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魔法職の双刀使い  作者: 香月 燈火
Episode1 サービス開始と双刀使い
3/32

3. 杖で殴り、刀で殴る

 街の散策を続けていると、1つの鍛冶屋を発見した。早速中に入ると、汗臭い男の匂いと鉄を叩く音が……。



 なんてことはありませんでした。いくつかの武器が壁に立てかけられているものの、普通に武器屋にしか見えませんでした。

 カウンターの奥に部屋があるみたいだから。多分あの奥が工房なのかな?



「おお? いらっしゃ〜い!」



 ハスキーな声と共に奥から現れたのは、意外にも短く切り揃えられているボブカットの黒髪女性……いや、男の人?

 あまりにも中性的でどちらともとれる見た目のアバターだから、性別がよく分からない。どっちなんだろう、と首を傾げると、彼もしくは彼女はふふんと胸を張った。



「もしかして、ボクが男か女か、どっちか迷ってるのかなあ〜? ねえねえ、どっちに見える?」

「え!? えーと、男ですか?」

「ざんね〜ん! 確かに一人称はボクだし、分かりづらい見た目はしてるけど、れっきとした女の子ですよー。こう見えて、アバターは何処も弄ってないんだよ?」



 ということは、わたしと同じリアルモジュール? 逆男の娘かつボクっ娘って、凄いキャラだなぁ……ん?



「あれ? プレイヤーなんですか?」

「気付いてなかったの? お姉さん、悲しいなぁ」



 わざとらしく泣くような仕草を見せる彼女。でも、わたしが疑問に思ったのはそこではない。



「サービス初日からもうお店を持ってるんですか? 早くないですか?」

「ああ。実は、生産職のみが受けられるクエストがあってね。何度でも受けられるクエストなんだけど、依頼でその腕を見るって言われて、認められたら見事に賃貸として工房を借りることが出来るようになってるってわけ」

「それ、材料とか、生産のための道具とか、生産する場所とかは大丈夫なんですか?」

「材料と場所は大丈夫。一時的に向こう持ちになるからね。道具も、初心者用のキットが最初に配布されるようになってるんだ。一応、チュートリアル的な扱いみたいだから初心者に優しい仕様にはなってるよ……材料自体は最低品質な上に、その材料費も家賃に含まれるから、失敗すればする程家賃増えちゃうけど」



 それ、初心者に優しいって言えるのかな?

 それにしてもこの人、見た目だけなら鍛冶屋には到底見えないね。鍛冶には力がいるって言うし、これでも力があるんだろうけど。

 そういや、やけに武器が少ないなぁって思ったのはプレイヤーの工房だったからか。むしろ、この短時間で既に数本武器を打ってるって時点で凄い。



 本当にこの人が打ったのなら、だけど。



「心配しなくても、ボクβテストで結構鍛冶やってたから、鍛冶には自信があるんだよねー」

「βテスターだったんですね」



 ほら、とテスターである証拠を示す称号表示させる。ついでに名前も表示されていた。カレンというのが、彼女の名前らしい。

 それなら安心? でも、参加しただけじゃまだ判断は出来ないかな。



「それは兎に角、キミはボクの工房に来た最初のお客だから、歓迎するよ! というわけで、お近づきの印にフレンド申請ポチッと……後、何か一つ武器をプレゼントするよ! 何がいい?」

