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15話 女子高生、いろいろと反省する



「そっかあ、陽菜ちゃんは牛島くんじゃなくて楠木くんと付き合うことになったんだ。おめでとう!」

「わたしってそんなに説明下手かなあ!?」


 伝わらな過ぎて心配になる陽菜は、スマホに向かって声高に言う。


 夜中。

 自分の部屋のベッドの上でグループ通話で友人ふたりに説明すること数分。

 相変わらず夕莉からはとんでもない勘違いをされるのだった。

 自分の説明力がないのか、彼女の理解力に問題があるのか甚だ疑問である。


「まあとりあえず陽菜」

「なに麻衣?」

「あんたは馬鹿ね」

「辛辣っ!」


 こっちはこっちでド直球に言われて、銃で胸を撃たれたかのように倒れる。


「二度目よ。わかっているの?」

「はい。わかっております」

「いいや、陽菜はわかっていない。わかっていたら牛島相手に逆らう真似は二度としないから」

「おっしゃるとおりで」


 折り目正しく、正座をし、言われるがままな陽菜。


 実際、わかってはいたが、結果として反発してしまった。これはわかっていたとは言えない。いくら言いたいことがあろうとも、そこは踏ん張らなければいけないところだった。


「でもでも、わたし麻衣の言われたとおり、女の武器を使っていい感じに行けたの!」

「ああ、あれね。……ほんとにやったんだ」

「え、なに? 最後のほう聞こえなかったんだけど」

「ううん、なんでもない!」


 ごめん陽菜となぜか謝られてしまう。

 なにかしたのだろうかと思ったが、特段気にせずに続ける。


「お色気とか絶対無理だと思ってたんだけど、わたしって結構いけたのねえ。やっぱり3年間という月日は長い。おっぱい大きいって高校生には効くのね!」

「「3年?」」

「気にしないで!」


 また異世界のことを口走ってしまい、ふたりから聞き返されてしまう。


「そもそも、楠木くんの手伝いをするっていうのがどうかしているのよ。夢中になるのもそうだし。手伝うこと自体悪くないんだけど、一言遅れる旨を伝えるとかしないと」

「面目ない」

「私たちに言われても」


 呆れの吐息が通話越しから聞こえる。


「でも実際、牛島くんよりも楠木くんを選んでいるわけでしょー」

「捉えようによっては……」

「そこね。夕莉の言うように、そこはちょっとまずかったわね」

「や、だってさ。牛島くんがあんな最低なこと言うから……」


 ごろん、とベッドに寝転がる。


(誤解している部分はあったみたいだけど、やっぱりああいうところは好きじゃない)


 改めてそんなふうに思っていると心の中を見透かしたかのように麻衣が言う。


「陽菜がここ数日でおかしくなったのかなんなのかわかんないけど、やっていることや言っていること自体は正しいと思うし、尊敬もできる。けど、それで自分の首も絞めているの。わかっている?」

