16話 女子高生、冗談を言ったのに気まずい雰囲気を作ってしまう
(やっぱり怒っているのかなあ)
翌日登校すると、挨拶代わりの視線が飛んできた。
謝ったほうがいいのだろうけれど、こちらから行くのが怖い。
(そもそも謝るってなにを? 遅れたことについては許してもらえたから……あの最後のやつは、牛島くんも悪いし、あっちからあのことを謝られない限り謝りたくはない)
ということで冷戦状態へ。
今日も退学というものをぶつけてこないので、そこはラッキーだ。
(てか、ほんとに昨日はなんで呼び出されたんだ? 退学のこと言うつもりもなかったっぽいし。うーん、謎だ)
牛島陸也の意図が読めない陽菜は考えても仕方ないのでそのまま席へ座る。
すでに隣にはいつものボサボサ頭の楠木凛太郎がいた。
しかし本日は寝ておらず、スマホを片手に難しい顔をしていた。
(そういえば昨日、楠木くんのこと置いてちゃったんだっけ)
頭に血が上っていて、凛太郎のことを忘れていた。
巻き込んでしまった感のある陽菜はあのあとのことが気になって仕方がない。
思い切って話しかけてみよう。
「おはよう、楠木くん」
「……っ」
普通のボリュームで言ったつもりが凛太郎はびくっと肩を揺らした。
慌ててスマホをポケットにしまって、こちらに顔を向ける。
「お、おはよう。御巫さん」
遅れて挨拶がされ、ひとまず無視されなくてよかったと安心する。
「なんかアプリとかで忙しかったら全然やってもらっててもいいよ」
「……べつにそういうわけじゃないから」
「そう」
こちらを気遣ってなのかはわからないが、少なくともスマホをしまうということは話す意思があるということだろう。
「昨日ごめんね、なんか変なことに巻き込んじゃって」
「いや全然。むしろ邪魔しちゃったのは僕のほうじゃ……?」
「ううん! 楠木くんはわたしのリュックを持ってきてくれただけ。なにも悪くないよ」
「でも僕が来てからなんか、いろいろとあったわけで」
「あれもただわたしがまずっただけ。だから楠木くんは気にしなくていいの」
昨日のことで凛太郎に罪悪感を抱かせないように言う。
「でさ、あのあとなんだけど」
「あのあと?」
「わたしが帰ったあと、牛島くんとふたりっきりになったでしょ? だ、大丈夫だった?」
自分のせいでなにか言われたりされたりしていたら気が気でなかった。
「特になにも」
恐る恐る聞いた陽菜に凛太郎は首を横に振った。
「ほんとに? 殴られたり、罵られたりとかされなかった?」
「されてない、されてない。普通に帰ったよ」
これを陸也が聞いたらかなり失礼に当たるだろう。
しかし彼は陽菜同様、凛太郎に対してもなにかすることはなかったらしい。
「ただ、僕の探し物を御巫さんが手伝っていたのかどうか、確認されただけ」
「そっか、ならよかった」
よくわからないが、それだけだったならば問題はない。
向こうは平気で転校させるくらいの権力者だ。質問だけならばなんてことはない。
けれど、だからこそ思うことはある。
(やっぱ牛島くんってそこまで悪い人なんじゃない……のかな)
ちらりとそちらを見やれば、陽菜を見ていたはずの陸也から視線が切られる。
「なんだって言うのよ……」
露骨なその動きにやはりよくわからない男だと思う陽菜。
「御巫さん?」
「ああ、ごめん。……そういえば、昨日のUSBメモリ。大事なものって言ってたけど、エッチなものだったり?」
なーんてそんなわけないよねーあははー、と続けようとした陽菜だったが、凛太郎は決まりが悪そうに窓のほうを向くという変な反応をした。
(え、嘘でしょ……?)
笑う流れに持っていこうとしたが、なんともふたりに微妙な空気が流れるのだった。
 




