特別な、何かになるために
シリアス…なのかなあ、これ。
「バカな!なぜこんなところに『白銀の刃』が!?」
「…その名前で、呼ばないで」
「くっ!撃て、撃て撃て撃て!」
武器は、ミスリルナイフが1本のみ。そんな私に、盗賊たちは多くの魔弾を撃ち込んでくる。
まあ、いつものことだ。飛んでくる炎の塊をかわしつつ、盗賊たちを斬りつける。
「がっ…!」
「ごふっ…」
安心して、峰打ちだから。私の目的はあなた達の殲滅ではない。
…と伝える前に、数十人いた彼らの全員が意識を失う。
「これか…」
盗賊が商人から奪ったそれは、私にとっては特別なものをもたらすかもしれない。
いいえ、まだ、足りない。次を、探しに行こう。時間もあまり残されていない。
◇
日が昇る前から、そのつぼみをじっと見つめる。崖から垂らした長い長いロープに捕まりながら。
いつ花が咲くかわからない。日が昇る前後の、ほんの一瞬、崖下で咲くという、幻の花。
「…」
どれだけの時間が経ったのだろうか。それとも、ほとんど経っていないのか。
空が薄明るくなってきたその時、つぼみがゆっくり開く。貴重な花の蜜をきらめかせながら。
「もう、ちょっと…」
ロープにつかまりながら、花に手を伸ばす。少しでも気を緩めると、真っ逆さまに落ちる。
かろうじて、花をつかむ。まだだ。その場で素早く、小さな壺に蜜を足らす。
「…」
感無量の気持ちを抑え、崖の上に戻る。一息ついて、私は手にしたものを確かめる。
あと、ひとつ。あとひとつで、特別な何かが、生まれるかもしれない。
◇
ミスリルナイフで、尻尾の先を切り落とす。
「がああっ!?なぜだ、なぜ人間風情が吾輩を傷つけることができる!?」
「その傲慢が、油断をもたらす。村の人々を戯れにいたぶるあなたは、世界最強の生物ではない」
「ぐおおお!」
私に飛びかかる巨大な獣は、しかし、尻尾の一部がなくなった影響でバランスを崩している。
力任せの攻撃を避けてドラゴンの体を駆け登り、左目にミスリルナイフを突き刺す。
「があああああ!?」
地面をのたうち回る、自称、世界最強の生物。
「これに懲りたら、無闇な殺生はしないことね。生きるための獲物だけにしなさい」
「ぐっ…その髪、その武器、そうか、貴様が、貴様があの『白銀の牙』なのか…!?」
「その名前で、呼ばないで」
そう言い残して、私はドラゴンの巣のある山腹を去っていく。切り落とした尻尾を担いで。
これで、欲しいものは全てそろった。でも、特別な何かになれるかは、まだわからない。
◇
「凄いです!さすがこの国、いいえ、この世界で最強の冒険者、『白銀の牙』です!」
「…その名前はやめて。私のような人はたくさんいるし、珍しくもない。魔王討伐で人が少ないだけ」
「そうかしら…14歳の女の子というだけでもすごいのに、たったひとりでこれだけのことを…」
街の冒険者ギルドの受付嬢は、数々の戦利品を前に、そう言って過大評価する。
私は、そんな特別な存在ではない。妙な二つ名も、派手な鎧を家に飾っているだけのようだ。
戦利品の一部は既に確保してある。早く、早く家に帰ろう。特別になれるかもしれないのは、あの場所だけだ。
◇
「うおおお、うめー!このシチュー、無茶苦茶うめーよ!」
「良かったー。いいお肉と調味料が手に入ったんだー」
「やっぱり、お前の作るシチューは最高だよ、ジーン!格別だよ!」
今日も私は、この人の特別な何かになれたのかな。明日もお仕事頑張ろう。
「お兄ちゃん、おかわりは?」
「いるー。大盛りね」
「ジョン殿!」
というわけで、「【スキル】平凡」のジーンサイド的なお話でした。
ちなみにこの話、参考にした4コマ作品があります。知っている/気づいた人いるかなあ…。