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魔法職の双刀使い  作者: 香月 燈火
Episode2 封印の遺跡と魔獣の秘密(第一回イベント)
19/32

19. 囚われの蛇

いつもギリギリだなこいつ

 端から端までとは言わないものの、見たことのないくらいに巨大な蛇が、動く様子もなく横たわっている。

 蛇に横たわるって表現があってるかは分からないけど。

 そんなヨルムンガンドのHPバーは、ほぼ真っ黒でもはやすぐに倒せそうだ。



「それにしてもこれ、どうすれば……?」



 この傷は恐らく、書物にも書いていた勇者がつけた傷だろう……いや、普通に死にそうなんだけど? これ、わざわざ封印する必要あったの?

 しかもこの時点でレベル285って、色々とゲームとしてバランスブレイクしちゃってるような気がする。これだけレベル差があったら、残HPがこれだけでもわたしの最大HPより多そうだ……いや、多分多い。

 もはやハイクロにバランスなんて求めてはいけないのかもしれない。



 ……倒して経験値にならないかな?



 と思って刀を返すと、ヨルムンガンドの身体が分かりやすくビクリと身体を震わせた。同時に、部屋全体が大地震に見舞われたのかと思うくらいに揺れた。



「うわっ!?」



 突然の揺れに危うくバランスを崩しかけたが、ステータス補正により何とか持ちこたえる。ただの身震いでこれじゃ、どう足掻いても倒せないような……ってか、蛇って音で反応出来ないんじゃ……ゲームだから良いのかな?

 それよりも、高レベルの伝説の魔獣が刀一本の音で反応しないで欲しい。



「……あれ?」



 わたしは改めてヨルムンガンドを見て……あることに気付いた。

 この蛇、HPはあるし、一見してボスっぽいけれど、エネミーならあるはずの()()()()がない。

 ということはつまり……。



「エネミーじゃなくて、NPC?」



 実はこのゲーム、名前の横に小さくアイコンがあったりする。そのアイコンで敵かどうかが判断出来るんだけど、如何せんアイコンは分かりづらいから、一見しただけではNPCなのか敵性モンスターなのかが判別しづらい。

 ただ、敵性反応というのは固定というわけではない。初めは無害なNPCでも、場合によればたちまち敵になることもある。βテストでは、ギルドの職員NPCに手を出して、ギルド全体を敵に回したというプレイヤーが居たらしい。



ギルド全体を敵に回すって、一体どんなことをやったんだろう……。



 多分運営は、ここでプレイヤーがヨルムンガンドに飛びかかって返り討ちに遭うことを想定していたような気がする。

 しかも敵性反応がないNPCを倒しても経験値が入らないという仕組みなので、倒したところで何にも起きないという救えない結果になる。まあ、経験値が入らないのは積極的なNPC狩りが発生しないようにってことなんだろうね。

 相変わらず、運営は性格が悪い。ここで高らかに叫んだら悪質行為として厳重注意処分とかになるだろうか。



 でも、ヨルムンガンドが今は、ではあるけど敵ではないのには安心だった。いくら瀕死とはいえ、ちょっと身体を動かされただけで今のわたしじゃ一瞬で強制送還を受けそうだし……むしろ、永遠に倒せる気すらしない。



 ……触っても大丈夫なのかな?



「えっと……近寄っても大丈夫?」



 何も反応を見せない。いや、むしろ動かないでいてくれるのは助かるんだけどね。ちょっと動かれただけでわたし自身がまともに立てなくなっちゃうし。けど、反応がないとどうすればいいのか分からなくなる。

 ちょっとくらいならいいよね?



 恐々とした足取りでヨルムンガンドの巨体に近付き白銀色の鱗へと触れると、ひんやりとした感触が掌へと伝わってくる。こういった感触もリアルに表現されているところがこのゲームの最大の特徴と言ってもいいとわたしは思う。痛覚はほとんど感じないのに触れた感触や物の温度さえも感じ取れるのだから、この細かい仕組みには驚嘆せざるを得ない。

 運営の器用さが如実に現れてるけど、よくこんなこと出来るよね……。



 触れてみても、特に如何ともする気配はない。そのまま鱗を撫でてみる。



『おお、人の仔よ……』



 すると、何処からともなく直接頭に響くような声が聴こえてきた。何故声なのかが分かったのかというと、とにかくなんとなくとしか言えない。でもはっきりと、これはアナウンスとかではなく、声であることは分かる。



 もしや、これがテレパシー?



