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魔法職の双刀使い  作者: 香月 燈火
Episode1 サービス開始と双刀使い
4/32

4. 再会

 翌日、7時半頃に目を覚ましたわたしはさっと朝食を食べた後、ハイクロにログインしようとしたところで玲からメールが届いていることに気付いた。

 内容は『今日の昼12時半からの約束、忘れるなよ!』というもの。

 『了解。玲こそ、集中しすぎてすっぽかさないでね』と送り返し、今度こそログインすると、意外にも暇人が多いのか、そこそこの数のプレイヤーが右往左往していた。



 フレンド欄を見るとカレンさんもログインしているようだ。あの人達も結構暇人……これ以上言うのはよそう。

 丁度良かったので、カレンさんの工房に向かうことにする。

 やはりカレンさんは工房に居たようだ。



「おはよう、シエルさん。朝早くから、大丈夫なの?」

「おはようございます。土曜日なので、学校は休みなんですよ」



 一応、公立高校だからね。



「シエルさん、学生だったんだね……」

「見えませんか?」

「いや、むしろ学生?」

「なんですかその答えは」



 半目で睨みつけてやると、苦笑いされてしまった。



「……えっと、なんかごめん?」

「何がですか! もう……それより、これを見てください」



 怒っていては話が進まないので、さっさと話を進めることにしたわたしは興味深げに笑みを浮かべるカレンさんの前に、次々とインベントリの中から昨日倒したウルフのドロップ素材を出していく。

 カウンターの上に積み上げられていく素材はウルフの皮が13個、爪が6つ。

 これだけの量の素材を持ってくるとは思わなかったのか、カレンさんは驚きで目を見開いている。



「この素材で出来る限りの防具を作って、余ったものを売り払いたいんですけど……大丈夫ですか?」

「あ、うん。フルセットは無理だけど、皮8つと爪1つで基本的な部分を作って、あと全部売り払えばぴったりだけど……それにしても、凄いね。シエルさん、これを1人で?」

「はい。レベリングと技能の練習がてら、20体程狩りました。でも、慣れたら結構簡単でしたよ?」

「魔法職なのに刀持ってる君が言うセリフじゃないよ、それ。しかも、ウルフの素材しかないってことは、昨日杖の注文に来た後そのまま真っ直ぐ西門に向かったってことだよね。確か、その時はまだレベル1だったはずだけど?」

「そうですね。でも、割となんとかなりましたから」



 そう言うと、カレンさんには苦笑されてしまった。何故? レベル1でもレベル3の雑魚モブ相手ならまだ対応出来るレベルだと思うんだけど。

 あ、ビルドに関しては自分でも変なのは分かってるので言われなくても結構です。縛りプレイが元来好きなせいで、どうやっても正規ルートが好きになれないんだよねえ。



「何とかなる、で済まないはずなんだけどね……まあ、それは置いといて。注文はウルフの素材を使った防具だったよね?本来なら革素材の防具を鍛冶屋の僕がやるのは筋違いだけど、僕は革製品も取り扱ってるから注文は承るよ。価格は他のウルフ素材全て。今から作成するとなると、今晩辺りになると思うけど、完成したらダイレクト送るね。これでいいかな?」

「それでお願いします」



 その後、待ち合わせの時間までは特にやることもなかったのでウルフの居た西平原から更に奥にある森へ行くことにした。

 森に入ったところで早速エンカウント。



『クロウラー Lv7』



「気持ち悪っ!」



 全身を赤色の警戒色で染めた1メートル程の大きさのイモムシに遭遇しました。森なだけあって、虫系のモンスターが出てくるのか……これ、普通に虫を手掴みにするよりも難易度が高いと思うんだけど? この見た目だけでも引退者が出てもおかしくはない。

 この森を通過する以上、遭遇は避けられないのだからタチが悪い。



 初めての敵なので暫く様子見をしてみたが、動きは鈍く主な攻撃は糸や酸を吐いたり、のそのそ近付いて飛びかかってくるだけのようだ。糸でがんじがらめにされてあの巨体でのしかかりなんて、トラウマになる気がしてならない。

 ただ、防御力は別段高い訳でもないようで、足も遅いとなればわたしにとってはカモ同然。2度の【マナショック】で容易く倒せた。



「ここ、結構いい狩場かも」



 見た目にさえ目を瞑れば……。

 それからは約束の時間になるまで黙々とソロ狩りを続けた。他には『ビー Lv8』や『ファレーナ Lv9』とかが出てきたりもしたが、この2体は結構手こずった。というか、ファレーナに至っては死に戻りしました。鱗粉を撒き散らしたところで麻痺の状態異常を与えて、その隙になぶり殺しって、それあり?



