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『名前』シリーズ

特別な、何かになるために

作者: 陽乃優一

シリアス…なのかなあ、これ。

「バカな!なぜこんなところに『白銀の刃』が!?」

「…その名前で、呼ばないで」

「くっ!撃て、撃て撃て撃て!」


 武器は、ミスリルナイフが1本のみ。そんな私に、盗賊たちは多くの魔弾を撃ち込んでくる。

 まあ、いつものことだ。飛んでくる炎の塊をかわしつつ、盗賊たちを斬りつける。


「がっ…!」

「ごふっ…」


 安心して、峰打ちだから。私の目的はあなた達の殲滅ではない。

 …と伝える前に、数十人いた彼らの全員が意識を失う。


「これか…」


 盗賊が商人から奪ったそれは、私にとっては特別なものをもたらすかもしれない。

 いいえ、まだ、足りない。次を、探しに行こう。時間もあまり残されていない。



 日が昇る前から、そのつぼみをじっと見つめる。崖から垂らした長い長いロープに捕まりながら。

 いつ花が咲くかわからない。日が昇る前後の、ほんの一瞬、崖下で咲くという、幻の花。


「…」


 どれだけの時間が経ったのだろうか。それとも、ほとんど経っていないのか。

 空が薄明るくなってきたその時、つぼみがゆっくり開く。貴重な花の蜜をきらめかせながら。


「もう、ちょっと…」


 ロープにつかまりながら、花に手を伸ばす。少しでも気を緩めると、真っ逆さまに落ちる。

 かろうじて、花をつかむ。まだだ。その場で素早く、小さな壺に蜜を足らす。


「…」


 感無量の気持ちを抑え、崖の上に戻る。一息ついて、私は手にしたものを確かめる。

 あと、ひとつ。あとひとつで、特別な何かが、生まれるかもしれない。



 ミスリルナイフで、尻尾の先を切り落とす。


「がああっ!?なぜだ、なぜ人間風情が吾輩を傷つけることができる!?」

「その傲慢が、油断をもたらす。村の人々を戯れにいたぶるあなたは、世界最強の生物ではない」

「ぐおおお!」


 私に飛びかかる巨大な獣は、しかし、尻尾の一部がなくなった影響でバランスを崩している。

 力任せの攻撃を避けてドラゴンの体を駆け登り、左目にミスリルナイフを突き刺す。


「があああああ!?」


 地面をのたうち回る、自称、世界最強の生物。


「これに懲りたら、無闇な殺生はしないことね。生きるための獲物だけにしなさい」

「ぐっ…その髪、その武器、そうか、貴様が、貴様があの『白銀の牙』なのか…!?」

「その名前で、呼ばないで」


 そう言い残して、私はドラゴンの巣のある山腹を去っていく。切り落とした尻尾を担いで。

 これで、欲しいものは全てそろった。でも、特別な何かになれるかは、まだわからない。



「凄いです!さすがこの国、いいえ、この世界で最強の冒険者、『白銀の牙』です!」

「…その名前はやめて。私のような人はたくさんいるし、珍しくもない。魔王討伐で人が少ないだけ」

「そうかしら…14歳の女の子というだけでもすごいのに、たったひとりでこれだけのことを…」


 街の冒険者ギルドの受付嬢は、数々の戦利品を前に、そう言って過大評価する。

 私は、そんな特別な存在ではない。妙な二つ名も、派手な鎧を家に飾っているだけのようだ。

 戦利品の一部は既に確保してある。早く、早く家に帰ろう。特別になれるかもしれないのは、あの場所だけだ。



「うおおお、うめー!このシチュー、無茶苦茶うめーよ!」

「良かったー。いいお肉と調味料が手に入ったんだー」

「やっぱり、お前の作るシチューは最高だよ、ジーン!格別だよ!」


 今日も私は、この人の特別な何かになれたのかな。明日もお仕事頑張ろう。


「お兄ちゃん、おかわりは?」

「いるー。大盛りね」

「ジョン殿!」

というわけで、「【スキル】平凡」のジーンサイド的なお話でした。

ちなみにこの話、参考にした4コマ作品があります。知っている/気づいた人いるかなあ…。

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