすごいのよ。魔法科の生徒が使う初心者用の魔術なんて通用しないんだから」
「そんなにですか……。でも城屋やんって魔法科から普通科に移ってきてましたよね?それはどうしてなんです?」
鋳鶴がその質問を要に投げかけた途端、要は分かりやすく口を噤んだ。誠がこちら側に完全に協力する拒む理由と重なる様な事なのだろうか、鋳鶴は彼女の良心に申し訳ない。と心の中では思いながら会話を続ける。
「お願いします。先生」
「今度、駅前のクレープ奢ってくれるなら……」
「えぇ……。深刻そうな面持ちしててその発言はないですよ」
「なら駄目かなー」
「奢らせてください!」
鋳鶴は要の手を取って頭を下げた。彼女の情緒に弄ばれている様な感覚があるが、そこは鋳鶴。誠意をもって対応することを考える。
「友達の望月君なら知ってると思ってたけど、彼ね。魔法科を除籍されてるの」
鋳鶴は、その理由は?と問いかけたくなったが、言葉が喉元で詰まって出て来なかった。要が虚ろ気にロッカーのガラスを見た。その視線に、自分の脳が言葉を発することを許さなかったのである。
「理由としては、今以上に暴れてしまったことがあったのよ。彼が百パーセント悪いっていう訳じゃないんだけどね。魔法科の科長はそれが許せない。というよりも彼を庇いきれなくなって魔法科から除籍。追放したってわけ」
「でも!魔法科じゃなければ城やんは」
「そうね。十分な施設でもない限り、彼が暴れ出したら止めることは出来ない。だから、だからよ。今の彼がああして暴れても魔法科から偉い人が出て来ないでしょう?科長どころか、魔法科の主任の教員。生徒会長と副会長。誰も彼の相手はしないし、出て来やしない。彼に立ち向かっていく魔法科の生徒たちは皆、名声を上げたいだけなのよ。城屋誠を倒せば、名声が上がって魔法科の中での地位が向上する。なんてうたっていれば、誰だって彼の元を訪れて戦うでしょう?」
「それは……」
誠は普通科きっての実力者な上に、あの魔法科の生徒を圧倒する力を持つ、一度、彼を倒せば、魔法科における地位や名声が手に入るとなれば誰もが本気になるはずだ。
彼の正面から相手の喧嘩を買う姿勢を利用して我先にとのし上がろうとする。
それが自分の今後を左右するとなれば尚更だ。
「まだ。望月君が手に負えなかった時に、彼が問題を起こしちゃってね。貴方はその時間帯に学園に居なかったから知らなかったでしょうけど、彼は魔法科の生徒を一人。鬼の力で殺したの」
「僕が正気に戻った時期、丁度その記事が学校の廊下中に飾られた時期があった気がします」
「相手も悪かったし、流石に殺すのはやりすぎだとも学園中では言われていたけど、魔術協会は彼の魔法科生徒殺害を黙認したのよ」
「それは、どうしてですか?」
「それも知らないのね。彼のお姉さん。城屋誠の姉、城屋瑞樹っていう生徒が魔法科に居たの。城屋君と同じ血を持つ人間とは思えないぐらい。清楚で美しい人だった。何回も解剖や解体させてと、私がお願いしたレベルの才女だった」
「でもお姉さんの名前は新聞には載っていなかった……」
要はその証拠かの如く、ファイルの入った棚を徐に開いて一冊の黄緑色のファイルを開いて鋳鶴に渡した。
そこには誠のしたことと、殺された生徒の事しか記載されていない。
「魔法科は競争が激しいでしょう?瑞樹さんはその主席で、誰からも尊敬されていたし、誰よりも妬まれた人だったのよ。おまけに性格も良くて清楚の化身みたいな生徒だったから、信頼もあった。その事件の時によくしてもらった勝呂先生や私の事を慕って今でも会いに来てくれるぐらいよ」
「白鳥先生や勝呂先生が居てもその場は収めることはできなかったんですか?」
「そりゃ、鬼の血を継ぐ生徒が怒ったことを事前に知っていれば、私たちだって苦労しなかった。瑞樹さんが体育大会に参加していた時に、味方の魔法科の子が相手の科と彼女を巻き込んで禁忌魔法と呼ばれる魔術を行使して攻撃したのよ。相手の生徒は魔術の衝撃でその場で倒れた。彼女はその場で両足が切断される程の重傷を負って、教職員がその場に行く前に、城屋君が全力でその生徒を殺しにかかっていたの。私たち教員としては先に瑞樹さんを助けに行かなくちゃならなかったから、その生徒にもあまり気が向かなかった。まずは彼女の事を優先したのだから」
