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20話 女子高生、イケメンとなんちゃってイケメンの違いを見せられる



「この人が香織ちゃんの彼氏!?」


 こくりと頷く初々しいカップルに陽菜はなんかもういろいろと出来事が続きすぎてついていけない。


「改めまして、赤司あかし総士そうしと申します。御巫さんには最近、香織がお世話になっているとかでよく聞きます」

「いえいえそんな」


 恐縮する陽菜。

 同じ高校生であるのに礼儀正しすぎて、ぎこちなくなってしまう。


 赤司総士。

 県内でも有数の私立高校に通う高校三年生。

 眉目秀麗、文武両道、質実剛健、これらの四字熟語が当てはまる人物とは彼のことを言うのだろう。香織からの説明とこの数分間での印象だが、もう完璧超人である。陽菜のクラスにいる中身が残念なわがままお坊ちゃまなどとは比べるのすらおこがましいくらいの人のよさを感じさせる。


「あの、本当に助けていただいてありがとうございます」

「いえ。女の子だけでしたし、御巫さんも怖かったですよね? それなのに香織のことを守っていただいて、こちらこそありがとうございます」

「全然そんなっ! わたしなんか、なにもできませんでしたし」

「なにをおっしゃいますか。香織の前に立ってくれた、それだけで十分です」


 穏やかな笑みを浮かべる総士の隣にいる香織も「そうです」と拳を作って言う。


「あの時、本当に怖かったんですけど、陽菜先輩が私とあの人たちとの間に入ってくれて、心強かったです。本当に……本当にありがとうございます」

「……そう、言ってくれて嬉しい。ありがとね」


 結局、なにかできたわけではなかったが、あの行動で香織の恐怖心を少しでもなくすことができたのであればよかったと陽菜は素直に思う。


「ですけど、あの、赤司さん」

「はい」

「お金、あれいくらだったんですか? わたしもお支払いします」

「いいですよ。ほんとにそこまでのものじゃなかったですから」

「いえ、でも赤司さんに助けていただいて、さらにお金まで出してもらっちゃって、申し訳ないですから」


 しかもあのお金を渡された時の表情で、その金額の高さが窺えた。どれほどのものなのか、想像できないが、さすがに総士におんぶにだっこでは申し訳なさすぎる。


「本当に大丈夫です。……僕は香織と陽菜さんが無事でいてくれて、笑顔になってくれた。それだけで十分すぎるくらいのものをもらっています」


 どこまでも低姿勢で、見返りを求めない総士。

 気を使わせないように値段も言わないし、助かったことこそが見返りだとでも言うように。


(こりゃ惚れるわ)


 あまりにもイケメン過ぎる行動に、陽菜はやれやれと肩をすくめた。

 陽菜たちだけでなく、ヤミたちあのふたりに対してだって事を大きくさせないようにして。

 なんというか、もうお手本そのものだ。


(慣れているというか、この人にとっては自然な動作のひとつに過ぎないのかも)


 どんな教育を受けたらこんなにも立派な人間が出来上がるのだろうか。

 あのくそみたいな国王に総士を見せてやりたいと思った。


「本当に? 私は払うって」

「いいって。本当に全然払ってわけじゃないから」

「うう、でもぉ」

「じゃあ、今度遊ぶ時、香織にはなにか奢ってもらおうかな」

「うん! なんでも奢るから!」

「はは、じゃあそれで」


 ベストカップルがいた。

 イチャイチャされるのはあまり見ていて好きではないけれど、これは見ていられる。


(なんかもうね、可愛い&格好いい+会話に嫌味がない!)


 これが出会って一か月のカップルなのか。

 ちょっと信じられないくらい仲良しだ。


「けど香織はよく知らない人に絡まれるな」

「なんでだろ」

「前にも言ったと思うけど、周りをよく見て、注意して行動してくれよ」

「うん。ごめんなさい」

「あまり心配かけないでくれ。僕は毎回いるわけじゃないんだから」

「……でも総士くんはいつも来てくれる」


 やれやれと息を吐いた総士は香織の頭を撫でる。


(わたしもいるんだけどなあ)


