巫女フィルスリィーナ・ヴィルムマイヤー
フィルスリィーナ・マリーンドロス公爵令嬢改めフィルスリィーナ・ヴィルムマイヤー公爵夫人のお話
私は夫のアードル様と海辺の町に旅行・・もとい、視察です。
「リィーナ、そろそろ海が見えてきたよ。」
「おさしみ、てんぷら、塩焼きです。ヒャッホー!」
馬車から見える海に少しはしゃいでしまいました。
「・・テラサルド!聞こえていたな。」
「御意」
アードル様の問いに護衛の騎兵は短く答え先行していきます。
きっと昼食の手配に向かったのでしょう。
「で、食べる意外にどこへ行くのかな。」
「市場で魚の種類、値段、調理法を確認後に、ギルドで輸送に関する話し合いを行う予定ですわ。」
「わかった、私は町の代表者たちと話すことがあるから、昼食後はテラサルドとガーベラを君の護衛につけるよ。しかし、市場に行かなくてもギルドで聞けばいいんじゃない。」
「商品は実際に見てみないとわかりませんし、ギルドの男の方では調理法について詳しくないかもしれませんもの。それに、・・お夕食のお魚は私が選びたいのです。」
「そうか、期待しているよ。」
そう言って頭をなでてくれます。このなで具合たまりません!
お夕食はおいしいものを用意して差し上げるのです。
町に到着すると門のところで待機していた3号もといテラサルドがレストランまで案内してくれます。
「さすが3号の選んだ店ですわ。」
「お褒めに預かり光栄です。奥方様」
「リィーナ、確かにおいしいけど・・・公爵家として屋台はさすがに、どうかな?」
「アードル様、3号が直感で選んだ店です。ここが町で一番おいしい店に違いありませんわ。」
私たちがいるのは、港に近い屋台脇の喫食スペースです。市場から次々と新鮮な魚介類が届けられています。
「あ、イカです。店主!そのイカで刺身を、タレ無しで二人前追加ですわ。」
「へい、少々お待ちを。」
「セリナ、醤油を持ってきて頂戴」
私の専属侍女にケルベス公国から取り寄せた醤油を用意させます。
「へい、お待ち!」
「この透き通るような白、海って最高ですわ。」
「「「「「はあ~」」」」」
「テラサルド、くれぐれもリィーナの事を頼んだよ。」
「ハッ、一命に変えましても。」
楽しい昼食も終えて少しの間、お別れです。
「リィーナ、あまりテラサルドに迷惑をかけてはだめだよ。」
3号を見て微妙な顔をした後に、町の代表者との会合に行かれました。
「では、市場に行きましょう。」
「あの奥方様、俺はどうしてもこの格好でないと駄目なのでしょうか?」
「あら、3号はこの時のために作った新型の鎧が気に入りませんの。」
「「「・・・」」」
護衛騎士の3号夫妻と侍女のセリナには不評のようです。
「我が商会の財力をつぎ込んで作らせた装着型冷蔵魔術具、単純に魔術具を後ろに背負ったのではバランスが悪いため苦労したのですわ。」
「わかりました、行きましょう奥方様」
ややあきらめた感じで3号が答えました。
「最高神たる高く皓皓たる光、広く障翳たる闇、迷える我の行く先を照らしたまえ。」
光と闇が降り注ぎ、私が行くべき場所を教えてくれました。
「さすがに最高神にお祈りするのは疲れますね。でもこれで最高のお魚が手に入りますわ。」
「奥方様、流石にこのようなことのために最高神のお力をお借りするのはいかがなものでしょうか。」
「こんなこと、ではないのですガーベラ、油断していては男の方はすぐに若い女性に移り気するのです。ここぞというときは全力で挑むのです!」
「「「・・・・・」」」
全員があきれた顔をしています。なぜだ・・
「さあ、いきますわよ。」
気を取り直して出発です。
「奥方様、そろそろギルドとの約束のお時間です。」
「あー、あと鯛、鯛だけなのですよ。」
「奥方様、鯛は俺が探しておきますから・・ガーベラ、頼んだよ。」
「わかった、では参りましょうか奥方様、テラサルドに任せておけば大丈夫ですよ。」
「そうね、お願いするわ。」
鯛は3号に任せて私たちはギルドに向かいます。
「ガーベラ、セリナ、準備はよろしくて。」
「「はい、奥方様」」
そう言ってガーベラは腰の剣を、セリナは腰のポーチを軽く叩いた。
やってきたのはギルド、金色の実弾が飛び交う、この世の魔境、一瞬の油断ですべてを失うのです。
私たちはギルド長に案内され会議室に足を踏み入れた。
全員頭は下げつつも鋭い気配をこちらに向けてくる。
フッ、勝負ですわ。
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「海産物ゲットですわ。オーッホッホ!」
「奥方様、往来での奇行はご遠慮ください。」
「あら、ついうれしくて舞い上がってしまいましたわ。」
しかし、いつもニコニコ現金払いで、迅速に商談もまとまり、予定以外の取引もできました。ちょっとくらい、浮かれても許してほしいのです。
「しかし、ポーチの実弾をほとんど使い切ってしまいましたがよろしかったのですか?」
「大丈夫ですセリナ、明日からはアードル様がエスコートしてくださるのだから、実弾は必要ないわ。さあ、宿に帰ってお魚を調理しますわよ。」