「だから、城やんの暴走を止められなかった」
「本当にね。今でも自分を情けないと思う。私も魔術の素養はあるけど、城屋君を攻撃して止めようだなんて恐ろしくてできなかった。彼が怖かったのもあるけれど、彼を殺す気で魔術を使わなければ止まらなかった。命に優先順位をつけちゃいけないのは分かっているんだけど、私や他の教員たちはまず、魔術師として優れていた彼女を救ったの」
「その生徒の両親は……?」
「その生徒に両親は居なかったの。不幸中の幸いと言ってはいけないけど、戦争孤児でうちの学園に来たっていう生徒の子でね」
命の優先順位。見えては居ないが、確実に存在している。ノーフェイスやアセロに初めて遭遇した時に鋳鶴は感じた。
ノーフェイスとアセロのやりとりで自分の命を散らせるか否か、結果は散らせるという内容だったが、鋳鶴は母に救われた。
その生徒も鋳鶴の様に強い母が居れば助かったのかもしれないが、鬼の力を解放した時の誠はどれ程の能力と破壊力を発揮するのだろうと鋳鶴は考える。
「私たちが言えた義理じゃないけど、その生徒に血縁関係がある人間が居ないことを良い事に城屋君の処分は魔法科から除籍というだけで済んだの。協会は一人の命よりも貴重な人材を奪った事に腹を立てていたわ」
「でもそんな城やんを誰が止めたんです?」
「その場に居た城屋君の従兄弟よ。従兄弟の人達が居なかったら陽明学園の何が破壊されいたかわからないわ。その後よ。望月君が正気に戻った?って言えばいいのかしら、その時に彼が貴方に尽力したのが。罪滅ぼしも兼ねてやってたのかもしれないわね」
「城やん……」
「こんな湿っぽい話、あまり好きじゃないんだけどね。望月君がクレープデートしてくれるって言うもんだから喋っちゃった」
「デート!?」
「え?そうでしょ?え、三河さんという存在がありながらやりおるなぁ……。と思ったけど!私とは遊びの関係だったの!?」
「いや!?遊びの関係とはどういう事でしょうか!?それに!クレープを奢るぐらいならデートではないと思うんですけど!」
「望月君はそうかもしれないけど、三河さんはなんて思うだろうねー」
要は薄ら笑いを浮かべながら鋳鶴を挑発した。
彼女の気遣いもあるのだろうか、先程まで重苦しかった空気を払拭するために陽気にふるまっているのだろう。
それを感じ取った鋳鶴は彼女に何も言わず席を立ちあがった。
「先生。ありがとうございました」
「いいのよ」
「僕は視聴覚室に用事があるので、これで失礼します」
「え!?視聴覚室!?まさか女子生徒の下着姿を見るために!?」
「違いますよ!さっき言ってた城やんのあれを映像で知りたいだけです」
「何だ。そんな事か」
「そんな事かってなんですか」
「それを見た所で城屋君の秘密を知ることは出来ないと思うよ。それに城屋君の事を聞くなら私よりもっと彼の事を知っている人が居るし」
「え!?誰ですか!?」
「城屋君に彼女が居ることも知らないの?」
「知りませんよ!」
要は嬉しそうに口元を隠して鋳鶴に向けて薄ら笑いを再び見せる。
鋳鶴も知らない事実を要が知っているのが何よりも気に食わない上に要が知っている事自体に嫉妬や自分がどうして誠に聞かなかったのだろうと、後悔した。
「それもかなりのビッグネームでね」
「まさか、神宮寺さんや虹野瀬さんとか言うんですか?」
「違う違う。確かに生徒会長なのは合ってるけど、別の生徒会長よ」
「えっ!誰なんですか!?」
「えっとねー。今度はどんな言う事聞いてもらおうかなー」
要は鋳鶴を尻目に指を咥えて考え事を始めた。早く答えてもらって視聴覚室に向かいたい鋳鶴にとってはその情報を知りたい気持ち半分、早く視聴覚室に行きたい気持ち半分の心情であった。
―――――機械科校舎―――――
「陽明学園機械科の生徒の皆さん!今日も一日、お疲れ様でありました!」
年端もいかぬ一人の少女が高らかに生徒の群衆に大きな声で労いの言葉をかけた。
機械科の制服ではなく、その場に居る生徒の全員がつなぎのような服を纏って帽子を被っている。
