思い出
料理研究部の料理を全て捌き終えたあと、やってきたのは女子だった。
「部長!いきなり居なくなるから大変だったんですよ!」
「ごめんよー、いずっちー。でも呼ばれたら行くしかないのが生徒会のメンバーなのだよー。許してちょ」
部長。この人が生徒会のメンバーであり、部長。
軽い。
「あのー、すいません。放送を流したのは部長さんですか?」
桐野が放送の件について聞く。
「あー、放送ね?あれはねー、誰なんだろうねー?まあ、カメラがあるから確認してみれば分かるけどー。やめといたほうが良いんじゃない?きっとその人、秘密で助けてくれたんだよー。感謝はされたくないだろうしねー」
なんと放送室にはカメラがあるらしい。
この学校、意外と怖いな。
「そこの男子…男子?うん、男子だ。今カメラがついてるんだ、とか思ったでしょー。その通り!この学校にはね、カメラがちょっとついてるんだよー!セキュリティを少しずつ強化してるんだからねー!生徒会を褒めて良いんだよ?つまり、私を褒めても良いんだよ?」
ほれほれ、と頭を出してくる部長。
この人は本当に先輩なのだろうか。
とりあえず、撫でないとずっとこのままで居そうだ。
…髪、すごいサラサラしてる。
「…うん、君。やっぱり思った通りだねぇ…。指、すごく優しい感じがする。まんぞくー」
そういった先輩は俺を指差した。
「君、気に入ったぞ!芹沢昴くん!困ったこととか相談があれば、私のところへ来たまえ!私は生徒会副会長、八雲晶子だ。覚えておいてねー?」
まさかの生徒会副会長であった。
しかし…
この人、口調が安定しない。
そして顔を近づけて来て、耳元でボソリと呟かれた。
それは、驚愕の一言だった。
「さて、私たちはそろそろ先生のところへ行って部活申請しよっか」
桐野達はそろそろ行くようだ。
ただ気になることがある。
「おい、桐野」
「ん?どうしたの」
重大なことだ。こいつらが部活をするためには。
「お前、五人目は見つけたのか?」
その一言に桐野は不思議な顔をしていた。
部活見学から三日が経った。
「ねー、ってばー!ねー!すーばーるーくーーん」
あれから俺の周りは騒がしい。
「昴くん、入ってよー!」
なぜこのような状態なのか、説明しておこう。
あの日、桐野達に聞いてみたところ、そもそも部活申請の条件を知らなかったらしい。申請します、と言えば申請できるのだと思っていたそうだ。
事細かにしっかり、ご丁寧に教えたところ、満たしていないのは人数だけだと把握(桐野はぽかんと口を開けていた)。
どの部活にも入っておらず、音楽を普段から聞いていたりしてる人物、となると俺に辿り着いたらしい。(他の人達は大抵部活に入っているし、そのほかは音楽に興味がさほど湧かなかったらしい)
それからというものの、諦めずに勧誘しに来ている。
「嫌だ、まず入る理由がない。そもそも入るメリットは一体なんだ?」
そう聞くと少し悩んでから答えた。
「きっと良い曲が聴ける!」
笑顔でそう言った辺り、桐野は大したやつだと思う。
しかし、それだけでは入ろうとは思わない。
「それなら部活に入らなくても聴けるだろ。披露する機会はあるんだしさ」
「違うよ、昴くん!発売前のゲームをフライングゲットした気になれると思ってみて!」
…。
「ゲームはあまりしないからよくわからん」
「んー…。昴くんは何が好き…あー、Skyだよね。ならそのSkyのCDが発売されます。それをみんなより早く手に入れられました!どう?嬉しくない?」
なるほど、それならまだわかるが…。
「…すまない桐野。俺はよくそれが出来たんだよ。確かに嬉しいが、最早それが当たり前、というか。俺はいつもCDをみんなより早く手に入れていた」
そう、いつもそうだったのだ。
「えっ、なんでなんで?」
「俺は…Skyの…」
理由を知った桐野達は目を見開いていた。
自宅へ帰ってきて、部屋へ向かう。
並べられたSkyのCD。
全て二枚ずつ。
貰った時の喜び。
買った時の喜び。
二つの昔の喜びがそこにはある。
「俺は、これから何がしたいんだろう」
自分のしたいことがわからない。
好きな歌が今、歌えない。
大好きだったあのみんなとの一体感も、もう遠い昔。
ステージの光。
思い出せる、その一つ一つ。
だけど、届かない。
「俺は…」
何も思いつかない。
昴はそのまま眠りへと落ちていった。




