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魔法職の双刀使い  作者: 香月 燈火
Episode1 サービス開始と双刀使い
15/32

15. 魔物包囲網突破作戦

( ゜д゜)ハッ!(少し遅れた)

 南門を潜った先に広がっていたのは、西とは全く異なる荒野の風景でした。

 西ではウルフが特に多く出てたけど、こっちの方はどんな敵が出るんだろう。と、後ろを歩くロウさんとルナちゃんを尻目に見つつ、警戒にあたるわたし。平原だと見渡しやすかったからすぐに対処出来るものの、荒野はところどころに身を隠せるくらいの岩山があるから細心の注意を払わないと。



「お姉ちゃん!」



 とか言ってるうちに、目の前でモンスターがポップしてきたようで、ルナちゃんから怯えるような声が飛んできた。ポップを直で見たのは、初めてウルフと戦った時とこれで2回目か。現れたのはカメレオンみたいな魔物……まさか、透明になったりはしないよね?



「2人とも、ちょっと離れてて」

「はい。お役に立てず済みません……」



 いや、別に足出まといだって思ってるわけじゃないよ? むしろ、ルナちゃんの護衛が居るってだけで敵に集中出来るわけだし。兎に角、邪魔だとは思ってないから、そんな申し訳なさそうな顔はしなくてもいいんだよ。



 さて、敵のレベルは……。



『カメレオン Lv5』



「いくらなんでもひねらなさすぎじゃない?」



 自分で自分の反応にデジャヴを感じつつも、そう口にせざるを得なかった。

 これはネーミングセンスの問題じゃないね。まあ、分かりやすいからいいんだけど。

 レベルは5。まあ、西でも平原のウルフが3だったから、妥当っちゃ妥当か。今のわたしなら問題なく倒せそうかな?

 ただ、もしかしたら何か危険な攻撃があるかもしれないから決して油断だけはしないようにしよう。



「では、お手並み拝見というわけで、行かせていただきます!」



 鞘を反らして、さっと刀を抜く。今回は、いつもの刀と杖のスタイルじゃなく、刀のみでやってみよう。



 まあ、使うのは刀だけじゃないんだけどね。



「ギュエエ!」



 甲高い鳴き声を上げながら、一直線に舌を伸ばしてくるカメレオン。その攻撃を軽く横跳びに回避すると、この隙に一気に距離を詰めるようと駆け出すも、今度は伸びっぱなしの舌を薙ぎ払うように振るってきた。



「残念だけど、当たらないよ……【マナショック】っと!」



 左手に持ったままの鞘を【マナショック】を使いながら地面に強く立てると、強い衝撃によってわたしの身体は高く宙に投げ出された。これがわたしが考えた砲台式ハイジャンプ……そして、もちろんこれだけじゃない。



 岩山群よりも高く跳び上がったわたしの身体に、更なる衝撃……反動がかかってくる。この反動の流し方をいつもと変えてみた。いつもは出来るだけ隙をなくすために斜めに身体を逸らして回転を少なくさせていたけど、今回は綺麗な前回転で反動を流すことで、逆に回転速度を上げた。



「……【突風(ウィンド)】!」



 そこから更に、風の魔法で回転の速度をあげた。もはや人間のこぎりを名乗っても何ら問題はないはず。名乗るかは別問題だけど。



 何がしたいのかと? 今、私はピッタリ敵の真上に居ます。刀、持ってます。回転してます。ここから導き出されることは……。



「【烈斬】!」



 解、回転の力プラスフリーフォールによる自重落下の勢いで技能の力を底上げして敵を真っ二つにする、でした。真っ二つどころか、とんでもない威力のせいでポリゴン爆散の前に風圧で弾け飛んでしまった。明らかなオーバーキルだった。リアルだったら内蔵ぶちまけの大惨事である。



 まあ、着地のこと考えてなかったせいで、そのままわたしも地面に激突したんだけどね。おかげで、HPバーが半分も減ってしまっていた。HPの減少理由が敵の攻撃じゃなくて自爆だなんて、誰が聞いても笑うだろう。

 【烈斬】の方は反動の衝撃がない代わりに、発動後1秒だけ全く動けなくなるから、今の方法だと着地が出来ないんだよね。たった1秒? って思うかもしれないけど、実際に戦ってみたら1秒でやれることが多すぎる。特にあれだけ近付いてたら、ウルフ辺りにも対処されるだろうね。

