表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法職の双刀使い  作者: 香月 燈火
Episode1 サービス開始と双刀使い
16/32

16. 双刀の銀閃、月夜に落つる

これで1章最後です。


暫くは書き溜め期間に入るので更新が止まることになります。

理由は色々とありますが、リアルの関係が多いです(グラブルも出来ねえ……)。

 ボス戦フィールドに入った途端、空気が変わった、そんな気がした。

例えるなら、寒い冬に暖かい室内に入った時のあの感じとでも言えば誰だって分かるはず。



 ゴーレムの時は、背筋がぞわっと立つような感覚がした。なら、今目の前で綺麗に倒れた熊はどうか。



「う、うーん……」



 正直言うところ、微妙というか、少なくともゴーレムの時のような全体に気を張り巡らせるような緊張は感じられない。もしや、まともな戦闘に移行する前に突貫して挙句吹き飛ばしてしまったからか?



 熊のHPはまだ、9割残っている。逆に言えば、あの突進一発で1割も削れてしまっていた。あれだけの速度があったとはいえ、相当距離を走ってきて速度が落ちかけていた上に、しっかりわたしに気付いていたのに対処出来なかった熊に、正直負ける気がしない。

 明らかな慢心、油断だけど、やはりカレンさんが言っていた通り、この熊はゴーレムと比べても非常に弱そうに見える。むしろこれなら、グストさん1人でも勝てそうだ。



「いや、試してみないと分からない……かな?」



 どっちみち、ここで負けたらルナちゃんが危ういので、負けてやる気は毛頭ない。確かに負ける気はしないが、油断するつもりもない。全力で当たるつもりだ。



 故に、わたしは奥の手を出した……右手に刀、左手に杖のいつものスタイル。だけど、今日はそれだけで終わらせるつもりはない。



「悪いけど、すぐにやらせてもらうよ」



 わたしは熊を見据えながら、改めて呟く。



「解除」



 そう呟いた途端、杖の杖である部分が外れ……中から刀身が現れた。これが、わたしの切り札であり、システムの裏をかいた裏技でもあった。

 右手に刀、左手に刀という、本来ならまずシステム上有り得ない組み合わせ。しかしわたしは、とある方法をカレンさんに提案してみた。



「さて……わたしの新しい武器。杖に仕込まれた刀の斬れ味を試させてもらうね」



 今、ここに怜が居れば「背丈にあるまじき邪悪な笑顔。まるで、猛獣だな」なんて言ってきていたかもしれない。まず、そんなことを言ったら間違いなく殴ってた。



 カレンさんに新たに作ってもらった武器。それは仕込み刀だった。何のこともない、杖に刀が仕込まれているだけの武器。ただ、武器のジャンルで言うならば【杖】なので、実際は二刀流でもないし、隠し効果的にも刀と杖の相乗効果が乗ったままなのは前にカレンさんに確認してもらった。



 わたしがやりたかった最高の組み合わせ、二刀流。その初めては、是非この哀れな南のフィールドボスに味わってもらおうと思う。



「トン、トン……」



 足元でリズムを取り、さっきよりも手加減した【マナショック】で一気に駆け出す。これもつい先日知ったのだが、【マナショック】は自分の意思で強さを調節することが出来るようだ。どれだけの距離を走ればいいのか分からなかったのでさっきは加減をしなかったからあんなことになったけど、今回は流石に加減してある。あの熊の毛、ごわごわしてるからあんまりあのタックルを繰り返してやりたくないんだよね。



 熊は負けじとわたしに攻撃しようと何度も殴つけたりしてくるが、全く当たることもなく、またわたしの方も楽々と避けていた。

 やはり、この熊には負ける気がしない。あのゴーレムはあんな理不尽だったのに、どうしてこの熊はこんなに弱いのか。



 多分、この辺りはまだチュートリアルとして考えられているからだと思ってる。あのゴーレムこそが、れっきとしたボス。まだ最初の街を拠点にしている人は、フィールドボスを倒すことでようやくチュートリアルクリアなんだと、そう考えた。この認識がズレてるのは後々知ることになったけど。



 熊の腕が近付いてくるのをギリギリまで引き寄せ、紙一重で回避し、すれ違いざまに腕に斬りかかる。



「【マナショック】」



 舞うように回る剣閃が、熊の腕を弾き返す。後ろに跳んで、再び回転しながら今度は逆の腕に斬りかかった。



「【マナショック】」



 わずかな時間だったこの間、わたしの身体は左右に揺れる。これで、この熊は数秒腕を使えない。

 今なら、がら空きになった胴体を簡単に狙うことが出来る。



「【マナショック】からの【烈斬】」



 依然、威力の高くなった【マナショック】の反動でスピンし、【烈斬】により更に一撃を強化する。

 わたしは始め、【烈斬】を【マナショック】の斬撃版だと思っていた。けど違った。

 【マナショック】にはスキルを発動した際のエフェクトが存在しないのに、【烈斬】には刀が銀色の光を帯びるようなエフェクトがかかるのである。

 この違いは何か……それにはすぐに気付くことが出来た。スキルを発動するたびに単発式になっている【マナショック】とは違い、【烈斬】の方は効果時限式であることがすぐに分かった。

