17. 付加術のすすめ
これから毎日空いた時間に2話+α書き続ける生活が続きます(毎日更新とは言っていない)
止まるんじゃねえぞ…(自己暗示)
『メタルクロウラー Lv18』
「【風烈陣】」
相変わらずの気持ち悪い鳴き声を出しながら、魔法を受けた鈍色のボディを持つ巨大イモムシが沈む。それと同時に鳴り響く、間抜けなレベルアップの音。
「これでようやく【風魔法】のレベルが10! 」
しかも情報通り、魔法技能のレベルは10が上限値のようで、【風魔法】の技能が更に上位派生出来るようになっていた。派生先はなんと3つで、どれかひとつを選ぶことが出来るようだ。
「【暴風魔法】と【風衝魔法】と【付加術:風】……?」
見るだけではちょっとよく分からなかったので、説明を開いて見てみる。
まず、【暴風魔法】以外はレベルのカンスト以外にも何か条件があるみたい。例えば【風衝魔法】とかは『無属性魔法系統技能のレベルが10以上』だったり、【付加術:風】は『武術技能が10以上』だったりと、ノーヒントで探さないといけない。これ以外にも大量にあるんだろうから、全部見つけるとなるとかなり苦労するのは違いないね。
ハイクロのサービスが開始されてはや5日、ちらほらとボスを倒して北の街に行けるようなった人が増えているようで、始まりの街セントラから徐々に人が減ってきている。第二陣が参入してくるのもまだ先のようなので、まだまだ減り続けるだろう。
一方、今わたしが居るのは南の街サウストの西門から行けるクルールエ樹海というフィールド。
どうやら、最初の街の周辺にあるマップ以外には固有名詞もついているようで、敵の強さや特殊性かなり増していた。今倒したメタルクロウラーなんかは、西の森でも居たクロウラーの全身を金属にしたバージョンで、また吐き出す糸も金属と来た。射出の速度も上がっていたので、わたしも気を抜いたら即落ち4コマ状態になる。
北の街にはあれだけ人が流れているのに、南にはまだグストさん達一行とロウさんしか来れていない。ちなみにロウさんはわたしがボスを倒したあの時、パーティメンバーではあったものの、ボスフィールドにはわたししか居なかったため、倒したことにはなっていなかった。
流石に不憫だったので、その次の日……昨日にやっと取ることが出来たカレンさんから頼まれていた依頼の素材、ファレーナのレアドロップを納品した後、ロウさんやグストさんも連れて、もう一度あの熊には犠牲になってもらった。
瞬殺だったのはいいものの、グストさんにまでドン引きされてしまった……解せぬ。
ああ、それとあのルナちゃんのクエストだけど、あのボスを倒した直後クリアになってたので、多分あの魔物の群れの中を突っ込んで、ボスを倒すことがクエスト条件だったんだとわたしは思ってる。グストさんくらいの攻略組パーティでもあれだけの魔物をつっきれなかったのに、更に満身創痍の状態でボスに挑めって難易度調整ミスってない?
あれで星4ってちょっと想像出来ないんだけど……。
さて、今のわたしのレベルは19。ジョブチェンジまで、あと1というところまで来た。グストさんや攻略組の人達も含めて、結構な人が既にジョブチェンジを済ませ、二次職になっている。そう考えると、わたしって結構遅いんだよね……。
「あーあ、早くジョブチェンジしたいなっ……と、よし、【付加術:風】にしよう」
今まで戦って気付いたけど、わたしの戦闘スタイルじゃ魔法を使う暇がないから、取ってもあんまり意味ないんだよね。それに【付加術:風】って、多分バフ的なものだと思うし。そう考えたら、わたしに一番ぴったりなのがこれだと思うんだ。
「じゃあ早速試し……ん?」
エンカウントを求めて街道を進もうと思っていたら、不意にダイレクトが届いた。
「レイクみたいだけど、どうしたのかな」
ゲームの中でレイクからダイレクトが来るのは、実はかなり珍しかったりする。なまじゲーム限定で集中力が高すぎるせいで、こっちから呼びかけても反応せずに、黙々と作業を続ける程。
それにわたし達とは会おうと思えばリアルで会えるので、そういったリアルの話以外にダイレクトを使うことは少ない。
「てことは多分、リアルの話かな」
ダイレクトを開いて、内容に目を通していく。
「なになに……『夏休みにクラスの打ち上げと、ゲーム内で身内イベントがあるんだけど、来るか?』と」