 まあ、今みたいにワンパンしちゃえば問題はないから、正直問題って程でもないので、特に気にすることなくいこう。



「ふぅ……」

「一撃ですか……」

「ふわあ……」



 何の気もなしに定期的にカレンさんに素材を売り続けたことにより、そこそこ暖かくなっている懐のおかげで結構な量買い込んだポーションを飲みながら普通に戻ってきたわたしに、ロウさんは若干引き攣るような笑みを見せ、ルナちゃんは何があったのかはよく分かっていないけれど、なんか凄そうと思っていそうな顔をしていた。ルナちゃんのはあくまで予想だよ?



「ま、レベル差なんて何にでもなるよ」

「なりませんよ。システムの壁ってもんがありまして」

「物理法則ってシステムの壁をも突き破るんだ。やっぱり化学って凄いね」

「いや、相乗効果はあっても普通はあそこまで一方的にはなりませんって。それと、物理と化学は違いますから」



 細かいところを気にしてばっかだと、わたしよりもっと面倒臭い人と関わり合う時に疲れちゃうよ? 主に悠とかハルハルとか。



「さ、早く行こうか。ね? ルナちゃん」

「うん!」

「……シエルさんって、本当に何者なんでしょう?」



 しがないただの1プレイヤーです。



 それから何度か襲撃を受け、それらを全て悉く華麗に薙ぎ倒して(まっぷたつにして)行きながらようやく次のエリアであり、目的地の山エリアへと到達する。

 さっきまでの荒れ果てた荒野とは違って、麓には森が広がっていた。西の森は如何にもじめじめしてそうで(まもの)も大量に出てきたけど、こっちはむしろ清々しくて動物が出てきそうな雰囲気がする。あくまで雰囲気だけど。そもそも、まだ魔物にすら出会えていない。



 とか噂をすれば、複数の魔物の鳴き声が聴こえてきた。あらゆる足音が、わたし達の居る場所へと近付いてきている。



「何か様子がおかしいみたいですね……いや、これはまさか?」



 ロウさんがぶつぶつと呟きながら、何もない宙を呆然と見ていた。いや、これはもしかして、メニュー画面を見てるのかな? それとももしや……。



「……プレイヤー?」



 何を見てるのかに気付き、すぐにマップを開くと、青いマーカーが近付いてきていることに気付いた。



「あ、僕、このシチュエーション、小説とかでよく見たことありますよ」

「奇遇だね。わたしもなんだよね」

「お、お姉ちゃん……?」



 怪訝な顔で尋ねるルナちゃんに、わたしはどう返すべきか迷った。

 ご丁寧なことで、プレイヤーを示すマーカーは足音(地鳴り)の聴こえてくる方向から来ていると来たもんで、もはや今考えていることは確定的と言ってもいい。ロウさんも同様に考えているようで、表情なんて一周まわって戦慄が全面的に表れていて、ちょっと面白い。



 とはいえ、このまま待っているわけにもいかない。



「さ、ルナちゃん。逃げるよ」

「逃げるって……どうやってですか?」

「どうやってって……え?」

「な、いつの間にこんなに?」



 いざこのエリアから逃走しようと図っていると、ルナちゃんが突拍子もないことを聞かれたもんだから、ちょっと固まってしまった。

 その時だった、すたこらさっさと踵を返そうと後ろを振り向いたらいつの間にか現れた大量の魔物が立ち塞がっていたのは。



 さて、どうしようか。と思案に暮れていると、



「お、お前らぁぁぁぁ!? ここは危ねぇから早く逃げろぉぉぉぉ!!」

「うわっ!? 何!?」



 木々をかき分けて、4人程のプレイヤーが全速力で飛び込んできた。

 今叫んでいるのは、その中でも先頭を走る厳つい男。あれ? でもどっかで見たことがあるような……あ。



「グストさん?」



 一番最初にフレンドになったっきり、名前すらも死蔵していたあの攻略組、グストさんだった。その本人も、わたしのことを思い出したのか、何度も目を瞬かせて丁度目の前で止まった。



「あ、あの時の嬢ちゃんか?」

「うん。久しぶり? まあ、現実時間で3日だからそうとも言えないけど」

「ゲームの中と外とじゃ時間が違うからだな。感覚が狂っても仕方がない」

「あ、あの……もしかしてあの【反城】のグストさんですか?」

「そう、呼ばれているらしいな」

「【反城】?」



 聞き覚えのない名前に、首を傾げる。グストさん、そんな名前で呼ばれてたの?

