22. 二次職
はう
……なんてことはなく、その前にわたしはとある目的のためサウストの街中をぶらぶら歩いていた。
サウストは装飾業が盛んのようで、数多のアクセサリー専門露店が一定間隔で並んでいる。中には武器の代わりに魔法媒体になるものや付加効果付きの魔法具などもたくさんあったが、既にアクセサリー過多になりつつあるわたしは全く気がそそられない。
わたしの装備しているアクセサリーは全てドロップアイテムだからたまには個人的にセレクトしたオシャレ用のものを買ってもいいかなとは思うものの、やはり現時点装備しているアクセサリーの効果が強力なために外すにも躊躇うのもあり、それならポーションなどの有用な消耗品にお金を使いたいと考えるせいで、結局のところ見送るのがいつものパターンなのだった。
さて、いよいよもってこの時がやってきた。
念願の転職である。
というものの、実はつい先日、修正アップデートにより中央他東西南北の街で二次転職を行うことが出来る転職神殿が建てられるようになったのである。
かなりの人が北に流れた今日、今更感が拭えないもののわたしにとってはかなりの好都合だった。
なにせ、前までは北の街だけでしか転職出来なかったわけだからね。
その理由としては多分、あまりも北の街にのみ人口が一極集中しすぎたのが原因だろう。
北がフィールドモンスター、ボスモンスター揃って攻略が最も安易であるため仕方のないことではあるが、流石に未だ南でも両手で数えられるくらいしかプレイヤーを見たことがないのは偏りすぎているように感じる。
ボスもそこまで強くないと思うのだが、そんなに苦労するものなのだろうか。
神殿は真っ白で全体的に白亜で構成されているようで、その雰囲気は外面からも中世西洋を思わせられる。
いつもより弾んだ心持ちで中に足を踏み入れると、世界蛇の居た如何にも神殿と言った神秘的な様子はなく、並ぶ長椅子と中央のレッドカーペットから日本にもあるような宗教の教会のごとき雰囲気を醸し出していた。
「よくお越しいただきました。本日はどのような御用向きで?」
レッドカーペットの先から話しかけてきたのは、神官らしき青年。いや、何処からどう見ても神官だった。
「ここで転職出来ると聞いたんだけど」
「ええ、ええ。貴女が神の下に御心を捧げ続ける限り、神は貴女の進むべき指針を指し示してくれることでしょう」
全く噛み合わない会話。かろうじて解釈してみる……ようするに「転職先は決まってるけど、いつ何時でも出来るよ!」ってことかな?
下手したら勘違いで間違えたと思ったプレイヤーが帰ってしまいそうなものだが……早速修正点じゃない? これ。
「じゃあ転職したい」
「了承しました。では、この水晶玉に手を翳していただけますか?」
依然ニコニコとした態度を崩さない青年に言われるがまま、突然差し出された水晶玉へと両掌を向ける。本当にこんなので確認出来るのかなぁ、と思っていると、突然水晶玉が光り出した。
ぼけっとその様子を眺めているが、わたしには何が起きているのかさっぱり分からない。逆に神官は水晶玉を覗き込み、ふむふむと納得するように頷いていた。いや、1人で納得されてもわたしには何のことやらなんだけど?
ひとしきり確認を終えたらしい神官が、今度は神官ローブの裏に手を突っ込み何処からともなく一枚の紙を取り出し、説明もないまま掌を紙へとあてがいだした。
神だけに紙……駄目だ、笑えない。
って、わたし放置?
とか思っていたが、そうではなかったようだ。すっかりやりきったとばかりに微笑む神官は、呆然と立ち尽くすわたしへと先程の紙を差し出してきた。
「その紙には主神の示す標が顕れていることでしょう。紙に書かれている指針の文字を選び触れることで、あなたはその道に進むことを決定づけられます。取り決め故、我々は確認することが出来ないので、情報漏れに関しても御安心を」
いや、さっきがっつり見てたような気がするけど? じゃあさっきの水晶玉は何だったの?