それは本来の姿ではなく、授業を終えてから各々が様々な分野に別れて何らかの開発、設計などを行う。
将来的には軍事兵器や要人を収納する特殊装甲車など、国だけではなく、世界に認められる製品を製造する技術などを磨くのが機械科の主な内容である。
「本日も誰一人怪我することが無くて良かったであります!」
あまりにも小柄な少女にはその姿見には似使わない生徒会長と刺繍された腕章を右肩に安全ピンで留めていた。
その場に居る誰よりも小柄な少女は機械科生徒会長の金城沙耶どう見ても小学生の様な見た目をしているが、彼女は歴とした十八歳の女性であり、機械科高等部の三年生に当たる。他の生徒会長たちと違って小柄すぎるため、生徒会長の総会などに向かう時、彼女の存在を知らない他科の生徒たちからは中等部の一年生に勘違いされることもしばしば。
陽明学園だからこそ、彼女の事を全員が既知していない故に起こる現象である。
「金城会長……。そろそろお時間ですがよろしかったのですか……?」
「あぁ!そうであります!すっかり忘れていたであります!茶々殿。後片付けをお願いしても良いでありますか?」
沙耶に声をかけた茶々という生徒は今日の予定を何者にも阻害されたくないという沙耶の純朴な瞳に魅入ってしまい、二つ返事で彼女の願いを聞き入れた。
沙耶は急いでつなぎと帽子を脱いで、自分の名前が記載されているロッカーに放り投げ機械科の校舎を後にする。
真っ先に小さな足で一目散に機械科の校門まで疾走するのかと思いきや、彼女は自分の腰に携えた巾着を弄り出した。
「えーっと」
沙耶が巾着から取り出したのは、彼女の足のサイズにぴったりフィットする様に作られたピンク色のスケボーだった。
よく見るとボードの後ろにエンジンの様な物が取り付けられており、最大時速60kmまで出すことが可能の沙耶特性の代物である。
「誠殿ー!」
校門の前で誠が校門にもたれかかって待っていた。
「校舎からわざわざボードで来る程じゃないだろ。ゆっくり用意してくれても構わなかったんだが」
「だって学校終わったらデートと言われて!急がない理由はないであります!」
誠は優しく微笑んで沙耶の手を取った。
まるで父親とその娘の体格差だが、その様子は何処か微笑ましく見える。
「他の二人は大丈夫なのか?」
「二人とも寝ているであります。今日は何を食べに行くでありますか?吾輩はステーキとかがいいであります」
「ステーキか、安いやつになるかもしれねぇけど、それでよかったか?」
「大丈夫でありますよ。お店に機械科の道具を買ってもらえたりすればお金は増えるでありますし」
「沙耶、今日は物を売りに行くんじゃない」
「でもそのチャンスでもあると思うのであります」
「商売上手で困ったもんだ」
「今日はあんまり機嫌がよろしくないのでありますな」
「なんでそんなことを聞くんだ?」
「いつもより誠殿が大人しい気がしたのであります」
「大人しい……?そんなことはないと思うが」
「いいや!大人しいであります!いつもならもっと豪快なツッコミをして吾輩の頭をわしゃわしゃするじゃないでありますか!」
確かに、と納得する誠。そう言われて沙耶の頭に触れて髪を撫でた。
「駄目であります。もっと乱暴に気遣いなくしてほしいんでありますなぁ」
「いつも髪が崩れる。とか、帽子が折れるとかで嫌がるじゃねぇかよ」
「本当にどうしたんでありますか?いつもの誠殿ならそんな事、聞かないであります」
必死に言い訳を述べる誠だったが、何故自分が沙耶に対していつもの自分で居られないのは明白だった。
鋳鶴と自称魔族の男に喝を入れられてからというものの。誠の調子は著しく低下している。風邪や怪我の類ではない体の重み、体育大会という言葉で思い出す自分の過去。
沙耶は勿論、そのことを知っているが、また思い出すことによって今の日々が終わってしまうのかもしれないという危機感に誠は襲われていた。
好き勝手に喧嘩して、最後には魔法科の生徒会長を打倒し、姉の瑞樹だけでなく、両足を失った彼女を見限った魔法科を壊滅させるという野望が、鋳鶴の手によって終わらせられようとしている。
