松平王国、巫女フィルスリィーナ・ヴィルムマイヤー
「やあやあ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ、我こそはオルベリアス帝国皇帝ニルトバーン・オルベリアスが長女シャナルディア・オルベリアスなり!」
うわー、せっかく友好的に近づいたのに、やっちゃったよこの人・・松平王国の騎士が殺気立つ。このままはまずい!
「騎士の皆様、わたくしたちは魔獣の森の異変を探索しておりましたローズマイヤー王国とオルベリアス帝国の者です。わたくしはローズマイヤー王国ヴィルムマイヤー公爵の妻フィルスリィーナ・ヴィルムマイヤーです。けが人を休ませるための場所をお貸しくださいませんか?」
来訪の目的を告げると、私に少し待つようにと告げて一人が報告に赴く。
ここは、松平王国の砦のひとつで以前に商会の取引で訪れたことがある。門を守る騎士は私の顔を覚えていてくれたようで穏やかに対応してくれた。
「リィーナ、わらわは何を間違えたのじゃ、先ほどの名乗り方が松平王国では正式なものと書物に書いてあったのだが違うのか?」
「シャナ様、先ほどの名乗り方は戦のときだけですわ。」
「そうであったか。」
ちょっとだけ、ばつが悪そうなお顔のシャナ様、かわいいですわ。これがギャップ萌えと言うものでしょうか。
しばらくすると、少し年配の騎士があらわれた。
「あらシマヅ伯爵、お久しぶりですわ。」
「お久しぶりですなヴィルムマイヤー公爵夫人、一応確認させてほしい。今は国交がないローズマイヤー王国とオルベリアス帝国の騎士がなぜ一緒にいるのか、それと明らかに尋常じゃない気配がするそちらの御仁はどなたか?」
「オルベリアス帝国の皆様とは森の中で偶然お会いしましたの。それとこちら様はシャナルディア・オルベリアス様の騎士様ですわ。」
「詳しいお話は後で聞かせいただくとして、とりあえずお入りくだされ。」
伯爵はけが人の案内を部下に命令し、私たちを会議室に案内した。
勧められたいすに座り、騎士はそれぞれの主人の後ろに控える。
それぞれの挨拶が終わると本題の森の異変について話し合った。
「魔獣が人を操るとは、にわかに信じがたい話ですが事実なのでしょうな。」
「この魔獣を倒すには最高神のご加護と魔力を帯びた武器が必要ですわ。」
「明日、王太子殿下が騎士団を伴って砦に来られます。詳細は殿下を交えて話し合いたい。」
「わたくしたちはそれで問題ないですわ。」
「オルベリアス様、魔獣の森への対処は、王太子のシンノスケ・マツダイラ殿下に任されております。そのこと、お含みおきください。」
「了解した。」
その後、我々には部屋が二つ用意された、こんな時に来たのだから、野営しろといわれないだけましである。
湯浴みを終えたら、対策会議だ。
今ここに居るのは、女性陣とエリスアルド男爵、帝国騎士のレギアルである。
「リィーナの意見が聞きたい。」
「なんでしょうかシャナ様」
「明日やって来る騎士団に最高神の加護を祈れる巫女は何人いると思う。」
「一人はいらっしゃるのではないでしょうか。」
「あの魔獣を倒せるだけの加護を武器に与えられる巫女はどうだ。」
火の神の眷属、鍛冶の神ヘーパイストスの加護を祈るのはそれほど難しくはないけど、あの魔獣相手だと上位貴族でないと無理かしら。
「一人か二人はいらっしゃると思います。」
なぜでしょう、皆さんのお顔がだんだん暗くなっていきます。
「最後に、あの魔獣は他の魔獣を操れると思うか。」
「あの時に操られなかったのがシャナ様と上位貴族のレギアル様だけでしたから、人も魔獣もほぼすべて操れると思いますわ。」
私にもだんだんわかってまいりましたわ。あの魔獣は魔王とか邪竜に相当するラスボスなのですね。
「皆様、そんな顔をなさらなくても、あの魔獣を倒すのはそれほど難しくはありませんことよ。ミズモリ様に加護付きの武器を持たせれば瞬殺ですわ。」
私はドヤ顔で答えた。
「だが、あの力に耐えられるだけの武器など持っておらんぞ、わらわの魔剣でも本気を出されると刀身が簡単に折れる。」
「大丈夫なのですよ。王族が来るなら必ず松平の始祖達が使っていた太刀を守護刀として持ってくるはずです。異世界人の使っていた太刀ならミズモリ様の馬鹿力でも折れたりしませんわ。」
カンカンカン!
急にけたたましい鐘の音が響き渡る。
私たちが、状況を確認するために外に出たところで、シマヅ伯爵が駆け寄ってくる。
「ヴィルムマイヤー公爵夫人、先の話に出た魔獣が群れを率いてこちらに迫っている。騎士達に最高神の加護を祈ることはできるか。」
「今のわたくしには出来ません。」
私の答えに伯爵はなにかを決意したようだ。
「お願いがある。負傷した騎士や平民を逃がすので、その護衛をしてほしい。」
これは、一緒に逃げろということですわね。
「わらわたちだけ・・・・」「シャナ殿下ここは・・」「他国の・・・」
あ、3号がいました。と言うことは隣にいるのがミズモリ様ですね。私は大きく手を振って合図します。
「ここの者たち・・・」「我々がいては・・・」「・数人の騎士が・・・」
ミズモリ様は髪を切ったら以外と普通ですのね。もっとワイルド系かと思っていましたがそうでもないみたいですね。
「・・おいては・・」「・・やむを得えません」「・戦える・・・」
「ミズモリ様にお願いがございます。例の魔獣を切ることができる刀をお貸しするので、件の魔獣を切ってはいただけませんか。」
「「「はあっ~!」」」
「リィーナ、あの魔獣を倒すには松平の守護刀が必要ではなかったのか?」
そういえば説明の途中でしたね。
「別にある程度の魔剣を神のご加護を祈って強化すれば大丈夫ですよ。だからわたくしの魔剣をミズモリ様にお貸ししようかと思いまして。」
「ヴィルムマイヤー公爵夫人、あれのほかに上位魔獣や操られた騎士もおる。それでも倒せるのか。」
「さようですわ。」
「我々は何をすればよい。」
「ミズモリ様が単身で例の魔獣を倒してくれますので、操られている騎士の回収と残りの魔獣への対処ですね。」
「それだけでよいのか・・」
「さようです、ミズモリ様はもともと魔獣に操られる心配はありませんし素手でも互角以上に戦えていましたから近くにいるとかえってお邪魔だと思いますわ。」
何か微妙な空気になってしまいましたが仕方ありません。
「ミズモリ様、こちらにいらしてくださいな。」
私は持っていた刀を渡した。
この刀は、アードル様がお守り代わりに持たせてくださったもので、ローズマイヤー王国の宝剣のうちの一本らしい。
「火の神の眷属、鍛冶の神ヘーパイストスに祈りをささげますので、ミズモリ様も神に祈ってください。」
ミズモリは刀を腰に刺して両手をあわせて目を閉じた。
私の祈りをミズモリ様は復唱する。
これは困りました、いつもより魔力の流れが速すぎます。
(あとはお任せしますわ・・)