5. 暫定、変人プレイヤー
なんか一気にアクセスとかが増えてたのでびっくりしました。
日間に載っていたようです。
まだそんなに進んでないのに……
兎も角、ありがとうございます。
もしかしたら19時頃に再度更新するかもです。
5/14 回転数4→2回(上限値3回)に修正しました。自分でも回しすぎだと思った結果です。
西の平原にやってきたわたし達。
流石に2日目ともなるとここを狩り場にする人も多いようで、あちらこちらでパーティを組んでウルフを蹂躙しているのが見えた。
わたしのソロ狩りを見たい、とのことなので、最初は2人とも観戦するだけのようだ。
「どんな馬鹿をやらかすのかしらね」
「うっかり死ぬんじゃねーぞ!」
聞き捨てならない外野2人からの野次にむっとするも、もうすっかり慣れた右手に刀、左手に杖のスタイルでポップしたウルフと対峙する。
何故かその時点から既に騒がしくなってるような気がするのは気のせいだろう。
「じゃ……行くよ!」
先手必勝、こちらから仕掛けることにした。わたしの敏捷は既にウルフよりも大分速くなっているので、今なら例え避けられたとしても対応は簡単だ。
右手の刀で狼の顔を斬りつける。筋力皆無で未だ初期武器のわたしの攻撃では1割しか減らないが、足止め目的なので問題はない。わたしの戦闘スタイルは次の攻撃で避けられたら大きな隙が出来ちゃうから、まずは攻撃を確実に当てられるように隙を作る必要がある。
そしてここからが、わたしの編み出した戦闘スタイル。
「【マナショック】!」
ウルフが怯んで動きが止まっている隙に、すかさず杖で【マナショック】を発動し、顔面を殴りつけた。
ウルフへと杖による直接のダメージと、魔力依存の追加ダメージが襲う。昨日よりも魔力も上がり、また技能レベルも上がっているので、威力は相当上がっている。
だが、ここから【マナショック】による反動というデメリットがある。他にも理由はあるが、反動がこの技能の最大のデメリットになっているのは間違いないだろう。
わたしは、その反動を逆にメリットに変えられないかと考えた。
その結果、わたしはとりあえず回ることにした。
杖を振り切った後、すかさずわたしは片足を浮かし軸足をつま先立ちにする、いわゆるバレエのピルエットのような体制で振り切った際の勢いを利用して軽く回転し……反動によって更に爆発的に回転の速度が上昇したことによって、狼の身体は瞬く間に斬り刻まれる。
昨日、このスタイルを検証していて分かったことが3つある。
1つ、反動の判定は技能を発動した際、敵に当たった部分に返ってくること。杖で攻撃したら、わたし自身にではなく、殴ってヒットした杖の部分へと判定があることが分かった。
2つ、ダメージはステータスや技能によって一定というわけではなく、例えば普通に剣で突いたのより、助走をつけて勢いよく突き刺した方がダメージが高いこと。即ち、現実での物理法則もある程度存在することになる。これは多分、落下ダメージや地形ダメージとかを反映させるための副産物だと思う。その分、高いところから落ちたら普通に死ぬ。そのおかげで、STRが壊滅的に低いわたしの攻撃でも回転の遠心力と速度を加味すればそこそこのダメージを与えられることが分かった。そもそも行為からめちゃくちゃなことをやってるのは分かるけど、やれたのだから仕方がない。
3つ、体幹や動体視力などの細かい部分にも、ちゃんとステータスの補正が存在すること。
わたしは昔ダンスを齧っていたりゲームでも特に音ゲーが得意だったので、元より体幹や動体視力には自信があった。けど、これだけの速度で回って無事でいられたかと言われると、絶対に無理。主観じゃよく分からないのでどれだけの速度が出てるかは分からない。それでも現実だったら吐きそうなくらいは出てると思う。
理不尽な猛攻を受けたウルフは、抗うよりも早くにその命を散らし、細かいポリゴンと化して消滅した。今の技能レベルとINTでは回れる回数は3回だが、ウルフは2回で倒せた。
ここまで、戦闘が始まって優に2、30秒程度の時間だった。
「「……」」
「と、まあ、こんな感じかな?」
振り向くと、唖然とした表情で固まっている2人。
「どうしたの?」
「いや、どうしたのって……色々突っ込みどころ多すぎだろ」