 再度グストさんに目を向けると、そっぽを向かれてしまった。



「あー……まあ、βの頃についた二つ名の名残だよ。どうにも、俺の戦い方から付けられたらしい」



 【反城】なんてとんでもなくごつそうな戦い方自体が予測出来ない。



「しかしなぁ、一体どうして、なんでこんなに魔物が増えやがったんだ? 今までこんなことなんて起きなかったし、いきなり増えるもんだからな」



 はぐらかすように露骨に話題を逸らすグストさん。とはいえ、その中に気になるワードがあったので、逸らすことには成功したと言える。



「いきなり?」

「ああ。さっき狩りをしてた時だったか、前触れもなく、本当にいきなりだった」



 と言いながら参ったとばかりに肩を竦めるグストさん。わたしは、その言葉にちらとロウさんの方を見る。丁度、ロウさんもわたしの方を見ていた。

 その理由も何となく分かる。この魔物大氾濫(スタンピード)の理由が分かってしまったからだろう。



 ついさっき、わたし達が何をしていたか。まず、ルナちゃんに出会って、クエストを受けました。その後に成り行きでここまで来た……それでもし、グストさんが言うついさっきというのが、丁度クエストを受けた時だったら?



 ……まあ、とどのつまり、この大量発生の理由はわたし達のせいってことになる。わたし達が受けたクエストに、ただこの人達は巻き込まれた形に……悪意を持ってやったわけではないけど、ちょっとこの状況は申し訳なさすぎる。だってグストさん達、完全な被害者なんだもん。



 それにしてもこの数、なんというか、このクエストを作った人は一体何故ここまで難しくする必要があったのか。いくらなんでも、50は超える数の魔物を倒せって無茶振り過ぎない?

 しかも、ここは南の第2エリア。1体1体のレベルが10を超えていて、いつもわたしが狩場にしている西の森よりも普通に高い。これで知って破棄したらルナちゃんが消えるって、あまりにも子供に対して酷すぎなんじゃない?



「どうしようかな……わたし、今この子のクエスト中なんだよね」

「何? クエスト中だと? そういや、そこの子は……NPC? 街の外に出ることが出来たのか?」

「そこはあんまり詮索しないでほしいかな。ちょっと面倒だから」



 正確には、この大量発生の原因がわたし達にあるってバレたくないだけです。人を巻き込んでおいて自分は保身に走るとは、なんて屑なんだろうと切に思う。



「……そうか。分かった」



 嘘をつくようで悪いけど、状況が状況なので乗り切るためだと割り切らないといけない。

 グストさんの後ろに立っていた男と、目が合う。体格の大きさではグストさんと大差はないが、やはり最大の特徴はその頭に言える。煌々しく輝く頂点を隠すどころかむしろ強調しようとする姿勢には、不思議と好感が持てた。



「さて、じゃあどうするか……だ、なぁ!」



 草むらから急襲するノーザンウルフという魔物2体を、どでかい斧1本を一閃するだけで一刀両断してしまった。あまりにも理不尽な力の暴力に、わたしは唖然とする。わたしも、色んな条件があってやっとカメレオンを一撃で倒せたのに……もしかしてこの人、STRに極振りをしてるんじゃないか。



「流石、【反城】です」



 ……目立ったら、こんな二つ名が付くかもしれないんだよね。また、目立ちたくない理由が増えてしまった。



「しっかし、すげえ数だな、こりゃ」



 会話の内容はのんびりでも、実のところ、戦闘中でもある。グストさんのパーティーメンバーらしき3人は後部の少し離れたところで連携を取りながら、巧みに戦っている。それぞれの動きがかなり熟達していることから、多分グストさんと同じ攻略組だ。

 グストさんは変わらず敵の攻撃のタイミングを合わせて一発で斬り伏せているし、戦闘は苦手、と言いながらもロウさんも正確に弓で狙い撃っていて、なかなか奮闘している。ルナちゃんも邪魔にならない程度にロウさんに引っ付いているので、彼らに何かない限りはルナちゃんにも危害は及ばないだろう。

 わたしの方はというと、わたしのステータス上、ちょっとこういう乱戦は苦手なんだよね。だから、風魔法である程度の援護をしつつ、ロウさんに近付く敵を【マナショック】と【烈斬】を駆使して倒すようにしている。

 ロウさんとはパーティを組んでいるので、レベルのまあ上がること上がること。今では一気に4も上がって、もう17まで上がってしまっていた。



『技能を獲得しました』



 あ、このタイミングで?



