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4話 女子高生、妹にあるところを指摘される

 クリーム色の二階建ての家。

 車庫には自動車が二台置けるスペースがあり、現在はそれぞれ埋まっていた。


「わたしの家だ」


 感慨深げに呟く。

 3年振りの我が家。なにも変わっていない一軒家がそこにはあった。


「わんっ。わんわんっ!」

「パルフォート!」


 敷地内に入ると、すぐ脇にあった犬小屋からひょっこりと顔を出してきた柴犬のパルフォート。御巫家の愛犬である。陽菜もよく可愛がっていた。


「わたしのこと覚えててくれたんだあ」


 抱き着き、わしゃわしゃと顎をかいてやる。

 パルフォートは「くぅん?」などと鳴き、言っている意味がわからないようだ。


「そっか。そうだよね、パルフォートにとっては今朝振りだもんね」

 わたしは3年振りなんだぞ、とめちゃくちゃ撫でてやる。


 撫でられる、というよりかは構ってもらえることが大好きなパルフォートは陽菜の気持ちなど知らず、ただただ至福そうに撫でられ続ける。


「おっし。また明日ね」


 充分柔らかい毛並みを堪能した陽菜は今度こそ玄関へ。


「ただいまー」


 家の中へ入る。

 そこにはすでに母、父、妹の靴が並べられてあった。

 ファミレスでの騒動でずいぶんと遅くなってしまったらしい。

 陽菜が一番最後に帰宅するなどあまりない。


「懐かしい! これが我が家かあ!」


 空気をいっぱい吸う。

 こんな匂いだったかなと思いながら、靴を脱ぎ、廊下を歩く。


(相変わらず変な絵が飾ってあるなあ)


 などと父が買ったらしい芸術品を酷評しながらリビングへ。


「ただいまー」


 扉を開け、足を踏み入れる。


「あら、陽菜。おかえり」


 晩御飯の準備をしている母が真っ先に応対してくれる。


「あ、お姉ちゃん。おかえりー」


 机の上を布巾で拭いていた中学生の妹、里菜りながのんびりした声で言う。


「ん、陽菜か。遅かったな」


 不愛想に言い、すぐになにかタブレットをいじり始める。


「うわあ、みんないる。……お母さん、お父さん、里菜がいるよおおお」


 この3年で涙腺が弱くなったが、どうやらこの身体でも涙腺は弱いらしい。

 陽菜はなんとか涙だけは出しまいと、鼻をすする。


「なにを当たり前のことを言っているのよ……。晩御飯できたところだったからちょうどよかったわ」

「うん。わたしも運ぶの手伝う」


 鞄をソファに置き、腕をまくって駆け足でみんなのもとへ行く。


「お姉ちゃん。今日、ハンバーグだって」

「ほんと!? 嬉しすぎて泣くぅ」

「え、ちょ、お姉ちゃんほんとに泣いてない?」


 母が作ったハンバーグの乗った皿をテーブルに運ぶ。


「お父さんご飯だよ」

「ああ、わかった。……それより陽菜。今日は少し遅かったようだが」


 タブレットをしまい、娘の帰宅の遅さに言及してくる。


「友達とファミレス行ってて、少し遅くなっちゃっただけだよ」

「そうか。友達と遊ぶのはいいが、あまり遅くならないようにな。あと今日のように遅くなるのなら連絡をすること」

「はーい」


 手を挙げ、軽い返事をする。


「もうお父さんったら心配性ね」

「ほんと。うざいからそういうのやめたほうがいいよ」

「ただ私は報連相をするようにだな……」


 家族のそんなやり取りを見て、陽菜は帰ってきたのだと改めて実感した。



――――



「ねえ、お姉ちゃん。わたしにも教えて」

「なにを?」


 晩御飯を食べ終え、汗もかいたので一番風呂を所望した陽菜が入浴していると「わたしも入っていい?」と聞きながらすっぽんぽんの妹の里菜も入ってきた。

 今年中学卒業の妹とは仲が良く、お風呂をともにすることもままあった。


「隠したって無駄だよ」


 湯船に浸かっている里菜は目を細くし、身体を洗う陽菜へ言う。


「おっぱい大きくなったでしょ」

「あー、それか」


 女性の象徴ともいえるその部分に目をやり、ひとつ息を吐く。


(言われて見れば、うん、それなりに大きくなったかもね)