「そうね……わたし、幻覚を見ていたみたいだからちょっと風に当たってくるわ」
「ハルハル、ここ外だよ。しかもゲームの中だから」
ふらふらと立ち去ろうとするハルハルを呼び止め、レイクからは質問攻めにあったので、詳しい説明を行うことに。だが説明をする前に、レイクがわたしとハルハルにしか聴こえないような小さな声によってはばまれた。
「ちょっと待て。ここだと人目につきすぎる。まずは、街の中で人が少ない場所に移動するぞ」
「なんで?」
「周りをよく見ろ、皆俺らの方を見てるだろ? あいつらは、俺らから情報をなんとか聞き取ろうとしてるんだよ。まず、情報は出来るだけ秘匿しろ。いや、秘匿までは言わないが、あまり言いふらすようなことはしない方がいい。情報は、色々と金にもなるし、交換条件としても何かと有利になることが多い」
「分かった。そうするよ」
その割にはレイクは結構聞いてくるよね。レイクやハルハルが黙って他言するとは思わないけどさ。
「分かったならいい。さて、何処で話をするか……シエルは、何かいい場所知らないか?」
うーん、人が少ない場所なんてあるかなぁ? 街に居る以上、人と遭遇するのは避けられないし、だからといって家の中には入ることも出来ないし……いや、一つだけいい場所があった。
「一つだけなら心当たりがあるよ。でも、それだったらもう1人聞いてもらわないといけなくなるけど、それでもいい?」
「その人は信用出来るのか?」
「分からない。けど、多分出来ると思う。親切な人だったし、フレンドにもなったから」
「そうか。なら、そこに案内してくれるか?」
「いいよ」
元々パーティ狩りをする予定だったが、すぐに切り上げてわたしの案内で街の中にある目的の場所へと向かう。2人を引き連れてやってきたのは、カレンさんの工房。わたしの心当たりというのはここである。上手くカレンさんに許可を貰えれば奥の部屋で誰にも話を聴かれることはないだろうし、カレンさんも一緒なら許可も貰えるだろうと判断した。
カウンターには居なかったので、呼び出してみることにした。一応、フレンド欄にはログイン中と書いてあるので、多分奥の部屋に居るのだろう。
「カレンさーん!」
「シエルさんかい? まだ注文のものは出来てないよ?」
「分かってます。けど、ちょっと話があって」
「話って、何を……君、もしかしてレイク君かい?」
カレンさんはわたしの隣に居るレイクを見て、目を細める。レイクのこと、知ってたんだ……と思っていると、レイクからの返しもまた意外だった。
「おう、βテストぶりだな。まさか、シエルの知り合いってのはカレンのことか?」
「そうだよ……って、知り合いなの?」
「当然だろ? 俺は攻略組だったし、カレンも鍛冶師の中でもトッププレイヤーだったんだぞ?」
「ええ。わたしも、武器を作ってもらったことがあるわ」
「おや……レイクときて、次はハルハルとは。奇妙な出会いもあるもんだね」
「ハルハルも知ってるの?」
「当然よ。わたしは攻略組ではなかったけど、よく武器を作ってもらったもの。それにしても、こんなところで店を構えてたのね」
となると、わたしだけが知らなかったってこと? βテストの抽選には選ばれなかったから仕方がなかったとはいえ、ちょっと悔しい。
「カレンさん、そんなに凄い人だったんですね」
「それ程でもないよ。ボクの方も、元々鍛冶が楽しくてやってただけだし」
謙遜はするものの、カレンさんは少し嬉しそうだ。自分の趣味が認められたのだから、嬉しがるのも無理はない。わたしなんて、何をやってもいつも変人扱いされるし。
「ねえ、彼らに接するように、僕 ボクとも砕けた喋り方にしてくれてもいいんだよ? むしろ、大歓迎」
「分かりま……分かったよ。これでいいかな?」
「うん。ありがとう」
わたしの方も、カレンさんともっと仲良くなれた気がするから、そう言って貰えたのは素直に嬉しい。
「ま、カレンなら確かに信頼出来るな」
「そうね。シエルの言うフレンドというのがカレンだったのにはびっくりだけど、彼女は確かにわたしも信頼出来るわ」
「ねえ、シエルさん。彼らは何を言ってるんだい?」
話についていけず蚊帳の外のカレンさんは、何やらキョトンとしている様子。