 にしても、ちょっとこの数は多すぎる気がする。星4クエストの正体がこれって、いくらなんでも無茶振りすぎない? シークレットクエストと言い、ちょっと初見殺しがすぎる。



「くそっ! このままじゃジリ貧だなおい! 何か、一時的にでも道を切り開く方法はないか……!」



 わたし達が囲まれてからというもの、何故だか荒野エリアの方からの魔物がとりわけ多くなった。多分、逃げられないようにするためだろうと思う。なんて鬼畜仕様なんだ。

 かくなる上は、進むしかないと確信したグストさんの言葉。

 焦るグストさんの声を聞いて、わたしは1つ、とある隠しダネがあることを思い出した。



「もしかしたら、打開する方法があるかも」

「本当か!? 嬢ちゃん、なんでもいいから教えてくれ!」



 焦る理由も分かる。グストさんが敵を倒すスピードは、わたし達と比べても異常だ。倍以上は差があると言える。けど、それでも無尽蔵に湧いてくる敵にはジリ貧としか言いようがない。



「大丈夫、わたしがやるから。じゃ、あの人達も呼んでおいてね」

「……本気か? 何も、一人でやらなくとも……」



 訝しむグストさんには悪いけど、この方法はわたしにしか出来ない。ただ、ちょっと準備が必要だけど。



「今からちょっと()()()()()()から、その間は任せたよ」

「……何を言ってるのかは分からんが、今は嬢ちゃんにしか頼ることが出来ねえ。分かった、俺達に任せろ」



 頷いたグストを尻目に、わたしは足でリズムを刻み始める。一定の感覚で、つま先が地面を蹴るリズムを、身体に染み込ませる。



「よし……行くよ」



 数秒後、わたしは刀を構え……駆け出す。



「【マナショック】」



 地面を蹴った途端、【マナショック】による衝撃で元々の速度から加算されることにより、敵には全く反応出来ないくらいの速度を生み出した。そこから更に、タイミングを合わせることによって反動の衝撃までもがわたしの走りに背中を押す結果となり、爆発的なスピードでわたしは敵陣の中に綺麗な一本道を作りながら、駆け抜けてゆく。吹き抜ける一陣の風に混ざる刃に、魔物達の命は簡単に散ることとなった。



 ただまあ、わたしが開発したこの超速ラッシュ。実は欠点もあって……。



「……止まらないや」



 なんと、身体の制御が効かず、止めることすら出来なくなってしまう。今も半ば上半身が置いてけぼりをくらいそうになっているくらいで、下半身とて自分で動かすことなくほぼ勢いで動いている形になっている。



 どうやって止まろう、とかなんとか考えているうち、山林を抜けてしまった。



「あ、やべっ」



 その時、わたしは見てしまった。

 突如開けた場所の中央に、血のごとき真っ赤な体毛を纏う熊の姿を。



『Field BOSS:ブラッドグリズリーLv20』



「ちょっと、ちょっと待っ……!」



 奇しくも、わたしはフィールドボスエリアへと来てしまっていた。だがしかし、わたしの身体は止まるところを知らない。

 更に偶然だが、わたしはピッタリフィールドボスの方へと向かって走っていた。



 さて、このままだとどうなるか。



「グアア!!」



 わたしの姿を目視した熊は腕を振り上げると……



「ふおっ!?」



 振り下ろされる前にわたしからの強烈なロケットヘディング(タックル)が、熊の鳩尾あたりを直撃したのだった。

 とんでもない衝撃に、熊の身体は大きな音を立てて後ろに倒れ込んでしまった。どんな奇跡か、HPが1割も削れていた。



 おかしい、どうしてこうなった。

名前:シエル Lv17

職業:メイジ(1次職)

スキル:【一刀流Lv13】【風魔法Lv2】【杖術Lv8】【マナショックSP Lv4】【烈斬-】

装備:龍刀ミカヅキ、平原の巫女の白蒼小袖と千早、平原の巫女の蒼袴、平原の巫女の草履、平原の巫女の花簪

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