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魔法職の双刀使い  作者: 香月 燈火
Episode2 封印の遺跡と魔獣の秘密(第一回イベント)

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24/32

24. 4人の人外とシステムの向こう側

もっと続けどこまでも───

 翌日。今日はついにシークレットクエストの攻略へと乗り出す日だ。空も、わたし達を祝福するかのように快晴である……とは言っても、ゲームの中は大体快晴がデフォルトだけど。

 それと実は、今日が終業式の日だったりするので、明日からは晴れて夏休みである。やったね! ゲームが出来るよ!



 集合場所である最初の街の噴水広場には、既にハルハルとレイクの2人が集まっている。カレンさんは、何かと装備を調整するので忙しいらしく、戦闘のある日は入念に手入れと準備をしてから来ることにしていると言っていた。

 すっかり武装して2人で談話している中へと割りこんでやる。



「前見た時も思ったけど、やっぱりハルハルの着こなしはすごいね。それにつけて、レイクと言ったら……」

「シエルの方こそ、挨拶がわりの毒舌は変わんねえな」



 いつものやり取りに皮肉たっぷりの言を返されるが、今言ったことは割と本心だったりする。

 ハルハルの役割は接近戦からの回避タンカーであり、オーダーメイドの精緻な意匠の施された白銀の鎧は対照的な彼女の金色の髪と相まって、ある意味ひとつの装飾品のようである。ハルハルのゲーム内での二つ名は【姫騎士】というらしいが、まさにその名に劣らぬ見目と言っても過言ではない。

 対してレイクの方は深緑色の長ローブを上から羽織っており、中には黒のブラウスに同じく黒のカーゴパンツと見事に彼の気性の荒いイメージと落ち着いた雰囲気の服とで絶妙な感じで違和感を感じさせ、ぶっちゃけダサい。こっちも当然全てがオーダーメイドであるので特に装備に対して批判することはしないのだが、レイクの銀色の髪に緑と黒の服は正直ミスマッチすぎる。多分、装備の製作者の人も注文の際に「どんなのでもいいから、とにかく良い装備を作ってくれ」と言われたんだろうな。

 折角元の材料は良いというのに、相変わらず残念イケメンさが抜けないレイクである。



「ところで、カレンさんはどんな格好で来ると思う?」



 渋面のレイクは無視。ハルハルはこの質問に、悩むように顎に手を当てた。



「うーん、正直予想も出来ないわね。だってあの人、考えてること分からなさすぎだから」

「……確かに」



 ミステリアスというか、何処となく掴みどころのない性格してるもんね、カレンさん。

 そう考えると、本当にどんな格好で来てもおかしくない。ただ、生産職であることに間違いはないし、もしかしたら戦うといっても後ろから援護するだけかもしれないし、それなら普段着の可能性だってあるにはある。



 色々とカレンさんへの考察を続けていると、わたしが来てから10分程経った頃、ついにカレンさんがやってきた。



「ごめんねー、待たせたよね?」

「いえいえ、まだ少ししか待って……な……」



 振り向いてカレンさんの姿を見るなり、絶句してしまった。いや、見惚れていたと言った方がいいだろうか。後ろから「まじかよ……」と小さく呟いたのを聞くに、レイクやハルハルも同じ状態になっているに違いない。

 カレンさんの装備はフード付きの黒いトレンチコートを羽織っており、その中には微かにガンホルスターが顔を覗かせている。更にポーチ付きのベルトが巻かれた黒の軍用ズボンを着用していて、女性でありながらも凛々しいものとなっていた。というか、完全に軍装である。

 そんな彼女の姿は、元々ボーイッシュな雰囲気と中性的な顔立ちからまさに男装の麗人と表現するのがぴったりだ。



 固まってしまったわたし達がおかしかったのか、カレンさんはクスリとほんの少しだけ笑う。



「君達、そんなに僕がおかしいかい?」

「え、い、いや、そんなことは……」



 おどけてみせるカレンさんについどもってしまう。だがそれ以上言葉を続ける前に、ハルハルが一歩前に出てきた目を見開いたまま口を震わせている。ただ容姿に驚いているだけなら、明らかに反応が過剰だ。どうやら、別のことに驚いているようだ。



「もしかして……【人間兵装(ウェポンマスター)】!?」

「あちゃー、やっぱ気付いちゃったか」



 失敗した、というふうに言ってはいるが、表情からは全くそう思ってはいないように見える。丁度、今は周りに人が誰も居なかったからなのかな? と言っても、正直わたしには何を言ってるのかさっぱり分からない。仲間を求めてレイクの方を見るが、本当に小さな声で「まじかよ……」と呟いたのを聞いて、仲間外れなのはわたしだけなことを理解した。

 蚊帳の外に居るこの状況で居心地の悪さを感じていると、察してくれたようでカレンさん自らが説明してくれた。



「【人間兵装(ウェポンマスター)】というのは、ボクの二つ名さ。彼らが驚いてるのは……うーん、ちょっと自分から説明はしづらいかな」

「シエル。単刀直入に言うけど、私やレイクとは違って、この人は最強の一人にして、真性のガチプレイヤーよ。それも、わたしやレイクのような紛い物とは違って、ね」



 ……は?

 生産職のカレンさんが、最強の一人? それ、本当に?