「…………」

「そういうの一番わかってたじゃん」


 過去の自分を引き合いに出され、押し黙ってしまう。

 異世界に行く前の陽菜は確かに体裁だとか、人の目だとかを気にしていた。いまでもそういうものが生きていく上で必要なこともわかっている。

 けれど、異世界で窮屈な生活や苦しい思いをしている人たちを見てきて。

 彼らの気持ちを知って。

 弱い人たちが我慢を強いられていることを痛感して。

 どうして放っておけるだろうか。


「ごめんなんか説教臭くなったね。まああの場で退学って言われなかったんだから、そういうつもりはなかったのかもね。……それじゃあ私は勉強するから」

「ううん、全然。じゃあ、また明日」

「明日ねー」


 陽菜と夕莉が別れを告げると麻衣はひとり、通話を切る。


「もう、陽菜ちゃん。麻衣ちゃんをあんまり心配させないでよね!」

「ごめん」


 ふたりきりになると夕莉がぷんすかと怒ったように言う。


「呼び出されたやつだって気になってたみたいだったし。……もちろん私も心配してたよ!」

「その付け足し方、なんだか嘘くさいな」

「嘘だからね!」

「嘘なんだ!? ちょっとくらい心配して!?」


 あははー冗談冗談、などと軽く言われるが、けたけた笑っているのが聞こえる。

 結構まじっぽく聞こえる……。


「じゃあそういうことで! これからドラマ始まっちゃうから切るよ!」

「課題出てるから勉強しなよ」

「はて、なんのことやら」

「わたしは見せてあげないからね」

「麻衣ちゃんに見せてもらうからいいもーん」

「この通話、録音しているから」

「後生ですから! 後生ですからやめてくだされ! やりますんで!」


 意地悪をしてから通話を終了させる。

 これで自分でするだろう。さて陽菜も課題をやらねば。


「お姉ちゃーん、いまいい?」


 勉強を始めようとした陽菜の部屋をノックしてきたのは妹の里菜だ。

「いいよー」と返事をし、リュックから勉強道具を出すのをやめてそのままベッドに座った状態で応じる。


「どしたのー?」

「ねえ聞いて! 今日、超イケメンに会ったんだ!」

「そ、そう……」


 喜々としてベッドにダイブして陽菜に抱き着いてきた里菜。

 しかし姉の興味なさそうな反応に妹は不服げだ。


「イケメンだよ、イケメン!」

「わかったって」

「いやいや! もっとあるでしょ! どんなーとかどれくらいーとか」

「どんなー」

「感情がこもってない!」


 どうしろと!? と陽菜は血気盛んな中学三年生の妹についていけない。


「ぱっと見は印象薄いんだけど、その薄い顔がまたよくてね! さっぱりとしていて、シャープな感じって言うの? 全体的にほっそりとした感じなんだけど、あれこそまさに塩顔イケメンだね。しかもね、格好いいだけじゃないの! わたしと友達が強面の人に絡まれているところに颯爽と現れて簡単にやっつけちゃって! 強いし、格好いいしでまじイケメンだった!」


 聞いてないのにべらべらと喋り出す妹。

 これが普通の女の子なのだろうか。


「やっぱさあ、シチュエーションも大事だよね! イケメンは女の子のピンチに現れる! これに限る! ああんもう! ねえ、今日のお礼言おうと思うんだけどこんなんで送っていいかな!?」


 メールの文面を見せられる。

 矢継ぎ早に説明されたが、どうやら本日ピンチのところを助けられたイケメンにお礼のメールを送ろうと思うのだが、これでいいかという相談らしい。


「いいんじゃない?」

「もう適当! お姉ちゃんも今後お付き合いあるかもしれない人なんだからちゃんと見て!」

「知らないわよ。……というか、里菜。あなたいい感じの人いるって言ってなかった?」

「あー、あいつはなんていうの……脈なしっぽいから」


 途端にテンションが下がり、やっと陽菜から離れてくれる。


「脈なしっぽいって、なんでまた」

「だってわたしが自然な流れで『おっぱい触ってみる?』って言ったら『そういうのやめたほうがいいよ』みたいなこと言って拒否してきたんだよ? あり得なくない? これもうわたしのこと好きじゃないでしょ」

「超常識ある人じゃん! むしろ里菜がやばいから!」

「ど・こ・が! 普通、好きだったら揉むでしょ!」

「揉まんわ! や、知らないけど、知らないけどきっと揉まないから! その子は里菜のことを思って言ったんだと思うよ」

「はあ? わたしのこと思っているなら揉むでしょ。お姉ちゃん馬鹿?」


 これはわたしが異常なのか? と自分自身を疑った。

 3年間異世界に行っていたが、これが普通の女の子なのだろうか。


「まあいいや。彼氏できたこともないお姉ちゃんに聞いたわたしが馬鹿でしたー」


 自分から聞いておきながら、むかつく妹だな。


「そうだ。ひとつ言っておくね」


 人差し指を立てて、里菜は陽菜の口元に囁くように言う。


「おっぱいが大きくなったからって、さすがに前のボタンは閉じてたほうがいいよ」

「はい?」

「だから今日帰ってきた時、ブラウスのボタンが取れてたって」

「はいいいいいいい!? え、ほんとに!?」

「うん。帰ってきてからすぐにお風呂入っちゃって、言うタイミングなかったから言わなかったけど。ああいうのお父さんに見られたらまたうざいからやめたほうがいいよ」

「……う、うん」


 それだけ伝えると里菜は「おやすみー」と挨拶をしてから出て行った。

 ひとり自室に残された陽菜はひとりごちる。


「あははー、だから牛島くんも楠木くんも様子おかしかったんだ」


 お色気作戦のあときっちり制服を直せなかったらしい。

 着るものなど適当な異世界だったから、自然と適当にしてしまったのだろう。

 とんだ痴女だ。







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