23. 最強のワンマンパーティ
更新するする詐欺卒業……!?
持続すればいいなぁ(願望)
案の定、グストさんだけではなくレイク、ハルハルもしっかりとログインしていた。最近、この人達はいつログアウトしてるんだろうと考えることがある。グストさんはまだ何度かフレンドの文字が暗くなっているところは見たことがあるものの、ハルハルとレイクに関しては本当に一度ログインしてから文字が消えているところを見たことがない。
あの2人、ちゃんと睡眠をとってるのか流石に心配になってくる。学校で見かけた時も、目の下の隈がはっきりと分かった。けどどうせ、どれだけ咎めたところで改善する気はないんだろうなぁ。あいつらのことだから「ゲームで死ぬなら本望」とか言い出しそうだし。
わたしはそんなのはゴメンだけど。
3人に連絡をとった後、待ち合わせ場所としてカレンさんの工房で待っているとまず真っ先にやってきたのはレイクだった。ハルハルが居ないのは、最近この2人はソロで活動するようになったからだとか。どうにも連携に馬が合わなくて、結局1人で活動した方が楽だし、1人の方がより多くの敵と戦えることに気付いたらしい。
レイクの思考は、ゲームにのめり込んでいくことで徐々に戦闘狂寄りになっていっているようだ。いつかわたしにも喧嘩を挑んできそうで、ちょっと怖い。
ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべて近付いてくるレイク。正直気持ち悪いが、口を滑らせる必要もないだろう。
「……口、滑ってるからな?」
なんて思ってたけど、そもそも今の思考自体が口から出てしまってたらしい。
「だって気持ち悪いし」
「しかも開き直りやがったよこいつ」
やけに気持ち悪いレイクが悪い。
と、口論を少し繰り広げたところでハルハルも工房の中に入ってきた。その表情は、どこからどう見ても呆れているように見える。
「何してるのよ、あんた達……」
肩を竦めて首を振り、工房の中を一瞥した後、ずかずかと勝手に工房の奥へと入り込んだかと思うと、1つの椅子を持って戻ってきて寛ぎ始めた。カレンさんは今、仲間達とパーティを組んで北の街へと出張している。行く直前「店の商品じゃなければ、備品はいくら使ってくれてもいいよ」とは言ってくれていたけど、その時ハルハルは居なかった。
レイクでさえそんなことはしていないというのに、ハルハルは自由すぎじゃないかな……。
「あっ! ずっりい!」
せっかく感心していたというのに、レイクはただ思い浮かばなかっただけらしい。すぐさま工房の奥へと駆けていくと、全く同じ椅子を持って戻ってきた。
なんというかさあ……。
「色々台無しだよ……」
「あん?」
「え?」
と、2人が呆然としていた時に、最後の1人がやってきた。体格はレイクよりも一回り程大きく、いかつい赤髪の男……グストさんだ。
彼は工房の隅で囲っていたわたし達を見た途端、威圧感を感じさせる程の荘厳な顔を崩し、にかっと笑った。
「おうおう、久しぶりだなぁお前ら!」
相変わらず剛毅に笑うグストさんは、手近に居たレイクの背中を何度も叩く。というか、音が凄い。もし痛覚100%設定にしていたら、絶対に痛い。
「いってえ!? 何すんだグストのおっさん!」
……流石ゲーム狂と言うべきか、期待を裏切らないね。
今回のメンバーが全員集まったところで、本題へと移行する。
本題というのはもちろん、シークレットクエストのことで、要はこのメンバーで熊さん大虐殺しようぜというわけで。
自分一人でクリア出来なかったからと言ってとりあえず知り合いのガチ勢引き連れて暴れ回るのも正直情けないかなとは思ったけど、そもそもこのゲーム自体、マルチプレイ推奨なんだからそれじゃあパーティ組んでも全くもって問題はないだろう。決して、開き直ったわけではない。
さて、兎にも角にも始まったシークレットクエスト攻略会議。
