魔術士フィリーナ・エリスアルド
侯爵令嬢は毎日を楽しんでいる。外伝、公爵令嬢フィリーナ・オズワルトのその後
公爵令嬢改め男爵夫人フィリーナのお話
「いきますわ。」
ガーン、ドゴーン、ガガーン!
魔力弾による攻撃で、中位魔獣を含んだ群れが吹き飛んでいく。
「ふーっ、がんばりましたわ。」
「全員突撃!」
エリスアルド・ダーム男爵とともに兵士が突撃していく、突撃準備射撃をしたら、私の仕事はほぼ終了です。
「いつ見てもかっこいいですわ。」
たやすく魔獣を倒していくダーム様を見ながら、フィリーナは呟いた。
実際は、最初の魔力弾による攻撃で死にかけの魔獣にとどめを刺しているだけだが・・・。
すべての魔獣を倒したダームがこちらにやってくる。
「フィナ、疲れただろう馬車で休んでいてもいいのだよ。」
ダーム様は心配症です。確かに私は病気で最近まで眠っていたけど、もうすっかり元気になったのです。
「大丈夫ですわ!」
胸を張ってそう言うと、ダーム様は私の頭を優しく撫でてくれました。
ふにゃー・・・
ハッ、私はもう15歳、成人した立派な淑女なのです。
顔を引き締めます。
「ダーム様、魔獣の数が多すぎませんか?」
「今日は少し森が騒がしいようだ。」
ダームは、魔獣の森を見ながら少し難しい顔をして答えました。
「フィナ、魔力はどのくらい残っている?」
「まだまだいけますわ。」
私が答えると、ダームは近くにいる兵士に指示を出します。
「ちょっと、森の近くまで行ってみようか。」
そう言って、馬に乗り私に手を差し伸べます。
「おいで。」
私は、手を掴んで馬に乗せてもらいます。
「いくよ。」
二人で森の方へ向かいます。
近づくにつれてなんとなく、ざわざわします。
森から少し離れた位置で探査用の魔術具を使用します。
「100体前後の反応が、ありますわ。」
「王都への報告が必要みたいだ。」
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「留守を頼んだよ。」
「いってらっしゃいませ。」
私が微笑むと、ダーム様は優しく頭をなでてくれます。
その気持ちよさにうっとり・・
ハッ、私はダーム様の妻です。
ここはもう少し大人っぽくキ、キスをするところではないでしょうか。
そう思い熱いまなざしで見つめ、目をつぶってみました。
「いってくるよ。」
ダーム様はそう言うとそのまま私を置いて行ってしまいました。
しゅん
私の行動はかわされてしまいました。
「次こそは頑張りますわ。」
私は天に向かって呟きました。
そのため、ダーム様のお顔が真っ赤だったことには気づけませんでした。
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「静かです。」
魔獣の状況を話し合うためダーム様は隣接領主との話し合いに、男爵家唯一の騎士カインは王都への使者として出かけてしまったので、この八日間、屋敷の残っているのは侍女兼料理人のローラだけです。
そのローラも食材の買い出しのため、今は私一人、庭で魔術書を読んでいます。
「大変です奥方様」
突然、町の門を守っていた兵士が屋敷の庭に駆け込んできました。
「落ち着きなさい、どうし「森の方角より魔獣の群れ、その数30体以上」」
私はダーム様がいないことに泣きそうになりましたが、今はそれどころではありません。
私が領民を守らなければならないのです。
「戦える者を全員北門に、戦えない者は地下室に隠れるように町の者に伝えるのです。わたくしは北門に向かいます。わかりましたわね。」
兵士は無言でうなずくと町の者に伝えるため走り出しました。
私は屋敷にある魔獣除けの魔術具に最大限まで魔力を注いだのちに、北門へと走りました。
北門に到着した時には既に数人の者が槍を持って集まっていました。
やぐらに昇っての上から見ると、かなり近くまで魔獣は迫っています。
私は決めなければなりません。魔獣除けで少しは時間が稼げますが、現状では私と領民たちだけで戦わねばなりません。
(ダーム様)心の中で呟きました。
「いつものように五人一組を作りなさい、魔獣が近づいたら、わたくしの魔力弾を合図に全員突撃」
私は乱戦になったら役に立たない。この一撃に全力を出し切る。
まだ百名程度しか集まっていないけれど・・