「え? でも、売り物をあげちゃってもいいんですか?」

「いいよいいよ。どうせまだ作ったばっかだからね。ひとつくらいならあげちゃってもそんなに問題はないんだよね」



 幸運ここに極まれり……いや、プレゼントされただけでこの表現は大袈裟すぎるか。

 お言葉に甘えて、武器をひとつもらうことにしよう。

 フレンド申請も美味しく戴きました。



「じゃあ、杖を貰えませんか? それも、金属製の」

「え? えっと、金属製の杖? ちょ、ちょっと待って。何に使うの、それ」

「何って……殴るためにですけど」

「え」

「え?」



 変な顔をされた。何かおかしいこと言ったかな……言ったね。



「普通、木製のものを頼むはずなんだけどね……それに、杖って普通魔法職のプレイヤーが使うものだし」

「魔法職ですよ?」

「え」

「え?」



 何故か哀れみの目を向けられてしまった。解せぬ。



「はあ……なんか、凄く癖の強い子とフレンドになっちゃったなぁ。うん、金属製の杖だね。ちょっと待ってて……はい、これで大丈夫?」

「ありがとうございます。って、既に作ってたんですか?」

「なんとなく作ってたんだよねー。まさか、本当にこんなものが必要になるとは思ってなかったけど……」



 何となくでも作っていたのだから、この人も相当変わり者なんじゃないかと思い始めてきた。



「は、はあ。なんか、ごめんなさい」

「いやいや、キミが謝ることじゃないよ。シエルさんでいいのかな? むしろ、処分に困ってたから引き取ってもらえたのはラッキーだったよ」

「そう言って貰えると嬉しいです……貰ったのはわたしですけど」



 受け取った鉄製の杖を鑑定してみると『アイアン・ロッド 。レア度1 。魔力浸透率5%。攻撃力10 』と出た。

 説明欄には『本来魔力媒体として利用する杖を、殴打用に特化したもの』とある。



 説明欄から明らかにネタ武器臭が凄い。魔力浸透率ってのが何かは分からないけど、多分魔法関連のものなんだろう。それでも、攻撃力は元から持っている刀よりも高いという……。

 ああ、ちなみに刀の方はというと『始まりの刀 。レア度1 。魔力浸透度5% 。攻撃力5

初期武器。破壊不能武器。』と表示された。



 刀と同じ魔力浸透度の杖とは一体……。

 わたしの使い方的には何も問題はないんだけどね。



「そういえば、もしこれから魔物の素材とかを手に入れたら、是非ボクの所に売って欲しいな。レアなものだったら、多少色は付けられるから」

「それは助かります。これからも宜しくお願いします」



 工房を後にして次に向かう場所はもう決まっている。何処かって? もちのろんでフィールドでしょ!

 街を出ることが出来るのは東西南北から4箇所。今居る場所から1番近いのは東のようなので、そっちに向かうことにする。



 門を潜ると、そこは一面に広がる草原だった。ここからだと小さいが、かなり奥にはぼんやりと森もあるようだ。

 広場からは離れているせいか、今のところ人っ子一人居ない。

 そして何処からともなく現れる魔物。狼のような容姿のそれは、わたしを見るなり唸り始める。鑑定すると、名前が浮かび上がってきた。



『ウルフ Lv3』



 初っ端からレベル3って、ちょっとキツくないかなー……もしかして、最初に来る場所失敗したかも。

 愚痴りながらも、装備している()()()を両の手で構える。

 これこそ、わたしがわざわざ【杖術】を取った理由だった。

 どの職業でも、どんな武器を装備することが出来るのがこのゲームの特徴だ。でも、装備には武器に準じた技能が必要なんだよね。

 それが【一刀流】であり【杖術】なんだけど、このゲームの装備枠って結構細分化されててね、多分盾を装備する人や利き手の違う人のためなんだろうけど、左手と右手でそれぞれ個別で装備出来るようになってるってわけ。