 お熱いふたりに微妙に居心地の悪さを感じる。


「そうだ、香織。今日はバイトなんじゃなかったのか?」

「あっ! 忘れてた!」


 言われて時間を確認した香織は「やばい! 急がなくちゃ!」と慌てる。


「すみません、陽菜先輩! 私、もう行かなくちゃいけなくて」

「いいよ、行って。わたしのことなんかよりもバイト優先して」

「ほんとにすみません。私の不注意で迷惑をかけて……またこのことで陽菜先輩には改めてお礼をさせてください!」

「いいのに」


 有無を言わさぬ香織に陽菜は断る暇を与えられなかった。


「ほら、香織。慌てるとまたなんかしでかすから」


 しっかり者の彼氏から注意を受け、香織は急停止する。


「そうだった」

「僕もついていくから」


 そして総士は香織のそばまで駆けていく。


「では陽菜さん、今日はいろいろとすみませんでした」

「全然。わたしのほうこそ、赤司さんには助けていただいて」

「いえいえ。では、また今度改めてお話しする機会がありましたら、その時はお願いします」

「はい。こちらこそ」


 丁寧にお辞儀をされ、陽菜も慌てて返す。

 香織もふたりにつられて頭を下げ、「陽菜先輩、また!」と手を振ってふたりはアルバイト先に早足で向かった。


「ふふ、なんだ。香織ちゃんの彼氏すっごいいい人じゃん」


 これならば一〇万円のカメラをプレゼントしたいと思うのも無理はない。

 むしろ贈って欲しい。なんなら陽菜も少し出したい。


「やば、わたしが惚れてどうする」


 さて、帰るかと考えた陽菜は後ろからの視線に思わず振り返った。


 なんか木の陰に隠れている人がいた。

 おもっくそ見えている。だれなのかもはっきりわかる。


「あの、牛島くん?」


 木に隠れていたその人は名前を呼ばれ、びくりと身体を跳ねさせた。

 しかしどういうつもりか、顔を出しては来ない。


「あれわたしの勘違いだったかな。じゃあ帰ろう」

「偶然だなあ、御巫陽菜! 俺と会うなんて奇跡に近い!」


 面倒くさいやつ。

 普通に登場すればいいのに、なぜこんな小芝居打たなければならないのか。


「それで牛島くんはそこでなにをしているの?」

「なにって? ただ俺は帰ってただけだし? え、なに。帰っちゃいけないわけ?」


 うぜえなこいつ。

 という気持ちを抑え込み、笑顔を作る。


「へえ、牛島くんってこっち方面だったんだ。知らなかった。わたしもこっちなんだ」

「そうか。俺と一緒とはなかなか運のいいやつだな。よかったな!」

「あ、はあ」


 なにがよかったのだろうか。

 笑みがぎこちなくなってしまうのを必死で直す。


「じゃあ、わたしはこれで」

「待てぃ!」


 手を広げて陽菜の前に現れ、進行を妨げる。


「えーっと、なに?」

「いや、そのなんだ……せっかくだし、い、いい、いいい……一緒に…………さっきまで一緒にいたやつらはだれなんだ!?」

「はい?」

「だ、だから! さっきまで一緒に話していたやつらはだれなんだと聞いている」

「あれは後輩とその子の彼氏さん」


 投げやりに教えると陸也は、「ほう、そうかそうか」と聞いた割にはあまり興味なさそうにしていた。


「で、先ほどまでいたあの男たちは? なんかいろいろと揉めていたようだったが」


 だいぶ前から木の陰に潜んでいたらしい。


「あまり柄のいいやつらではなかったようだったが、大丈夫だったのか?」

「うん、まあ。後輩の彼氏が追い払ってくれたから」

「なるほど。……ふん、あんなひ弱そうな男にやられるということは、絡んできたやつらの程度も知れるな。くだらん茶番劇を見せられた気分だったな、まったく」


 嘲笑うかのように陸也は鼻を鳴らす。

 人を馬鹿にするその態度に陽菜はイラっとする。


「くだらんいちゃもんをつける行為をする連中はよっぽど暇なんだろうな。そんな暇人を相手にする先ほどの男も男だ。あんなもの、さっさと追い払えばいいものを、いらん口上を並べ立て、あまつさえあんな小さな額を渡すなど……俺には遊んでいるようにしか見えんかったな」


 陸也は総士たちの消えた方向を見やる。


「あんな男を彼氏に持つあの女も可哀想に。あれでは一緒に歩くだけで笑われる。あんな男に惚れるなどあるか。なあ、御巫陽菜もそう思うだろ――」

「――じゃああなたが助けに来なさいよ!」


 限界だった。

 もう怒りの臨界点は超えてしまっていた。


「なにをべらべらと彼のことも知らないくせに言いたい放題言っちゃって……。見ていたのならあなたが助けに来てくれればよかったじゃない! どうして来てくれなかったの?」

「は、はあ? なぜ俺がそんな面倒なことをしなければならんのだ」

「はあ? 女の子が男の人に絡まれているんだから助けに来るでしょ普通!」

「だったらそう言えば――」

「牛島くんがいるなんて知らないわよ! というか、そんな助けを呼ぶなんて考えられないくらい追い込まれてたの、わかる!?」


 減らず口を叩く陸也へ陽菜は言う。


「どうせ怖かったんでしょ? あの人たちめちゃくちゃ強そうだったもんね!」

「怖いわけないだろう!」

「どうだか。てか、助けに来てない時点で牛島くんのほうが赤司さんよりよっぽどヘタレなんですけどー。茶番劇云々言ってないで、まず行動に移しなさいよ、この……意気地なし!」

「い、意気地なし……だと」


 言うだけ言って、すっきりした陽菜は口だけ男に背を向ける。


「じゃあね、さよなら」

「おい、御巫陽菜。帰り道はそっちじゃないだろう」

「あなたと一緒にいたらわたしまで笑われちゃうから遠回りして帰りますのでお気になさらず」


 皮肉をたっぷり込めて陽菜は陸也から離れていく。


「こんなはずじゃあ……」


 そんな陸也の心情など陽菜には届かなかった。





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