7. シークレットクエスト
週間にも載りました。
本当にありがとうございます。
所用で感想返しは遅れます……
西の森へと再び戻ってきたわたしは、早速敵とエンカウントした。
『ファレーナ Lv9』
『クロウラー Lv7、Lv8』
「流石にこれは……」
多すぎる、そう言葉を続ける前に、クロウラーから放たれた酸がわたし目掛けて放たれる。と言っても、そこまで範囲は広くないので、余裕をもってステップで回避することが出来た。
最も、それが1体のみだったらの話だが。
「っ!?」
なんと、わたしが回避したところを待ち伏せるように、既にもう一体のクロウラー。
「【マナショック】!」
咄嗟に刀を振るい放った【マナショック】が、立ちはだかったクロウラーへと突き刺さる。
その時、上で鱗粉を撒き散らそうと舞うファレーナの姿が見えた。
ここで回るのは不味いと感じたわたしは、出来る限り高く後ろに跳びながら空中で身体をひねり、出来る限りの反動を滞空時間中に逃がしながら、ここで初めて魔法を使った。
短い詠唱を唱えた後、魔法名を呟く。
「……【突風】」
わたしを中心として巻き起こった強い風が、撒き散らされた鱗粉を瞬く間に吹き飛ばした。技能レベル1の魔法だとまだ出来ることはそれだけだけど、結構役に立つもんだね。
それから片足で着地した後、一回転してようやく持ち直すことが出来た。
……あ、危なかったっ!
今のわたしは初期装備。加えてVITには一切才能値を振っていない脆弱な身体なので、クロウラーのタックルを喰らったら一発おさらばなのは間違いない。あのぶよぶよした身体で押し潰されながら死に戻り……想像しただけで嫌すぎる。
それにしても、反射的に身体が動いたとはいえ、今の衝撃を逃がす方法はなかなか良かった。空中で立体的に回る分、ぶっちゃけ酔ってしまいそうだが、幸いにも平衡感覚には自信があるので、いくらか練習したらすぐに慣れるだろう。
「にしても、結構連携が厄介だなぁ」
わたしはソロなのに敵が巧みに連携してくるなんて……ずるい! わたしだって、皆でわいわいパーティプレイがしたいのに!
ええ? わたしがこんな変則的なプレイスタイルをしてるのが悪い? ごもっともです。
とはいっても敵はまだ3体。
先程1体に【マナショック】を浴びせたのはいいものの、もはやテンプレとなった回転斬りでの追い打ちが出来なかったので、HPを5割残したまま、健在である。
いずれにせよ、3体とも生き残っている限りは回転斬りが出来ない。今のわたしにはあれ以外にまともな決定打にかけるので、
そうなると、最初の狙い目は……あのHPが減ってるクロウラーから!
「【マナショック】」
さっきは先手を打たれたせいで対処が遅れたが、クロウラー自体の動きは鈍いので、速度重視のわたしの動きについてこられる道理はない。あっという間に距離を詰めたわたしは、反応される前に杖で【マナショック】をぶつけ、その反動を利用して更に逆向きに一回転して刀で斬りつけてやると、HPが元々半分削られていただけあって、当然そのHPゲージは真っ黒に変化する。気色の悪い鳴き声を上げながら、クロウラーの身体は消え去った。
「次!」
反動による勢いはそのままに、その場を高く跳躍すると、地面と平行になるくらいまで身体を横に倒し、真上を飛んでいたファレーナへと迫る。
「からの【マナショック】!」
間髪入れずに放たれた【マナショック】が、今度はファレーナを襲う。反応が遅れ避けることの出来なかったファレーナの身体に金属の杖がめり込み……更に強い衝撃波によって、ファレーナは地面へと叩きつけられる。上からの叩きつけプラス強い力で、床ペロならぬ土ペロで地面を舐めることになったファレーナの紙耐久で当然耐えることが出来るはずもなく、先のクロウラーよろしく命を散らした。
「くっ!」
一方で、わたしの方も無傷ではなかった。
【マナショック】を連続して使っていたこともあり、流石に空中で勢いをつけて回転していたところで反動を吸収出来ずに、強い衝撃によって吹き飛ばされると、そのまま木へと直撃してしまった。
「いてて……」
ゲームだから痛くない……なんてこともなく、実際わたしは痛覚設定で30%だけ痛みを感じるようにしてあるので、痛まないわけではない。
0%にしない理由? 痛みがある方が臨場感があっていいじゃない。
「ふぅ……」
自分の残り6割にまで減ってしまったHPを見て、これ以上は被ダメを抑えないと、と身を奮わせる。とはいっても、敵の残りはクローラー1体。普通に戦えば、ダメージすらも負うことはない。
そういうわけで、最後の1体をすんなりと倒すことが出来た。
『プレイヤーのレベルが上がりました』
『【マナショック】のレベルが上がりました』
『【一刀流】のレベルが上がりました』
『【杖術】のレベルが上がりました』
『【風魔法】のレベルが上がりました』
お、かなりレベルが上がったね。
ここまで戦闘が激しくなったのは初めてだったし、その恩恵かな?
技能のレベルもそこそこ上がってきたし、これならもう少し進んでも良さそうかな?
一度、気分的に乱れた呼吸を整えるために木に背中をもたれさせ座り込んだ。ゲームだから息切れなんてないはず? 知らんがな!