 ただ、何故かは知らないけど同じ武器種は装備出来ないようになってたから擬似二刀流は諦めてたんだけど……ふと気付いてしまった。

 「あれ? これもしかして、刀と別の武器なら装備出来る?」と。



 てことでレッツトライ! と試してみたら出来てしまった的な感じで今に至る。



 わたしが武器を構えた途端、ウルフが飛びかかってくる。



「危なっ!?」



 油断していたこともあるが、思っていたより速かったことに目を見張るも、やや反射的に右手の刀を盾にすることでなんとか死に戻りは回避することが出来た。

 とはいえ、刀はがっしりと噛みつかれ、普通なら攻撃手段を失っている状況と言えるだろう……普通ならだが。



「【マナショック】!」



 左手にある金属製を振りかぶるなり、技能を発動させると同時にウルフを殴りつけた。



「ギャッギャン!?」

「うっ!?」



 顔面を杖で殴りつけられたウルフは大きく仰け反るが、その直後、更に大きな衝撃によって軽く吹き飛んだ。だが同様に、わたしもかなりの衝撃を受け、尻餅をついてしまった。

 なんというか、これは後衛にはかなりというか、メリットが軽くデメリットを振り切るくらいには使いづらい。多分これ、与えた衝撃に比例して自分にも反動が返ってくるような仕組みなんだろう。もし衝撃でノックバックしないような敵だったら、逆に自分から敵に絶好の攻撃チャンスを与える隙を作ることになる。なるほど、誰も取らないわけだ。



 体勢を立て直すと、これだけでは倒しきれなかったようで、ウルフは再度飛びかかってくる。今度は油断もしなかったので、出来るだけ大ぶりにならないように身体をズラして回避すると、すぐさま背中から今度は刀で【マナショック】を使って斬りつけてみる。

 ダメージのエフェクトと共に鳴き声をあげるウルフへと、2度目の衝撃が襲いかかる。使用武器が刀であっても、斬撃ではなく打撃判定になるようだ。

 今度こそ、反動に耐えてみせる……と意気込んでみたものの、やはり衝撃が多かったようで再度尻餅をついてしまった。

 ウルフはしっかりと倒すことが出来たので、ひとまず最初の狩りは成功と言ってもいいだろう。

 素材もインベントリの中に入れられたようだ。



 新たに重大な課題が出来てしまったが。



「前途多難だなぁ」



 これから先、レベルが上がるにつれて【マナショック】の威力も上がり続ける。つまり、その分の反動も大きくなるわけで、今のままではとてもではないがまともに戦闘には組み込めそうもない。

 でも、使えないスキルなんてゲームに組み込むはずがないし……絶対何かやりようはあるはずなんだけど。



 ひとまず実戦ということで、平原を歩き回りウルフと再戦する。最初の油断は何処へやら、すんなり倒すことが出来た。そして、同じくしてレベル上昇のアナウンスが表示される。



「うーん、強くなったのかなあ?」



 ステータス自体は才能値として表示されているものの、レベルアップで数値が伸びるわけではないので、今いち実感が湧かない。まあ、レベルが上がれば何となく分かるでしょ。



 油断さえしなければウルフの攻撃は避けられるようにはなったけど、やっぱりまだわたしには分相応なくらいには速いからね。今のうちに動きに対応出来るようにしないと。

 それにしても、わざわざ刀と杖を持ってるのに今のところあんまり両手持ちのメリットを感じないのがなぁ。もっと、手数を増やす方法はないかな。いっそ、振り回したり回ってみたり……回る?



「……いけるかもしれない」



 技能の反動を受け流しつつ、手数を増やす方法。自分でも無茶な方法だとは薄々感じているものの、もし成功すればこの武器両手持ちと【マナショック】両方を活かすことが出来る。

 ものは試しだし、やってみよう!



 その後、わたしは3体のウルフで失敗し、危うく何度か死に戻りしかけたものの、4体目で成功、20体程倒したところでようやく自分なりにほとんど失敗しなくなってきた。

 おかげでレベルが5まで上がったが、技術的にそれ以上の収穫があったように思える時間だった。



「つ、疲れたぁ」



 でも、これなら今のビルドであっても戦える。

 むふふ……今度、玲達に見せるのが楽しみだな。



 MP回復の待機時間も含む結構な時間、ウルフ狩りを行っていたので疲労の凄いわたしは、一度街の中央広場へと戻りログアウトすることにした。

 21時とそこそこキリのいい時間だったので食事を摂り、軽く風呂で流した後にすぐ眠りに就いた。

名前:シエル Lv5

職業:メイジ(1次職)

スキル:【一刀流Lv4】【風魔法Lv1】【杖術Lv2】【マナショックLv4】

装備:鉄の刀、アイアンロッド、旅人の服(上)、旅人の服(下)、旅人の靴

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