「開門、突撃準備!」
ついに魔獣除けが破られました。
「戦の神アレースのご加護を我らに!」
私はあらん限りの声を張り上げて叫び、全力で魔力弾を撃ち込んだ。
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誰かが私の頭をなでています。
「だえでしゅか?」
寝ぼけ眼で呟くと、がばっと抱き着かれました。
「フィナはやっぱりかわいいですわ。」
「ふぐっ・・・」
「フィルスリィーナ様、奥方様が苦しそうです。少し落ち着かれてください。」
「あら、いけないわ。」
え、なんでリィーナ様がここに・・
「ハッ、みんなは、魔獣はどうなったのですか!」
「大丈夫、みんな無事でぴんぴんしていますわ。フィナがあらかた倒してくれていたから残りは、わたくしの護衛たちが倒しましたのよ。」
「よかった。・・・それはそうと何故ここにいらっしゃるのですか?」
「それはね、お金のにおいがしたからよ。」
「え・・」
「さっそくだけど、今回の魔獣討伐の取り分は7:3でどうかしら。」
唐突過ぎて首をかしげました。
「クッ・・その顔は卑怯よ。わかったわ、6:4、この線が限界ですわよ。」
話が呑み込めずにローラに助けを求めてみると、無言でうなずいています。
「リィーナ様、わかりましたわ。」
「よっしゃー!・・・ですわ。」
「「・・・」」
「それではこきげんよう、また明日」
リィーナ様はすこし顔を赤くして退室されました。
魔獣素材の買い付けにこられたときに、はじめてお会いしてから、いつも気さくな方です。
「ローラ、軽めの夕食を用意してくださる。」
まだ立つのはつらいので、お茶を用意してもらってベッドで軽い食事をします。
そのあとローラからいくつか確認しました。その途中で疲れていたのか、いつの間にか眠ってしまいました。
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「それじゃあフィナ、一狩りしてきますわ。連絡要員として二人ほど置いていくから大丈夫よ。」
リィーナ様はそう言うと笑みを浮かべて森に出かけて行きました。
私たちは町の魔獣被害の確認です。
状況確認も終わり、領民たちに声掛けをしていたら、リィーナ様たちが帰ってこられました。
「フィナ、慰めて。」
急に抱き着かれたのでびっくりしました。
「低級魔獣すらいなくて稼ぎにならなかったわ。近くの魔獣はあれだけだったみたいですわね。」
「ふぐぅ・・・・」
お胸で窒息しそうです。
「フィナ、帰ってお茶にしましょう。」
今度は強引に手を引いて屋敷に向かって歩き出します。
ローラが入れてくれたお茶を一口飲むとリィーナ様の表情が険しくなりました。
「森に主が生まれた可能性があるわ。」
森の主、それは高位魔獣を凌駕し魔術も使える伝説級の魔獣の事です。
「フィナも何か感じたのじゃないかしら。」
「確かに森に近づくとざわざわしました。」
今後の行動を最悪の事態を想定していろいろ検討してみたのですが・・
「結局このままここに居るしかないのね。」
主がいるような気がするでは騎士団は動いてくれません。
逃げようにも、この領地は貧乏で、ここが最大の町です。
この人口を支えられる町は領内にはなく、移動しようにも種もみも種イモも撒いた後で、魔獣の素材を売って食料を買わなければ秋まで持たないくらいなのです。
とりあえずダーム様や公爵家からの支援をまって、森の探索を実施することにしました。
「公爵領から十名前後呼ぶけど泊まれるかしら。」
「町の宿屋を貸し切れば部屋数は足りますけど、質のいい部屋は用意できませんわ。」
「大丈夫、屋根がついていればいいのよ、準備してもらえるかしら。」
「ローラ、町まで行ってきて頂戴」
「わかりました奥様」
ローラがいなくなるとリィーナ様が護衛の女性騎士以外を退出させました。
「ガーベラ、例のものを、フフフッ・・・フィナの装備はこちらで用意するから試着してみましょうね。」
「え・・」
「え、じゃありませんわよ、森の探索は危険なのよ。こちらで、最高にかわいい装備を用意しましてよ。」
「えーーー!」
「探索支援の代金、体で払ってもらいますわよ。」
「ふえーん!鬼、悪魔!」
「ホーッホホ、大魔王と呼んでくださいな。覚悟なさい、七日後森へピクニックに出発です。」