まあどっちみち神官はNPC……わざわざプレイヤーに拡散させることはないだろう。そもそもジョブがバレることはそこまで問題だとも思わない。
その後いくつか説明を受け、時には便宜上神の教示という名の神話を交えながらもようやく話が終わった。誰だ、神話と銘打って運営メンバーのラブコメをプログラムした奴は。
「ありがとうございます」
恭しく頭を下げそのまま神殿を出る。ここが南の街だからか他のプレイヤーは居ないが、建物の中での教会風の通路は結構狭いので、もし街の住民が立ち寄ることがあるのならば邪魔になるため、中でジョブを確認することはしない。
なお、紙を受け取れば後はいつでも何処でも紙に書かれたジョブを選んで転職出来るようなのでこのまま出て行っても問題ない。
中央広場まで戻ってきたわたしはベンチに腰掛け、早速紙を広げた。
ジョブ解放条件はばらつきがあり、中には超変則的で変態的なものもあるらしいので、選択出来るジョブの数は一定ではないようだ。大体の人は2つから3つ、希に4つもの転職先が示される人も居るとのこと。
さて、本題のわたしが選択出来るジョブの数。驚くことに、なんと6つもあったのである。
正直6つあったところで1つ選択してしまえば変えることも出来ないのであまり意味はないのだが、その分選べる幅が増えるので、素直に嬉しい。
わたしが選べたジョブは無魔導士、風魔導士、付術士、闘士、侍、妖刀使いの6つ。
正直、かなり迷う。
無魔導士は無属性特化のメイジの基本派生二次職で、風魔導士も同上。付術士は元々【風魔法】を進化させたことにより発現した【付加術:風】を持っていたことで現れたようで、付与術特化の上級派生二次職となっている。これらは全て、レベルアップによる隠しステータス補正もINTなどの魔法方面に伸びやすいのが特徴だ。これらはどれもわたしにとっては利が大きいので、迷うところ。強いていえば、上級派生二次職である付術士が最有力候補かな。基本と上級にはステータス補正の違いはないものの、新たに覚えられる技能は上級の方が多くなるらしい。その分、転職条件が厳しくなるわけだけど。
一方、闘士は2つの武術系技能を所持していたら現れる基本派生二次職で、侍も言うまでもなく【一刀流】を持っていたことで現れた基本派生二次職。どちらもSTR特化とわたしの求めるところではないので、選ぶつもりは毛頭ない。
最後に残った妖刀使い……これには、わたしも目が釘付けにならざるを得なかった。発現条件が使用率の高さで刀が最も高い、ステ振りはINTが最も高い、魔法スキルを1つレベルMAXにしていることが必要などと明らかにお巫山戯としか思えないもの。自分で言うのもなんだけど、この条件満たすのって相当変態だと思うんだよね……。
後からとってつけられたようにしか見えないジョブではあるが、これは特殊派生二次職。特殊派生二次職というのはさっきの条件よろしく達成にかなり変態的な難易度を誇る
ものばっかりなので、なれる人はほとんど居ない。βテストの時に判明したものですら数個程度らしいので、ある意味上級と比較しても次元が違うと言えるだろう。
妖刀使いの補正はINTが高く、また微妙にではあるがDEXにも補正がかかるようだ。更に新規取得される技能も上級レベルなのでかなり強い。流石特殊と言える。
とまあ、ここまで引きずったからには既に選ぶジョブは誰だって同じものを決めると思われる。というわけで、わたしは一直線で妖刀使いへと見事ジョブチェンジを果たした。
ピロンと音を鳴らしながら、脳内でいつものアナウンスが流れる。
『二次職:妖刀使いへと転職しました』
『【魔力操作】を取得しました』
『【二刀流】を取得しました。【一刀流】を統合します』
『【魔刃】を取得しました』
『【刹那】を取得しました』
「きたああぁぁ!!」
やっときた念願の【二刀流】! 今までは同じ武器種は装備出来ないという固定観念を、見事に崩す技能を手に入れてしまったことに、喜びを隠せない。
嬉しさからか、つい飛び跳ねてしまった。そのおかげで住民達からは訝しげな視線を向けられた。
我に返ったわたしは、そそくさとその場を退散することに。ここまではっきりと喜びを表現するのはいつぶりだろうか。現実でも最近は喜ぶことはなかったな……きっとテストがあったからだな、そうに違いない。
人通りの少なくなった道へと退避したところで、早速ステータスを確認。案の定、技能が4つ増えていた。今の内に内容を確認してみよう。
最初は【魔力操作】。これは存在する魔法の形をある程度成型することが出来るというもの。前から出来たんじゃ、と思う人も居るかもしれないけど、今まで出来たのはあくまで魔法を発動することだけ。【風刃】といえば、その時点で形は既に決まっているのである。けどこのスキルがあれば、ある程度形を変えることが出来るようになるとのこと。刀装備なので魔導士などの完全魔法職の人と比べると威力は劣るものの、そこそこ魔法技能のレベルが高いわたしには有用だな。これは上げても損はないか。
次の【二刀流】は言うまでもない。刀を両手にそれぞれ1本ずつ装備出来るようになる上に両手装備で補正が変化するという文字通り二刀流に憧れていたわたしには願ってもみない技能。更に【一刀流】も統合されているので、今まで通りでもやっていけるという優秀さ。今回手に入れたもので一番嬉しい。
【魔刃】は発動することで一定時間魔力の刃を出すことでリーチを少しだけ伸ばすことが出来るという名前の割に結構ぱっとしないものだが、わたしが使う刀は片手で振る前提のものなので、元々のリーチはそこまで長くなかったために地味に有用だったりする。【二刀流】とかなり相性良いね。
ただ最後の【刹那】がなぁ……大まかに言うなら優秀なんだけどめっちゃ使い所が難しいんだよね。効果は至ってシンプル。『HPが0になる攻撃を受けた時、タイミング良く発動することにより敵の攻撃を透過し、かつ次の自身の攻撃が必中になる』という発動さえ出来たらとんでもない効果。いわゆるカウンターである。
けどこれ……いや、はっきり言って使う時が一生来る気がしない。だってこれ、HPが0になる攻撃かどうかを見極めないといけないってことだよね? しかもこのタイミングって、受けた時って書いてるし……となると攻撃を受けてかつHPが0になる直前にってことかな……HPバーの減少速度はかなり速いので、時間で換算するなら0.1秒にも満たない間に合わせる必要がある。難しすぎるにも程があるんじゃないかこれは。
「まあ……最後のは兎に角、それ以外は優秀だからいいか」
それでもしっかり練習するけどね?
ホクホク顔で満足したわたしは早速試しに一狩り行くため門へと歩き出す。
その後、グストさんへの連絡を思い出すのは狩りを始めて少し経った頃だった。