『そこな人の仔……我に、我に契約の儀を……』



 契約の儀……?

 と突然の声に首を傾げていると、毎度おなじみゲームのシステム音が脳裏に響いてきた。



『シークレットクエスト【傷だらけの世界蛇】が発生しました。受諾しますか?』



 やって参りました、クエストのお時間です。しかも今回はシークレットクエストとな。前は強制だったけど、今回は違うみたいで、拒否することも出来る。まあ、折角のシークレットクエストだし受けてみることにしよう。クエスト内容は分からないけど、今回はボス戦とかはなさそうだしね。



 頭の中で念じて、わたしははいを選択する。



『我が元に秘薬を……頼む……』



 またもシステム音。



『技能を獲得しました』



「えっ?」



 まさか、シークレットクエストとはいえ、受けるだけで技能を獲得出来るなんて。しかも、この獲得には技能ポイントが必要ないらしい。早速どんな技能なのかを確認してみると、名前は【特定転移:封印の間】とあった。

 ……うん、もう内容が分かっちゃった。



 スキル効果を見てみるとやはりというか、予想通り元居た場所と今居るこの部屋の間だけ自由にワープすることが出来るというものだった。

 ただ、戦闘中には使えないらしいので、危険になったら退避、なんて出来ないようになっている。

 完全に、このクエスト専用スキルだねこれ……。



「それに、クエスト内容がちょっと面倒くさそうだなぁ」



 クエストの内容は、受けた後であれば確認することが出来る。その内容は月光草1つ、血染熊の牙1つ、鋭鷹の鉤爪1つ、白狼の剛毛1つ……うん、牙以外さっぱり分からん!

 牙は既に持っていたり……というか、南フィールドのボス、ブラッディグリズリーの素材だったりする。初心者の街周辺のボスとはいえ、ボス素材が必要なんて、やっぱりシークレットクエストはその場の難易度としてはおかしい。

 いくらなんでもこの素材だけが面倒なんてことはないだろうし、多分他の3つも同じくらいの素材……もしかして、ボスの素材なのかもしれない。

 ボス戦じゃないからパーティを組んで挑戦は出来るけど、実質ボス戦を4回しないといけないってちょっときつくない? そもそもわたし、パーティ組んでもあんまりメリットないし、そもそもクエストの内容を明かしたくない現状でパーティを組むなんてことは論外。



 結局ソロか……まあまだボスと決まった訳でもないし、戻ったらカレンさんにでも聞いてみよう。

 それよりも、どうやってここから出よう



「貴方は、ここから出る方法知らない?」



 依然動かぬ蛇へと尋ねてみる。封印されてる蛇がまさか知ってるとは思わないけど、一応聞いてみた。



『技能を……使え……』



 ……しっかり教えてくれました。おかしいな、封印されたって聞いたからこの蛇、悪い奴なんじゃって思ってたけど、意外と親切なんだけど?

 でも技能、技能かぁ……ここから抜け出せる技能なんてあったっけ……って、まさか。



「さっき手に入れた技能のこと?」

『……』



 だんまりである。ちょっとメタいことは言えなかったりするのかな?

 さっきのというのはずばり【特定転移:封印の間】のことで、むしろこれ以外に出られそうな技能はひとつもない。

 けど否定しなかったから間違いではないような気がする。試しに使ってみようか。



「【特定転移:封印の間】」



 技能なので、封印の間に居るのに封印の間に転移しているような感じが否めない。

 技能を発動させた瞬間、転移魔法陣のような歪みではなく、シュッと一瞬で景色が変わった。転移魔法陣も、こんな感じならいいのに……。



「けど、ちゃんと戻ってこれて良かったかな」



 戻ってきた場所は遺跡に飛ばさ

れる前、最後に居た石碑の前。いつの間にか、倒したはずの石碑は元の位置に戻っていた。

 もしかしたらあの水晶のあった部屋に飛ばされるんじゃとか思ったけど、そんなことはなかったようで一安心。

 それにしても、あの遺跡がとんでもなく面倒だったせいで酷く疲れた。もう時間も時間だし、今日は落ちて、明日から色んなところに行ってみることにしよう。

 家のお手伝いだってしないといけないし。



 精神的に疲れが溜まっていたわたしは、とぼとぼとした足取りで帰途につく。時折現れた魔物からは全速力で逃げながらもサウストへと戻って来ると、そのままログアウトした。

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