 大体、クロウラーやビーは英語なのに、何故ファレーナだけイタリア語……。



 ある程度のレベリングを終えたので、一度広場に戻ってログアウト。昼飯時だし、ゲームのせいで生活リズムが崩れるなんてことはするつもりはない。あくまで、リアルの生活に無理のない程度のまったりプレイを続けるつもりでいこう。そもそも、ゲームって普通はそんなもんだと思う。

 とはいえ、昼食にはあんまり趣向を凝らしたものは必要ないかな。この時間は基本的に母は仕事、父とたった一人の兄妹である兄に関しては出張だったり、また遠くの大学でアパートを借りて生活していたりで、時たま家に帰っては来るが、あまり帰ってくることはない。

 離れていても、今は唯一の家族。



 気持ちを切り替えて、調理に取り掛かり始める。作るのは簡易的な炒飯。時間がない時にはやっぱりこれ。最初に豆板醤と濃口醤油、鶏ガラでタレを作り、冷蔵庫で残っていたベーコンと玉ねぎをみじん切り、レタスを一口大に切って、フライパンでサラダ油を温めている間に卵を溶いておく。

 油が丁度いい具合に温まったところでレタス、玉ねぎ、ベーコンの順に投入し少しして炊いてある米も入れ、再度ある程度炒めたところで米をコーティングするための溶き卵を投入。最後にタレを混ぜ合わせながら少し炒め、味が馴染んだところで完成。



 簡単に作ったものだけど、そこそこ良く出来たと思う。

 食事を終え使用した器具を洗ったところで、再度ログイン。



 というわけで戻ってきました、中央広場。

 現時点のレベルは朝のレベリングのおかげで9。技能レベルも結構上がってきた。そういえば、まだ【風魔法】は1回も使ってなかったな……まあ、今度でいいや。そういえばこころなしか、前よりも身体が動きやすくなった気がする。レベルアップの効果だろう。

 丁度時間もぴったりだったので、人が少なくて分かりやすいところで待つことにする。

 そういえば玲達のユーザーネームとアバターの特徴を聞いてなかったし、リアルモジュールでやってることは伝えてあるから、多分あっちから気付いてくれるはず。



「おーい! 」



 とか言ったそばから噂をすれば、満面な笑みで手を振る玲と、その後ろで何故か不貞腐れている悠の姿が。

 玲……ことレイクは現実の容姿から髪を銀色に、目を青くしただけのようで、対照的に悠ことハルハルは金髪にした髪をツインテールに結っていて、顔も少し幼げに弄ってあるようだった。元より悠はお嬢様気質なところがあったから、意外と様になっているように見える。

 それよりも、悠の態度がちょっと変?



「おはよう……えーと、レイクって呼べばいいのかな?」

「おう! んで、そっちは……ん、見れないようにしてるのか」

「うん。わたしの方はシエルって呼んで」

「分かった」



 それで……と、依然不満げな表情でそっぽを向く悠……ハルハルの方を見る。



「ハルハルの機嫌が悪そうだけど、何があったの?」

「おおう……やっぱシエルにも分かるか。それがなぁ……」

「このバカレイクのせいで、昨晩パーティを組んで狩りに行った時、あろうことかわたしを魔法で巻き込んで危うく死に戻りするところだったのよ!?」



 レイクは典型的なメイジ、ハルハルはウォリアーでタンク要員らしい。

 イメージ的には逆なんだけど、気晴らしに趣向を凝らしてみたそうだ。気晴らしで作ったのにむしろ不満が膨らんでたらダメな気が……。



 それはレイクの方が悪いとは言い切れないような気が……いや、事前に練習してないレイクの方が悪いのかな。とは言っても、練習なしで百発百中なんてまず有り得ないし。

 ただ、ゲームとはいえ、死に戻りにはデスペナルティがあるわけだから、ハルハルの言いたいことも分かる。このゲーム、PKとかフレンドリーファイアもあるから、ちょっと操作ミスったら仲間も巻き込んで一度地雷プレイになるようになってるからなぁ。

 2人共に正当性がある分、どっちが悪いとは言い切れないのが歯がゆい。



 でもレイク、βでは攻略組の一員じゃなかったっけ? まさか、その時からノーコンだったなんてことはなかったはずだよね。何かあったのかな?