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「このお昼に食べたイカのサシミもだが、このアラのミソシルも初めて食べる味だ、おいしいよリィーナ、でもこれはどこから仕入れたのかな。」
「コルベス公国ですわ。」
「コルベス公国とは、国交が無いはず、リィーナはどんな魔法を使ったんだい。」
「ミーツ王国とヴィサス王国を経由して仕入れましたの。そのため、輸送コストがとんでもない事になりましたわ。かの国はオルベリアス帝国の影響が強く、わが国との直接の取引が難しいのですわ。」
「そうか、ざんねんだね。」
「いずれ手に入れて見せますわ。」
食事後は人払いをして二人でお茶をします。
「アードル様、あーんですわ。」
「さすがに恥ずかしいな。」
顔を真っ赤にされて、かわいいです。
コンコン
「お屋形様、本宅より早馬が到着しました。」
「入れ。」
入ってきた騎士の表情からただならぬ気配を感じる。
「西の魔獣の森に魔獣暴走の可能性あり、エリスアルド男爵領からの王都へ向かっていた騎士からの情報です。」
「ごくろう、下がってよい。」
「この件は、王国西部地方の一大事です。わたくしが、エリスアルド男爵領に向かいますわ。」
騎士が退室するのを待って、アードル様にお願いします。
「で、本音は・・・」
「フィナが心配です。親友が困っているのです。助けたいのです。」
「わかったよ、腰の重い王都の騎士団では間に合わないから、我々で対処すべきなのは事実だし、魔獣の森に接している他の領地では体面もあるので他領の騎士を受け入れてはくれない、付き合いのある君が男爵領に向かうのがはやいしね。」
「ありがとう、大好きですわ。」
感謝の気持ちをこめて、おもいっきり抱きつきました。
「護衛としてテラサルドとガーベラ、あと本宅から五名を先発として連れて行きなさい。状況が確認できたら、必要な人員を派遣するよ。でも、無理をしては駄目だよ。」
しばらくして、名残惜しげに離れた二人は、明日のための準備にとりかりました。
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公爵領の港町から四日、男爵領の町が見えてきました。
3号が厳しい表情をして近づいてきます。
「奥方様、戦のにおいがします。」
「みな止まって、神に祈ります。」
私が馬車から降りると騎士たちが集まって、お祈りの姿勢をとる。
「火の神の眷属、戦の神アレースのご加護がありますように。」
「風の神エエカトルの守りと風の神の眷属、疾風の神ヴァーユのご加護がありますように。」
騎士たちに加護の光が降り注ぎます。
「ガーベラ以外の者は、町の守りを!」
「御意」
騎士たちを先行させます。
「ガーベラ、私たちも急いで町に向かいます。」
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クッ、寝顔がかわいすぎます。抱きついたら起こしてしまいます。でも撫でるくらいなら・・・
ベッドに男爵夫人であるフィリーナが眠っています。
騎士たちの話によると、町に迫っている魔獣の群れを確認して、突撃しようとしたところ。町からの強力な魔力攻撃で魔獣の群れが吹き飛び、傷ついた魔獣を簡単に狩ることができたようです。
その、魔力攻撃で力を使いすぎてフィナは眠っています。
やっぱりかわいいわ、ちょっとだけ撫でてあげましょう。
起きたら何の話からしようかしら。
フィナ専用装備の話をしたいのだけど、とりあえずは今回の魔獣討伐の話をしましょうか。
公爵家の騎士に助けてもらったからと、気に病むかもしれないからサクッと取り分の話をして煙に巻いてしまいましょう。
その後で専用装備の話ができたらいいのですけど。
防御を重視しつつ、かわいく仕上げたフィナ専用、自動防御魔術具搭載軽鎧、早く着せてみたいですわ。
「フィルスリィーナ様、ご自重ください。」
あれ、いつから声にでてた?
「最初からでございます。」
「・・・フィナの安全を考えたすごい鎧なのよ。衣装合わせしてみたいと思うじゃないの。前に持ってきたドレスも喜んでくれたし。」
あせった私は言い訳がましいことを呟いた。
「公爵家が用意してくださったドレスはすばらしかったのですが、うさ耳やネコ耳はいらなかったと思われます。」
ローラは、私への対処法に慣れてきて、的確に問題点を指摘します。
「・・・きっとわたくしは悪くないわ。かわいいフィナが罪なのよ。」
「ご自重くださらない場合はヴィルムマイヤー公爵に、ご連絡せねばならないかもしれません。」
「え・・アードル様に何を言うつもり。」
「何かのときは報告するようにお願いされておりますので、フィルスリィーナ様が女性同士の愛に目覚めたかもしれないと。」
「ちょっと待った!何を言い出すのローラ、わたくし達の友情を汚さないで。」
「お静かに願います。奥方様が起きてしまいます。」
「ふみゃ~ん」
あ、起きた。
「だえでしゅか?」
起こしてしまいました。しかし・・
「フィナはやっぱりかわいいですわ。」