28. イベントの内容は
本日の投稿です!
感想、返せてませんが読んでます。本当に有り難いです。
クォーリアへ向かう道中で、馬車の護衛として以前同じクエストを共にこなした知り合いが居るという状況に驚きを隠せない。
かくいうロウさんの方も、まさかこんなタイミングでばったり顔を合わせることになるとは思わなかったみたいで、戦闘中だというのに口を大きく開けたまま変な顔で固まっている。
「ほらそこ! ラブコメみたいな顔で面白いけど、今戦闘中だから後にして!」
困惑していると、先程から槍でゴブリンを薙ぎ払っているお姉さんから注意を受け我に返る。ほんのちょっとのこととはいえ、確かに戦闘中にとるべき反応ではなかったな……。
「なんで生産職のロウ君がこんなところに居るのかは知らないけど、今は戦闘中だからまた後でお話しよ、ね?」
「あ、はい!」
ロウ君は呆けたことによる恥ずかしさからか少しだけ頬を紅く染めると、慌てて短剣を構え直した。
数分後、わたしと護衛一行が組み盛り返したことで、ようやくゴブリン達を殲滅することが出来た。
最終的に倒したゴブリンの数は50を超え、正直こんな見晴らしのいい場所でどうやって潜んでいたんだろうと思うけど、いくら考えても答えは出ないので思考しても無駄と断じ、それ以上は考えないことにした。
どうやら護衛はロウさんの他にあと2人居るようで、さっきわたしが注意を受けた槍のお姉さんの他に、大剣を携えたおじさんを含むこの3人が護衛らしかった。
にしても、護衛という割には遠距離攻撃出るメンバーが居ないのはバランスが悪いような……。
とにかく、ゴブリン戦で一息ついたわたし達は、改めて自己紹介を行った。
「ティーニャよ。ジョブは槍術士で、ロウの実姉でもあるわ……貴女、ロウのフレンドなのよね? まさか、私が知らないところでロウに春が来てるなんて思わなかったけど、喜ばしいことね。もちろん、私ともよろしくね?」
「ゲイズだ。俺はこいつらとは血の繋がりはねえが、まあリアルではお世話をしている側ではあるな。よろしく頼むぜ……にしても、嬢ちゃんは強えな!」
驚いたことに、槍のお姉さんはロウさんとは実際に血の繋がった姉らしい。
初めてロウさんと会った時はたまたま彼一人だったけど、普段はティーニャさんともう一人のおじさん……ゲイズさんとパーティを組んでいるらしく、あの時はたまたまティーニャさんとゲイズさんに用事があったようで、一人で行動してたんだとか。
見たところではしっかりしたお姉さんといった雰囲気のティーニャさんだが、何やらわたしとロウさんの関係に思惑があるらしく、正直それを突っ込むと面倒なことになりそうなのでわたしから何かを突っ込むことはしない。
ゲイズさんは如何にも頼りになる兄貴、といった感じの人で、グストさんと似たような空気を感じる。あの人は結構ふざけては仲間に締め上げられてるのをよく見かけるけど、この人もそうなのかな?
軽い自己紹介を終えたところで、不意に馬車の戸が開かれた。
どうやら護衛対象の人みたいだけど、出てきたのはおどおどした様子で、なんというか頼りない感じの男性だった。更に言うなら、男性はプレイヤーではなくNPCであるようだ。
「護衛のお方たち、本当にありがとう。それに、ごめんなさい。まさか、こんなところにあれ程のゴブリンが居るとは……」
「あら、気にしなくてもいいわよ? 私達は死んでも死ぬことはないし、むしろ、経験値がいっぱい貰えて助かったわ。それに、本当にお礼を言うべきはこの子よ。この子が居ないと、流石の私達も全滅だったかもしれないわね」
「そう言ってくれると、僕も助かるよ。それで、そちらの君も、本当に助けてくれてありがとうね。正直、もう駄目かと思ってたよ。ほら、ルナもこっちに来なさい」
男性は馬車の奥に居るらしい誰かへと手招きすると、彼より幾回りか小さい影がひょっこり現れた。
そして、わたしはその影の顔……正体に、もう一度驚かされる。
「え、ルナちゃん?」
「……あ、シエルお姉ちゃんだ!」
以前、ロウさんとこなしたクエストの依頼人であるルナちゃんは、わたしに気付くなり目を輝かせて抱きついてきた。
その様子にロウさんは微笑ましい様子で眺めているが、ルナちゃんを呼んだ男性はどういうことか理解出来ていないようで、目を点にして呆然としている。
流石にこのままでは話が進まないので、代わりにロウさんがわたしとルナちゃんの関係を説明してくれると、男性は驚いた後、何処か納得した表情で頷いた。
「そうか、ということは僕は2度も君に……返しても返しきれないくらいの恩が出来てしまったな」
男性の言葉に疑問を抱いていると、今度は訳を知っているらしいロウさんがわたしに説明してくれた。
あの時、ルナちゃんに頼まれた依頼は薬草の採取だったが、どうやらこの時、男性……名前はシルさんと言うらしく、ルナちゃんは娘だそうだ。シルさんの妻がかなり大きな病にかかっていたらしく、その病を治すのにあの薬草がどうしても必要だったとのこと。病は相当に酷かったようで、あと少し遅かったら手遅れになっていた可能性があったらしい。
ルナちゃんから依頼を受けた時の表情からして何かやむにやまれぬ事情があるんだろうとは思ってたけど、思った以上に重かったよ……。
「君には返しても返しきれない程の大恩が出来てしまったな。クォーリアに着いてからにはなるけど、是非ともお礼を受け取ってほしい」
「い、いえ! 正直、助けずに通り抜けるのは気分が良くないから助けただけだから、お礼なんて大丈夫です!」