 効果時間は1秒。たったの1秒だけど、わたしにとってはされど1秒。



 だって、1秒あれば3回転は出来るのだから。3発の【烈斬】を胴体に喰らった熊は、HPを5割まで削ったところで、苦悶で唸りながらもめちゃくちゃに腕を振り回し始めた。



「おっと」



 動きの読みにくくなった攻撃に、慌てて後に下がる。

 無理矢理振り回された腕の一撃を食らえば、わたしのHPは瞬く間に真っ黒になる。幸い、わたしのAGIはレベル以上に大分高いものになっているんじゃないかと思う。装備の効果や、隠し効果のおかげだったりと、色々恵まれた結果があるからこそ、わたしは熊相手でもそこそこ上手く立ち回れていた。

 もし初期装備だったら、今頃転がされていたのはわたしの方だったはず。



「このボスも残りHPで変わるタイプかな」



 ごわごわだった真っ赤な全身毛皮を逆立たせる熊を見て、仕込み刀を杖に戻す。理由は、なんとなくあの毛皮が硬そうだなーとかそんなことを思ったからだ。



 まあ、【マナショック】を使えばそこそこ威力は落ちるものの、外面的な硬さなんてそう問題はないんだけどね。



「グアア!!」

「人を待たせてるから、早く終わらせさせてもらうよ!」



 やけに刺々しくなった見た目の熊に、改めて突っ込んでいく。さっきまでと変わらない攻撃方法で繰り返す熊に、わたしはこの熊の変化は見た目と恐らく防御力のみだろうと判断した。ためしに所々で斬りかかってみるが、やはり毛皮が硬くなっているらしく、技能を使わないと全く攻撃が通らなかった。



「それにしても……」



 【マナショック】のチート具合。防御力無視とはいかないものの、硬い敵相手にもかなりのダメージソースになる物理攻撃って正直やばすぎる。まあ、わたしみたいにINT振りにする人なんて居るかどうかだけど……。



「あと残り3割……行けるか」



 熊の動きがそこまで素早くないとはいえ、これだけ大きいと反動を流しながら攻撃を避けるのが難しい。幸いにも、今は背後に回って即座に【マナショック】、そして一度退避という、ヒットアンドアウェイ戦法で徐々に削れてはいるものの、いつかボロを出してしまうかもしれない。



「ルナちゃんも心配だし」



 先に突っ走って、置いてきてしまった仲間達とNPCの女の子。今頃、魔物の群れの中を突っ走って来ている頃だろう。心配だ。



「ごめんね、熊さん。わたし、心配だから」



 わたしは柔らかい土に鞘を立てるように刺して、



「一撃で終わらせさせてもらうね」



 助走をつけ、鞘を足場に見立てて、跳び上がる際に【マナショック】で高度を稼ぎながら、空高くへと飛び上がった。カメレオンの時よりも高い。熊の後ろに回ってから跳んだために、わたしが今空に居ることすら熊は気付いて居ないだろう。

 丁度敵の真上に飛び上がるのがかなり難しくて、正直成功率もそこまで高くないのだが、今回はうまく行ったようで真下に目標(ターゲット)が見えた。



 反動によって、さながらチェーンソーの如き空中縦回転の態勢で落下を始める。

 熊はその場を動く様子がなく、辺りをキョロキョロと見回している。



「【烈……」



 ゲーム内時間では今は完全に夜。わたしの刀に宿る銀色のエフェクトが、月明かりによってより際立っていた。



 「……斬】」



 熊に命中する直前、完璧に発動された技能は、その巨体を完全に貫いた。

 絶命の声すら上げるまもなく、熊のHPゲージは瞬く間に消滅し……アナウンスが始まった。



『お知らせします。南のフィールドボスがソロ討伐されました。これにより、南の街サウセルへと到達するプレイヤーが現れました』

『プレイヤーがMVPに選ばれたため、MVP報酬が渡されます』



 同時に、レベルアップの機械音も鳴り響く。

 アナウンスを聴いたわたしは、はぁと溜め息を吐いた。



「ソロで倒したことも知らせるなら、前もって教えて欲しかったな……」



 マップに、いくつかのプレイヤーと1つのNPCのマーカーがすぐそこまで近付いて来ているのを確認すると、再度溜め息を吐くのだった。

名前:シエル Lv18

職業:メイジ(1次職)

スキル:【一刀流Lv14】【風魔法Lv2】【杖術Lv9】【マナショックSP Lv5】【烈斬-】

装備:龍刀ミカヅキ、平原の巫女の白蒼小袖と千早、平原の巫女の蒼袴、平原の巫女の草履、平原の巫女の花簪





内容がやけにあっさりとしてるのは、あくまで1章は話の導入と考えているからです(面倒臭いとかはないです)。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