入学式というイベント
母親は元歌手。そして外国人。
父親はエンジニア。
そんな家庭に昴は生まれた。
父親に似てるところが容姿的に殆どない。
金髪、黒眼、童顔。そして髭らしいものもなく、全体的に女性らしい顔つき。
これが昴の抱えるコンプレックスではある。
「…ねぇ、あの人金髪…。染めたのかな…」
「受験の時に噂になってたよ?金髪の受験生が居るって」
ヒソヒソ話が聞こえる。
いや、最早ヒソヒソどころではなくハッキリと聞こえる。
自慢ではないが耳がいいのだ。
(まあ、こうなるよなぁ…)
中学の時もそうだった。
正直慣れたもんである。
だが
「でも、可愛い顔してる…」
「男子、だよね?服的に」
これはダメだ。
男性と見せてありながら女性と思われたり、間違われる。
これだけは少し身体がピクッと反応してしまう。
(まさかな…)
あちこちから視線を感じながら歩いた。
クラス発表の紙に従い、教室へ向かう。
「1-2…ここか」
教室へ入ればわかっていたが注目を浴びる。
ちなみにここへの入学は幼馴染が行こうと誘ってきたので受験しようと決めた。
「自由をモットーにしてるのだからきっとお前にあうはず!髪の毛だって気にされないさ!」とは幼馴染談だが…。
「目立つじゃねーか…。まあ、そうだよな」
唯一の救いといえば同じクラスであることだ。
黒板に席を記されているので、その席を探す…。がその席は埋まっている。
おかしい。
「入学は認めぬ!認めぬぞ!」
学校から言われているようだ。
もう一度確認してみるが、間違いはない。
席を奪った女子に声をかける。
「あの、そこは俺の席なんだけど」
「うぇっ!?ちょっと待ってね!確認する!」
その女子はダッシュで行って帰ってきた。
「ごめん!隣だったよ!」
俺の席は返ってきた。
「私ね、桐野茜!この学校で軽音部を作ろうと思ってるの!興味ない?」
自己紹介と共に宣伝と勧誘。
図々しいやつである。
「ない」
「せめて、名前を教えてよー…」
「芹沢昴」
簡潔に答えておいた。
これが後に何かと関係を持つようになった人間の一人である。
しばらくの間、桐野に話しかけられていると不意に肩を叩かれた。
「よっ、卒業以来だな」
振り向くと片手を挙げる幼馴染がいた。
「芹沢くん、友達?」
「ああ、幼稚園の頃からずっと一緒のやつだよ」
受験しないまま普通に進んでたらもちろんそうなるのだが、この学校に勧めたのもこいつであった。
「俺は館山泉。こいつとは幼馴染」
「私は桐野 茜!よろしくね!」
仲良くなりそうな雰囲気だ。
…めんどくさくなりそう。
それはともかく、だ。
「おい、泉。お前がこの学校なら目立たない、というから来たのにこの有様はなんだ」
未だに周囲の視線を感じるのだ。
これは直訴せねばなるまい。
「いや、お前。そんなこと言ってもさ考えてもみろよ。そもそも目立たない、とは言ったが確定した言い方はしてない。目立たないのでは?と言ったぞ。予想であっただけで、外れることもあるだろ」
つまり、俺は責められる謂れはない。だそうだ。
……確かに。
俺の怒りは迷子になったから放置することにしよう。
「ねえ、私は軽音部を作るつもりなんだけど、入らないっ!?」
と再びの勧誘である。
しかも泉を含めて、であるが…。
「残念だが俺はもう入るところ決まってるんだ」
予想通りだ。
「えっ、どこに入るの?」
「料理研究部、だろ?」
そういうと泉はニヤッと笑い
「もちろん」
泉は料理が好きなのだ。
色んな組み合わせを試しながら、いかにして美味しい物を作るかを考えるやつだ。
「じゃ、じゃあ芹沢くんは?」
こちらに矛先が向けられる。
「ああ、こいつは音楽はダメなんだ。『基本的』に歌わない」
基本的に、というのは例外はある、ということだ。
俺は滅多に歌わなくなった。
三年前、あるユニットが歌わなくなったと同時に。
大好きなユニットで、今はオーディオから流れてくるだけになっている。
「ふむぅ…そっかぁ」
すごく残念そうだ。
「悪いな。相談くらいなら聞くから」
そう言ってやると笑顔で「ありがとー」と返してきた。
それから雑談してると徐々に席は埋まり、チャイムが鳴った。
…。
「ねぇ、先生来ないね」
五分過ぎている。
何が、といえば。
チャイムが鳴ってからである。
「迷ってんのか?」
そんなまさか…と言おうとしたらドアが開く。
「いやー、ごめんごめん!広くて迷ってたー!はい、きりーつ!」
とまさかを回収していく元気な女性が現れた。
「?きりーつ!」
みんな慌てて立ち、礼をする。
「さて、私がこのクラスの担任です!」
黒板にチョークで大々的に書かれた名前。
「御坂文乃です!はい、拍手!」
まばらな拍手が教室内で起こっていた。