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魔法職の双刀使い  作者: 香月 燈火
Episode2 封印の遺跡と魔獣の秘密(第一回イベント)

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25/32

25. ウェポンマスターの実力

更新時間はランダムです。

 ボス戦という名の一方的な虐殺が始まっておおよそ1時間。驚くべき速度で狩られ続けるブラッドグリズリーに、流石のわたしも同情せざるをえない。

 シークレットクエスト受理の条件にまずブラッドグリズリー50体の連続討伐をこなさないといけないわけだが、そのスピードが圧倒的なのである。

 最初にボスフィールドへと飛ばされた後、カレンさんに「シークレットクエストまでは戦闘に参加しない」と言われ、三人で始めたにも関わらず、一度の戦闘が大体1分とちょっとしかかかっていない。

 確かにこのボス自体はわたしだとソロで討伐出来るくらいには相性がいい相手ではあるし、相性が悪いレイクやハルハルでも2人でなら一方的に滅多打ちに出来るだろう。カレンさんの実力はまだ見たこともないからはっきりとは分からないけど、聞いた話だと負ける未来が見えない。しかしいくら格下といえど、ボスはボス。それがまさか、()()()()()()()()()一種のハメ状態に追い込んで3人でリンチにしているのだから、哀れとしか言いようがない。



 そしていよいよ、シークレットクエスト開始まで残り1体を倒すところまで来た。



「や、お疲れ様」



 本当だよ。とは言ってもまだ後1体残ってるし、本命もあるんだけどね。むしろ、弱体化しているとはいえ本命の方が倍多い上に連戦になる訳だからもっと疲れることになるだろう。



「ここまで作業だと、逆に疲れるよな」

「ええ、本当ね……」



 レイクとハルハルも同様なようで、合わせて頷いた。

 ちなみにあれだけ戦って、レベルは1も上がっていない。このゲームのボスは、初回でもなければそこまで経験値が美味しくないので、分かりきっていたことではあるが。



「さて、いよいよ次で最後なわけだけど……折角だし、ボク1人でやらせてもらおうかな?」



 カレンさんが、そう言って微笑む。



「まじか! 【人間兵装(ウェポンマスター)】の戦いが見れるのか!」

「これは、それだけでも参加した甲斐があったわね」



 と、戦いが見たことがあるはずの2人がやたらと興奮していた。そんなに興奮することかなぁ?



「ねえ、そんなに凄いことなの? だって、2人とも戦ってるところを見たことがあるんだよね?」

「何言ってんだよ。見たことがあると言っても、こんな真正面から観戦なんてしたことねえよ」

「第一、カレンさんとは知り合いではあっても【人間兵装】とは全く関係を持ってなかったのよ? そんな私達が、はっきりと戦いを見た事があると思う?」



 言われてみればそうかもしれない。

 もし一緒に戦うことがあるとしても、臨時でのパーティか大型レイドくらいだろう。しかし、いくら中身不明の人物でも最強の一角と言われている人が見知らぬ人と臨時のパーティを組むほど知り合いが居ないとは思えない。そもそも、固定のパーティーメンバーが居てもおかしくない。それに大型レイドで偶然共闘することになっても、強大なレイドボス相手にいくら攻略組でも他人の戦闘を眺めながら戦えるとは思えない。



 てことは、今の状況はある意味最高の観客席で試合を見ることが出来るのと同じってわけね。



「そこの2人はボクの戦いを見たことがあるみたいだから知ってるだろうけど、シエルさんは知らないでしょ? それなら、ボクの戦い方を一度見ておいてほしいんだ。まあ、このメンツだと連携する必要もないだろうし、ボクの戦い方も連携の()()()()()けどね」



 暗に、カレンさんもソロ特化ってことなのかな?

 まあどうせすぐに戦い方が分かるんだから、わざわざ今考察する必要もないか。



「じゃ、行くよ」



 合図とともに、最後の1体を倒すためにボスフィールドへと移動した。

 その瞬間現れる、もう飽きるほどに見慣れた赤い毛の巨大な熊。ブラッドグリズリーだ。



「シッ!」



 ボスを視界に入れた途端、いつの間に装備していたのか、長弓を構えてブラッドグリズリーへと矢を発射していた。それも、2発だ。

 相当な強弓なのか、矢はかなりの速度で飛んでいき、左右の目にそれぞれ突き刺さった。10メートルは離れた位置から小さな的へと的確に命中させたその腕前は、補正があったとしても驚くべき腕前としか言いようがない。



 ボスのお決まりパターンである開幕咆哮すらもキャンセルされ、痛みで怯み身悶えしているブラッドグリズリーへと、容赦なく関節などの部位を連続で狙い撃ちしながら、駆け迫る。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()驚きの正確さでブラッドグリズリーにまともな動きさえさせないまま懐へと忍び込むと、装備していた長弓を解除し、()()()()()()()()()()()()()()()()()、左手の剣でブラッドグリズリーの右脚を横薙ぎに斬りつけ、そこから動きの派生で身体を捻り右手の槍で左足を突き刺し、地面へと縫い付けた。



「ほらほら!」



 槍を引き抜くことなくすぐさま装備を解除し、腕を振り上げた直後右手に装備したのは大剣。そこから大剣の自重を加えて全力でブラッドグリズリーの腹部へと振り下ろした。

 それから、次々と装備を変えていき攻撃させる間もなく、圧倒的な蹂躙劇によって討伐してしまった。

 かかった時間は、なんと大体1分。わたし達3人で合わせて戦ったのとほぼ同等の時間で終わらせてしまった。



 ……え、なにこれ?