 身体を洗いながら、自分の胸を片手で上げ、その裏の部分を洗っていることに気づく。

 以前ならばこんなことはせずに洗えていた。

 しかし現在、異世界で3年間過ごしたせいか、胸が大きくなっていた。

 ゼリーのようにぷるぷるとしており、走れば多少揺れるほどになった。


(というか、わたしの変化で一番に気づくのがそこって……わたしの妹らしいな)


 家族からもなんか変わった? みたいな反応はあった。

 やはりそれなりに成長したものはあるらしい。

 適当に誤魔化したが、目ざとい妹には誤魔化しは利かなかったようだ。


「ねえ、なにやったらそんな大きくなったの?」

「なにって……特にはなにも」

「絶対嘘」

「嘘じゃないって」


 嘘ではない。

 異世界の効果なのかなんなのか、なぜか胸がよく成長した。


(うん、異世界の人って胸大きい人が多かったから、なんかあるんだろうな)


 だから本当になにもしていないのだ。

 そんな胸などに気を遣っている暇もなかったし。


「だってお姉ちゃん。胸小さいこと気にしてたじゃん」

「う……」


 3年前の子供だった頃の自分を思い出し、顔を赤くする。

 陽菜とて女子高生。そういうものを気にするお年頃だったのである。そこまでなくはないが、満足できるほどあったわけではない。


 胸が欲しかった。

 大きな胸が欲しかったのだ。


 これでもかってほどじゃなくていい。

 爆乳じゃなくたっていい。

 ただ谷間みたいなのに憧れた。

 ちょっとエロくって、男子だけじゃなく女子からも見惚れるようなものに。


「で、なにが効果あったの? おっぱい体操? サプリメント? ウォーキング? 食事?」

「わたし、そんなやってたっけ……」

「それともだれかに揉んでもらったとか?」

「は……?」

「彼氏? ねえ、彼氏? どんな人? わたしの知っている人?」

「いや、いないから」


 これでもかというほど前のめりになり、お湯をばちゃばちゃと弾く。


(こういう話、好き過ぎでしょ……我が妹)


 そういうものが好きなお年頃ということだろう。

 かくいう陽菜も3年前は好きだったが……。さすがは姉妹。


「まあいないかー。お姉ちゃんだし」

「どういう意味よ、それ。あんただっていないじゃん」

「わたしはいい感じの人いるもーん」

「嘘っ!?」

「えっへへー。わたしはお姉ちゃんと違っていろいろやっているんですー」

「……意外と里菜もやるのね」


 自分と同じで男とは無縁だろうと思っていた妹だったが、どうやら恋愛において立場は彼女のほうが上のようだ。


「でさー、その狙っている子が胸大きい子が好みなんだって」

「へえ、それで胸を大きくしたいってわけ」


 身体を流し、湯船に浸かる里菜の隣に座る。

 ちらりとその胸の膨らみを拝見。


(ふーむ、さすがは血の繋がった妹。中学時代のわたしくらいだわ)


 つまりそんな大きくない。

 いや、もっと言うなら中学時代の陽菜よりもない。


「そうだなあ。わたしからアドバイスするとしたら」


 唇に人差し指を当てる。


「普通じゃない体験をするとか?」

「なにそれ。たとえば?」

「異世界に行くとか」

「お姉ちゃん。そういうの好きになるといよいよやばいよ」

「べつに好きになったわけじゃないから!」


 姉に対して失礼なことばかり言う妹の平たい胸を揉む。


「だれかに揉んでもらうとか? それこそその男の子に」


 なーんて、と里菜の胸から手を離そうとしたが。


「いいねそれ。揉んでもらおう。そうすれば一石二鳥じゃん」


 開いた口が塞がらないとはこのことだろうか。

 陽菜は名案だとばかりに立ち上がった里菜に言葉がかけられない。


「王様ゲームとかで、そういう罰をすれば……うふふ、これはいける」

「お、おーい我が妹よー。普通じゃない体験って言ったけど、それはちょっと」


 自分の世界に入ったらしい里菜には陽菜の忠告など耳に入らない。


(うーむ、里菜がこんなにも積極的だとは思わなかったなあ)


 というかこれ積極的というか、痴女というレベルなのでは?

 そう思う陽菜だったが、口には出さなかった。


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