29. 武と自由の都市 クォーリア
朝寝て夜起きた人
武と自由の都市クォーリア。
とある時期になれば世界中からありとあらゆる武が集い、そして最強の座を求めて強者たちが決死の覚悟を持って血と涙と汗を流す世界最大の闘技大会が開催される世界一の大きさを誇る闘技場を持ち、武術の流派道場も数多く存在する都市。
また、ここには迷宮というものも存在するらしく準迷宮都市としての扱いもされており、セントラやサウストにはなかった冒険者ギルドもあるようで、これにはプレイヤーでも登録出来るために、現在の最前線プレイヤーの多くはここに登録しては迷宮に潜っての金策に励むのが主流だという。
もうひとつ、ここにはある程度の学舎も存在するということで、勉強のために学生がやってくるなんてこともあるそうだ。
そう聞いていた割には、クォーリアの街に近づくと、思っていたよりも人の流れは少なかった。
これだけ大きな都市だから検閲も厳重なんじゃないかと思っていたけど、シルさんが言うには、クォーリアを囲む円形の壁についている6方面の門には犯罪歴の有無を判断することが出来る機構が組み込まれているためわざわざ人が門前で確認する必要性がないらしく、万が一のために門の近くに衛兵の屯所が置かれているだけで、もし犯罪歴を持つ人が門を潜れば一度屯所の方へと連絡が入り、衛兵たちがすっ飛んでくるとのこと。
犯罪歴ってなんだろうと思ってみると、これは犯罪を犯した時に自動的に魂に刻まれ、また犯罪性の大きさや回数によってステータス画面の名前が白から黄色、赤などと自動的に神が設定したらしい。神とは言うものの、わたし達的に言うなら運営のことだ……神と言えば懐疑的になるのに、運営と呼ぶと途端に俗的な感じがするのはなんなんだろう……。
実はこのシステム、プレイヤーにも存在するらしい……けど、プレイヤーがプレイヤーを殺したとしても得られることはほとんどないから、イエローになるにはプレイヤーの通報を受けて警告、または罰則を1回だけ受けるか、衛兵に捕まって同様なことをされればステータス画面の名前が黄色くなるようだ。更に前科持ち……つまりはイエローがさらに同じことを繰り返してしまえば、晴れてレッドネームになってしまうらしい。
これに関してはこのゲーム、ハイクロのホームページのヘルプに載ってた情報だから、正直こんな人が本当に存在するのは割と疑問的だったりする。イエローにしてもメリットが何ひとつないし、レッドに関しては言えばデメリットがあまりにも致命的すぎる。ただ、居ないわけでもないだろうし、出会ったら適宜その場にあった行動をするように気にはしておこう。
街に入ると、どちらかといえば住民よりプレイヤーの方が多かったセントラとは違い、圧倒的な数のNPCが街に繰り出していた。また、大通りには出店も数多く出されていて、何かしらのイベントがある訳でもないのに常に騒がしい。
「こりゃなんとも……すげえな」
わたし達4人はというと、現代日本の人混みを知っているのにも関わらず、あまりの賑わいっぷりに絶句していた。
日本も都市圏となるとかなり人も多く騒がしい感じではあるが、この街の騒ぎは方はそれとは違っており、例えるなら祭りみたいだ。
特に何かあるわけでもなく普段からこうなのだから、闘技大会とかが始まったら一体どうなるのか、想像もつかない。
街に入った後からはわたし達も馬車を下り、シルさんの目的としている宿へ向かいがてら、街の景観を楽しんでいた。ロウさんなんかはかなり目をキラキラさせており、今までは少し達観した様子ばかりを見てきただけに、子供っぽい部分もあるんだなとちょっと意外だ。
「……ん?」
ふと、わたしはとある部分に違和感を感じた。目をつけたのは、大通りから枝のように分かれている、ただのひとつの脇道。本当になんの変哲もないように見えるけど……よく見ればその脇道、人通りが全くない。他の脇道も数人程度が通行するくらいしか人がいないんだけど、そこだけは何故だか全く人が通っている様子を感じない。まるで、そこには何もないかのように人はただ通り過ぎるのみ。
「うーん……」
「どうしたんですか?」
どうにも厄介事の匂いがするものの、行くべきかスルーするべきかと悩んでいると、うなるわたしに疑問を持ったロウさんが横から声を掛けてきた。
「まあ、ちょっとね……」
「……何か気になることがあるなら、別行動しても大丈夫ですよ?」
気を利かせてくれたのか、ロウさんはそんな提案をしてくれた。
「いいの?」
「いいも何も、そもそもこの護衛は本来は僕達でするべきことですからね。シエルさんは客人ですし、縛る権利なんて僕達にはありませんよ。それに、僕達はフレンドですから、互いにログインさえしていたらいつでも連絡は取れるじゃないですか」
「まあ、確かに」
実は道中、ゲイズさんとティーニャさんともフレンド交換していたので、彼らともいつでも連絡はとろうと思えばとれる。ロウさん自身は前からフレンドではあったけどね。
ロウさんの言う通り、わたし自身はただの行き縋りでしかない。けど、お礼を受け取らないとシルさんに何か言われそうだしなぁ……。
「大丈夫ですよ。シルさんの方には僕が言っておきますから。なので、また後で戻ってきてくださいね? それに……ゲームの中で縛られるなんて、嫌でしょう?」
「……分かったよ。じゃあ、わたしはもう行くね?」
「はい、行ってらっしゃい」
ロウさんは相変わらずというか、かなり目敏い。わたしのことを本当によく見ていると思う……ここだけ切り取ると、ちょっとストーカーっぽくなるけど。
ロウさんに見送られた後、一応ゲイズさんとティーニャさんにも断っておくと、快く頷いてくれた。その際、ティーニャさんがサムズアップしていたが、あれは一体どういう意味なんだろう……?
