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44話 女子高生、バレーを楽しむ



 昼休み。

 小体育館にキュッキュと靴の音が鳴り、ボールが空中を舞う。


「いいよ! 天井にぶつかるボールの勢いは最高!」

「……うん、ごめんね?」

「レシーブの時は手じゃなくて足を動かすといいよ」

「こうかな?」

「そうそう! あとは方向だね! 私のほうに向かって……こんなふうにっ!」

「――そりゃっ…………ごめん」

「だいじょーぶ。その気迫が大事だよ!」

「……はは、ほんとごめん」


 そんなふうに気遣われること数十分が経過。

 いつものようにお弁当を食べるために一旦休むことに。


「いやあ、陽菜ちゃんのボールは砲弾みたいに早いよね」

「早いだけだけどね……」


 一日二日で上達などするわけもなく、今日も今日とて陽菜の下手っぷりは健在だった。


「誘ってくれたのは嬉しかったんだけど、やっぱりわたしじゃ那遊の練習相手は務まらないんじゃないかな?」

「なーに言ってんの。こんな才能の塊みたいな人なかなかいないんだからね」

「あ、あるかなあ、才能」

「あるよ! だってあんなボールの勢い未だかつて見たことないよ」

「それは、うん……、そうなのかもしれないけど」


 実際、これでスパイクを打たせたら相手は取れるわけないだろうと思う。

 ただ現状、それは叶わない。なぜなら陽菜が尋常ではないほどにコントロールが悪いからである。


「でもわたし下手だし」

「だれだって最初は下手だよ。私だってまだまだだし」


 それに、と那遊は続ける。


「こんな強引に誘ったのに一生懸命やってくれて嬉しいんだ」


 飛びきりの笑顔で言われ、陽菜はこれ以上の自嘲を憚られた。


「いまはただバレーボールを好きになってくれたらいいなあって思っている」

「好きかどうかはまだわかんないけど、楽しいよ。こうやって那遊と一緒にやっているのは」

「ほんと? よかったあ」


 那遊は安堵したように息を吐き、えへへと笑いながらお弁当を食べる。

 陽菜もその笑顔につられるようにしてご飯を口に運んでいく。

 今日も今日とて那遊のお弁当の中身は豊富で量も多く、若干羨ましく思う陽菜。


(お母さんにもっと食べたいって言おうかな……)


 こうして昼休みに運動するようになってよりお腹がすくようになってしまった。

 これまでどおりの量では午後の授業など力が出ない。


(うっ……だめだめ。我慢しなきゃ)


 ふるふると首を振る。

 太り気味だと指摘されたばかりでなにを考えているのだろうか。

 自分に鞭打ってお弁当を食べる。


「陽菜ちゃん。今日、果物あるんだー。よかったら陽菜ちゃんもいる?」


 二段重ねのお弁当にさらにタッパーを取り出してくる。

 その中にはカットされたリンゴがたくさん入っていた。


「いいの?」

「うん。運動するとお腹減っちゃうでしょ? はい、デザートにどうぞ」

「ありがとー」


 食べ物に関して意志の弱い陽菜だった。


「そういえば那遊。媛岸さんのことなんだけど」

「瑛美ちゃん?」

「うん。バレー部辞めちゃったって聞いたけどさ、決してバレーボールを嫌いになったわけじゃないんだよね?」

「たぶん。もうあんまりやりたくないって言われただけで」


 やはり那遊に対しても瑛美は飽きたという理由で突っぱねたようだ。

 ただ怒られて顔を出しづらくなったとかそういうことなのかもしれない。

 だったら。


「わたしたちと一緒に昼休みにバレーボールやらないかって誘ってみる?」

「え?」

「いまはちょっと本格的にやりたくないだけで、遊びとしてならやってくれるんじゃない?」

「なるほど」

「ほら、わたしもバレーボールの楽しさが少しわかってきたし、媛岸さんもやっている内にまたやりたくなるかもしれないじゃない? それにわたしだけだと那遊の練習にならないと思うから」