別にお礼が欲しくて助けた訳じゃない、と固辞してみるが、シルさんは一転して違い真剣な目で何度もお礼は必要だと言ってくる。
さっきまでとは印象ががらりと変わったことでわたしは少しだけ気圧されながらも、なんでそこまで、と思っていると、彼からどうしてもお礼を受け取って欲しい理由を聞いた。
シルさんはいわゆる街間貿易商と言われる商人のようで、彼曰く、2度も助けられた恩人相手にお礼も渡さないでいると、外聞的な問題で礼儀知らずな奴だと思われてしまい、信頼問題で契約にもかなりの支障が出てしまうらしい。
シルさんの人柄を見るに、そっちよりも素直な恩返しの気持ちの方が遥かに大きいような気もするけど、そう言われてしまうと断れるわけもない。
当然わたしに受け取らないなんて選択がとれるはずもなく、渋々であるが受け取る旨を伝えると、シルさんは嬉しそうに頷いた。
ついでに行き先が同じということでクォーリアまで馬車に乗せてもらえることになった。ロウさんは後衛支援の役目が大きいから馬車の中に居るとはいえ、ティーニャさんやゲイズさんが外で歩きながら護衛をしているのにわたしだけ馬車で座ってるのも申し訳ないとは思うけど、自分でも結構な距離を走ってきた自覚はあるので、ここはお言葉に甘えることにしよう。
この際、ロウさんにクォーリアのことや、何故今シルさんの護衛をやっているのかとかを色々聞いてみることにした。
「クエストの後、僕はルナちゃんを一人で帰すのが心配だからあの子の家まで送ったんだけど、そりゃもうシルさんとキリエさん……ああ、シルさんの奥さんのことね。そりゃもう、彼らに大変感謝されちゃって。本当はほとんどがシエルさんの功績なのに僕が感謝されたことに申し訳なかったんだけどね……まあ、それからは色々あってシルさん一家とは縁が出来たんだ」
「そうなんだね。あ、あの時先にログアウトしちゃってごめんね?」
「大丈夫。シルさん達はこっちの住人だけど、僕達はあくまでリアルがあるからね。あの時は僕にはまだ時間に余裕はあったし、シエルさんは用事があったんだから仕方ないよ」
そう言いながら馬車の戸の方を向くロウさんに合わせて私も同じ方向を向くと、御者をするシルさんの隣でニコニコしているルナちゃんの姿が窓の隙間から見える。
もしあの時、薬草採取のお手伝いをしていなかったら今頃シルさんやルナちゃんはずっと悲しんでいたかもしれないと思うと、本当にあのクエストをやっていて良かったと何度も思う。
それにしても、本当にこのゲームはゲームなのかって疑問になってくる。
異世界を信じてるわけじゃないけど、実は本当にシルさんやルナちゃん……この世界のNPC達は生きているって言われても、わたしは納得するかもしれない。
クォーリアについても、色々と聞いてみた。
別名、武と自由の都市とも言われるクォーリアは国で王都に次ぐ2番目の規模を誇る大都市で、今まで通ってきたセントラやサウストみたいな統治者の居ない中立都市とは違って、アズール侯爵家と言われる大貴族が治めている領地らしい。
ここまではセントラやサウストとかでも聞いた話ではあるけど、他にも気になる情報をいくつか教えてもらうことが出来た。
クォーリアは武の都市とも言われているだけあって、国どころか世界規模で見てもかなり大きな闘技場があるらしく、なんでも、近々闘技大会なるものが開催されるようだ。
更に言うならその日程が今度の第一回イベントが完全に被っていて、しかもプレイヤー部門なる、完全に参加者がプレイヤーのみで構成された大会もある模様。
イベントの内容についてはさっき見た通り、まだはっきりというか、ほとんど分からない状態なんだけど、部門の名前があまりにもあからさますぎることからも、この闘技大会、もといPvP大会はイベントの一部だろうというのが、ロウさんも含むプレイヤー達の考えらしかった。
PvPイベント自体はMMOでは比較的ありがちな内容ではあるけど、それを主体じゃなくて一部に含めるなんて、運営はまた豪勢というか、最初からかなりの手の入れようというか……。
ちなみにシルさんもこの闘技大会で人が集まるのを見越し、販路を広げるためにこうしてクォーリアへとやって来たようで、ティーニャさんとゲイズさんは大会に出るらしいし、ロウさんは生産職だから大会自体には出ないけど、プレイヤーでも出店を出せるらしいから、そこで薬を売るらしい。
あとは侯爵家が何かを探しているとか、あと街の外の魔物の様子が不穏だったりとか、かなりの情報が錯綜しているようで、イベントの取っ掛りすらも掴めないみたい。
もしこれら全部がイベントに絡んでくるんだとしたら、本当に相当大きなイベントになるよね……? あまりにも色々聞かされすぎて、わたしもなにが何だか分からなくなってきたよ……。
ロウさんが持っていたクォーリアのめぼしい情報はこれで以上ということで、それからは他愛もない会話を展開していると、馬車の外から声を掛けられたので、わたしとロウさんで窓から外を覗いてみる。
端の見えない程に横に広がっており、セントラやサウストの数倍以上はあるだろう、比較にもならない程高い壁に囲まれた高い壁が見えた。
色々あったけど、ようやく到着したクォーリアの外からの姿を見て、わたしは心を躍らせた。
イベントの内容はもう既に全容は決めてあります。是非おたのしみに!
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