 驚きで動くことも出来ないわたしの肩を叩くハルハル。彼女も、やはり顔を引き攣らせていた。



「やっぱり、あれはいつ見ても衝撃的よね。シエルは初めて見たから改めて説明するけど、あれが【人間兵装】なのよ。色々な装備を瞬時に換装し、前衛、中衛、後衛までもを全て1人で熟す戦闘のエキスパート。さっき、カレンさんが連携は必要ないって言ってたのは、つまりはそういうことよ」



 その説明を聞いて、なるほどとは思う。確かに、1人でパーティ分の働きが出来るのなら連携なんてものはあってないようなものなのだろう……って、そんなので納得出来るわけがない。いくらどの配置で戦えるとしても、身体は一つだけなんだから、パーティ分の働きなんて出来るはずがない。

 というか、あの武器を瞬時に変えるのも、どうなってるんだろうか。



「今、どうやって武器の装備をすぐに変えてたのかって思ったでしょ?」



 何故ばれたし……。



「シエルは無表情だけど、長い付き合いだから私には分かるわよ。それで、その説明の答えだけど、シエルもショートカットは使ってるわよね?」

「え? そりゃまあ、使わないわけがないよ」



 ショートカットとは、本来ならわざわざメニュー画面から開かないとアイテムを使えないのを、指をワンスナップするだけですぐにアイテムを使えるようにする機能だ。だがこれもちゃんと枠があって、10個分までしか選択出来ない。ポーションみたいな消費アイテムは1つの枠に1つしか入れることが出来ないが、便利なので大体が回復アイテムを入れていると思われる。ちなみに、わたしもHP回復用のポーションと、MP回復用のエーテルをそれぞれ5個ずつ入れていたりする。



「で、そのショートカットにね。私もよくは知らなかったんだけど、【人間兵装(ウェポンマスター)】のことを知っているって人が、彼女はショートカット全てにそれぞれ別の種類の武器を入れてるって話なのよ」

「えっ!?」



 何それ、流石に滅茶苦茶すぎる……。

 それってカレンさん、いつも回復アイテムなしで戦ってるってことだよね? しかも、わざわざ別の武器まで使うなんて実質縛りプレイみたいなことなんてして。

 レイクは知らなかったみたいで、口を大きく開いて固まっている。そういえば、さっきからレイク全く喋ってないね……。



「しかも、カレンさんが凄いのはそれだけじゃないのよ。生産職って、武器技能を取得出来ないのよ」

「いやいやいや! それって……!」



 つまり、本来ならスキルで補えるはずの技術補正を、全く受けてないってこと!?

 武器技能というのは装備した武器の使用感の齟齬をなくし、出来るだけゲームのシステムによって修正してくれるというある意味このゲームにおいて最も重要と言われている技能である。それに、武器技能にはその武器特有の技能攻撃が存在し、ステータス依存によって攻撃力や攻撃範囲、また状態異常を付与するなどかなり便利なものも存在する。わたしの【二刀流】や【杖術】などがそれにあたる。

 それらが使えないとなると、技術面では完全に現実と変わらない。あの弓の腕前も技能の補正を含めてだと思っていたが、本当は完全にカレンさんの腕前でだったわけである。



「いやあ、やっぱりこの両手に装備出来るってのは便利だね。シエルさんが教えてくれてから、より戦いやすくなったよ」



 上機嫌で声を弾ませながら帰ってくるカレンさんの発言に、わたしははっとした。そういえば、両手に別の武器を装備出来る情報を発見したのはわたしで、カレンさんに教えたのもわたし。まだ教えてから数日しか経ってないのに、もうカレンさんはあんなに使いこなしてるってこと? 武器技能もなしで?

 もしかして、元から知ってたんじゃ……と思ったが、あの時は本気で驚いていたようにも見えたし、知っていたのならわざわざ私を持ち上げる必要もない。ただ、理由があってわたしが発見したことにしたいだけかもしれないけど……どちらにせよ、ただでさえ双武器の扱いは難しいと言うのに、種類の違う武器を片手に一つずつ持って、しかもしっかり使いこなしている時点で、やっぱりカレンさんは人外だ。



「あ、そうそう。言ってなかったけどね、君達が人外って呼ぶボク達のステ振りなんだけど、一応皆極振りだよ」

「「「はいっ!?」」」



 新たに投下されるとんでもない爆弾。極振りといえば、あまりにも一点特化すぎて、初期周辺の雑魚にすらまともに戦えないマゾ仕様と、何処かの攻略サイトで見たことがある。なんでも、振ったステータス以外の初期値が、現実の生身の身体と全く同じらしい。その上どれだけレベルが上がっても特化させたステータス以外の伸び値はほとんど誤差レベルで、βではレベル15まで上げた極振りの人の無振りステータスとレベル1の3特化の人の無振りステータスでほぼ同等だったらしい。いやそれ、誤差とかその域すら超えてると思うけど……?

 通りでボス戦で、ボスに向かって走る速度が遅かったわけだったけど、あれは弓で狙い撃ちにしながらだと思ってたのに、本当に足が遅かっただけらしい。



 ステータスはほぼ生身と変わらず、技術面でも完全に生身と同等。

 常識人だと思ってたカレンさんが、実はただの規格外だったことに衝撃を隠せない。



「一応言っておくとボクがDEX極、【陽炎】さんがAGI極、グストがSTR極、【誘導】さんがINT極だよ。それと、今の戦いではさっき言ってたシステムの向こう側の技術は使ってないよ。あくまで、自分の実力だからね?」

「「「ええ……」」」



 DEXは、全武器に攻撃力と手先の器用さが補正されるだけ。その他身のこなしは、全部生身と変わらない。

 この時、わたし達以外の3人は、改めて隔絶した実力差と人外と呼ばれる人達の理不尽具合というものを知ったのだった。

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