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空の声  作者: 冬雪とあ
8/12

思い出

料理研究部の料理を全て捌き終えたあと、やってきたのは女子だった。

「部長!いきなり居なくなるから大変だったんですよ!」

「ごめんよー、いずっちー。でも呼ばれたら行くしかないのが生徒会のメンバーなのだよー。許してちょ」

部長。この人が生徒会のメンバーであり、部長。

軽い。

「あのー、すいません。放送を流したのは部長さんですか?」

桐野が放送の件について聞く。

「あー、放送ね?あれはねー、誰なんだろうねー?まあ、カメラがあるから確認してみれば分かるけどー。やめといたほうが良いんじゃない?きっとその人、秘密で助けてくれたんだよー。感謝はされたくないだろうしねー」

なんと放送室にはカメラがあるらしい。

この学校、意外と怖いな。

「そこの男子…男子?うん、男子だ。今カメラがついてるんだ、とか思ったでしょー。その通り!この学校にはね、カメラがちょっとついてるんだよー!セキュリティを少しずつ強化してるんだからねー!生徒会を褒めて良いんだよ?つまり、私を褒めても良いんだよ?」

ほれほれ、と頭を出してくる部長。

この人は本当に先輩なのだろうか。

とりあえず、撫でないとずっとこのままで居そうだ。

…髪、すごいサラサラしてる。

「…うん、君。やっぱり思った通りだねぇ…。指、すごく優しい感じがする。まんぞくー」

そういった先輩は俺を指差した。

「君、気に入ったぞ!芹沢昴くん!困ったこととか相談があれば、私のところへ来たまえ!私は生徒会副会長、八雲やくも晶子しょうこだ。覚えておいてねー?」

まさかの生徒会副会長であった。

しかし…

この人、口調が安定しない。

そして顔を近づけて来て、耳元でボソリと呟かれた。

それは、驚愕の一言だった。



「さて、私たちはそろそろ先生のところへ行って部活申請しよっか」

桐野達はそろそろ行くようだ。

ただ気になることがある。

「おい、桐野」

「ん?どうしたの」

重大なことだ。こいつらが部活をするためには。




「お前、五人目は見つけたのか?」

その一言に桐野は不思議な顔をしていた。





部活見学から三日が経った。

「ねー、ってばー!ねー!すーばーるーくーーん」

あれから俺の周りは騒がしい。

「昴くん、入ってよー!」

なぜこのような状態なのか、説明しておこう。


あの日、桐野達に聞いてみたところ、そもそも部活申請の条件を知らなかったらしい。申請します、と言えば申請できるのだと思っていたそうだ。

事細かにしっかり、ご丁寧に教えたところ、満たしていないのは人数だけだと把握(桐野はぽかんと口を開けていた)。

どの部活にも入っておらず、音楽を普段から聞いていたりしてる人物、となると俺に辿り着いたらしい。(他の人達は大抵部活に入っているし、そのほかは音楽に興味がさほど湧かなかったらしい)

それからというものの、諦めずに勧誘しに来ている。


「嫌だ、まず入る理由がない。そもそも入るメリットは一体なんだ?」

そう聞くと少し悩んでから答えた。

「きっと良い曲が聴ける!」

笑顔でそう言った辺り、桐野は大したやつだと思う。

しかし、それだけでは入ろうとは思わない。

「それなら部活に入らなくても聴けるだろ。披露する機会はあるんだしさ」

「違うよ、昴くん!発売前のゲームをフライングゲットした気になれると思ってみて!」

…。

「ゲームはあまりしないからよくわからん」

「んー…。昴くんは何が好き…あー、Skyだよね。ならそのSkyのCDが発売されます。それをみんなより早く手に入れられました!どう?嬉しくない?」

なるほど、それならまだわかるが…。

「…すまない桐野。俺はよくそれが出来たんだよ。確かに嬉しいが、最早それが当たり前、というか。俺はいつもCDをみんなより早く手に入れていた」

そう、いつもそうだったのだ。

「えっ、なんでなんで?」

「俺は…Skyの…」

理由を知った桐野達は目を見開いていた。



自宅へ帰ってきて、部屋へ向かう。

並べられたSkyのCD。

全て二枚ずつ。

貰った時の喜び。

買った時の喜び。

二つの昔の喜びがそこにはある。

「俺は、これから何がしたいんだろう」

自分のしたいことがわからない。

好きな歌が今、歌えない。

大好きだったあのみんなとの一体感も、もう遠い昔。

ステージの光。

思い出せる、その一つ一つ。

だけど、届かない。

「俺は…」

何も思いつかない。

昴はそのまま眠りへと落ちていった。


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