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30話 女子高生、悩みの種が消えない



 ――前回のはあれだよ、モノにした女にも数か月に一度そういう格好いい姿? を見せなきゃいけない。だから俺たちが花澤っつー女を狙ったんだが……お前のせいでパーッになったってわけ。おかげで怒られるハメになったんだぞ。


 ――だから今日の俺たちはなにもしねえって。ただ普通に喫茶店に寄ってただけだ。


「御巫さん」


 昨日のことがぐるぐると頭の中を回っている。

 どこか引っかかっていたが、そこまで気にしなかった。

 そういう偶然もある。そういう素質がある。引き寄せるなにかがあるのだと思い込んでいた。

 けれど違った。

 赤司総士は偶然を装って、あたかもピンチに現れたヒーローのように振る舞った。

 香織にも里菜にも、陽菜と香織が一緒にいた時のやつだってそうだ。

 すべて――自作自演。

 裏で繋がっていれば、簡単に追い払うことだってできる。

 怪我とか事件にならずに、華麗に、格好よく。


「御巫さん」


 しかし、知ったところでどうだと言うのだ。

 助けてくれたことはただのきっかけに過ぎず、好きになったのには変わらないだろう。先日、あれほどの覚悟を聞き、また別れたほうがいいなどと言ったら……本当に嫌われる。


「御巫さん」

「へ?」


 机をちょんちょんと叩かれ、呼ばれたほうを向く。

 楠木凛太郎だ。

 しかも起きている。


 と珍しがっている陽菜に彼は前を向けと指で示される。


「御巫陽菜さん」

「は、はい!」


 英語の先生に眼鏡越しから睨まれ、陽菜は立ち上がる。

 いまは授業中だった。


「次の英文を訳してください」

「英文?」


 クエスチョンマークを浮かべる陽菜に先生はお冠な様子。

 完全に聞いていなかった。

 やばい、と焦る陽菜に隣の凛太郎が教科書でいまやっている部分を教えてくれる。


「(ありがとう)」


 小声で礼を言うが。


「…………ジョンはゆでられた卵以外食べれない?」


 ごめん、読めなかった。

 陽菜の学力はあんまりであった。



――――



「陽菜ちゃんはお馬鹿さんだねー」

「うるさい。夕莉だって絶対わかんなかったでしょ」

「失礼な。私は四か国語を喋れる帰国子女ですわよ」

「日本語も怪しいのに?」

「陽菜ちゃんの最後の晩餐はドリンクでオーケー?」


 夕莉が鳴らないのに指をぽきぽきさせている。

 ごめん、まったく怖くない。


「だから言ったでしょ。今日は当たる確率高いから予習しときなって」

「ごめん、そんなこと言ってたっけ?」

「陽菜、大丈夫? なんか朝から上の空っぽかったけど」

「あー、うん。だいじょぶ」


 放課後。

 麻衣の提案により、『フランジェール』にいつもの面子で来ていた。

 あまり自分から誘わない麻衣からだったので何事かと思えば、陽菜のことを心配してのことだったのだろう。学校では話せないことがあるかもしれないとの配慮か。

 優しいなと陽菜は思った。


「また香織のことで?」

「ううん、違う違う。昨日ちょっと寝るの遅かっただけ」


 しかし陽菜はふたりに昨日のことを言わなかった。

 香織が総士と別れる気がないことは伝えてあるが、昨日のことは言ったところで余計に悩ませるだけであるから。


「でもそっかあ。香織ちゃん、そんなに彼のこと好きなんだねえ」


 ポテトをぽりぽりと食べながら夕莉は言う。


「見守るしかないのね」


 ドリンクを置き、力なく麻衣は言う。


「はあ、チートがあっても意味ないじゃん」


 ぼそりと言う。

 どれだけ力を持とうが、まったくの無意味。

 ぶん殴って片づけられたらどれだけ楽なことか。


「とにかく陽菜もいつまでもそんな調子じゃあ、教師に目をつけられるわよ」

「そうそう。陽菜ちゃんってば、一応真面目さんでとおっているんだから」

「一応ってなに。……うん、わかっている」


 夕莉に突っ込みつつ、麻衣の言葉には陽菜も同意だ。

 なにもできないのに、クヨクヨとしていたって周りに迷惑をかけるだけだ。


「さて、陽菜ちゃんも元気出たみたいだし、カラオケでも行く?」

「行かない。明日も英語あるから予習しなさいよ」

「ぶー。だから私は四か国語喋られるんだって」

「あーそ。ならいいわ。たぶん、明日は夕莉が当たるだろうけど」