「何度かフレンド欄を見てたから、ガチなのは何となく分かってたよ。でも、カレンさんって生産職だよね? それなのに、最強の一人なの?」

「もちろんよ。シエルはβテストには参加していなかったから知らないと思うけど、βテストに【人外】やら【リアルチート】なんて呼ばれていた4人が居るのよ」



 なるほど。その中に、カレンさんが……。



「カレンさんがその内の1人ってこと?」

「そうよ。【陽炎(ミラージュ)】のミリルア、【誘導】のツァングラ、【反城】のグスト、そして最後が正体不明の【人間兵装(ウェポンマスター)】よ。βテストの時はフードと仮面で完全に姿を隠していて分からなかったけど、まさかカレンさんだったとはね……」

「4人全員、まじで動きが人間とは思えねえからな……誰も、この中に生産職が入ってるとは思わねえよ」



 グストさんが入っていたのには納得した。だってあの人、多分一度もわたしの前では()()()()()()()()()()()()しね。他2人は知らないけど、多分グストさん並に強いんだろうし、やっぱわたしが攻略組を名乗るのは100年以上は早いと思う。



「ま、ボクも含めてこの4人がそう呼ばれるのも理由があってね。何せ、現実では全員が武術や戦略やら、何かしらの戦闘に特化した達人でもあるわけだし」



 ああ、なるほど。それは納得出来るかも。前に一回、実践的な槍術の道場の組手を見たことがあるけど、凄い速さの応酬だったし。その時も辛うじて動きが霞んで見えたというのにまだ師範代には及ばないと言ってたし、それなら件の4人とは、一体どれほどの腕前なのか。



「ちなみに、ボクが得意なのはCQC戦術での総合近接格闘で、一応剣術、槍術、弓術、投擲術と幅広く使えるよ。まあ、特化してる人に比べると劣ってはいるからかなり器用貧乏だし、4人の中でも一番弱いけどね。それに、【陽炎(ミラージュ)】は4人の中でも更に次元を突き抜けて強いし」



 いやカレンさん、あなた本気で凄すぎです。それなのに最弱って、その4人本当に人間辞めてない?



「ただ、ボク達4人に限ってそれだけじゃないけどね……」

「「「えっ?」」」



 つまり、他にも強さの原因があるってこと? 今のでお腹いっぱいなんですけど……。



「そりゃ当然だよ。そもそも、このゲームの人口がどれだけ居ると思ってるんだい? まだそれほど居ないけど、外国人も混じっているんだよ? その中に、ボク達以上の武術の使い手が居ないと、思ってるのかい?」



 ああそうか、それもそうだ。カレンさん達は確かに達人ではあるが、最強というわけではない。むしろ、求道者と呼ばれる人達は実力の向上のために実戦を欲するような人も居ると聞いたことがある。そんな人達がカレンさん含む4人に劣っているかと言われると、それは絶対に有り得ない。日本人だけでも、4人より戦闘術の腕前が高いプレイヤーだって居るはずだ。



「分かったみたいだね。2つ目の強さの秘訣……それが、ボク達4人が()()()()()()()()()と呼んでいる技術のことさ」

「システムの……向こう側?」



 やっぱりそれだけじゃ、どういう意味かを理解出来そうにない。レイクとハルハルも、パッとしないようで微妙な顔をしている。



「ま、これについてはおいおい知っていくといい。この技術に関しては、ゲームの裏側や仕組みまで知るくらいの勢いで理解しないといけないし、そもそも使いこなすのも針穴に素早く糸を通す以上の技術が必要になるからね。今知ったからといって、すぐに出来ることではないし、そもそも教えてもらうものですらない。自分の戦闘スタイルを確立するのが重要なんだ」



 そこまで言ったところで、カレンさんは話を止めた。数秒沈黙の空気が流れた後に「さあ、行こうか」と言われたことで、これ以上何も話すつもりはないことが分かった。



 ああ……カレンさんの話が興味深くてすっかり忘れていたが、そういえばこれからクエストを攻略するんだった。発案者が忘れてちゃ、世話ないな。



 カレンさんの言ったシステムの向こう側というものはよく分からなかったけど、カレンさんの戦闘を見れば何か分かるかもしれない。さっきの話を聞いて、グストさんが本気を出していないように見えたのは、そのシステムの向こう側という技術を使っていなかったからなのかも。確認する術はないけど、何となくあけっぴらにしているわけじゃない事柄のようだし、多分間違いではないはずだ。

 そう考えると、グストさんがカレンさんと入れ替わってくれたのは、むしろ幸運だったんじゃないか? レイクやハルハルの話を聞くに、今更生産職だからといって、侮ることは出来ない。むしろ、どう考えても今のわたしよりは遥かに上だろう。

 グストさんが何も言わなかったのは、いつか同じ話をカレンさんからされることか分かってたからかもしれないな。単に、忘れてただけというのもあるけど……。

 この期に、カレンさんの戦い方を参考にさせてもらうことにしよう。例えわたしとは全く異なる戦い方でも、何かしらヒントは掴めてもおかしくはない。



 南フィールドを通り、ようやくボスマップの直前へと到着する。



「じゃ、準備はいい?」



 いつの間にか先頭を行っていたカレンさんが、最後の確認を取る。当然、ここで首を横に振る奴は居ない。

 一応、確認が取れたところで、いよいよわたし達はボスフィールドへと足を踏み入れた。

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