「ちょっと聴かれちゃ不味い話があるけど、他に人が居ない場所がなくてさ、工房借りたいんだけど……いい、かな?」
「ほほう? それって、私が同席してもいいのかな?」
「もちろんですよ。もとより、そのつもりで来たんだし」
「じゃあ、いいよ。何か、面白そうだし」
「ありがとう」
快く承諾してくれたカレンさんに連れられて、奥の部屋に移動する。金属を扱う部屋だから熱が篭っていて暑そうなイメージがあったが、しっかり換気されているからか、それともゲームの中だからか、それ程暑くはなかった。
カレンさんに用意された椅子に座り、ようやく話を始める。
「まず、両手に武器を持ってたが、あれはなんなんだ? 剣や盾とかなら兎も角、確か武器は両手に装備することは出来なかったはずだが?」
「それは簡単。わたし【一刀流】と【杖術】の両方を取得したから。一か八かだったけど、やれるんじゃないかって思ったんだよね」
「それは……そんなことが出来たのか。盲点だったな」
「ええ、そうね。キャラリセの出来ないこのゲームでビルドエラーなんて起こしたら、下手すれば新しくゲームを買い直さないといけなくなるものね」
今まで考えもしなかったようだが、いざ紐解けば結構簡単な仕組みだったことに、2人は納得の表情を見せる。ただ、わたしが戦っているところを見てなかったカレンさんだけはいまいち釈然としていないみたいだけど。
「ええと、ちょっと待って。まだあんまり話が飲み込めてないんだけど、それってつまり、シエルさんが刀と杖を装備してたってことでいいのかな?」
「そうそう」
「なるほど……ということは、レイクとハルハルはシエルさんの戦いを見たってことだよね。わたしもちょっと見てみたかったかな」
「あれを戦いとは思いたくないけどね……」
「確かになぁ」
「酷くない?」
自分でも思うよ? あれは一方的だったって。でも、わたしなりに努力した結果だからもっとこう、頑張ったねとかそんな激励の方が欲しかったよ。
「この2人がこんなこと言うなんてね、鍛治職人としてますますシエルさんの戦いぶりが気になってきたよ」
「ああ、そうそう。あの動きなんなんだよ。こう、すっげースピードでグルグル回ってたけど」
「あれは【マナショック】の反動を利用して、回転の速度を上げただけだよ。練習すれば、皆も出来るって」
「出来るわけないだろうが……あんなの出来るの、元々ダンスをやっててかつ化け物みたいな動体視力で音ゲー漬けのお前くらいにしか出来ねえわ。そもそも、メイジで【マナショック】取るやつなんて居ねえよ」
「昨日知り合った時からシエルさん、変なプレイしてるとは思ってたけど、まさかそこまで変とは思わなかったね……」
「私から見ても、あの動きは人ではなかったわね。変態プレイが過ぎるわよ?」
三者揃って酷評である。皆、変変言い過ぎ。特に最後、女の子に向かって人外認定したり、変態とか言うもんじゃない。両方とも、女子カースト最底辺レベルの呼称だからね?
「確かにこんな話、他の人に聞かせるわけにはいかないよねぇ……主に、真似をさせて被害者を出さないために」
「そっち!?」
被害ってのが具体的に分からないけど、それ他の人には出来ないって決めつけちゃってるよね? 暗にわたしは普通じゃないって言ってるよね?
「うう、酷い……カレンさんなら分かってくれると思ったのに……」
「「それはない(わね)」」
「うっ!」
恨めしく思いながら睨みつけてやると、レイクとハルハルは目を逸らし、カレンさんには弁明のしようもないとばかりに苦笑されてしまった。何故いつもこんな反応をされるのだろうか……。
「というかだな、確かにあの動きは気持ち悪いくらいのDPSを叩き出した。だが、どうやって攻撃を避けるつもりなんだよ。回転しながら跳んで避けるのか?」
「そりゃあもちろん、殺られる前に殺れ。に決まってるじゃん」
「「「うわぁ……」」」
極めつけの可哀想な子を見るような視線。やめて! わたしのライフはもう0よ!
「やっぱこいつ、変わんねえな……」
「馬鹿ね」
「……ごめんね?」
「もう帰る!」
それからはべそをかきながらログアウトしようとするわたしを、慌てて3人がどうにか宥めることによって、機嫌を直すことで何とか場を取りなされたのだった。