ゲームばっかりなくせに、レイク……いや、怜って友達本当多いよね。同じクラスなら誰とでも喋るし、別クラスでもかなりの友達が居る。
それに比べてハルハルは休み時間になればいつもゲーム疲れで寝てたりするので、友達はあんまり居ない。わたし? まあ、ぼちぼちは居るよ。ただ、わたしって基本笑うことがないからか、真面目女だと思われてる節があるみたいで、そこまで好かれては居ない。まあ、嫌われてもいないので、特に問題はない。
打ち上げは兎も角として、身内イベントってのは……攻略組の人達とってことかな? けどわたし、攻略組でもないしなあ……。
「あんまり気は乗らないけど、気分転換に行ってみようかな」
ひとまず『予定が空いたら多分行く。でもわたし、攻略組じゃないんだけど』とだけ返して、メッセージ欄を閉じた。
「今は、早くジョブチェンジしないと」
わたしは改めて奮起しなおし、フィールドの奥に進むべく、一歩踏み出し……。
「いっ!?」
つま先を、何か硬いものにぶつけるのだった。ゲームの中のポリゴン体であるから別に痛くはないんだけど、やっぱ小指をぶつける感覚は心持ちだが痛みを感じる。
「な、何なの……? 石碑?」
足を止めざるを得なくなった元凶を恨みがましく睨みつけてやると、それは明らかに森にはあるはずがないのに、やけに風景に溶け込んでいる不思議で小さな石碑だった。
「文字が書いてる……」
さっきまでのレベリングへの意気込みは何処へやら、興味が一気に石碑へと向いたわたしは、しゃがみ込んで内容を読み込んでいく。
「神より産み出だされし三体が魔獣、フェンリル、ヨルムンガンド、ヘルが一角。水天の魔獣、ヨルムンガンド。ここに封印す……って、なんかやばそうなんだけど」
なんかとんでもないものを見つけたんだけど、こんなものがこんな序盤にあっていいの……?
これはしばらく誰にも言わない方が良さそうだ。言ったら多分、一気に南の街に来ようとかなりの人が必死になるだろう。徐々に来るようならまだしも、一気に来られるのはわたしもちょっと抵抗がある。
カレンさんがまだ最初の街をホームにしてるからわたしも一応ホームは変えてはいないが、昨日からはほとんど南の街に居ることにしている。
理由は相変わらずなことで、服装のせいですごい目立つんだよね……しかも、一昨日グストさんと一緒に南フィールドに居たのが、何故か広まってるみたいだし。
いやまあ、そこまでは正直問題なかったりする。けどね、ボスソロしたのがわたしって何処からバレたの? 絶対あそこに居た誰かだよね……。
「今更だけど、口止めしとけば良かったな……」
あの時かなり疲れていたので、街に戻った途端わたしはすぐにログアウトしていた。そんなもんだから、口止めとかを全くしてなかったんだよねえ。明らかに油断してた自分が悪いんだけど……。
まあ、暫くは南の街に居るつもりだし、沈静化するのを待とう。
あ、そういえば、南の街に来たことをレイク達に言うのを忘れてた。明日でいっか。
「……よし、じゃあレベリングに戻ろう」
そう思い立ち上がろうと触れる石碑から手を離そうとして……誤って、石碑を倒してしまった。
「えっ」
間抜けな声を上げた直後、わたしは何処かで見覚えのある光に全身を包まれた。この光は……ゴーレムを倒した後に乗った、あの魔法陣で転移した時と一緒?
「まさか」
わたしがその場を離れようとするも、もう遅かった。森の中に居たはずが……気付けば、見たこともない遺跡の中に立たされていた。
「帰り道は……うん、ないか」
もしかしたら、あの石碑を倒すことで転移魔法陣が発動したのではないだろうか。そう思い、それなら帰りにも同じことをすればと考えたが、それらしきものは何処にもない。
また一方通行……。
「……過ぎたことは仕方がないか」
それに、今のところシークレットクエストが起きたという訳でもない。まだ、あの時みたいに、ボスと戦う羽目になるとは限らない。それなら、このまま探索してしまおう。
「まあでも、嬉しい誤算……かな?」
よく考えてみれば、遺跡といえば探検。探検と言えば財宝。すなわち、この遺跡にはレアアイテムがあるんじゃないか? そう思うと、段々とやる気がみなぎってくる。
どうせいつか誰かに先に取られるくらいなら、わたしがこの遺跡を探索し尽くしてやる。
上機嫌なわたしは、誰も通ったことのない、未開の遺跡の探索を始めるのだった。
今後、リアルが忙しいので毎日更新は出来なくなりますが、ご了承いただけるとありがたいです。