 ……うん、背中を任せられない後衛なんて致命的すぎるから、早いところ改善出来るといいな。



「長い道のりだけど、頑張ってね」

「お、おう? 何を言ってるのかは分からんが、頑張るぜ」

「もう、次からはちゃんと戦ってよね?」

「分かってるよ」



 ちゃんと仲直り出来たようでなによりだね……欲を言うなら、わたしの関係ない話だし、自分達で解決して欲しかった。思考が保護者寄りになってるけど、決してわたしは保護者ではないです。



「なんだその目は……」

「ちょっと気持ち悪いわね」



 さっきまで仲違いしてたくせに、こんな時だけ息ぴったりなのやめて……。



「で、でもレイクってβでは攻略組だったよね? それなら、そんな致命的なミスばっかしてたわけじゃないでしょ?」



 露骨だけど、話題の転換を促す。2人にはジト目を向けられ……はぁ、と溜め息をついた。



「あー……俺、βではウォリアーやってたんだよ。だからまあ、メイジでやるのは実質初めてで……」

「なるほど、つまりレイクは役に立たないと」

「そもそも、それなら何故メイジを選んだのかしら」

「め、面目ない……」



 追い打ちによってどんどん萎んでいくレイク。まあ、選んでしまったものはしょうがない。別に、ビルドエラー起こした訳でもない……ん? 何か忘れているような。



「そういえば、シエルは刀を使ってるようだけど、ウォリアーかローグになったのかしら?」

「メイジだよ?」

「……はい?」

「なんだって?」



 すみません、ビルドエラーはわたしでした。さっきまで落ち込んでたはずの玲にまで怪訝な目を向けられた。



「えっと……つまりシエルは、メイジなのに刀を使ってると? もしかして、玲以上に馬鹿な子になったの?」

「むっ、失礼だよ。ちゃんと杖(ただし撲殺用)も使ってるよ?」

「おかしいな。今、酷いイントネーションを感じたんだが……」



 気のせいだよ、きっと。



「でもわたし、結構ソロでレベル上げたんだからね?」

「へえ、そうなの? それで、今は何レベルなのかしら?」

「9」

「「……は?」」



 何故か、素っ頓狂な声で驚く2人。

 ちょっと待って、今の部分にびっくりする要素あった?



「何? 何か変なこと言ったっけ?」

「いやいや、何言ってるの? ソロで狩りをしてレベル9? いくらなんでも、上げすぎじゃない? だってわたし、まだレベル7よ?」

「そうだぞ! 俺だって、まだ6なんだからな!?」

「えっ? 遅くない?」



 そう言うと、はぁ、と溜め息をは枯れてしまった。何だろう、この敗北感は。



「大体、そこまでどうやって上げたのよ? わたし達も、結構やり込んだんだけど?」

「えっと、昨日でレベル1から西の平原でウルフをひたすら狩り続けて20体くらいで5になって、今朝は奥の森でひたすらモブ狩りをしてた、かな?」

「……なるほど、前提からおかしかったわけね。そう、そういえば、シエルは元より真性の音ゲーマーだったわね。相変わらず、動体視力と反射は化け物級よねぇ」

「どういうこと?」



 レイクは肩を竦め、ハルハルからはアホの子を見るかのような目線を向けられる。何か勝手に自己完結してるみたいだけど、説明してくれないと分からないよ? というか、化け物って。



「あのねえ、西の平原って言ったら、適正レベル5よ? しかも、ウルフって言ったら速度重視型じゃないとまともに避けられないのよ?」

「わたしは速度重視型だし、ウルフもそこまで強いと思わなかったけど?」

「ほら、もうこの時点で前提がおかしいわよ。メイジで速度重視型って、何処を目指してるのよ」

「普通、レベル1であのスピード見切るとか有り得ないから……」



 呆れる2人に、わたしはムッとなる。



「それなら、証拠を見せるよ。じゃあ、今日の狩りは西の平原で」

「んー……分かったわ。そうしましょ」

「おう。俺も、シエルが何をやらかすか、楽しみだ」

「やらかすって、大したことはしてないよ」



 創意工夫は凝らしたけど、本当に大したことはしてないからね?

 結果、頭のおかしい子疑惑を払拭するために西の平原に行くことになった。

名前:シエル Lv9

職業:メイジ(1次職)

スキル:【一刀流Lv6】【風魔法Lv1】【杖術Lv3】【マナショックLv6】

装備:鉄の刀、アイアンロッド、旅人の服(上)、旅人の服(下)、旅人の靴

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