そして開始から5分後。
「そもそも、連携とか必要なくね?」
早くもパーティとしての最大の有用性が否定されることとなった。この中で一番の常識人だと思われたグストがそれを言うとは……。
いや、正直言って分かってたんだよ?この面子で連携なんてとれるはずがないって。
私の戦い方は【マナショック】の瞬発力を利用して変則的な動きで戦うから仲間との連携は必然的に行うことが出来ない。
レイクは相変わらずのノーコン魔法使いで、最近は盾と杖を構えて至近距離から魔法をぶっぱなすようにしている模様。おい、魔法使いの意義……。
ハルハルはまあまだましなのだが、本来タンクなら盾を装備しているというのに、ラウンドシールドすら装備せずに剣でパリィをしながら避ける回避壁をやっているようだ。タンク役といえばかなり重要な役割……なはすだが、このメンバーだと正直タンクのメリットがあまりないね。何せ、全員がバリバリの超近接型で、まずグストさんがカウンター型であるせいで、相性が抜群に悪いからだ。ちなみに、今初めて知ったのだが、初期才能値にVITは振らなかったらしい。遥か格下の熊だろうが、一発くらえば即ノックアウトの危機。そもそも、あの熊の攻撃ってパリィ出来るの?なんか、心配になってきた……。
最後にグストさん。この人はさっき言った通りカウンター型のプレイヤーで、見切り後の大斧の攻撃なんてわたしでも完全に見切ることが出来ないくらいに強い。わたしも、今タイマンしたところで勝てるかどうかと言われると微妙なところだ。やはり熊がパワー型なだけあって相性は悪いが、グストさんなら何とかしてくれるような気がする。
というか全員、ちょっと前まではパーティを組んで攻略組に参加してたんじゃなかったのか、と思って改めて聞いてみると。
「そりゃ嬢ちゃんよ、簡単な話だろ。ソロで攻略すればいいんだよ」
なんてグストさんから言われてしまった。
ハルハルとレイクも同じのようで、表情も当然と言わんばかりにしれっとしていた。それを聞いてつい無意識に「なんで、私の周りってこんな変人ばっか集まるんだろう……」と口から零してしまい。
「「「それ、お前(嬢ちゃん)が一番言っちゃダメなやつだからな?」」」
とかなんとか、失礼なことを言われた。おかしいな、わたしはこの3人と比較するとまだ普通だと思うんだけど?
てかグストさん、その嬢ちゃん呼びやめい!
ひとまずその話は置いておくとしても、やっぱこれ、本当に連携要らないんじゃない?
下手すれば、わたし以外にも1人居れば適当にクリア出来そうなんだけど?
「そもそも俺達、ボス相手に一緒に戦ったこともないのに連携もクソもないだろ」
珍しく、レイクにしては的を射た発言である。なにせ、魔法職へと方向チェンジしてからは連携も壊滅的どころかむしろ邪魔にしかならないレベルで、かつ遠距離攻撃が当たらないのなら近距離から魔法を撃てば良いじゃないと魔法職の存在意義を半分程否定した脳筋思考な戦闘スタイルなのである。
……たった今超巨大ブーメランが胸に刺さったような気がしたのは、きっと気のせいだろう。
なお、ハルハルは口を大きく開いたまま呆けていて、グストさんに関しては「誰だお前?」とばかりの訝しげな視線をレイクへと向けていた。
「おいちょっと待てや。流石にお前ら、その反応は失礼すぎだろ!」
やはりというか、周囲の反応がどういうものかに気付いたらしいレイクが食ってかかってきた。
まあ、いつもの光景だし分かったのも当然か。まさか、グストさんまでもがそんな反応をするとは思わなかったけど。
「まあまあ、落ち着き給え、レイク君」
とそこで現るは、いつの間に帰ってきていたのか、気付いた時にはカレンさんがレジカウンターにて腕を組んでドヤ顔で見下ろすように直立していた……が、天井が低いせいで微妙にカレンさんの頭が真っ直ぐになっておらず、斜めにズレている。更にそのせいで首が痛いのか、身体が小刻みに震えているように見える。というか、震えてるねこれ。
