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47話 女子高生、いつもどおり言い合いになる



 週が明けた日、ちょっとした変化が陽菜には起こっていた。


(牛島くんからの視線がなくなった……?)


 いつもはやたらと無遠慮な視線を送ってくる牛島陸也。

 しかしどういうわけか、放課後に至る現在まで一切なかった。

 いやいままでだってそこまでしつこくこちらを見てくるというわけではない。

 ちらちらという一瞬のものだし、神経質になるほどでもない。

 これが一般人ならばおそらくは気づかないだろう。

 だが陽菜は普通の人間よりも敏感に感じ取ることができる。そのため、ちょっとでも自身に意識を向けられると自然とわかってしまうのだ。


(まあいいか)


 変に疲れることもないし。

 むしろラッキーとも言える。

 ブラックリスト入りから脱却ということだろうか。


(…………待って)


 そこではっとなる。

 いくらなんでもこれはおかしいのではないだろうか。

 べつに見られなくなったことに関しては喜びたい……のだが、少し変なのだ。

 というのも、陽菜がなんとはなしに横を向くと、陸也は思いっきり顔を逸らすのだ。特段、こちらを見ていたというわけでもないというのに、露骨に。少し近づいただけだというのに、こちらを見まいと机に顔をつける勢いで伏せる。

 まるで避けられているようだ――そう捉えるのが普通と言える。


 しかし、この土日で嫌われるようなことをした覚えはない。


 ということは、だ。

 先日最後に会った際に言われたことを思い出す。


 ――くっ……ら、来週だ。来週こそやってやる。覚えていろよ、御巫陽菜。


 そんななにかやる宣言をしているにも等しい発言をした陸也。


(なに企んでいるのかな……)


 やってやるという言葉の意味はわからないのだが、なにかをしてくるということだけはわかる。

 ここまで黙っていてからの……なにか、というのは少しばかりの怖さはあった。

 ただ同時に楽しみでもあったのも否めない。

 彼ならば奇想天外なことをしてくれるかもしれない、と。


「…………」


 放課後となってぞろぞろと生徒たちが教室を出ていく。

 事前に今日は補習だと言ってあるので麻衣と夕莉はふたりで帰っていった。

 そして牛島陸也はというと、荷物をまとめて立ち上がり――


 ――こちらに一瞥をくれることなく、普通に帰っていった。


(ええええええええええええ!?)


 なにもしないのかい!

 期待したわたしが馬鹿みたいじゃないか!

 そう言った言葉が頭の中をぐるぐると回り、気づけば陽菜は教室を飛び出して陸也を捕まえていた。


「う、うぉぉおお!? 御巫陽菜ぁ!? ほ、ほんとに来たぁあ!?」

「なに言ってんの?」


 まるでこうなることこそが狙いだと言わんばかりだった。

 気のせいだと思い、気にせずに言う。


「ねえ、なんか今日牛島くん変じゃない?」

「変? べつに? いつもどおりだが?」

「そうかな。……なんかわたしのこと避けているみたいだったから」

「なにを。ただ俺は意識するとついつい突っかかってしまうからそうしないように――んんっ! はーあ! なーんのことやら。俺はいつだって平等な男。ひとりの女を避けるわけがない」


 前半に口走ったことが気にならないわけではなかったが、この際どうでもいい。


「それでなんか今日してくれるんじゃなかったの?」

「なんか今日してくれる?」

「え? もしかして忘れていた?」

「なんのことだ?」

「だから先週末……ううん、なんでもない。わたしの勘違いみたい」


 説明しようとして言うのをやめる。

 記憶違いだったというのもあるが、知らないというのであれば無理矢理聞き出したくもない

きっとそれは少しばかりショックを受けていたからだろう。

 もちろん自分勝手なことで抱いた感情ではあるが。


「じゃあわたし補習あるから」

「待て、御巫陽菜」


 呼び止められる。


「つまり俺は貴様に頼られた、ということか?」

「……え? どゆこと?」

「だから補習についていけずこのままでは追試が危ういから教えてくれってことだろ?」

「や、違いますけど」

「なるほどな。ようやく貴様も俺という完璧超人人間を頼ることを決めたか」

「違うって言っているんだけど?」

「まあまあ。わかるぞ、この俺を頼ることで迷惑をかけてしまうとでも思っているのだろう。だがな、安心しろ。俺は心が広い。困っているクラスメイトのためならば他の用事を蹴ってでも助けてやる。どれ、教えてやるとするか」

「ちょっと待って」


 勝手に決めつけ、教室に戻ろうとする陸也を再び止める。


「わたしそんなこと頼んだ覚えないんだけど」

「はあ? なにを今更抜かしている。貴様はつい今しがた言っただろ?」

「言ってませんけど!? なにをどう捉えたらそうなるの!?」

「してくれるうんちゃらと言っていただろ! それ以外になにがある!」

「こっちが聞きたいよ! してくれるってなにをしてくれるつもりだったのか」

「はあ?」

「はい?」


 一触即発の雰囲気となるふたり。

 しかしそこで陽菜は自分がいまどこにいるのかを思い出す。

 教室前ということもあり、生徒も多く、周囲の目がこちらに向いてくる。


「も、もういいっ! 牛島くんなんか知らない!」

「お、おい」

「――あなたなんかに一生頼ったりなんかしないから」


 びしっと言い、陽菜は教室の扉を閉め、ふたりの間に壁を作る。


「なんなの、あの人は……」


 結局いつものように終わり、陽菜は深くため息をついて自席に置いてしまっていた補習道具や荷物などをまとめる。

 ふと視線を上げると、隣の席にはまだ楠木凛太郎がいた。


「御巫さん。牛島くんとなにかあった?」

「あったというか……普段どおりというか」

「な、なるほど」


 頭を抱えるような仕草をする凛太郎に陽菜はぽつりとこぼす。


「でも今回はわたしも悪いかも」

「え?」


 顔を上げた凛太郎と目が合う。

 すぐに彼は逸らすが、陽菜はそんな彼のいつものそれを見て、くすりと笑う。


「どういうことか知らないけど、牛島くん、わたしのために勉強教えてくれようとしていたみたいでさ。でもわたしはそんな牛島くんの厚意を無下にするようなことしちゃって。あっちも言い方があれだったってのもあるけど、あんな言い方もなかったかなって後悔してて」


 思わず発露してしまった胸の内を凛太郎は聞き、わずかに口を開いて言う。


「たぶん大丈夫」

「大丈夫?」

「きっと牛島くんも……自分の言ったことで御巫さんを怒らせたってことわかっていると思うから」


 だから、と凛太郎は続ける。


「御巫さんが嫌じゃなければ、もう一度頼ってあげて欲しい」

「…………」

「ほら、牛島くんってクラスのこととかいろいろ考える人だから」

「うん、そだね。でも大丈夫かな、わたし頼らない宣言しちゃったけど」

「まあ、うん……大丈夫だとは思う」

「そっか。楠木くんが言うんだから大丈夫か」

「え?」

「だって楠木くんは周りの人のことよく見ているし、知っているでしょ。その楠木くんが大丈夫って言っているんだから、大丈夫かなって」

「いや、そんな知らないけど」

「そう? あーまあわたしはそう思っているってことで」


 しゅびっと手を挙げる。


「じゃあ補習やってくるね」

「あ、うん。頑張って」

「ほーい」


 ひらひらと手を振って陽菜は補習の時の席に着いた。



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