「誠殿。こんな言い方はおかしいでありますが、吾輩も二人も誠殿のぶっきらぼうな所が大好きなのであります。喧嘩は確かにあまりしてほしくはないでありますが、それに理由が伴っているであります。誠殿がいつもみたいにぶっきらぼうで笑ってくれている方が、吾輩は好きなのであります。悩んでいる暇があったら即行動なのが、誠殿なのであります。吾輩は少なくとも家族の方々よりは次に貴方を見ているのでありますから」
「俺は……」
「そろそろ体育大会の時期でもありますからな。誠殿には必然的に声がかかっている頃かと思うであります。吾輩は気にしないでありますよ。誠殿の過去もこれまでしてきたことも目を瞑るであります。ただ、吾輩が尊敬し、愛してやまない城屋誠殿には、いつも笑っていてほしいのであります。ぶっきらぼうにニヤニヤしてほしいのであります」
「お前に慰められるなんて、俺も弱くなったもんだ」
「誰だってトラウマは憑き物でありますよ。それとどう向き合うか、それが大事なのであります。誠殿でも悩み事があるとは」
「意外そうな顔するんじゃねぇよ」
「素直じゃないでありますなぁ」
素直じゃない。その一言に誠は口角を釣り上げて沙耶と一緒にステーキハウスに入っていった。
―――――視聴覚室―――――
地獄の鬼の様な形相を浮かべる一人の魔法科の生徒。
まるで角の様にも見える逆立った金髪にブレザーやローブを一切羽織らず、一人の男子生徒が体育大会の会場に乗り込み、馬乗りで一人の生徒に暴行を加えていた。
視聴覚室には机に薄型のパソコンをそのままくっつけた様な機械の大群が鋳鶴とおっさんを迎え入れている。
教卓の机だけは特別せいでこの部屋の全てを管理できる作りになっている。更衣室のデータに興味を逸らされない様にしながら鋳鶴は黙々と机のキーボードでパソコンから誠が起こした事件の映像を引っ張りだしていた。
「「凄惨な光景だな。人間と魔族、変わりはしない」」
「ぶっ飛ばしますよ」
「「すまん。口が滑った」」
資料映像の冒頭を再生すると、会場から観客席までの距離は数百メートル。その距離を術式や詠唱無しに瞬時に移動する誠の様子を見て鋳鶴は空いた口が塞がらなかった。
中等部時代に自分に手を差し伸べた人間がする様な行いに見えない。
映像に映っている人物は誠なのか、そう思いたくない感情が鋳鶴の心を劈く。
「「俺の記憶にある鬼もこの様な戦い方だった。残虐かつ冷酷、そして何より無慈悲であり、対象を殺すか消え去るまで襲い続け嬲り続ける。魔族を高尚な生物と言う訳ではないが、ある意味魔族よりも正気を取り戻すのが難しい。スイッチが一度起動すれば、彼はもう止まれない車さ」」
「この前の僕みたいな事ですか?」
「「あれとは違う。あれは君が抵抗するからそれを俺が無理矢理運転しようとしてああなったのさ。城屋誠のとは違って暴走状態だった君には俺と言うドライバーが存在した。だが、この映像の城屋誠は運転手も壊れた車さ。誰のいう事も聞かず、聞けず、姉の両足を吹っ飛ばした生徒を消し去るまでは止まらん」」
この映像を撮影している人間も誠の暴虐の限りに言葉を失っている。果ては自分が襲われると思ったのか、撮影者はカメラを落とし、全身が真っ赤な筋肉で覆われ、肉だるまの様になった誠が天に向かって咆哮を上げている様子が撮影されているだけだった。
「「しかし、見れば見る程驚かされる。身体強化魔法を真っ向から否定する様に、この鬼の力は城屋誠の本来の身体能力を飛躍的に向上させ、圧倒的な破壊者にする。鋳鶴。君は彼を力づくで普通科のメンバーに加入させようとしているんだろう?」」
「はい」
「「勿論?」」
「覚悟はありますよ」
「「それでこそ。君だ。仮に城屋誠があの状態になったとしてこの学園で鬼化してしまった彼を止められるのは五本指も居ないだろう」」
「そうなったら、おっさんの力を借りますよ」
「「何を言っている。俺が君の力では無理だ。と確信した時にはすでに俺がスイッチして交代するさ」」
「極力使わない様にしたいですね。最後の奥の手みたいなものですし、勝手に出て来られたら城やんもブチギレちゃうと思うんで極力やめてくださいね」
「「また他人の心配かね」」
「いえ?誰もおっさんの事なんて気にしちゃいないですよ。僕が戦ってもおっさんが戦っても動くのは僕の体ですからね」