馬車を離れて気になった路地裏に入ると、元々あった違和感が、更に増した。というよりも、違和感からただの断言に変わっただけなんだけどね。
いざ脇道を通ってみると、さっきまであった気配が一気に消えた。それに、今この道を通った時に、何か全身に変な感覚を感じた。なんというか、あの熊と戦った時のような、ボスフィールドに入り込んだ時のような、そんな感じだ。
もしかして、ここはボスフィールドのようにどこか隔離された空間なのかもしれない。
とか思っていたら、何か囁くような声が聴こえてきた……いや、これは泣き声?
警戒しつつ、その泣き声の聴こえる方へとゆっくり移動する。そして丁度曲がり角が見えたところで声がかなり大きくなり、もうすぐ近くなんだということが理解出来た。
念の為、曲がり角から顔だけを少し出して覗き込んでみると、そこには血を流しながら倒れている女性と、その傍らで泣き叫んでいる少女……いや、幼女の姿があった。
警戒心が全て吹き飛んだわたしは、急いで駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「っ誰!?」
「……あな、たは?」
わたしが近寄ると、見知らぬ人が居ることに驚いたのか、今度は反対にわたしの方が警戒心むき出しで睨みつけてくる幼女。女性の方はどうやらまだ意識があったらしく、かろうじてではあるが、小さな声で問いかけてきた。
「ただの通りすがりです。それよりも、このポーションを」
そう言って、念の為と最低限用意していたポーションを取り出して女性に飲ませようとすると、その手はやんわりと止められた。
女性は微笑んだかと思うと、出血も構わず後を続ける。
「私は……もう、長くない。だから、この子を、託します」
「ちょっと待って、 サミィ! 私は、そんなの許さないから! だから勝手に逝くな!」
「お、おう……?」
わたしの存在も何のその、あれやこれやと私を置いて勝手に進んでいく話に全くついていけず、思わず変な声を出してしまった。
あまりにも理解し難い状況すぎてわたしだけ明らかな場違い感、というかシリアスブレイカーになっちゃってるんだけど、何これ? わたしが悪いの?
もちろん、そんな内心が今にも死に瀕している女性には知るはずもなく、わたしの目を見て話が続けられる。
「頼みます、旅人よ……どうか、どうかわたしの愛し子と、南の地、風の街の行く末を、助けて……」
女性の微笑みは依然崩れないが、目は真剣そのもの。
そもそも、この人がこんな得体の知れない場所で死にかけている時点で、ただごとではないことは確かなことだろう。
わたしにはちょっと、あまりにも唐突、というか突飛的すぎる状況すぎて理解出来なかったが、これはもしかしてわたしが思っているよりも何かやばいことが起きているということじゃないだろうか。
幼女……この子のことはともかく、わたしのまだ知らない街のことまで頼まれたということは、どう考えてもただごとには思えない。
わたし、このゲームでちょっと変なことに巻きこまれすぎじゃないかなぁ、なんて思っていると、女性は言いたいことを言い終えたのか、ずっとわたしの手を握っていた彼女の手から力が失われ、地面に落ちた。
呻くように泣く幼女と、呆然とするわたし。
そして、その前にひとつのパネル……即ち、クエスト発生に関係する画面が現れた。
『星5 ワールドクエスト【標への手がかり】が発生しました。このクエストは拒否することが出来ません』
『複数条件達成の確認……完了。星15 ワールドシークレットクエスト【失われし風を求めて】が発生しました。このクエストは拒否することが出来ません』
そのクエストの星の数を見て、あれ? 星って10までじゃなかったっけ? なんて思いながら、あまりにも難易度のインフレ具合にわたしは一言。
「また、路地裏かぁ……」
現実逃避をするように、そう声を漏らすのだった。
今度けいじばーん書きますねー
いつ入れるかは知らん
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