殺戮パーティ
「その暗殺者に殺されたのはみんな、私の仲間でした」
聖騎士が唐突に手を止めて語りだした。うつむいていて暗く、表情は読めない。
「拳闘士、黒魔術師、白魔術師……みんな、かつて私と苦楽をともにしモンスター退治に明け暮れたことのある、家族同然の大事な仲間でした。ヴェテランの彼らがひとりきりのときとはいえ、ほとんど抵抗できずに殺されているのはおかしい」
もとより事情を知ってか知らずか、黙って主人は固唾を呑みつっ立っている。
「その仲間だった彼らを、生き返らせようとでも?」
男の真意をはかりかね、私は試しに訊いた。
「いいえ。遺体が保存されていない状態では、死者をいたずらにゾンビ化し、一時だけ甦らせてしまうただの反魂召喚にしかなりません」
剣士は首を横に振った。
たしかに反魂召喚では、奇蹟の復活とはならない。しかも引き換えに自分の命と、その者の命を奪った直接の凶器が条件として必須になる。
「私は彼らのかたきをとりたい。だから旅に出たのです、正義を遂行するために」
正義、か。笑わせる。何が正義だ? 自分たちの勝手な論理で差別し、女子どもにまで手にかけておいて。
私はこらえきれず、抑え隠していた感情がいっきに爆発した。聖騎士はそこで初めて、私をまともに見た。
「何がおかしいのです」
不可解そうに睨むやつに、私は嘲りながら吐き捨てた。
「おかしいね。立場や状況によって正義と悪は反転する。これは常識だろう」
「それが?」
「忘れたのか。きさまらが私の家族を皆殺しにしたことを」
そう怒鳴ると、念じながら背中のシルヴァーソードに手を伸ばした。
私が抜き切るよりも速く、やつは自分のソードを抜いた。さすが、と言いたいところだが私の目的は、古びて錆びた銀の剣に触れたところですでに完了していた。反魂召喚は“おのれの命を賭け、呪われし凶器を条件に発動する”。
聖騎士が剣を構え、慌てて戦闘体勢に入ったときには、あたりは黄泉から漏れ出した漆黒の濃霧に包まれていた。
何も見えない。
鼓動は激しく強く脈打ち、反比例して躰の感覚は徐々に失われていく。私の命はあと少しで、復讐の旅とともに終えようとしていた。
やがて大きな影がふたつ。
聖騎士はやみくもに剣を振りまわした。手応えはそれなりにあったようだが、無駄だろう。屍体は切れても、死者は死なない。
死んだモノが姿を現した。
父と母だった。人間どもがモンスターと呼び、怪物と恐れ、化け物と蔑み、魔物として退治せんと躍起になる存在……。
拳闘士はやつ自身の愛用するドラゴンクローで殺してやった。黒魔術師はやつが呪文をちゃんと唱える前に焼き殺してやった。白魔術師は劇薬をこっそり飲ませて殺してやった。聖騎士は私の大事な、甦った本物の家族に殺してもらおう。
それが彼ら勇者御一行、殺戮のパーティの終焉には相応しい。人間に敵対されるこちら側からすれば、やつらこそモンスター、正義を騙る「魔物」。