「「安全運転でやるさ」」
「まぁ、覚悟が互いに決まった所で悪いんですけど、ちょっと行きたい場所があるのでそこに行きましょう」
「「俺は一向に構わん」」
おっさんは腕を組んで鼻息を荒くし、鋳鶴の出方を窺った。
へりくだるか、激昂するか、おっさんは薄目を開けて鋳鶴を確認する。彼のおっさんに対して取った行動は、無視だった。
―――――機械科校門―――――
「「大丈夫なのか?」」
「何がです?」
「「いや、何がです?ではなく、今、君がこの場に居ていいのか?という事だ」」
鋳鶴とおっさんは機械科の校門の手前で中の様子を窺っていた。
まだ平日のお昼時、もしかしたら拘束されて時間を喰うという事も考えられたので一平に頼み込んで鋳鶴は次の時限の授業を公欠扱にしてもらった。要の授業で最近、彼女の授業の時間に際しては普通科のこういった行動と被るのでそろそろお灸を据えられそうと鋳鶴は考えている。
機械科の制服は普通科と殆ど遜色なく、普通科の制服にある黒のラインが黄色になっているぐらいしか、代わっているところは見られない。
「「機械科の生徒も膨大な数だ。一から虱潰しに回っていくつもりか?」」
「「いえ、取り敢えず一人でも生徒を捕まえてその人に生徒会長の元に案内してもらうつもりです」」
二人が心の中で相談している内に一人の影が二人の背後に忍び寄る。
「「鋳鶴!背後に誰かいるぞ!」」
「うそっ!」
鋳鶴は飛び上がってその場から距離を取る。おっさんが感じた気配の相手はどう見ても小学生の見た目をした少女だった。
「いきなり飛ぶなんてびっくりしたであります!」
「ごごっ!ごめんなさい!びっくりしちゃったもので!」
「君がゴ〇ゴ13じゃなくてよかったであります。所で機械科に何か御用でありますか?」
「ちょっと人を捜していて……」
「人探しでありますか!見た所、普通科の生徒さんなのでまさかカチコミに来たのかと一瞬だけ思ったであります」
少女の様な見た目でカチコミという表現は聊か、引っ掛かる二人だったが、そこはいつものように心の中に綺麗に仕舞い込んで少女の後ろについていく事にした。
「「「「おはようございます!」」」」
「えぇっ!?」
数人の男子生徒が鋳鶴に向かって頭を下げていた。まるで自分がこの生徒たちに指示したかの如く、統率の取れた軍隊の様に頭を上げた三人を鋳鶴は苦笑いで対応する。
「すごく元気が良いんですね」
「そうでありますか?うちでは普通でありますよ」
「「見た目は少女だが、彼女はしっかりしている様に見える。もしかして彼女が生徒会長なのかもしれないな」」
「「おっさん、いくらなんでもそれは無いと思いますよ。あまりにも小柄ですし、生徒会長としての威厳も今の所見えませんし」」
「「人を見かけで判断することなかれ、人間が良く言う言葉ではないか?」」
「「確かにそうですけど、それでも彼女は生徒会長には……」」
「着いたであります!」
少女の後を着いて行った先には歯車仕掛けの扉が蒸気を立て、機械特有の金属音が重低音を奏でながら、二人の前に聳え立っていた。
扉というよりも壁に見えるその建物の脇に機械科校舎と書かれた石板が建てられている。
「すごい……」
「ふふん、この校舎はでありますな。我が機械科の歴代生徒たちが徐々に作り上げていったものなのであります。初代会長の方が、この扉の基礎を作りそれを歴代の会長たちや生徒たちが徐々に改築したものが結果としてこうなったのであります」
「扉としては大きすぎな気も……」
「そうでありますか?大は小を兼ねると言うであります。でっかい事は良い事だ。と吾輩は思うであります。それにただ大きいだけでなく、この扉には様々な機能が内蔵されているであります」
「例えばどんなものがついてるんですか?」
「えぇーっと……」
少女は徐に機械科校舎の石板に近寄ってその背後で何かを弄った。
恐らく、レバーかボタンの類があるんだろう。少女は鋳鶴に自慢するために対応するそれを探していると、大きなシャッター音が周囲に鳴り響いた。
「えぇ!?」
「これが全てではないでありますが、流石に電力を消費しすぎるでありますから、今日はこれだけで我慢してほしいであります!」