 陽菜が名案だとばかりに提案すると那遊は逡巡し、


「そうだね。瑛美ちゃんとまた一緒にやりたいし」


 ぐっと拳を作って意気揚々と言った。


「やってくれるといいね。それでまたバレー部に戻ったらなおさら」

「うん。知らないと思うけど、瑛美ちゃんってすっごく運動神経いいんだよ」

「へえ、そうなんだ」

「そうそう。体育とかでもそういう姿あんまり見せないけど、球技全般うまいよ」


 喜々として語る那遊のその姿を見て、本当に瑛美のことを友達として好きなんだなと陽菜は思った。



――――



「えー、今日ふたりとも無理なのー」


 放課後になり、補習がなかったため、すぐに下校できることになったのだが生憎麻衣と夕莉のふたりは塾と部活があるため遊べないらしい。


「ごめんごめん。また今度ね」

「うう。気晴らしにふたりと遊べると思ったのに」

「昨日とかだったら遊べたんだけどね。陽菜ちゃんが補習するせいだよ」

「あう……そうでした」


 夕莉にもっともなことを言われ、二重のショックを受ける。

 まだ補習を行ったのは二日間だけだが、陽菜の疲労はだいぶ溜まっていた。普段ならこんなにも勉強しないせいだろう。


「じゃあ、もう行かなきゃだから」

「早いー」

「ごめんって。まあ陽菜は追試があるんだし、その勉強でもしてなさいよ」

「ええ、やだよー」

「追試でも似たような点数取っても知らないわよ」

「……やります」


 無慈悲にも現実を突きつけられ、陽菜は麻衣の言葉に首肯する。


「数学に苦戦する陽菜ちゃん……ぷぷ」

「期末で絶対夕莉には勝つから」

「あらあら二六点の人がなにを言っているんだろうねー」

「ぐふっ……」


 夕莉相手に言い負かされる陽菜。

 惨めすぎるので本当に頑張ろうと思った。


「じゃあまた来週ね」

「ばいばーい」


 手を振って陽菜の席から離れていくふたりに「じゃあね」と手を振り返す。


「わたしも帰るか」


 ひとり残された陽菜はひとりごちり、ゆっくりと荷物をまとめる。


「不貞腐れた顔をしているな、御巫陽菜」


 ちらりと見上げれば、そこには牛島陸也が仁王立ちでいた。


(また来たんだ)


 この人も大概暇だな、と思いながらも顔には出さない。


「そんなことないよ。ほら、笑顔笑顔」


 笑顔を作りながら陸也に迫る。

 すると彼は「ちょ、ちかっ」とかなんとか言って後ずさった。

 なぜかは知らないが、いつも余裕な態度の彼がこんな反応をするのは珍しかったので陽菜は面白がるように笑顔で彼に近づく。


「これのどこが不貞腐れているように見える?」

「わかったから、やめんか」

「こっち見てないのにわかってないでしょ。ほら、ちゃんと見なさいよー」

「や、やめ……俺が俺じゃなくなるぅぅぅううう」


 悲痛の叫びとなっていたので、さすがにやめてあげた。


(というか、俺が俺じゃなくなるってどういう意味よ……まったく。そんなにわたしの笑顔が変だって言うの?)


 なんかちょっぴり傷ついた陽菜だった。


「ふう……ったく、いきなりなにをするんだ」


 ぶつぶつと言いながら陸也は襟などを無駄に正している。


「……あーあ、なーんかものすごーく勉強したい気分だなあ」


 いきなりなんの前触れもなく、そんなことを言いだす陸也。


(今日はなんなの?)


 昨日に続いて今日もおかしい言動をし始め、訝しむ。


「いやあ、中間試験が終わったが、どうもやり足りないというか、なんというか」

「ああ、そうなんですか」

「特に数学とかなー。無性に数字を読みたいなー。数字とかめっちゃ計算したいなー。サインコサインタンジェントしたいなー」

「…………」


 一周回って馬鹿みたいな発言をする陸也だった。

 この人って本当は馬鹿なんじゃないだろうかと疑ってしまう。


「俺の願望を満たせるものないかな――あっ、そうだ御巫陽菜よ」

「はい」

「確か、数学の補習を受けていたよな?」

「そうですね」

「そうだったよな。うん……いやあ、ちょうどいい。とにかくなんでもいいから数学の問題を解きたい気分だったんだよ。うわー、本当に偶然だなあ、補習かあ、やりたいなあ」


 ちらりちらりと陽菜のことを窺う。


「牛島くん」

「なんだ? しょうがないな、わからないのか? まったく」

「今日、補習ないよ?」

「べつに貴様のためにやろうと思っているんじゃないからな。ただ俺は――ん?」


 聞き取れなかったのか、陸也はもう一回とジェスチャーをしてきたので陽菜は言う。


「だから今日補習ないって」

「……は、はああ!? なんでないんだよ!?」

「知らないから! 毎日あるわけじゃないんだって」

「嘘だろ……。俺が昨日遅くまでみっちり練った計画がこんな簡単に崩されるなんて」


 どんよりとしたまま陸也は陽菜の席から離れていく。


「くっ……ら、来週だ。来週こそやってやる。覚えていろよ、御巫陽菜」


 だからなんなんだ?

 陽菜はまったく彼の言葉も行動も理解できなかった。




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