10. 未完の刀
もはや定時投稿になってない件。
ちゃっちゃとストーリー進めたい……
さて、いざ街に戻ってみると、街の中はいつもよりも(とはいってもゲーム内時間でまだ3日目なのだが)人が多く、やけに騒がしかった。
何かあったっけ……ああ、もしかしてあのアナウンスかな?
わたしがシークレットボスのゴーレムを倒した直後に流れたアレ。確か、北のフィールドボスを討伐したんだっけか。北って言ったら、確かレイク達が攻略してる方角だよね。もしかしてレイクとハルハルも参加してたり……?
フィールドボスというのは文字通り、フィールド全体を仕切る大ボスのことを指す。フィールドとはわたしの狩場である西で言うなら草原エリア、森林エリア、そしてその一つ奥にある湖エリア、それらのエリアを全て総称したのがフィールドで、とどのつまり食物連鎖の頂点の魔物って言えばいいのかな?
となると、わたしが倒したあのシークレットボスの居た場所もフィールド内ってことだよね……あいつでさえ偶然ステータス的に圧倒的な優位性があったから勝てたというのに、恐らくパーティでの討伐なのだろうが、それでもあいつより強い奴より勝てたってかなり凄いと思う。
とまあ、具体的に言うならプレイヤーがレベリングをほっぽり出して雑談と始めるくらいには凄い……うん、逆に分かりづらいね。
ただ、いつかはわたしも通る道。出来るだけ詳しく話を知りたいところ。誰かに聞いてみようか。
丁度近くに誰かを待っていたのか、1人で立っている男へと尋ねてみる。
「何か騒がしいみたいですけど、何かあったんですか?」
「え? あ、ああ。アルクス達最前線組のパーティが、北門のボスを倒したんだよ! しかも、4人でだ!」
確認のために聞いてみたけど、やっぱ正解だった様子。パーティメンバーの上限は確か6人。4人でやったってことは、ドロップが出来るだけ分散させないようにかはたまた経験値目的なのか。いずれにせよ、かなりの効率厨に違いない。
「第2の街の情報とかってもう載ってるんですか?」
「お嬢ちゃんは掲示板とかは見ない口か?」
「……見たことないです」
「それなら、攻略組が総合スレにボスや街の情報を載せてくれたから、気になるなら一度見てみろ」
「そうすることにします。色々教えてくださり、ありがとうございます」
「おう! お嬢ちゃんも、楽しくやれよ!」
気のいい男の人へと最後に頭を下げると、少し離れた場所へ移動する。
言われた通り、早速掲示板を覗くことにした。ゲーム内であれば、メニューからネットへ接続も出来るようになっているのだが、このゲームには公式が運営している専用の掲示板があり、こちらもメニューから直接見ることが出来るので、わざわざログアウトする必要もない。
総合スレって言ったか……おっ、あったあった。
目的のスレを発見したので、早速開いてみる。
「どっこかな〜、どっこかな〜」
なんとなく陽気な気分で口ずさみながらレスを流していき……ふと、とあるレスに目を留めた。
「え、ええ……」
そこに書かれていた文。それは『西の平原ですごい動きでウルフを倒す女の子が現れた』というもの。
見た瞬間、誰のことを言っているのか分かってしまった。
だってこれ、何処からどう見てもわたしなんだもん……自意識過剰ならいいけど、生憎わたし以外の女の子が西の平原で狩りをしているのをあんまり見ないし。
自分でもあの戦い方は変だとは思うよ? 思うけど、色々試した結果あれが最高率だったんだから仕方ない。
まさか自分の噂が立っているとは思ってもいなかったので、複雑な気分である。
このまま読み進めるか、目的の攻略情報のレスまで流すか、また読むのをやめるか……羞恥と好奇心を天秤に掛けた結果、掲示板を閉じることにした。
掲示板のことを聞いた男のことを鑑みると、容姿については特に広まっていなさそうなのは不幸中の幸いだった。
他力本願も何だけど、カレンさんならボスについて既に知っていそうだし、そっちで聞くことにしよう。それに、カレンさんにはゴーレムのことで色々と聞きたかったこともあるし。
相変わらず閑散としている道を通り、カレンさんの工房へとやってくる。中に入ると、いつも通りの笑み浮かべて迎えてくれた。
