31. アズール侯爵家
こうしーん。
前の投稿、意識が朧気な状態で書いてたせいで変なミスばっかでした……反省。
大通りにて、所々で屋台を冷やかしながらクォリーアの領主の住むアズール侯爵家の屋敷へとやってきた、のだが……。
「でっか……」
屋敷を覆う壁は左端から右端までが見えない程に広く、奥に見える屋敷自体も日本の豪邸すら霞むレベルにでかい。私見ではあるが、昔見た日本の国会議事堂に劣らぬ大きさと言えばどれほど大きいか分かるだろう。
これで国有ではなく私有地であるというのだからとんでもない。
わたしにとっては一生かけてもお目にかかれない程の屋敷にこれから訪問しないといけないと思うと途端に緊張するが、一方でフィーは全く動じていないというか、むしろ何処吹く風といった感じだった。多分、もうこれくらいの屋敷すらも見慣れているか、はたまた前契約者のサムエルさんが領主代理だっただけあって、これほどではなくともそれなりに大きい屋敷に住んでいたのかもしれない。
緊張を胸にしまい込み、意を決して門に近付くと、その横に控えていた門番が不審げな目をしながら、槍を構えてわたしに近寄ってきた。
「そこの君、止まれ。ここは領主が屋敷、アズール侯爵家だ。一体、何用でここに居る?」
「あ、ごめんなさい……わたしは、ウィンティアの伝言をお伝えに来ました。これを……」
「ん、私も来た」
「こ、これは……!? それに、シルフィード様!?」
ウィンティから、と聞いたからか最初は訝しんでいた門番だったが、わたしが見せた手の甲の紋章を見て信じられないものを見た表情になり、そして今度はわたしの隣に立つフィーの姿で一層驚いた様子だった。
「失礼した。しかし、何故あなたがその紋章、契約紋を……それに、サムエル様は……?」
「あなたは、サムエルさんを知っているんですか?」
サムエルさんはウィンティアの領主代理で、あくまでアズール侯爵家とは上下関係の立場のはず。それなのに、門番にすらサムエルさんがフィーとの契約者であることも知られているようだ。
「ああ。何しろ、サムエル様は現在のアズール侯爵家当主、ロバート様の娘だからな。私はここに勤めて長いが、あの方が領主代理としてウィンティアへ行かれる前からよく知っているよ」
「そうなんですか!?」
またもや初耳の情報が出てきてしまった。確かに領主の代理ともなれば貴族籍は持っていないとなれないだろうし、今思えばフィーからサムエルさんの姓は言われなかった。それに、確かに下手な人よりも家族の方が信頼も出来るだろう。改めて考えてみると頷けることではある。
ただ問題は、サムエルさんは既に亡くなっていることだろう。あくまでゲームの中のNPCとは言っても、その中身はどう見ても普通の人との違いはない。これから彼女がもう死んでしまったことを伝えるのは、正直なところものすごく心が痛い。
「あ、あのですね。実は……」
わたしがクォリーアにやってきてから偶然にも路地に迷い込み、そこで瀕死のサムエルさんに出会ったこと。彼女はわたしにウィンティアとフィーのことを任せて息絶えたこと。その後、成り行きでフィーと契約したことなど、この街に来てからの一部始終を全て話した。
門番に話すべきことでもないような気はするが、なんとなくこの人はサムエルさんともそれなりに親しい関係のようにも見えるし、フィーにも何も言われなかったため、特に問題はないはず。
説明が終わると、門番は酷く驚いたような、悲しげな表情を浮かべていた。
「なんと……そんな……エルお嬢様……」
これがAIとか、嘘だよね?
そう思わざるをえない程に打ちひしがれた様子に、わたしは何処かいたたまれたくなった。
そんな彼にフィーは近寄ると、彼の肩を二度叩いた。
「ロバート、会わせて? お願い」
「……そうですね。お見苦しいところをお見せしてしまい、すみません。失礼、そこのお客人。お名前の方を伺っても宜しいか?」
「あ、はい。シエルです」
「了解した、シエル殿。直ちに領主様へと連絡させていただく故、暫しお待ち願いたい。必ず、あなたを客人として扱わせていただくよう、取り次ぐことを誓う」
では、と門とは別の、恐らく使用人専用の戸であるだろう入口から門番は入っていく。
これ、門の前がもぬけの殻になっちゃうけど大丈夫なのかな? と思ったりもしたが、少しして入れ替わるようにして別の門番がやってきたので、どうやら特に抜かりはなかったようだ。
ただ、後から来た門番曰く、そもそも領主に会うには普通はアポが必要になるらしく、今回のように連絡をとることになったとしても、その場で連絡石という電話のようなものを使って中に連絡するから、こうやって途中で交代することは余程のこととのこと。
後から来た門番の人も結構親切で、待ち時間の世間話がてらに快く教えてもらうことが出来た。ちなみに、さっきの門番はセリエさん、交代後の門番はトスクさんという名前らしい。名前では分かりにくいけど、両方とも男だ。
しばらく談笑していると、セリエさんが戻ってきたので、トスクさんも元の持ち場へと戻っていった。
「お待たせしました。では、こちらからお入りください」
先程までとは違って敬語で話すセリエさんは門を開くと、わたし達に門を通るように促された。言われた通りに門を通り抜け……。
「っ……! シエル!」
「分かってるよ!」
風を切る音が聴こえたわたしは咄嗟に刀を抜きつつバックステップで後ろに下がると、先程までわたしが立っていた場所に矢が刺さっていた。直後、更に今度はわたしへと数本の矢が迫ってきていた。
「【マナショック】」
今度は避けられないと判断し、連鎖【マナショック】で矢を纏めて弾き返す。
あまりに唐突な襲撃。それも、侯爵家の敷地に入った途端の出来事である。となると、主犯は侯爵家関係者だということはまず間違いがないだろう。実際、矢が飛んできたのは屋敷の方向だったし。ついでに言うなら、セリエさんも恐らくこのことについては認知していたはずだ。多分、目的は……。
「セリエ?」
「腕試しってところかな。セリエさん、これで満足?」
「ええ……本当に申し訳ございません。先程、客人としてお迎えすると言ったそばからこのような仕打ち。どうか、罰するのであれば私を……」
いやいや、侯爵家関係者に独断でわたしが処罰なんて出来るわけないでしょうが!
