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51話 女子高生、核心に迫る



「ねえ那遊。ここのところ昼休みにどっか行くこと多くない?」


 それは翌日の昼休みのことだった。

 本日も那遊との約束をしていたため、陽菜が午前の授業終わりに素早く支度を済ませて彼女のほうへ向かうと相内里衣佳が不満そうに口を開いた。


「それな。なに彼氏でもできたーん?」


 囃し立てるように言ったのは瀬戸内朱美だ。

 よく行動をともにする彼女たちは那遊の付き合いの悪さに疑問を抱いているようであった。


「違うよ。ちょっとやることがあって……」

「えー、じゃあ今日もメロンパンなし?」

「ごめん、また今度」

「はあ? それまじで言ってん?」


 里衣佳は苛立ちを露にする。

 露骨すぎるその態度の変化に那遊も困惑気味となる。


「いーじゃん。買ってきてよ」

「そうそう。わたしら餓死するって」

「ええ……」


 めちゃくちゃな物言いだが、那遊は友達のお願いを簡単に断ることができないようだ。

 どうしたものかと視線を彷徨わせるも、唯一助け舟を出せるであろう媛岸瑛美は静観の姿勢を取っていた。

 陽菜は入っていいのかわからないため、那遊の判断に委ねる。

 ここで下手に割って入って、関係をこじらせてしまいかねない。


「わ、わかった。すぐ買ってくるね!」


 わがままを聞き入れ、那遊は作り笑いとわかるものを浮かべる。

 それからすぐに陽菜のほうへと駆け寄ってくる。


「ごめん陽菜ちゃん。購買行かなくちゃいけなくなっちゃった。ちょっと待ってて」

「ならわたしも行くよ。ほら那遊ひとりだと買えないかもしれないし」


 以前のことを引き合いに出し、同行を申し出る。

 那遊もまたあの時の記憶が蘇ってきたのか、苦い顔となる。


「お願いします」

「任せて」


 運動をする前に戦場である購買へと向かうのだった。



――――



「くっ……またしてもあの突風が」

「二度目だぞ」

「め、メロンパンが……」


 壁に磔にされたかのようにめり込む生徒たちの嘆きが聞こえてくる。

 ……見なかったことにしよう。


「さっすが陽菜ちゃんだね! 風を操る女!」

「た、たまたまだよ!」


 笑って誤魔化す。

 早いところメロンパンを入手したかったため、少しばかり強引に手に入れてしまった。

 不審がられる行為極まりなかったが、こういう子は騙しやすくてやりやすい。

 香織然り、こういったいい子を騙すようなことをするのは胸が痛んで仕方ない。

 今日のところはよしとしよう。


「そんなことより早くこれ届けに行こうよ。ね!」

「そうだね!」


 深く追及されても嘘を重ねるだけだったので移動を促す。

 一階から二階へと向かう途中、陽菜は那遊が手に持つ袋を見て、聞く。


「那遊は優しいね」

「ん、なにが?」

「や、それ。相内さんたちにメロンパン買ってってあげるなんてさ」

「ああ。全然。これくらいしなきゃね」

「しなきゃ?」


 まるでなにかに逆らえないかのような言い方に引っかかりを覚える。


「友達の頼み事だから。断ったら嫌な気持ちにさせちゃうかもだし」

「……頼みって言ったってさ、結構強引じゃなかった? てかふたりが行けばいいんじゃ」

「えー? でも陽菜ちゃんだって頼まれたら行くでしょ?」


 麻衣と夕莉、ふたりのことを想像する。


(麻衣はなさそうだけど、夕莉は……まあ遊びの範疇でやりそうだな)


 おそらく、なんだかんだで行ってしまうかもしれない。

 頼むということはなにかの事情があるわけだし、いつもお世話になっている、というのもある。

 しかし、里衣佳と朱美のあの態度は……なんとも言えない。

 人にものを頼む感じはまったくしなかった。

 行って当たり前、みたいなふうに見えてしまう。

 頼む、というよりかは命令と称したほうが正鵠を射ているように思えて仕方ない。


「まあそうかも」

「でしょ。だからべつに優しいとかじゃないよー」


 ひらひらと手を振って日常茶飯事のことであると主張する。

 ただそれが当たり前になってしまっているのはどうかと思う。


「でも那遊。わたしとバレーボールやっているって言ってなかったんだね」

「え? あー、うん。言ってなかったかも」

「言えばあそこまで無理に頼まれることもなかったんじゃない?」

「かなあ。けどそこまで苦じゃないから」


 苦ではないとはいえ、那遊がやるべきことでもない。

 そんなに欲しいのなら自分が行けばいいだけのこと。

 なんの事情があって行けないのかは定かではないが、それを那遊に押し付けるような形になってしまっているのは、少しむかむかとした感情が出てきてしまう。


「すぐ届けてくるから待ってて」


 教室の前まで来ると那遊はそう言って陽菜を待たせ、彼女だけ教室に入っていく。


「お待たせー」

「おーこれこれ。さっすが那遊」

「持つべき者は友達だねー」


 席に座って待っていた里衣佳と朱美はメロンパンを受け取る。

 特にあの様子からは、忙しい感じはしない。


(というか、普通に待ってない?)


 まるで親分と子分のような関係だ。


「瑛美ちゃんも、はい」

「あー、あたしはいいや。那遊にやる」

「え?」


 最後のひとつを渡そうとした那遊だったが、渡す相手瑛美から拒まれる。

 見れば、すでに彼女はお弁当を半分近く食べていた。


「食べ盛りでもないし、そんないらないから」

「そ、そう? じゃあもらっとくね」

「そーして」


 素っ気なく返し、瑛美はくあっと欠伸を漏らす。


「瑛美食べないんかい」「その身体で?」

「うっさい」


 友人ふたりからからかわれるように言われ、瑛美は鬱陶しそうに近づいてきたふたりを追い払う。そんな友達の様子を見て、那遊はニコニコと笑みを浮かべていた。


「じゃあ私はもう行くね」


 自分たちの世界に入って聞いていない友人たちに告げ、那遊はこちらに駆け寄ってくる。


「ごめん、待たせちゃって」

「ううん、それはいいんだけど」

「よかった。それじゃあ行こっか」

「あ、待って。ひとつだけいい?」


 体育館へと足を向けた那遊を呼び止めると彼女はどうしたのかと首を傾げた。


「媛岸さんとかはさ、友達なんだよね?」

「え、そうだけど?」


 前置きをするように確認した陽菜はゆっくりと口を開く。


「……そう、那遊が友達って言うんならそうなんだろうけど。わたしから見たら違和感しかなくて」

「違和感……?」

「那遊。……あなた、あの三人にいいように使われてない?」



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