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12話 女子高生、呼び出しを食らう



 週明け。

 とりあえず休日はのびのび過ごした。

 異世界じゃあ休める時間も限られていたので天国かと思った。

 ただ、全力で楽しめたかと言われれば微妙だ。

 なぜなら今日、御巫陽菜被告に判決が下る……かもしれないのだから。


(う、噂だし……? いくら権力あるからってそんなことしない、よね?)


 ドキドキだった。

 いっそのこと休めばよかったかもしれないが、特に通達もなかったし、牛島家の執事さんが陽菜の家に押し寄せてくることもなかったので普通に来てしまった。


「大丈夫」


 教室の前で一度深呼吸をする。

 自分に大丈夫であると何度も言い聞かせ、ガラリと扉を開く。


 がやがやと教室は騒がしそうで、陽菜に注目が集まるということはなかった。


(自意識過剰、かな)


 ドラマや映画とかだったら一声に視線を集めて主人公が焦るところだろうけれど、現実は違う。それにこの前だってべつになんてことなかったのだ、気にし過ぎだ。


 まだ夕莉や麻衣は登校していなかったので真っすぐ自分の席へ向かう。


(相変わらず寝てるなあ、楠木くんは)


 高校になにしに来ているのだと問いたいくらい寝ている彼。

 あれ以来話せていないが、嫌われているから陽菜を無視して寝ているというわけではないらしい。だっていつも寝ているし。


 リュックを机の横のフックにかけようとしたところでミスって隣の楠木凛太郎の机のほうに当たって倒れてしまう。その反動で凛太郎が目を覚ます。


「ごめんっ。起こしちゃって」


 すぐに謝罪すると凛太郎は寝ぼけ眼で陽菜を数秒見つめる。


「あー、うん…………」


 どうでもよさそうな感じで返事をし、目をぱちくりと瞬かせる。


 そのまま睡眠を再開させるのかと思っていたが、意外な反応をされる。


(な、なに……? もしかして怒っている?)


 いやいや事故だから! まったく故意とかじゃないから! 睡眠の邪魔しようとか全然思っていないから!


 などと言葉を並べ立てようとした陽菜だったが、凛太郎は口をへの字にさせ、ゆっくりと窓のほうへと顔を向けて……寝た。


(結局寝るんかい!)


 心の中で突っ込みつつも、なぜあんな表情をしたのだろうと首を捻った陽菜に、


「おい」


 とひどく乱暴に声をかけられた。


 この時点で友人ではないことは確かだし、そもそもこの低い声は男だ。

 しかしクラスでは仲の良い男子生徒などまだいない。

 ということは。


「御巫陽菜。牛島陸也くんからだ、しっかり読んでおけ」


 牛島陸也の取り巻きさんが一枚の小さな紙を渡してきた。


(で、ですよねええええええええ!)



――――



「放課後に体育館裏って……告白じゃん!」


 心底楽しそうに言う夕莉。


(他人事だと思って楽観的に言って……)


 午前の授業を終え、昼休み。

 朝のホームルーム前、陸也から渡された紙には放課後に体育館裏へ来るようにという呼び出しだった。普通ならば夕莉が言ったように告白の王道パターンであるが、そんなわけがない。だったら可愛らしく下駄箱に入れておけって話だ。わざわざ自分の取り巻きに渡せるのだから違うのは確実。


「わたし、犯されるのかあ」

「なんで陽菜の貞操の話になってんのよ」

「だって男の人からの呼び出しとかそれしかないでしょ」

「いやもっといろいろあると思うけど」

「なら暴力か……。牛島くんの攻撃は正直大したことないんでしょうけど、わざとやられるのって気が引けるのよねえ」

「そっちのほうがまだ可能性はあるけど、さすがに警察沙汰は避けると思うよ。……てかなんで陽菜はそんな暴力なら勝てるみたく言ってんのか疑問で仕方ないんだけど」


 鬱々としながら呟く陽菜にこの場で唯一冷静な麻衣がため息をつく。


「とはいえ相手が確実に出してくるカードは陽菜の退学だね」


 わかっていることと言えば、陽菜のほうが分が悪いということだ。


 ほぼ確実に陸也は陽菜の退学権を手になにか要求してくるのだろう。

 それが貞操なのか暴力なのかはわからないが。


「やっぱり、あんだけのことしたんだから……まあなにもないってほうが無理ね」

「うううう……」


 異世界から返ったら平和に過ごしたいと思っていたのに、もうすでに暗雲が立ち込めてしまった。一番目をつけられちゃいけない人だったのに、マークするのを怠った自分のせいだ。


(まあ、関わらないようにしていようとあの場面に出くわしたら……)


 きっと助けていただろう。

 それはもうこびりついてしまった陽菜の正義感であろう。

 世界のすべての困っている人を助けたいとかそういう殊勝な考えはないが、目の前で自分が助けられる人がいたら、身体が勝手に動いてしまうようになってしまった。


「陽菜ちゃんが退学とかになったら嫌だなあ」

「……夕莉」

「陽菜ちゃんは私と同じであんまり頭良くないし、運動でもできないから」

「同レベルの仲間がいなくなるのが嫌なんだね!」

「今度は私よりもできない子を仲間に入れよう」

「薄情! 夕莉にとってわたしという存在の大切じゃない感半端ないね!」


 もぐもぐと昼食を食べながら軽薄なことを言う友人だった。

 いや、友人と思っていたのは陽菜だけだっただろう。


「なに言ってんの! 私にとって陽菜ちゃんはとっても大切だよ! 陽菜ちゃんほどちょうどいい子なんて滅多にいないんだから!」

「後半で台無しになっている!」

「はい。高校生活最後の晩餐ですよー」

「……はむ。美味しい」


 卵焼きをもらう。

 あまり食欲が出なかったが、最後だと考えると無性に食欲が湧いてきた。


「退学するかどうかまだ決まっていないんだから元気出しなさいよ」

「美味しい」


 麻衣からもエビフライをもらう。


(優しいな、ふたりは)


 優しさに触れ、自分の昼食にやっとこさ手を付け始める。

 しかし状況は依然として悪いままだ。

 即座に退学を言い渡されるか、代わりになにかを要求される、その二択。


(土下座とかなら全然いいんだけど)


 プライドもへったくれもない陽菜は、平和のためならばそれくらい楽勝と思っている。殴られることもべつにどうってことない。むしろ一発手刀をかましてしまっているのでお相子だ。ただエッチなことに関しては抵抗がある。まだそういう経験がないから怖さもあるし、最初は好きな人という乙女心もあるし、なによりも陸也は好みではない!


「でもむかつくわね。あんなの断然牛島が悪いってのに。調子に乗るな馬鹿」

「おうぼーだ、おうぼー」


 ふたりは陸也に向かって野次を飛ばすが、彼から冷たい視線を受けると速攻で逃げた。


「え、いまの聞こえた?」

「わ、私は応募って言ってただけだからセーフ!」

「いや伸ばしてたから」

「伸ばしてません。でも麻衣ちゃんはしっかり相手の名前も言ってたからアウトー」


 自分を守るために必死で言い争いをしているふたりだった。


「あ、はは……」


 睨まれるなあ、と陽菜は放課後が思いやられる光景に乾いた笑みが漏れた。


「そ、そうだ。ふたりともよかったら放課後、一緒に来てくれない?」


「ごめん、今日部活」

「私も塾があって」


 普通に断られた。


「健闘を祈っているよ」

「ファイトだよ、陽菜ちゃん」


 代わりにエールを送られる。


(うーむ……)


 前言撤回。

 この人たちは結構、自分のことが好きみたいである。




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