そんな苦言を内心で漏らしつつ、セリエさんを睨みつけるフィーを宥める私。セリエさんの表情は本当に申し訳なさそうなものだったし、きっと本心では望んだ出来事ではなかったのだろう。そもそも、なんとなく意図も理解出来ていたので、正直怒りなんてものはこれっぽっちも持っていなかったりする。
「そんなことはしないよ。それより、今度こそ入ってもいい?」
「はい、今度こそ同じようなことはないと約束いたします……屋敷の方へお願いします」
言質もとったので、再び敷地へと足を踏み入れると、今度は何かが飛んでくるなんてことはなかった。わたしも次はもうないだろうとは思ってはいるものの、やはり一度あったことだから警戒することはやめない。
屋敷の前へ辿り着くと、風格のある燕尾服を来た白髪のお爺さんが立っていた。一目でここの執事であることがはっきりと分かるそのお爺さんのその手には弓があるものの、両手は前に揃えられており、また矢も見当たらないので、もう弓で攻撃することは出来ないだろう。
わたしがすぐ側まで来たところで、執事は深々と頭を下げた。
「先程の貴女の回避、敬服しますと共に、先程のような無礼千万にあたる振る舞い、誠に申し訳なく存じます……シルフィード様も、貴女のパートナーとなられたお方に申し訳御座いませんてました」
「大丈夫ですよ。怒ってないですから……それに多分、わたしの力を試したんですよね? だってさっきの矢、先端が鋳潰されてましたし。その理由がこれ……この、フィーとの契約紋を持つに値するかを測るために、そうでしょ? だから……フィー」
「……分かった」
わたしがそう言うと、執事は若干驚いた様子を見せ、すぐに微笑んだ。フィーはと言うと、ちょっと不満なようだが、了承はしてくれた。
やはり予想通り、さっきのはあくまでわたしを試していただけで、殺そうとしていたわけではなかったようだ。そもそも、確かに矢自体の速度は手加減はしていなかったとは思うけど、矢じりが鋳潰されていたから死ぬことはまずないだろう。それに、急所もしっかり避けて狙ってきてたしね。
「ご慧眼でございます。シルフィード様も、シエル殿に好意を持っていただけているようで、何よりです。改めまして、わたし達アズール侯爵家一同はシエル殿とシルフィード様をご客人として歓迎致します。この度、当主様への案内役はこの私、執事長エイベスが担当させていただきます。短い間では御座いますが、精一杯お努めさせていただきます故、よろしくお願いします」
「もう知ってるみたいですけど、わたしはシエルです。こちらこそ、よろしくお願いします」
「……よろしく」
互いに簡単な自己紹介を終えると、わたしはエイベスさんの案内で屋敷の中を行く。廊下ひとつとってもとんでもない広さで、もしも案内役なしで歩いていれば間違いなく道に迷っていた。それよりも、これくらい広いと本当に掃除が相当大変そうだな……さっきから部屋もかなりの数があるのが見てとれるし、正直、一人だったら1週間かけても掃除しきれる気がしないよ。
やがて、エイベスさんはひとつの部屋の前で止まると、ノックをして中に声をかけた。
「ロバート様、お客人のシエル殿とシルフィード様をお連れ致しました。中に入っても大丈夫でしょうか?」
「うむ、入れ」
中から渋い声で返事が返ってきたことで、わたしは解れてきていた緊張が再びぶり返した。
「シエル殿、当主様からの許可を得ました。私が先に入らせていただきますので、後からお願いします」
「は、はい。分かりました」
エイベスさんに続いて、わたしの方も心の中でこれはゲーム、これはゲーム、と何度も唱えながら、フィーと共に戦々恐々と後に続いて入った。
中に居たのは、銀色の髪をオールバックにしている、まさに全身から威厳を漂わせながらも微笑む男性の姿。
「よく来てくれた、シエル殿。わたしがここ、クォリーアの領主であり、今代のアズール侯爵家当主、ロバート・フォン・アズールである。歓迎するぞ、シルフィード様の契約者……いや、次なるウィンティアの領主代行候補殿」
ロバートさんに告げられる言葉に、わたしは面食らうのだった。
よければ評価の方お願いします!ポチ…(`・ω・´)ノ凸
追記
次回更新は飛んで11/16になります。