インベントリを確認する。アイテムはドロップしたが、レアドロではなかった。むむ、無念……。
「はぁ……たった一戦なのに、一対多は一対一を何十回やるより疲れたかも」
ゲームで作られた仮想の肉体なので身体的な疲労はないが、何より精神的な方がかなり大きい。それに、減ったHPのこともある。【マナショック】自体のMP消費はかなり少なく、またINT主体のステータスなのでMP自体にはまだまだ余力はあるが、道具屋とかにも寄ったことがないために回復アイテムは初期配布分の初心者用ポーション5つと、初心者用エリクサー5つしかない。
それでも、やはりVITに一切振っていないわたしのHPだとこのポーション1つでHPが満タン回復してしまうため、今のところそれより品質が上のポーションが必要になることはない。
ポーションの瓶の蓋を開け、頭から中身を豪快に被る……なんてことはせずに、一息に飲み干す。かけてもよし、飲んでもよしの2拍子で定評のあるポーションはかけると肌に触れても濡れることはなく吸収され、飲むと市販の某スポーツドリンクと同じ味という良心設計。スポンサー契約をしていて、ゲーム内でも宣伝に売り出しているらしい。スポーツドリンクが苦手な人とかは、どうするのだろうか。
「じゃ、そろそろ再開っと……」
と、立ち上がって腕を天へと掲げ伸びをした、その時。
突然近くの草むらから、何か緑色の大きなものが現れたかと思うと、突進してきた。
「ふぇっ!?」
突然の乱入に、心臓が跳ねるくらいに驚いたわたしは半ばパニック状態であわあわと回避しようとするも……。
「あっ」
足元で地中からはみ出していた木の根に足を引っ掛けてしまった。倒れ込んだことで何とか突進は回避出来たものの、何故か木に穴が空いていたようで、その中を吸い込まれるように落下し、ジェットコースターのごとく超高速の擬似スライダーを体験する羽目に。
「ひえああぁぁぁ!!」
それからどれだけ落ちたのだろうか、スライダーの終着点で勢いのまま投げ出されると、地面に強く顔面を打ちつけた。
「いでっ!」
強く鼻を打ったために涙目で鼻を撫でながら、立ち上がりきょろきょろと見渡してみる。
「こ、ここは?」
地上の深い森林フィールドとは一転して、偶然行き着いた地下は、鍾乳洞の中に一部ぽっかりと穴が空いていて、その穴の下に丁度泉があるという神秘的なマップだった。更に泉の奥には、一本道がほっそりと続いている。泉を覗き込んでみると、非常に透明度が高く、底までが透けて見えている。
見惚れていると、不意にログが入った。
『シークレットクエスト【地下空洞の巨岩兵】が開始されました』
「シークレットクエスト?」
またも聞き覚えのない単語。このゲームには、RPGにはよくあるクエストというものがある。NPCから受けるものや冒険者ギルドという依頼斡旋所で受けるものが主らしく、その内容は雑用やお使いみたいな細かいものや、街の外での討伐、素材の収集、捜索依頼など多岐に渡る。それらは、攻略サイトにも色々と書いていたので知っている。
だがシークレットクエストなんてものは聞いたこともなかった。普通なら受けるか受けないかも聞かれるはずなのに、それもなかったし。
まあいいや。今のところ何か変わったこともないし、受けるだけなら損はないはず。ただ……。
「どうやって戻ろう……?」
かなりの間落ち……もとい滑り降りてきたような気がするので、地上までは結構な距離があるだろう。ちなみに、わたしが落ちてきた時の穴は何故か消えていた。
シークレットクエストがここに来て開始されたことから、多分穴に落ちたら強制的に始まるイベントなんだろう。これ、ログアウトする時はどうしろと?
ここで思考に没しても意味がないので、ひとまず唯一存在する道を進むことにした。どうせ、システム的にこっちに行けってことなんだろうし。
奥に進むにつれ暗くなってきたので壁に手を当てて進んで行くと、やがてすぐ側に配置された2つ松明によってものものしい雰囲気を醸し出す両開きの大扉の前へと辿り着いた。
明らかに、この扉の奥を進むのは危険な臭いしかしない。
いや……まさか……ねえ?
「ははは……まさか、そんなわけがないよね?」
恐る恐る、両開きの扉を少しだけ引いて開けてみた……はずなのに、想像以上に扉が軽かったせいで、完全に開かれてしまった。
扉の先にはあからさまにぽっかりと広げられた空間。
その中央には、ところどころで緑色に苔むした謎の灰色の岩の塊が鎮座していた。
「ゴゴゴ……」
「やっぱりぃ!?」
『クエスト専用BOSS:深緑のゴーレム Lv12』
その岩の塊は地の底まで響くような重低音を響かせると、背後の扉が人知れず閉じられる。強制戦闘のようだ。流石ボス。
簡易的な造りの腕や足みたいなものを生成し、わたしの倍ほどの背丈で立ちはだかった。
名前:シエル Lv10
職業:メイジ(1次職)
スキル:【一刀流Lv7】【風魔法Lv2】【杖術Lv4】【マナショックLv7】
装備:鉄の刀、アイアンロッド、旅人の服(上)、旅人の服(下)、旅人の靴