「……え? あの、やっぱりお願いします」


 見事な手懐け方だ。

 というか、夕莉も教師に目をつけられたくはないらしい。


「あれ? そういえば今日は香織ちゃんいないみたいだね」

「なにも毎日いるってわけじゃないでしょ」

「それもそか。ざんねーん」


 ふたりのやり取りを聞いていると、追加のポテトがやってきた。


「こちらポテトになります」


「夕莉。あんたまた頼んだの?」

「決めつけはよくないよ! 私だけど!」


 お腹がすいているのか、夕莉はポテトを受け取り、さっそくぱくりと食べ始める。


「……あの、お客様。花澤香織さんと高校が同じ、でしたよね?」


 聞いてきたのはポテトを運んできた店長だった。

 よく通っているとはいえ、店長と話したことはほとんどない。香織と仲が良く常連なので覚えているのだろう。あの件も印象深いだろうし。


「はいそうですけど」


 陽菜が代表して答えると、店長は眉を寄せて頭を掻く。


「どなたか、花澤さんがどこにいるか知らないですか?」

「えっとどういうことですか?」

「いえ、今日シフトに入っているのですが、まだ来ていなくて……。電話にも出てくれなくて」

「来て、いない?」

「はい。これまで休んだ時なんてなかったですし、休むにしても無断で休むような子ではないので心配で。……彼女、入ってからずっと頑張ってもらっていたので嫌になったとか、なにか聞いていたりしませんか?」


 嫌な予感が頭をよぎる。

 それは他のふたりも一緒のようで、行動は迅速だった。


「わたしたち探してきます」

「いや、でもお客様――」

「心配なので。……これ、お代です」


 失礼します、と頭を下げてから三人は『フランジェール』を出る。


「事故とかだったら連絡くらい行くと思うから、違うなにかがあったのかも」

「心配だね」


 ふたりの会話を聞きながら電話をかけるが、出てくれる気配はない。

 続いてメッセージを送ってみるも、既読はやはりつかない。


「手分けして探す?」


 麻衣が言う。


「じゃあ私があっちで、麻衣ちゃんはあっち。陽菜ちゃんはあっちで」


 夕莉はそれぞれの大まかな場所を指定し、動き出そうとする。


「じゃあ見つけたらすぐに連絡して」

「「了解」」


 ふたりは東と西に向かう。陽菜は学校方面の南だ。

 力を使って人探しを……と思うも、生憎そういうものはない。魔力の察知とかならばあるが、普通の人間に魔力などないし、あったところでどれが香織かわからない。


(赤司さんとなにかあったのかも)


 それ以外に考えられなかった。

 理由もなく礼儀正しく、しっかり者の香織が仕事を放りだすわけがない。

 走りながら考えるが、超高速で走って見つけ出すのが一番手っ取り早い。


「よし――」

「おい、御巫陽菜」


 急ブレーキ。

 目の前に牛島陸也が現れた。

 また面倒くさい相手だな、と顔が自然と嫌な感じなものを醸し出す。


「俺という完璧人間に会ったんだからもっと喜べ」

「そうですねー」


 棒読みで言う。


「あの、わたし急いでいるから用事ないなら行っていい?」

「な、なに? いやちょっと待て。用事用事……」


 なぜ無理矢理用事を作ろうとしているのだろうか。

 陽菜は陸也の行動に謎ばかりが深まる。


「牛島くん? わたしほんとに急いでいるから。いま香織ちゃんが――」

「そうそう花澤香織だ。さっき見て」

「どこで!?」


 食いつく陽菜。

 若干後ずさりながらも陸也は「お、おお」と照れたように言った。


「向こうだ。まあ少し経つからどこまで行ったかはわからんが」

「あっちね! あとどんな様子だったか知らない?」

「さあな。俯きがちだったのは覚えているが表情までは……。ああ、あとカメラだ」

「カメラ?」

「そうだ。一眼レフカメラ。あれはなかなかのものだったから覚えているぞ。あの女も見る目があるな。あれはカメラを少し知っているものなら有名な――」

「それだ!」


 あることを思いついた陽菜は陸也の手をぎゅっと握る。


「な、ななななにをする!?」

「嫌かもしれないけどちょっと我慢して。それとそのカメラのこと思い出して」

「はあ?」


 陸也の素っ頓狂な声が轟いた。





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