転移者 水森秀久
「我は鳥之石楠船神なり。その願い叶えてしんぜよう。」
「あ、宗教お断りです。」
「おい、またぬか、そなた神に祈ったであろうが。」
「なんか胡散臭いので、仏様にチェンジでお願いします。」
「チッ、水森秀久そなたの望み叶えたぞ。」
自称神がそう言うと体が光り始めた。
「まて」
「これから行く異世界の者は非力で弱い存在だから、君はチート級の怪力と肉体だ、チートでヒャッホーができるぞ。」
「チートなんて要らない、俺は静かに生きるんだー!」
抵抗むなしく光に包まれた。
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目の前イスには、書類を手にしたイケメンがいる。
「ああ、私は、運命の神ノルンの眷属ノーマだよ。」
「死んだのかって、君は死んでないよ。」
「それでいいの君、順応性高いね。まあいいか、行き先とか希望ある?」
「はあ、どこでもいい。どこでもいいと、何でもいいが一番面倒なのだよ。」
「森に行きたいの、まあ君なら大丈夫かな。じゃあ、いってらっしゃい。」
ノーマは青年を地上へと送り出したあと、ため息をついた。
「はぁ~、魂の交換だっていったのに・・・。」
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神ノルンに誰も人が来ない森の中を希望して転移してもらってから約四年がたった。
鳥之石楠船神が言っていたとおり、この世界の者は非力だ。
獣の牙を俺の皮膚をとおさず、こぶしの一振りで死んでしまう。
豊かな森の恵みもあり、快適な引きこもり生活を満喫している。
しかし、どこに居ても問題はやって来る。
森の東側に一匹の巨大な獣が現れた。こいつは俺のこぶしでも傷付けられない。
そろそろこの森から出る時がきたのかもしれない。
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この世界で人間を見たのは初めてだ。
人数は七人、中心のいる女性を守るように剣を持った者が周囲を固めている。
「美しい」
俺は気づかぬうちに声に出していた。
一瞬過去の出来事が頭をよぎったが、その思いを振り払う。
今の俺は何も持っていない。奪われるものなど無いのだから・・