「おうカレン、何か用か?」
というのはグストさんの言。そうじゃなくって、ここカレンさんの工房だから用も何もないと思うんだけど。
「よく分かったね!」
「え? 本当に用があったの?」
目を丸くするハルハル。わたしと同じことを考えていたようだ。
グストさんが、当然とばかりにふんと鼻を鳴らす。
「やっぱりか。で、その用事ってのは、どうせ俺個人に対する依頼だろ?」
「おお、やっぱ分かった? 流石、ボクのパートナーなだけあるね」
「「「パートナー?」」」
レイク、ハルハルと揃って疑問の声を漏らした。2人にも、どういう意味か分かっていないらしい。
「そうそう、パートナー。あ、もちろん現実の方だよ?」
「現実の方って、え? それ、てことは……」
相当パニックになってるのか、早速口調崩れてますよ、ハルハルさん。とまあ、グストさん達はハルハルの素も知っているみたいなので特に直させる必要性もないだろう。
「別に、それ言う必要なかったんじゃねえのか?」
「そう? でも、レイ君もハルちゃんも現実で会ってるし、それにあなたも本当は言ってしまってもいいと思ってるよね?」
グストさんはばつの悪そうな表情になっているが、対するカレンさんは相変わらず自信満々で言葉を続ける。
というか、レイクもハルハルも現実でグストさん達に会ってたのか……。
「あ、あれ? いつ会ったっけ?」
「さ、さあ?」
「って、分からないんかい!」
ああ、ついにツッコミを入れてしまった……。いつもならどちらかといえばボケの役割だというのに。
それにしても、この反応を見るに、どうやら本当にいつ現実で会ったのか全く分かってないっぽいね。そうなると、グストさん達が一方的に知ってたってことになるけど、それならアバターを変えてるレイクやハルハルの元の姿が分かった理由が謎すぎる。
「え、えっとグストさん……?」
「ん、まあ、な。もう察してるとは思うが、俺とカレンは、現実ではパートナー……つまり、結婚してるんだよ」
いや、さっき言ってたことで何となくは分かってたけど、既婚者だったのか、この2人……。
「あ、それは分かったんですけど、じゃあ現実で会ったことがあるってのはどういうことだ?」
この中で一番順応性の高いレイクなだけあってすぐに理解は出来たようだ。結局、いつ会ったのかは分からないようだが。
「それについては、おいおいね。あ、そうそう、ダーリン」
「あん?」
カレンさんがグストさんのことをわざとらしくダーリンと呼んだことで何故かハルハルが一瞬身体を震わせたが、見なかったことにしよう。
グストさんにのみ聴こえるよう耳打ちすると、グストさんの表情が露骨に嫌そうにしたのが分かった。
「……そりゃ、めんどくせえな。嬢ちゃん、すまんが事情が変わった。俺はそのシークレットクエストには参加出来そうにねえわ」
「えっ!?」
ここまで来て、最高戦力が居なくなるのは痛い。というか、正直グストさん以外にまともなフレンドが……どころか全く居ない。
困った……信頼出来るフレンドでも呼んでもらうとかは……。
「代わりと言ってなんだが、カレンを連れてってやってくれ」
「え?」
3人揃ってカレンさんの方を向くと、ニヒルな笑みを浮かべていた。
「ふっ。ボクが戦えないといつから錯覚していた?」
「カレンさんって、生産職ですわよね?」
「それは当然。むしろ、それ以外に見えるかい?」
メインが生産職で、その上戦闘も出来るだなんて……カレンさん、一体何者?
急遽決定されたパーティ変更メンバーに、カレンさんが参加することが決まり、その後は当たり障りのない世間話をしながらもクエスト攻略戦は、明日決行することに決まった。
めちゃくちゃ更新は遅くなりましたが、そろそろ話動かします。
重要な事実もおいおい出していきます。