「やあやあ。掲示板を見たけど、シエルさんもすっかり噂されちゃってるね」
「それを言わないで……」
前言撤回。いつも通りではなく、邪悪な笑みでした。てか、何故掲示板だけでわたしのことって分かったんだろう。まさか、本当にわたしの容姿について書かれたりとか……? やばい、ちょっと不安になってきた。
「あ、あの……何故掲示板のがわたしだと?」
「その様子だと、シエルさんも掲示板を覗いちゃったみたいだね。大丈夫、単にボクはさっきシエルさんに聞いた話から確信しただけだから」
そういえば、そんな話してたね……ゴーレムのこととか、フィールドボスのこととかばっか考えてたから、すっかり忘れてた。けど、ちょっと安心かな。これで、心置きなく用件を済ませられる。
「カレンさんに、ちょっと見てもらいたいものがあるんですけど」
「ほほう? 何かな?」
「ええと、これです」
そう言って、インベントリからとある物を引き出し、カウンターに置く。それを見たカレンさんは、今までに見たことのないくらいに顔を引きつらせたまま、固まってしまった。
カレンさんを驚かせるために何も言わずに持ってきたのだが、わたしのサプライズも功を奏したようだ。さっきの意趣返しにもなったようで、ちょっとすっきりした。
「それで、どう思いますか?」
「や、どうって……し、シエルさん、これ……こんな刀、何処で手に入れたのかな!?」
わたしが見せたのは、鞘に長い体躯を持つ東洋の龍を模した印章が刻まれ、湾れ刃の打刀である。これを何処で手に入れたかというと、実はゴーレムを倒した際に貰ったMVPがこの刀だった。
何故カレンさんがここまで驚いて、興奮しているのか。それは偏に、この刀の性能を見たからだろう。
『龍刀ミカヅキ(未完)。レア度4(unique)。魔力浸透度30%。攻撃力25。成長度0%。固有スキル【烈斬】【所有者固定】。能力値上昇 AGI(微)、INT+2(微)。天翔る龍の力が封印された剣。現在は、ほとんどの力を封印された状態である。破壊不能武器。』
見事なぶっ壊れですね、本当にありがとうございます。
レア度4というのは現時点発見されている武器の中では最高だし、ユニーク装備もβでフィールドボスから発見されたっきり。攻撃力が25というのは決して高くはないのだが、やはり特筆すべきは魔力浸透度の高さと固有スキル、それに普通の武器にはない成長度だろう。
魔力浸透度とは、その武器を装備して魔力を使う攻撃系技能を発動すると、その効果が武器の魔力浸透度分上昇するという、何気なしにかなり重要な数値なのである。
そもそもわたし自身の攻撃力自体がそれ程でもないので、攻撃力自体の数値はそこまで意味をなさない。それに比べて魔力浸透度が上昇するということは、もはやわたしには必要不可欠な【マナショック】の威力も上昇するということになる。
今使っている初期武器の刀の数値が5%なので、【マナショック】の威力が実質25%も上昇したようなもの。
素晴らしすぎる。あのボスはもしかしたら本当に望んでいるものを恵んでくれる、恵みの神なのかもしれない。
「で、どうなんだい?」
先程よりは大分落ち着いた様子のカレンさんだが、何度もカウンターの上にある刀へと視線を向けている。やはり鍛冶師としての身体が疼くのか、未知の武器には好奇心が抑えきれないようだ。
仕方ないなぁ、と思いつつ、どうせ答えるつもりだったので隠すことなく詳らかにした。
「西の森にあるシークレットクエストのボスを倒したら、MVP報酬でこれを貰いました」
「シークレットクエストって……また、突拍子もなく凄いことをやってるねキミは……」
わざとらしくふらつくような演技を見せながら、頭を抱えるカレンさん。
わたしには分からないけど、どうやら凄いことだったらしい。
「でも、ボスのレベルは12でしたし、倒された北のフィールドボスの方が強いんだよね?」
「いやいや……そんなことはないからね? βでもたった一人だけシークレットクエストを偶然発見した人が居たんだけど、その人はボスのレベルより5も高いのにも関わらず、コテンパンにやられて死に戻りしたって話だからね?」
え?