「わかりました。またの楽しみにしておきます」
少女は再び、石板の後ろを弄った。
今度は大砲を全門収納し、轟音を響かせて重い扉が二人の前で開かれる。
「あら沙耶ちゃん。今日はお客さん?」
扉の先には事務所と書かれた表札と、一人の女性がプラスチックの厚板を隔てて会話できるスペースが存在していた。
中を見てみると、数人のスーツ姿の役員たちが所せましと動いて働いている。
「今日は、普通科からのお客さんであります」
「あら、珍しい。機械科の見学かしら」
「人を捜しに来たという事なのであります。だから此処ならすぐ見つかるかと思って連れて来た次第であります」
「それはそれはご苦労様。沙耶ちゃんも忙しいでしょうし、此処からは私たちに任せて頂戴!」
「ならお言葉に甘えてお暇させてもらうであります。事務所の皆様方、本日も機械科の為にありがとうございますであります!それでは失礼するであります」
疎らに職員たちは沙耶と呼ばれる少女に向かって返事をしながら、沙耶の事を見送った。
「そう言えば、名前を聞いて居なかったであります」
「僕は望月鋳鶴です。望む月と書いて望月。貴方たちもするであろう鋳型の鋳に鳥の鶴の鶴で鋳鶴です。よろしくお願いします」
「望月鋳鶴……?どこかで聞いたことのあるようなないような……。吾輩の名前は金城沙耶と言うであります。それじゃあ吾輩は忙しいのでまたお会いできる機会がある事を望むであります!あと望月殿は背も高いでありますし、清潔感もあるからうちの科に居たら女性陣に狙われてしまうかもしれないであります」
「それは物理的にですか……?」
「物理的でない。と言いたい所でありますが、統率力がある様でないでありますから、くれぐれも気を付けてほしいであります」
そう言って沙耶はその場を去っていった。最後に手を握り、握手を交えた鋳鶴だが、彼女を生徒会長だとは思わないものの。それに匹敵する人物であろう。と考えた。
「それで普通科のお兄さん。誰に用事があるんだい?」
「あぁ、その件なんですけど。機械科の生徒会長さんにお会いしたくてですね。本日はお見えにならないですかね?」
「え、それならさっきの沙耶ちゃんが機械科の生徒会長よ?」
「えぇ!?」
鋳鶴の急変する態度に事務員の女性は笑みをこぼした。
「いや!えぇ!?生徒!生徒会長なんですか!?」
「あら、機械科の事務員さんが信じられないのかしら?」
「いえ、そういう事ではないんですが……。さっきのあの子……、いや!あの人が生徒会長……」
「沙耶ちゃん小さいから、そりゃあ勘違いするよねー。私も此処に勤務して二年目だけど沙耶ちゃんを初めに見た時は子どもが高校に来てると思ったものね。それが今や諸事情はあれど、あの小さな体で生徒会長をやっているんだから大したものよ」
「今から追いかければ間に合いますかね?」
「沙耶ちゃんを呼び出しましょうか?」
「お願いしてもいいですかね?」
「はいはい。かしこまりました」
事務員の女性は手元にある受話器を手に取り、機械科全体にアナウンスを始めた。
「「だから言っただろう」」
「「これに関しては謝ります。おっさん、ごめんなさい」」
「「素直に非を認める所が君の良い所だ。最後まで諦めの悪い人間でなくて助かった」」
「「まさか、生徒会長とは思いませんよ」」
「「君と俺とでは視線も違えば、見えているものも違う。だから俺は彼女を生徒会長かもしれないと思ったのだろう」」
「「今度からそういうのはお願いしますね」」
「「いや、君の視点から見た方が正しい事もある。君の感覚も尊重した方が良いぞ。俺たちは一人じゃない二人なのだからな」」
決まった。と言わんばかりに鼻息を荒くして誇らしげに腕を組むおっさんを見て、鋳鶴は黙り込んだ。
「もー!望月殿!吾輩を探しているなら最初からそうと言ってほしいであります!」
「ごめんなさい。腕章もつけていませんでしたし、その……」
「小柄だから生徒会長に見えなかったと?そういう事でありますな?」
「はい……。未熟な考えで申し訳ありません……」
「まぁ最初は皆、そんな反応をするでありますからなぁ。もう慣れたであります。所で話しってなんの事でありますか?」
