共闘、巫女フィルスリィーナ・ヴィルムマイヤー
ヴィルムマイヤー侯爵家(私、3号夫妻、他十名) とエリスアルド男爵家(ダーム、フィナ)が魔獣の森を探索して、もう三日目です。いまだ手がかりすら、つかめていません。
「奥方様、止まってください。」
3号の言葉に私たちは立ち止まって周囲を警戒する。
「敵意は感じませんが、強い力を感じます。」
魔獣の森の奥で、敵意がなく強い相手とは一体なにでしょうか?
しばらくして3号が息を吐いた。
「遠ざかりました。」
正体がわからない相手ですけど、今回の件と何か関わりがあるかもしれません。
「ダーム様はどうお思いになりますか?」
「初めての手がかりだから、敵意がないのであれば接触したい。」
「そうですわね。お昼にもちょうどよいですし、ここで休憩しましょうか。」
騎士たちが食事の準備をしてくれる。
「奥方様、どうぞ。」
私はお礼を言って受け取る。ビスケットと燻製肉そして少量のピクルスです。
味に問題があるわけではないのですが、毎食同じでは流石に飽きてしまいます。
これは早急にお米を手に入れなければなりません、我が愛しのソールフード・・
なんとオルベリアス帝国北東部周辺で栽培されているのです。
国交が無い国ですが、いずれ何とかしてみせますわ。
私が最後の燻製肉をもしゃもしゃしていると突然高らかな声が響きます。
「わらわは、オルベリアス帝国第一皇女シャナルディア・オルベリアス、この森の異変を調査中である。そなたたちの代表者と話がしたい。」
ごふっつ、びっくりしてお肉が喉に詰まりました。
けほっ、苦しかったです。私はなるべく優雅に見えるように挨拶を返しました。
「わたくしはローズマイヤー王国ヴィルムマイヤー公爵の妻フィルスリィーナ・ヴィルムマイヤーですわ。」
私が名乗ると皇女様は笑みを浮かべました。
「そのたの名はわが帝国にも届いているぞ、話が早そうで助かる。目的は一緒であろう。協力せぬか?」
そう言うと皇女様は単独でこちらに歩いてくる。
うわーかっこいい、この人、男装の麗人いや光の騎士かな・・いけない、意識が彼方をむいていました。
私も皇女様へ歩み寄り握手を交わす。
「ヴィルムマイヤー、そなたは期待通りだ。」
クッ、このキラキラ、イケメンスマイル、なんという破壊力でしょう。
いけないわ、私にはアードル様がいるのよ。
変な方向に妄想しつつも表情に出しません。
「光栄ですわオルベリアス様、わたくしのことはリィーナとお呼びくださいませ。」
「リィーナよ、わらわのことはシャナと呼ぶがよい。」
「わかりましたわ、シャナ様」
その後、情報交換を行いました。とはいってもこちら側から提供できる情報は少ないです。
帝国側からは重要な情報が二つ、西に今回の原因かもしれない魔獣が存在していることと、その魔獣と帝国側にいる異世界人が戦ったことです。
なんと、3号が脅威を感じていたのは松平王国の始祖と同じ伝説の異世界人
その力は驚異的で、まさにチート
それはさておき問題は異変の原因の魔獣です。
「リィーナよ、まずは戦ってみねば何もわかるまい。勝てそうなら倒す。無理なら下がる。それでよいではないか。」
それはそうですけど、せめて役割分担くらいは決めておきませんと戦闘時に困ってしまいます。もしかして帝国の人は脳筋なの・・
話し合いの結果、私、ダーム様、フィナ、3号夫妻と異世界人が後衛で脳筋たちは前衛です。
「わたくし、ミズモリ様は前衛で戦われるのかと思っておりましたわ。」
「俺が戦うと周囲を巻き込むから、単独じゃないと危ないですよ。」
確かに、怪獣同士の戦いに小さな人間が参加して気付かないうちに足で踏まれる、くらいの感覚かもしれません。
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しばらく森を進むと突然3号が叫んだ。
「とまれ、何かが来る!」
その声と同時に前方から巨大な魔獣が突進してくる。
フィナが魔力攻撃を放つ。
魔獣は横に飛んでこれを回避した。
この魔獣はおそらく通常の武器では傷つかない、私は急いで神に祈った。
「火の神の眷属、鍛冶の神ヘーパイストスよ、騎士の剣にすべてを切り裂く力を与えたまえ。」
祈りに集中できず、また祈りの姿勢をとっていない相手にかけたため効果が薄く魔力消費が激しい。
失敗です。時間がたてば効果が弱くなるけど、出発する前に加護を付与しておくべきだった。
そう思っても、どうすることもできない。前衛の戦闘を見守るだけだ。
フィナも乱戦では、攻撃することができない。
戦闘はどちらが有利ともいえない状況が続いた。
そのとき3号が振り返って叫んだ。
「帝国の騎士に最高神の加護を!」
「できないわ、もう魔力がないの。」
魔獣の咆哮が響く。
「ガーベラ!」
3号が私を担ぎ、ガーベラはフィナを抱きかかえた。
「魔獣は任せる。」
3号はミズモリを見てそう言った。