カレンさんによって告げられた情報に、わたしは目を見開く。
「その人が言うには、まずソロでは絶対に対応出来ないような攻撃をしてきたらしい。例えば、最初は相性が良くても、途中からガラッと敵の動きや行動パターン、果てにはステータスが丸ごと変わったりするらしい。シエルさんさんが倒したのは、そうじゃなかったのかな?」
「言われてみれば……」
ゴーレムと戦った際の出来事や行動パターンを、カレンさんに全て打ち明けた。やはりね、と呟いたカレンさんは、何処か諦めているように見える。
「よく考えてみなよ。そのゴーレム、初めは物理防御が高くて、途中からスピード型に変わったんだろう? それ、ソロでどうやって対応すればいいと思う?」
「それ、は……」
カレンさんの問いかけの答えを求めて、思案に暮れる。多分、カレンさんが言っているソロってのはわたしみたいなひねくれた構成ではなく、順当に育てた結果のビルドでの前提で聞いているのだろう。
まずゴーレムの対策をするには、魔法が一番効果的だろう。あるいは打撃武器だが、あれだけの堅さを誇るゴーレムに決定打を与えるなら、そこそこ以上の物量を誇る武器が必要だ。でもそんな装備で行くと、スピード型になった時には対応出来なくなるので、やはりまともに相手が出来るのは魔法職だけ。
次にスピード型の対応をするなら、防御の高いタンク型、もしくはあのゴーレムより高いスピードで……ああ、確かにこれは無理だ。
つまりゴーレムを倒すには、INTとVIT、もしくはINTとAGIが必要に……それこそ、VITならあの岩の塊に殴られ続けられても耐えられるほど、AGIならわたしの速度にもしっかりついてこられるくらいはないと駄目だってことね。VITの方は実質不可能だし、AGIの方もほぼ魔法職には死にステと化しているAGIに振るような物好きは居ない。
「無理ゲーすぎない?」
「その無理ゲーをクリアしてきたのは、何処の誰かな?」
おっしゃる通りです……。
それにしても、運営はなんの意図があってこんな理不尽なクエストを作ったんだろう。無理矢理ソロで参加させるような発生条件といい、実は相当破天荒な運営なのかもしれない。
「それにしても、やっぱその刀、ちょっと都合が良すぎるよねぇ」
カレンさんはまだ気になっていたらしく、まじまじと眺め続けている。
確かに、明らかにわたし専用みたいな感じの構成になってるしねぇ。
この【烈斬】って技能も、どんなのかと思ったらなんと【マナショック】の斬撃バージョンだったんだよね。音の衝撃波を薄くかつ密度を高めることで、範囲は【マナショック】よりも遥かに狭いが、その分斬れ味も大分高いようだ。反撃も【マナショック】と同じなのかな? いずれにせよ、間違いなくわたしにとっては大きなアドバンテージになりうる。
「……もしかしたら、シークレットクエストのボスからは、討伐者のステータスからその人にあった武器が落ちるようになっているのかもしれないな」
カレンさんが放った言葉はまだ推測の域を出ないが、わたしはかなり納得出来るものだった。
実際に直接わたしの戦闘を見ていないカレンさんには分からないかもしれないけど、本当にこの武器は相性が良すぎる。これ以上はないと言っていいくらいだ。案外、カレンさんの考察は間違っていないのかも。
「あっ」
「うん?」
そういやもうもうひとつ、ボスを倒した時に出来ることがまだあったな。
カレンさんが「どうしたの?」といった雰囲気を漂わせてるが、こっちはこの武器程重要性は高くない。
次に確認するもの……それは、あのゴーレム戦が終わった直後にアナウンスが鳴った技能の派生進化である。