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53話 女子高生、真意を知る



 そこには汗を流しながら声を出し、懸命にボールを拾う那遊の姿があった。

 決して上手なわけではない。

 ただその食らいつく姿はとても格好いい。

 肘や膝をぶつけようが、顔を擦りつけようが、ボールを追う。

 彼女らにとっては当たり前の光景なのだろう。

 しかし外野から見れば尊敬できるし、すごいと思わざるを得ない。

 こんなにも真剣な彼女というのは初めて見たが、ただただすごかった。


「格好いいなあ」


 目的も忘れ、見惚れるようにして那遊のプレーを見ていると、ふと視線が合った。


「……陽菜ちゃん?」


 視認した那遊の動きが止まる。

 ちょうどなにか一連の動きが終わったところらしく、部員に断りを入れてこちらに駆け寄ってくる。


「どうしたの?」


 ひょっこりと顔を出している陽菜を見つけた那遊は、なにか自分に用事があるのではないかと思ったらしく、わざわざこちらまで来てくれる。


「ごめん、気になった? ちょっと那遊に聞きたいことがあってさ」

「いいよ。なになに?」

「いい、いい! 休憩になったらで大丈夫だから」

「気にしないで。さっきの終えたら一旦休憩挟もうって話になってたところだったから」


 見ると部員たちは「疲れたー」と言いながら小体育館の隅に置いてある水分を取りに行っていた。どうやら気遣いからではなく、本当にグッドタイミングだったらしい。


「あ、じゃあちょっとだけ」


 ここではなんだったので、場所を少しだけ移動する。


「なになにー? もしかしてバレー部に入りたいとか……ってのは違うか」


 と、いつもの調子で話してきた那遊は、どこか緊張した空気を感じ取る。


「前にさ、媛岸さんがどうして辞めちゃったかっていう話になったじゃない?」

「うん」

「その時、那遊たちが居残って練習していたのが知られちゃったって言ったよね?」

「えっと、うん……」


 なんの確認だろうかといまいち陽菜の意図を汲み取れないでいる那遊は困惑するように言葉が尻すぼみに小さくなっていった。


「あれってどうやって知られたの?」

「え? どうしてそんなことを……?」

「……那遊が先輩たちに言ったって、相内さんたちに聞いて、ほんとかどうか知りたくて」


 友人の名前が出たことで那遊の眉がぴくりと動く。


「嘘、だよね? 相内さんたちの出まかせに決まっているよね? 那遊が告げ口みたいなことするわけないもんね」


 陽菜はそうであって欲しいという一心で那遊の肩を揺する。

 すると彼女はすべてを察したかのように顔を上げる。


「……そう、だよ。私が言っちゃったの」

「嘘」

「嘘じゃないよ。実は練習の時、顔でスパイクを受けちゃってその痕が残っちゃったの。それを翌日先輩たちにどうしたのか聞かれて……それでとっさに嘘つけなくて言っちゃった」


 自分を責めるように那遊は言う。


「だめだってわかっているのに、私って馬鹿だよねえ。適当に転んだとか言えば疑いはするかもしれないけどバレることはなかった。なのに私、正直に答えて……、それで瑛美ちゃんにまで飛び火して、結果的に瑛美ちゃんは部活に来なくなっちゃった」


 那遊は悲しげな表情で自分の行動を悔いている。


「ごめんね、このこと黙ってて。……私のせいだってことはわかってたんだけど、陽菜ちゃんにこんな最低で馬鹿な人だって思われたくなかったの。もしかしたら陽菜ちゃんに責められるかもしれないって思って最後まで詳細を語れなかった。本当にごめんね」


 自分の過ちを認めている。

 それは、本当に苦しいと思う。

 それでも那遊ははっきりと自分のしてしまったことを自分の口で話してくれた。


「怪我をしたのは私のせい。私が下手なせいで、怪我をしちゃった……それで瑛美ちゃんは――」

「那遊」


 ぽん、とそれ以上自分を責めさせまいと那遊の頭に手を置いた。


「まったく那遊らしいなあ。……たぶん那遊は居残り練習がだめなことをわかってたから、黙っているのが無理だったんでしょ? この機会に全部言っちゃおうってなった、そうなんじゃない?」

「いや、それは……」

「ま、どうせ認めないだろうから言わなくていいけど」

「ちょ、陽菜ちゃ――あいたっ!」


 額を叩くと那遊はしゃがんで痛がる。

 ……結構長い間、呻いている。


(あれ、やりすぎた?)


 そこまで強くやったつもりはないが、痛がりように心配になる。


「ごめん、痛かった?」

「えへへっ、なーんちゃって」


 けろっとした表情で起き上がってみせた那遊に陽菜は「もうやめてよ」と割と本気でそう口にしていた。


「はあ、もう……まあいいや。那遊は那遊なんだってわかって」

「私は私だよ?」


 なにを言ってんだこいつは? というような小馬鹿にしたような顔を向けられる。

 一瞬でも疑っていた自分を殴ってやりたくなった。

 こんな子が、嫉妬とか妬みなどで人を陥れるような腹の黒い子ではない。

 真正面からぶつかることができる、強い子であることを再認識できた。


「ねえ、那遊。最後にひとついい?」

「なに?」

「相内さんたちにいいように使われているのって……これが原因?」


 あんなことをずっとされていれば、どんなに勘の鈍い者だって気づく。

 自分がただの道具のような存在であると。

 対等ではなく、上下の関係になっていると。


「まったく那遊はお馬鹿チンなんだから」


 無言を肯定と取った陽菜は那遊の身体を小突く。


「那遊」

「うん?」

「那遊は自分のせいだって言うけどさ、わたしはそうじゃないと思う」

「…………」

「媛岸さんのこと」


 それでなにを言わんとしているのか通じたようで、那遊は哀切に目を細める。


「ううん、私のせいだよ。……私が下手だから、私が怪我なんかしたから悪い」

「それは違うでしょ。ただきっかけだっただけであって――」

「きっかけ。それだけでも充分だよ……ちょっとしたことでも与えちゃったのは私だから」


 そこは譲るつもりはないのか、那遊は頑とした態度で陽菜を見つめた。

 梃子でも動かない彼女に陽菜はとりあえず、このことについて言及を先送りにした。


「オーケー、わかりました。……じゃあこの話は終わり!」


 ぱん、と手を叩くと、小体育館のほうから練習再開の声が聞こえてきた。


「お、もう休憩終わりみたいね。ごめん、休めなかったでしょ?」

「ぜーんぜん。私、体力あるから平気!」

「頼もしい新キャプテンだこと」


 くすっと笑うと、那遊もつられるようにして笑う。


 そうしてふたりは別れ、陽菜は昇降口へと向かった。




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