鋳鶴は事務所の近くに二人掛けのベンチを見つけた。そこに沙耶を誘って腰掛けると、彼女の顔を見る。
「「まさか、年端もいかぬ少女もイケる口ではあるまい?」」
「「おっさんは僕を何だと思ってるんですか!?」」
「「将来有望の魔王だ」」
「「こっちのペース乱さないでください」」
おっさんは鋳鶴の為に彼の心の奥底に戻った。
沙耶は話を始めず一転見つめしている鋳鶴の顔を覗き込んでいる。
「望月殿?」
「すいません。オンオフが激しいもので」
「普通科の方でありますし、要件としてはなんでありますか?道具作製の依頼でありますか?それとも家電製品の修理とかでありますか?」
「僕は、沙耶さん自身に聞きたい事があって」
「大丈夫でありますよ」
「城や……、城屋さんと知り合いなんですか?というか、恋人だっていうのは本当ですか?」
「何だ。そんなことでありますか!答えはイエスであります。でも何故そんなことを聞くのでありますか?体育大会に向けてこちらの事を探られるかと思って構えていたのでありますが……」
「僕は彼の事について、まだ知らないことが沢山あります。だから彼の恋人の貴方を訪ねて来たんです」
「そんな深い意味合いがあったんでありますか……。確かに望月殿の事はかねてから聞いてはいたでありますが、誠殿は何年も付き合ってる方でも秘密とか弱みを見せたくないとのことでありますからなぁ。短気で弱虫でぶっきらぼうなのに、自分の味方に弱い所は見せたくないっていう性格なのであります」
「良く理解されてる。僕もそう思いますよ」
「きっと、望月殿は誠殿を体育大会の戦力にしたいと考えているのでありますか?」
「そうです。城やんは必要なんです。僕たち普通科の人間が、他科の生徒会長や金城さんを倒すためには、城やんの力が必要なんです」
「それならかつての体育大会のトラウマを克服してあげないといけないでありますね」
「それもありますけど、金城さんは城やんの力についてはご存知ないんですか?」
「鬼の力でありますか?あれは吾輩にもあんまり話してくれないでありますからなぁ……。機械科のロボットにも擬似的にあの能力を搭載したいと言ってるのでありますが、それでもぷりぷり怒るであります」
頬を膨らませながら沙耶は鋳鶴に不満顔を見せた。その様子は微笑ましく、彼女という人間を現している。
あの気難しい誠が彼女に心を許すのが彼女の表情を見れば理解できる。嘘偽りのない、正直な瞳と表情。
誠の性格とはほぼ正反対の様な女性で鋳鶴は誠のタイプを考えれば考える程考えがこんがらがってしまう。
「でもあんな過去って言ったら駄目かもしれませんけど、どうして金城さんはあんな過去を持つ城やんと付き合ってるんですか?」
「あー、そこには様々な事情があるのでありますよ。お話して差し上げてもいいと思うでありますが、誠殿の許可を貰わないと話してはいけないと思うのであります。それに誠殿ならどんなに嫌でも喧嘩で敵わない相手とから言う事を聞くかもしれないでありますよ?」
「結局、実力行使になるわけですか……」
「大丈夫であります。そうなったら吾輩が手伝ってあげるでありますよ」
「えぇ!?」
機械科の会長の助力は圧倒的に大きい。鋳鶴はそう考えた。おっさんと自分だけでもなんとかするつもりではあったが、具体的な対抗策はないという状況に彼女から協力の持ちかけ、そこには何の不都合もない。
「しかし、条件があるであります」
「それは……なんです……?」
「望月殿の戦闘データを取らせていただきたいであります。それと身体能力とか血液型のデータも欲しいのであります」
「それで城やんを体育大会のメンバーに入れる作戦に協力してくれるという事でいいんですね?」
「良いでありますよ。ただし、戦闘データも何も誠殿と戦っている時の状態で戦闘データを取らせてほしいであります」
「飲みましょう。条件ではありませんが一つだけお願いがあります。いいですかね?」
「どんとこいであります!」
沙耶は屈託のない笑顔でそう元気よく返事をすると、鋳鶴は彼女に耳うちする様に屈んで彼女にその内容を話した。
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